穏やかな、波の音がする。

皆は何処にいるんだろう。
グラグラと揺れる視界で辺りを見渡せば、その答えは案外すぐに見つかった。


皆のとこに、行きたい。


そう思いながらもふらつく足を一歩先へ動かそうとした時
重心が傾いて自らの重さに耐え切れず後ろへと倒れた。

だけど背中に当たったのは固い地面でなく、人の手と言うぬくもり。





「…ジェイ……」
「喋らなくていいですから…」





はぁ、と小さく溜め息を吐くジェイの体はボロボロだ。
きっと口にしたら「貴女に言われたくない」と返されるだろうけど。





「自分の体の仕組みを理解しろって、日頃から言っているじゃないですか」
「忘れた…」
「忘れた結果がこれですよ…少しは反省して下さい」
「ジェイ、海が見たい…」
「…」
「海が、見たいよ」





呆れて物も言えないのか、ジェイはただ私をじっと見て口を閉ざした。

ぼやける視界の中、何とかジェイを見つけにへらと笑う。
定まらない視点はジェイが今どんな表情をしているのかも曖昧にした。

でも私の体を持ち上げて「分かりました」と言ったジェイの言葉は
聞き間違いではなかったと思う。















「っさん!!」





私とジェイの姿に気付いたシャーリィが
涙を溜めこちらへと駆け寄って来る。

海を眺めていた皆もシャーリィにつられるよう一斉に私の方へと顔を向けた。





「シャーリィすっごい強かったよ!見直した!」
「そんな事、ないですっ…私、さんがいてくれたから…!」
「…私も、シャーリィがいたからだよ」





感極まってか、シャーリィは大きな声で私の名前を何度も呼んだ。

私だって本当は皆に飛び付き、大きな声で勝利を叫びたい。
だけどそれを体が許してくれないのだ。
シャーリィへと伸ばした手が、さっきからちっとも動いてくれない。





さん…?」
「あー…もうダメかも…」





「ボロボロだ」、と付け加え情けなく笑う私に
シャーリィは「もう、無茶しなくて良いんですよ」と
浮きっぱなしだった手をそっと握ってくれた。





ごめん…グミもないし、あたしらもブレス使えなくて…」
「いいよ、放っておけば治るから」





「私、治りだけは早いし」、そう繋げようとした唇がピタリと止まった。
一体今まで誰が私の体を治してくれていたのかを思い出して。





「…」





悔しくて無意識に唇を噛みそうになる。

だけどそれを止めたのは大きくて温かい、波の音だ。
視界いっぱいに広がる海は日の光を浴び、キラキラと宝石みたいに輝いていた。





「輝ける青…」
「グリューネさん…?」
「長旅の果てにこの世界にやって来た人達が、最初にこの海を見てそう呼んだの」





海を見つめながらグリューネさんは懐かしそうに語った。
そんなグリューネさんの表情を見るのは初めてに等しく、皆は口を開けて驚いている。





「何で知ってんの?」
「あら…?何でかしらねぇ」
「も〜!グー姉さん訳分かんないんだから〜!」





ノーマがブンブンと両手を振り回し大声を上げても、
グリューネさんはいつも通り「あらあら」と頬に手を当てるだけ。

深く追求するだけ無駄だと悟った皆は大きく息を吐くと声を出して笑った。





「輝ける青…本当にその通りですね」
「シャーリィ?」
「私…この海ならきっと好きになれると思う…」





海を見つめるシャーリィの瞳は涙でキラキラ輝いている。

その姿はとても凜としていて、綺麗で
今のシャーリィならばこの世界を良く出来る…そう思った。





「私も、好きだな」
さん…」
「あの子も、きっと好きになってくれる」





私の心の奥底にいる少女にはこの光景が見えているかな。
…きっと見えていたら、あの子も綺麗だと感じてくれるだろう。

誰よりも優しく、素直で、強い彼女なら。





「…よし、今から祝勝会!」
「はぁ…?」
「パーティーしようって言ったじゃん!約束、破るわけ?」
「いや、そうではないが…の怪我を見る限りパーティーどころでは…」
「あ、これ?ペンキペンキ!」
「嘘を吐くな」





心配してくれるクロエに笑顔を向けたとほぼ同時、セネルの鋭い突っ込みが決まり
皆は異論はないと言わんばかりに強く頷いている。





さんの体では、今すぐなんて無理ですよ」
「海見たら元気出たの!ねぇ、やろうよっ…!」
「そんな体で元気な訳ないだろう」
「へ、平気だよ!ジェイ、ちょっと降ろして」
「…はいはい」
「ゆっくりね!」





面倒臭そうに返事をするジェイは
溜め息を吐きながら私をそっと地面へ下ろす。

足を着いただけで全身に電気が走るみたいに痛みが広がった。

そんな痛みにも唇を噛み締めぎゅっと耐える。
顔を上げた時には皆にちゃんと笑顔を向けられていただろう。





「ほら、立てる!今からでも大丈夫!」
「でも、頭から血出てるし…」
「平気だよ?だって私破壊の少女だもん!」





あ、やば。
自分で言って何か泣きそうになってるし。





「っだから、ちょっとだけ―――…」
「いい加減にしろ」





いつの間にか目の前にいたウィルを見て、無意識に肩がビクリと跳ねた。
言い訳をしようにも時は既に遅く、その握っている拳が視界に入る。

何だか、嫌な予感がする。

そう思った瞬間には、ウィルの拳は私の頭にガツンと落ちていた。










「お、久しぶりのウィルっちのゲンコツ〜!」
「お前は騒ぎすぎだ…別に祝勝会なら明日でも良かろう」
「ほ〜い。だってさ…ん……?」





ユサユサと、倒れたの体をノーマが揺らす。
始めは遠慮がちに、そして次第に大きく。

何度揺すってもピクリとも動かなくなった少女を見て
ノーマは震える手を離し、恐る恐ると口にしてはいけない言葉を零した。





「……死んだ?」
「何!?」
「オイ、ウィルお前…!」
「貴様に何を…!」
「お、落ち着け!なりふり構わず吠えるな!!」
「「なりふり構ってられるか!!」」





この地で再び戦争が起きようとしたその時
僅かな沈黙をかい潜り、聞こえたのはスゥ、と小さく息を吸う音。





「…むしろ、これで死なない方が驚きじゃないですか?」





そう言いながらの顔を覗くジェイの瞳は呆れ一色だった。

何が起きてるかも知らずに
すう、すうと規則正しい呼吸をするを見て仲間達はドッと肩を落とす。





「…思えば、こんなに傷だらけだったのか」
「普通、あそこまで元気に振る舞えないぞ」
「今も呑気に寝ちゃってるしね〜」





溜め息混じりの声に少女は五月蝿いと言わんばかりに寝返りを打つ。

ごろん、と浮いた背中にはべったりと血が付いている。
それが誰の物かなんて、説明しなくても仲間は重々承知していた。





「無理もないな…あんなに強力なブレスを使ったんだ」
「さすがのでも、キツかったんだね」





「それとも、さすがの“破壊の少女”かな?」と深い意味もなく零されたノーマの言葉に
仲間達はどうだろうと言わんばかりに肩を竦めた。

詳細等、当の本人にしか分からないものだ。





「…で、誰がこれおぶるの?」
「あ、わ、私その…!たくさん迷惑をかけてしまったので、私が…!」
「シャーリィだって疲れているだろう?無理はさせれない」
「そんな事言ったら、皆さん疲れているんじゃないんですか?」
「…俺が運ぼう」





フワリと、少女の体が浮きあがる。
鼻を掠める血の匂いに少女はほんの少し眉を顰めた。





「ワルターさん…その、ありがとうございます」
「…メルネスの為にではない」
「、え…?」
「主を守るのか、下に就く者の当然の使命だ」





でも、何だか懐かしい香り。
私は何度も、このぬくもりの中で眠りについている気がする。

は顔をより一層綻ばせ、幸せそうに笑った。




「…そうですね」
「…」
「滄我も、きっと喜んでる」
「皮肉か?」
「いいえ…メルネスとして代弁しただけですよ」





セネル達の笑い声が海へと響く。
そして互いを見つめ信じ合う。















眠る私は、素敵な夢を見ていた。

大笑いする私にウィルがゲンコツを落として
それを苦笑しながらも心配してくれるクロエが目の前にいる。

私に皮肉を言いながら溜め息を吐くジェイがいつも通りモーゼスと喧嘩していて。

ハリエットの作った料理を勧められ
何とか話を反らそうといつもより早く口を動かすノーマの横には
ギートを枕に気持ち良さそうに眠るグリューネさんがいた。

私のすぐ隣にいるワルターは自らの使命だなんだって、痛がる私の頭を摩り
シャーリィのテルクェスを見てセネルが幸せそうに微笑んでいる。

たった一人欠けてしまった祝勝会は、朝から始まり夜まで続き
気が付けばフェロボンも、モフモフ族の皆も、チャバも、皆が輪を作り歌っていた。





夢なら、あの子も一緒にいてくれたら良かったのにな。





そう、叶わぬ願いに想いを馳せながら
私は幸せな夢を、目が覚めるまで見続けた。










Main story Fin ...

ありがとうございました!
修正:11/12/21