の料理って、何で砂糖もいれていないのに甘くなるんだ?」





事の発端はセネルの一言だった。

食器を洗う私の背中に心底不思議、と言わんばかりの声が投げられる。
何をそんな真剣にと振り返れば、机に肘をつきこちらを見るセネルと目があった。
どうでも良いと考える私と違い、セネルは案外事を重大視しているらしい。





「甘いって思ってるのはセネル達だけじゃん」
「明らかに俺達の意見の方が多いのに“だけ”はどうかと思うぞ」
「だって、自分でも分からないし」
「不思議だよなあ…」





セネルが言う通り、私が作る料理は砂糖を使っていないのに甘くなるらしい。
素材本来の甘みと言うものではなく、人工甘味料的甘さだ。
だけど決してまずい訳ではないらしく
モーゼス何かは「クセになる」とバクバク食べてくれるし
セネルだってついさっき私の手料理を完食したばかりだ。





「レシピとか見ないからかなあ…でも食べられるものなんだから良いじゃん」
「…実は手が甘かったりして」
「えーまさか!」
「じゃあ、舐めてみても良い?」
「……は?」





椅子に座ろうとした体から一気に力が抜け、バランスが崩れる。





「ほら」





セネルは私に手を差し出し何かを招くように関節を動かした。

いやいや、「ほら」って何。
って言うかコイツ、何て言った?
普通異性であれ同性であれ、人様に突然「舐めても良い?」なんて聞かない。
どう考えても気持ち悪いし、フェチを超越した変態だ。





「…」





だけどセネルの瞳は真剣そのもの。
心なしか私の身を案じているような、心配の色も含んでいる。

もしかして、私の方がおかしい訳?
この世界では普通?大した事ない事?変じゃない?むしろ変なのは私?
ここは受け入れるのが正解…?





「…ド、ドウゾ」
「お、良いんだ?」
「か、構わんよ」
「何だよその口調」





考え抜き手を差し出せば、セネルはプッと笑う。
そして迷いなく私の手を取り、自らの口元へと引き寄せた。
わざとらしく音を立て指先にキスをする男の姿に、
体の熱が上がるのが嫌でも分かる。





「っ……」





舌が指先、指の腹、関節、指の間を丁寧に舐めていく。
ハア、と吐かれる生暖かい息が指の湿りを強調し
言い難い感覚に鳥肌が立った。





「うわああ!きもいいい…!」
「そう言うの、心の中だけで言ってくれ」
「なんか、ぬるっとした感触が…!」
「へえ…」
「も、もう良いじゃん…!早くやめ、て」
「んー…」





早くと念仏のように繰り返し唱える私を見てか
セネルはゆっくりと舌を離し、自らの唇に舌を這わせた。
やっと解放されたと安堵の息を漏らす私とは違い
セネルは何だか納得いかない、と言わんばかりの顔だ。





「…甘くないな」
「あ、当たり前だよ!!」
「でも、甘かった」
「はあ?」
の声」





フッと私に見せた表情は、今日一番の笑み。
それに対し、セネルの瞳に映る私は今日一番の阿呆面だ。





「頭大丈夫…?」
「本気で心配するのだけはやめてくれ」
「や、心配なるよ…」
「後もう一つ、の甘いとこ、知ってる?」
「だから私は甘くな…」





もつれた足がテーブルの脚にぶつかる。
痛みを訴える間もなく倒れる私を支えてくれたのは手を引っ張った張本人だ。
重力に逆らえず傾く私の顎を無理に持ち上げ、
さっきまで私の手を貪っていた唇が、私のと重なる。

シンとした空気の中、どれくらいの時間唇を重ねていたのかは分からない。
ただ、自然と離れ向き合った時セネルが笑顔だったのは良く覚えている。





「ここ、歯が浮きそうなくらい甘い」





そう言って私の唇に指を付けいつも以上に意地悪く、だけど優しく笑うその姿に
視線を逸らし赤くなった顔を隠すよう前髪をくしゃりと握った。





「…私、砂吐きそうなくらい気持ち悪い」
「それ、甘いんじゃないのか?」
「…死んじゃえ」
「何とでも」





セネルは自らの膝に私を乗せ、ぎゅうっと抱き締めた後
指、頬、髪に口づけを落とし、「甘い」の変わりに「好きだ」と言う。

初めからそう言ってくれれば良いのにと心の内で不満を漏らす私も
その言葉には滅法弱く、気が付けば笑みが零れているのが嫌でも分かった。





あますぎるのはどっち










16/01/30