「あ、悪い…大丈夫か?」
「は、はい」
道端で肩と肩がぶつかり、女性は「私こそごめんなさい」と頭を下げる。
「大丈夫そうで良かった」と安堵の息を吐いたセネルに対し、
女性はフッと微笑み、再度頭を下げこの場を去った。
たったそれだけの、自分でさえ体験した事のあるような些細な出来事に溜め息を吐く。
「…何か運命的」
「は?」
「『あ、悪い』、『は、はい』…そして目と目が合う二人」
「…肩がぶつかっただけで、何でそうなる」
「相変わらず突然だな」「どうせ変だよ」、と
互いに溜め息を零し合い、止めていた足を動かした。
広い道とは言え、こうして二人並んで歩いていれば
人にぶつかる事なんて決して珍しい事ではない。
…でも。
「単純に良いな、って思ったの」
「…」
「私もああやって、セネルと普通に、この平和になった世界で出会えていたらって」
「……」
「別に今までの思い出を否定しているわけじゃないけど」
「もしもの話」、と付け加え欠伸を一つ零すと同時
割とどうでも良い事だったと自覚する。
今が幸せならそれで良いのに、ついないもの強請りをしてしまった。
「…もし、そうでも」
「ん?」
「もし、今みたいに偶然的な出会いをしても」
「うん」
「俺は絶対にを好きになってたよ」
日常会話に溶かすよう、セネルは私に愛を囁く。
道の先を見つめるその横顔に胸が高鳴る裏腹
私は自分でも驚く早さで首を振っていた。
「それはない」
「おい…何で否定するんだよ」
「四分の一の確率でそうなっても、“絶対”はない」
「はあ…?」
「セネル鈍感だし…あっちにニコニコこっちにニコニコするし」
「この流れで説教かよ…おかしいだろ」
「…いや…好きって言ってくれるのは嬉しいけど」
「初めからそう言ってくれ…少し凹みかけた」
汗を拭う振りをしながら、セネルはチラリと私の顔を覗きこみ優しく微笑む。
凹みかけた、なんて言いながらすぐに余裕を見せるなんてズルい男だ。
それがカッコ良くて可愛くて、大好きなのも確かだけど。
「…私もだよ」
「?」
「私も、どんな出会い方をしてたって、セネルを好きになってた」
空いていた距離を埋め、そっと手を伸ばす。
指先に軽く触れれば、セネルは条件反射のように手を絡め
いつも柔らかく温かいぬくもりで包み込んでくれるんだ。
が、「受け止めてくれた」と安堵の息を漏らす私の傍ら
セネルはその口からとんでもない言葉を放った。
「それこそない」
「…は?」
「会ったばかりの頃は『ジェイージェイー』ってずっと言ってただろ」
「…」
「…タイミングが悪かったら、俺の彼女じゃなかったかもしれないのに」
「そ、それはお互い様だよ!セネルだって私の彼氏じゃなかった!」
「でももうお前のものだよ」
「ッ…じゃなかったら怒るよ…!」
何でイチイチそんな、女の子が喜ぶ事言うのかな、と睨みつければ
セネルは少年のように意地悪な笑顔を見せる。
「逆に考えれば、それだけの障害があっても付き合えたのって運命かもな」
「あ、うまくまとめた」
あはは、と声を上げ笑うと同時、柔らかな風が吹く。
銀色の髪を揺らし、気持ち良さそうに瞳を細め
私の手をきゅっと、ほんの少し強く握って。
「寒いの?」と聞くとゆっくり首を振り、「幸せなんだ」と目を閉じる。
そんなセネルの笑顔を見て、私も幸せだと小さく頷いた。
休日の一幕
14/04/16