「おはよ!」





寝癖をつけたまま部屋から飛び出してきた彼女は
僕の姿を見るなりこの場にそぐわない挨拶を交わした。





「もうお昼ですよ」
「でも会うのは初めてだから!」
「…」
「私ジェイに『こんにちは』って言った事ないし!」
「…言われてみればそうですね」





溜め息を吐く僕のすぐ横に座り、さんはいつものように笑みを見せる。
僕はそんな彼女の顔色を窺った後、依頼書に目を通す作業へと戻った。





「…」
「…」





流れる沈黙に些か疑問を感じる。

随分静かだ…彼女に似合わず。

安らぎのある静けさではない。
不安を駆られる静けさだ。





「…いつか『こんにちは』って言っちゃうのかな」
「は…?」
「嫌だな…言いたくない」





突如意味の分からない事を言葉にしたさんは
動揺する僕の肩に自らの頭を乗せる。





「一日の初めから終わりまで、ずっとジェイといたいよ」
「…」
「中途半端な挨拶は嫌い…」





弱々しい声を上げながらも未だ必死に笑顔を作る彼女に僕は目を細める。
彼女の心情を覗こうと、その胸の内に視線を向けながら。





「朝からずっと一緒にいて…寝るまでずっと一緒にいて」

「今日、朝起きたらジェイがいなくて…寂しかった…」





そう言って僕を見つめたその瞳は、まるで瑠璃のようだった。
僕の一言で粉々に砕けてしまいそうな程脆く、見るに堪えない瞳だ。

何故、そんなに不安になるのだろう。
いつかいなくなってしまうと、不安に駆られているのは―――…。





…―――僕の方なのに。










15.瑠璃(ルリ)青金石という鉱物を指す
いつか消えちゃう恋物語
修正:14/01/29