「お前なんか誰にも理解されなければ良い」
「へ…?」
「…冗談だ」





彼の幼稚的な部分はとても分かりやすく、そして分かりにくい。

街の住民に良く思われていなかった私が
最近徐々にではあるが普通の人として扱われるようになった。

そしてつい先程、パン屋のおばさんが私に焼きたてのパンをくれたのだ。
嬉々として彼に報告し、バターで照るそれを見せた時。





「毒が入っているかもしれない」





そう言った彼に私は「まさか」と笑う。

一時期本当に入れられてもおかしくない程恨まれていた事はある。
だけどおばさんの笑顔を直接見た私には、相手に騙す意図がないのは充分に分かった。

それなのに彼は冒頭の言葉を正に吐くように呟いたのだ。
そしてすぐにそれを否定し目を逸らす。
ああ、彼の幼稚的な部分はとても分かりやすく、そして分かりにくい。





「ワルター?」
「…」
「ねえ、ワルター」





黙る彼の背中にそっと触れる。
掌から伝わるワルターの体温に溜め息が出る程安心した。
だけどワルターは違うのか、私に背を向けたままだ。





「…お前を分かるのは、俺だけで良い」





まだこの話続いてたんだ、そう思い背中を摩る。
ワルターはそれを良く思っていないのか、じんわりと体を熱くし私を拒絶した。





「心配するフリは止めろ」
「ん?」
「…どうせ幼稚だ」





首を傾げた際に口元が緩んでしまったのか、
それとも指先から私の気持ちが伝わってしまったのか、
ワルターは溜め息を吐くと首だけを動かしてこちらを盗み見る。





「凄い!何で分かるの?」
「…幼稚と人を馬鹿にした事には謝罪もなしか」
「ごめんごめん!それで、何で?」
「…言っただろう」





を理解しているのは俺だけだ」





まるで手品を見ているかのように興奮し、体を揺らす私の頬を撫でる。

そして、一度聞いた恥ずかしい台詞を再び吐き出して
「へ?」と漏れた私の声を吸い込み、正に“食べる”ように唇を啄んだのだ。





「…ワルター」
「…」
「あの、その…もっとタイミングと言うものを大事に…」
「気にするような事じゃない」





「何より本人は嫌がっていないからな」





意地悪く笑う彼に、胸がぎゅううっと痛くなる。
痛くて痛くて眉を下げれば、「それはして欲しい顔だ」と言ってワルターは再びキスをした。

私を誰より理解している、そんな彼の言葉にまさかと笑ったけど、
こうも当てられてしまうと信じるしかなくなる。

そして何より、よりにもよって何故彼にバレてしまうのだろうと
五月蝿く鳴る心臓を押さえて睨みつければ、ワルターは笑って三回目のキスをした。





犯行動機

(っしすぎ…!)
(もっと、だろ)










14/02/07