、大丈夫か?」
「…うん」





呼吸も落ち着き、頭痛も治まる。
先程の痛みが嘘だと思うくらい今は平常だ。

さっきの頭痛も声も映像も、全部気のせい…?





「辛いなら休憩するぞ?焦ってる訳でもないし…」
「ううん、大丈夫…ただちょっと引っかかる事があって…」
「…何の事かは分からないけどあんま考え込むなよ」
「ありがと」





セネルの優しい言葉に返事をし笑みを向ける。
そんな私の笑顔を見てセネルもゆったりと微笑んだ。





「それより久しぶり、が先かな」
「うん、久しぶり!」
「元気だったか?」
「もちろん!セネルは?」
「この通りだ」
「相変わらずだね!二ヶ月経ってもセネルはセネルって感じ!」
もな」





他愛もない会話がこんなにも楽しい。

きっと私は今自分が思っている以上にニヤニヤしているに違いない。
こんなにも楽しい気分になったのは久しぶりだ。





「シャーリィも仕事の調子どう?」
「順調ですよ。近い内にまたゆっくりマウリッツさんと話そうと思っています」
「そっか!里の中にいてもシャーリィと話せなかったから、どうしてるか気になってたんだ!」
「私もさんと会いたかったんですが、顔も出せず申し訳ありません…」
「顔出さなかったのはこっちだよ。基本的に引きこもり生活だったから」
「…そうなんですか?」
「ワルターと部屋の中でずーっと一緒、別に嫌じゃなかったけど」





私の言葉に、一番初めに反応したのはセネルだった。

ピクン、と体を跳ねらせたかと思えばワルターをジッと睨む。
そんなセネルにワルターは冷ややかな視線を向けていた。

この二人の仲の悪さも相変わらず。

一体何でそんなに仲が悪いのか、私にはこれっぽっちも分からないけど
そろそろ仲良くなって欲しいと思っている。

まあ、このまま一緒にいれば直にそうなるだろうと、この問題は置いといて。
私はまだ挨拶をしていない残りの一人に笑顔を向けた。





「クロエはついさっき遺跡船に来たんだよね?」
「…」
「船旅ご苦労様!大陸の方も結構平和だった?」
「…」
「…クロエ?」
「え…あ、あぁ…そうだな」




俯いていた顔がパッと上がり、クロエは引き攣った笑顔を浮かべる。

私今、変な事言ったかな…?
そう思いながらも言葉を続けた。





「何かあった?ちょっと元気ないけど…」
「いや、いつも通りだ…皆に久しぶりに会ったから、少し緊張しているのかもしれない」
「そっか!気軽に行こうよ!きっとノーマに会ったらそんなのも吹っ飛んじゃうって!」
「あぁ…そうだな…」





そう言って、クロエはまた無理に笑顔を浮かべる。

私の言葉ではクロエの緊張を解してあげる事は出来ないのかな。
そう思うと少し悲しくなった。

でも、皆に会ったらきっとクロエも前みたいに元気に笑ってくれるだろう。
そう思いながら前に足を進めたその時だった。





「キャアアアッ!」
「ッ!?」





何処からか女の子の悲鳴が聞こえる。
丁度私達が進もうとしていた道の奥からだ。





「何かあったんでしょうか…!?」
「行くぞ!」
「うん!」





各々武器を手に取り走り出す。

クロエとセネルが先頭を走り、シャーリィは後ろへ。
私とワルターはその間。

まだ一度も一緒に戦った事のないメンバーだけど、不安はこれっぽっちもなかった。





「い、いや…!」
「エルザ、逃げるんだ!」
「でも、お父さんが…ゲホッ…!」
「エルザ!?」
「ハァ…ハァッ…!」
「くそ、こんな時に発作が…!」


「魔人拳!」
「魔人剣!」





唸る閃光は大地を切り裂き、目の前にいる魔物へと真っ直ぐ向かっていった。

魔物の背中に切り傷をつけた閃光は同時に消えて、
魔物は二、三歩よろめき苦しそうに声を漏らした。

隙を見て思いっきり短剣を投げつければ
魔物の叫び声が森の中に響き渡り、よろけた体はそのまま地面へと倒れこむ。

整備しきれていない道に紫色の血が染みていく。
魔物が動かなくなった事を確認し、皆はホッと息を吐いた。





「久しぶりの戦いも良い感じ!」
「昔は魔物一匹殺せなかったのにな」
「可愛い女の子をいじめてる奴は許せないの!って事で大丈夫?」





ゼェハァと苦しそうに息をする少女に駆け寄り手を伸ばす。

私の姿を見ると少女はきょとんとした表情を浮かべる。
それがまたなんとも可愛らしい。





「え、あの…ケホッ…」
「あー…えっと…リカバーで良いのかな?」
「え、あ…え?」
「まあいいや!とりあえず治るようにっ…リカバー!」





手は翳さず、ただ治癒の言葉だけを紡いた。

緑色の淡い光が少女の体を包むと
徐々に喉元へと集まりパン、と音を立て弾ける。





「…どうかな?」
「あ、ありがとうございます…少し落ち着きました…」
「どういたしまして!立てる?」
「あ、はい…」





差し伸べられた手に少女は何の疑いもなく自らの手を乗せた。
いや、正確には乗せようとした、だ。

少女は驚き目を見開いて、額に汗を浮かばせカタカタと震えだす。

また苦しくなったのかと思い声を掛けようとすると、
後ろにいる仲間達は何故か私の名前を頻りに呼び出した。





、後ろ!」
「…後ろ?」
「い、いやっ…!」





言われた通り後ろへと振り返れば、ビクリ、と無意識に体が跳ねた。

先程倒したはずの魔物が血塗れの腹を見せ、私達を見下ろしている。

魔物の手には剣。
それは間違いなく、私と少女に剣先を向けていた。





「わ、ちょっ…待った…!」





とにかく、杖を盾にしてやり過ごそう。

そう思い腰に下げたお手製の杖用鞘に手を伸ばすが
手は杖を掴むどころか空気をスカッと切っただけ。





さん、杖こっちに落としてます…!」
「なっ…鞘の意味ないじゃん!!」





「誰が作ったんだよ!」と自分自身を罵倒し意味もなく大きな声を上げた。
それが魔物を煽っているとも知らずに。

つまり今の私には相手の攻撃を受け流す武器がない。
短い短剣じゃ受け止めるのにも無理があり、投げたとしても軌道は変えられない。

まさに、絶体絶命と言うやつだ。





「何してるんだ!早く逃げろ!」
「ッ逃げたらエルザが危ないよ!!」
「くそ、間に合わない…!」





とにかく後ろにいる少女だけは守らなきゃ。

自分の腕の中に彼女を納めれば、意外と小さくて
身長の低い私でも充分な盾になれると思った。

魔物に背を向け、ぎゅっと目を瞑りこの子だけはと必死に願う。





「ッ…」





しかし、一向に痛みが走る事はない。





「…?」





恐る恐る目を開けてゆっくりと振り返れば、目の前には大剣を持つ男性の姿。
私達を襲った魔物は再びぐったりと倒れていた。





「エルザ、大丈夫か!?」
「お父さん…!」
「そちらのお嬢さんも…娘を庇ってくれて、本当にありがとう」





男性の持っている大剣には血が付いていた。
先程の魔物が流していた血と同じ色だ。





「わ、私こそありがとうございます!弱い癖にでしゃばってすみません…!」
「本当にな」
「ワルター付け加えんな…!」
「ハハ、元気なお嬢さんだ…大した方だ、貴女は」





「…自分の意思をしっかりと持っている」





フッと声のトーンが下がり、その瞳が何か別の物へと変わった。

私を睨むような、冷静に観察するような、そんな瞳。
とても先程と同じ父親の顔とは思えない。





「…おじさんも優しいし、意思だって強いよ」
「残念ながら自分の事は良く分からないもので…褒め言葉として受け取っておくよ」





…私、今試されたかもしれない。

昔の映像が次々と蘇る。

彼との接触は正直言ってかなり少なかったはずだ。
なのに何もかも見透かしているその声、印象は嫌でも覚えている。

私は他人の振りをしたはずなのに、それすら気付かれていたみたいだ。





「私はオルコット。こっちは娘のエルザだ」
「セネルだ」
「シャーリィと申します」
「クロエ・ヴァレンスだ」
「私は。こっちワルター」
「…」
「な、何だか人が多くてっ…」





オルコットさんはエルザの肩に手を置き優しく微笑む。

父の温かいぬくもりに安心したのか、エルザは呼吸を落ち着かせ私達に笑顔を見せてくれた。
だけどもすぐに表情を崩し、少女は苦しそうに咳き込みだす。





「ケホっ…!」
「エルザ、大丈夫か?…すまない、娘は持病があって…」
「持病があるのに遺跡船に…?相当無理な旅をしたのでは…」
「ここでしか取れない薬草があるのでな」
「そうなんですか…」





娘の背中を軽く摩る父。

まさにオルコットさんは父親の理想像だ。
そしてそれを素直に受け止め微笑むエルザも。

何処をどう見ても幸せな家族だった。





「良い父上を持っているな、エルザは」
「え?」





クロエが静かにエルザへと近寄り、体を屈め顔を覗く。





「早く病気、治るといいな」





そう言ってクロエは優しくエルザの髪を撫でた。
まるで王子様みたいな、甘い笑みを浮かべながら。

見ててハッキリ分かるぐらいエルザの顔は真っ赤。

熱が上がりすぎたせいかエルザはフラリと後ろへ倒れ
そんなエルザをクロエがしっかりと支え、「大丈夫か?」と何度か声を掛ける。

当の本人はと言うと、返事もせず潤んだ瞳でクロエを見つめているだけ。





「…か、過激です」
「シャーリィからそんな言葉が出てくるとは思わなかったけど私も同意」
「はい、私には分かります…あれは恋です」
「そうなのか…?」
「あんな目で見つめられたら、私なら確実に落ちてるよ」
は女だろう」





ヒソヒソと話す会話がクロエにも聞こえていたのか、
エルザを支えたまま私達の方を見て「勝手に話を進めるな」と恥ずかしそうに言った。

でも私と目が合えばクロエはすぐに視線を逸らし、再びエルザに声を掛け始める。
先程から感じる違和感に、私はつい声を漏らした。





「あれ…?」
「どうかしたのか?」
「クロエが…」





私の事、避けてる…?




「あの…すまないが」
「?」
「灯台の街までご一緒させてもらっても良いだろうか…娘もあんな状態なもので」
「あ、はい。私達も灯台の街に行くとこなんで」
「よろしく頼む。」
「じゃあ、改めて出発ー!」





もう、あまり気にしない事にしよう。

ソロンの事も、破壊の少女の事も、
クロエが私を避けてる事も全部気のせい。

いつまでも引きずって暗くなるなんて、私らしくない。





その後はオルコットさんとエルザを加えた七人で
雑談をしながら灯台の街へと向かった。

オルコットさんが薬師だと言う事に改めて納得をし
既にクロエにべったりなエルザに驚きながらも癒される。

そう言えば、と今まで会えなかった時間を埋めるように互いに言葉を交わしたりもした。

問題がたくさんあるのにこんなのんびりしてて良いのかな、とも思うけど。
やっぱ人生、楽しまなきゃ損だよね。










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修正:14/01/01