仲睦まじいセネルとシャーリィの姿を見て、苦しくなったのはいつからだろう。





「あ、これ似合う!」
「…女性用じゃないですか」
「良いじゃん!似合うのに勿体ないよ!」
「良くないです。せめて仕事に支障が出ないものにして下さい」





そう言って黄色いぽんぽんを翳す私の手を、ジェイは鬱陶しそうに振り払う。

時は昼過ぎ、場所は防具屋。
はしゃぐ私と違い、ジェイは一刻も早く帰りたいと言わんばかりに長い髪を掻き上げた。
私はそんなジェイを横目に、再び物色を開始する。





「どっかの誰かさんが髪留めを壊さなきゃこんな事にはならなかったのに…」
「地面に置いておく方が悪いよ」
「置いていたんじゃなくて落としてしまったんです」
「言い訳見苦しい!」
「どっちがですか」





ジェイはいつにも増して冷静だ。
私相手にムキになる事を体力の浪費と考えているのだろう。

折角の二人きりの買い物を心の底から楽しめないのには訳がある。

私とジェイは付き合っていない、良くも悪くも腐れ縁だ。
更に私にはジェイよりも二人きりになりたいと想う人がいる。

片想いは世界が輝いて見えると言うのは、結構嘘っぱち。
これ程綺麗なウェルテスの街並みも、私にはくすんで見える。
…それもそのはずだ。
片想いの相手はもてるだけじゃない、もう既に可愛い彼女がいるのだから。





「…はあ」
「珍しいですね、さんが溜め息なんて」
「吐きたくもなる…」





ガクリと項垂れる私を、ジェイは何も言わず眉を顰め見つめていた。

何故だか分からないが、ジェイとは一緒に行動する事が多い。
そしてその度にこうして当たってしまう。
駄目なのに、考えれば考える程もっともっと駄目になっていくんだ。





「…あ」





でも、駄目だって分かっているのに考えてしまう。

目の前に置かれた色とりどりの宝石の中、一際私の目を惹き付けた蒼の色。
決して形が大きい訳でもなければ、輝きが強い訳でもない。
気が付けばそれを手に取り、店の照明に掲げ感嘆の声を漏らした。

海の底みたいな色。
きっと、セネルにピッタリだって。





「…その色、僕の趣味じゃないです」
「、あ」
「誰の事、考えてたんです?」





深い深い妄想と言う名の海から私を引き上げたのはジェイ。
慌てて隠そうにも、ジェイ相手には手遅れだ。





「さすがの僕でも、他の男性を想って買った物はもらいたくないですよ」





そして、コイツは私の好きな人を知っている。
多分知っているのはジェイだけだけど、こう言う事を言われる度に
「ああ、何でその唯一がジェイなんだろう」と恥ずかしさに顔を赤くしてしまうんだ。

ましてやそれをネタにしてからかおうともしない。
冷静過ぎる突っ込みが、逆に自分がどれだけ惨めかを思い出せる良い刺激になる。
(最も、そんな刺激は求めていないのだけど)





「ああ、暑い暑い。髪が結べないと暑くて死にそうだ」
「じゃあ切ってあげようか!今すぐ!」
「お断りします。良いから早く代わりの物を…」
!ジェイさん!」





店内に響く鐘の音と同時、元気いっぱいの声が私達の名前を呼んだ。
二人して一緒に振り返り、二人して言葉をなくす。





「シャー、リィ」





あ、声が上擦った。

必死に気持ちを入れ替えようと、何度か咳払いをし笑みを作る。
悟られちゃいけない気持ちは、笑顔の裏にしっかり隠した。
慣れすぎて、もう疑われる事もない。




「どうしたの?こんな所で」
「お兄ちゃんへのプレゼントを買いに来たんだよ」
「え…でも、誕生日じゃないよね?」
「うん、でも記念日だから」





「付き合って一ヶ月なの」、そう続けたシャーリィは、凄く凄く幸せそうだった。

ほんのりと朱に染まった頬も、キラキラと輝く瞳も、胸の前で絡まる細い指も、
体中から今が一番幸せだと滲み出ている。

私は背後でジェイの服を掴み、込み上げる気持ちを堪えながら
噛み締めた歯を隠すよう唇で弧を描く事しか出来なかった。

でも、二人には幸せでいて欲しいと願うのも本当の私。
二人とも、大事な友達だから。





「じゃあ、これは…?」





どうしよう、と悩むシャーリィにそっと手を伸ばす。
手の上には汗で少し湿った、キラキラと光る蒼の宝石。

シャーリィの海色の瞳にちょっとだけ似ていた。
だから私はこれがセネルに似合うと直感したのかもしれない。




「わあ…凄く綺麗」
「、セネル…喜ぶと思う」
「うん、そうだね!これにするよ」





「ありがとう、




そう言って満面の笑みを見せたシャーリィは
私の手から宝石を取り、脇目も触れず会計を済ませ外へと出た。

ショーウィンドウ越しに手を振るシャーリィに私も小さく手を振る。
嬉しそうなシャーリィの笑顔を見れた喜びとは別、小さな妬みがバレないように。





「…」
「…」
「……」
「…顔、不細工ですよ」





客が二人となった店内にジェイの声が響く。

慌てて作った笑顔はもうボロボロだ。
最も、もう繕う理由は何処にもない。





「…普通、自分以外の女が選んだプレゼント、買ってく…?」
「……慕ってるんですよ、さんを」





ジェイはこんな時、凄く優しい声を出す。
「何馬鹿な事を言っているんですか」、と私を突き放したりもしないし
物事を冷静に分析しどっちが悪い等と決め付けたりもしない。

その違和感に始めこそ何か裏があるのではと勘ぐっていたが、
ここ最近、私はこの優しさに甘える事がクセとなっていた。
…そんな自分が、一番嫌いなのに。





「…わかってる」





シャーリィが私を信じてくれている事も、
私よりもずっとずっと前からセネルを好きだった事も、
今やっと結ばれて幸せだと言う事も、全部分かる。

でも、私だってずっと。
ずっと…。





「私…が」
「…」
「わ、たしの方が」
「…ああもう…全く…」





ぎゅうっと袖を掴む手が払われ、グッと強い力で引き寄せられる。
鼻を掠める香水の匂いに背中を叩く優しいぬくもり。
いつもと違うのは結われていない長い髪が頬を掠める事だけ。





「セネルの事、私の方が分かってるのに…!」
「はいはい…」
「ッシャーリィに勝てるくらい、知ってるのに…!!」
「分かってますから」





「せめて人目は気にして泣いて下さいよ…」





私が声を上げて泣き始めたと同時に零れた溜め息も、
背中を叩く手がゆっくりとテンポを遅くするタイミングも、
「よしよし」、とまるでお母さんのように宥める声も。

全部全部、私の涙を止めるどころか余計に加速させて
しまいには自分の大きな泣き声で世界を閉ざした。





「…すみません、これ」
「おや、女性用で良いのかい?」
「ええ」





「それで彼女が笑うなら安いもんです」





出口のない迷路の中、自分の涙に溺れる私は
気が付けばいつもモフモフ族の皆に囲まれ、疲労感で眠りにつく。

翌朝、「良いリラクゼーションになったでしょう?」と笑みを見せるジェイに
「うん」と返事をするのもいつもの事。

でも今日は「その髪留め超似合ってる」と私が笑って
ジェイが頬を赤くし顔を反らす、と言う特別な出来事も追加された。

それでも、一頻り笑った後頭の中に浮かぶのはまだ諦めきれない彼の顔で。
ああ、また一日が始まってしまうと溜め息を吐くのも、また毎日の事なのだ。





上手くいかない恋

(辛いよ、苦しいよ、なんて言っているから気付かないんだ)
(すぐ近くに、本当に頼れる人がいるって事を)










ここ最近のマイブーム:お母さんジェイ
14/03/02