「ありがとう。また街で会った時はよろしく頼むよ」
「クロエさん、お暇が出来ましたら是非病院にも来て下さい!」
「うん、また」
「っはい!!」





満面の笑みを浮かべて飛び跳ねるエルザを、オルコットさんが体に悪いと言って抑える。

それでも幸せそうなエルザの表情は崩れず
私もそんなエルザを見てつい笑顔になってしまった。

小さくなるエルザの姿が見えなくなるまで手を振り続ける。
エルザも私が手を下ろすまでずっと手を振ってくれていた。
(私にじゃなくてクロエにかもしれないけど)





「行こう、ウィルが待ってる」
「うん!」





先を歩くセネルに短く返事をし、私は小走りで皆の輪の中へと戻った。





「黒い髪に、黒い瞳、か…」
「?」
「…有り得なくもないな…」
「お父さん…?」
「…何でもないさ。さ、早く病院へ行こう」





私達と離れた後、オルコットさんとエルザがそんな話をしていたと知らずに。














「ウィル、今帰った」
「あぁ…すまんなクロエ、俺も迎えに行きたかったのだが仕事が―――…」
「ウィルー!!」





ブーツを素早く脱ぎ捨てて、ウィルの元へ走る。
助走を上手く利用し、片足をグッと踏み込んで私はウィルに飛び付いた。





「久しぶりー!ちょっと疲れ気味?なんかやつれてるよ?」
…?」
「うん!大事な娘のお帰りだよー!」
「……とりあえず離れてくれ」





本当に疲れてるのか、何だかノリの悪いウィル。
久しぶりだし殴られても良い覚悟で甘えたのに、何だか損をした気分だ。





「まぁ…その…なんだ」
「?」





ポフ、と温かなぬくもりが頭部に落ちる。
ゲンコツじゃなくて、ただ頭に手を乗っけるだけの、優しくも弱々しい感触。





「その…元気で良かった」
「…?何テンパってんの?」
「ウィルは未だに娘への接し方が分からないらしい」
「セネル…!」





私の頭からパッと手を離しウィルは慌ててセネルを睨んだ。
何だかいつもより迫力がない。

思えばいつもより顔が赤いし、汗掻いてるし、手も小刻みに震えてる。
ああ…なるほど。接し方が分からないと言うのはそう言う事か。





「ウィル…私の事そんなに…!」
「なっ…違う!俺は、別にだな…!」
「もーそんな照れないでよパパー!」
「べ、別に照れてなど…」
「でもそんな照れてるパパも大好き!」





「ッ…良い加減にしろ!!」















「…何で私だけ…」
「まぁ、仕方ないんじゃないか?」
「折角の再会だったのに…」





ふざけた結果、ゲンコツをもろに喰らい
挙句の果てには家を追い出されて、現状に至る。

長い間仲間と会えなかった私の感情の昂りを理解してもらえないなんて悲しい、悲しすぎる。





「ま、いっか…気を取り直して遊ぶぞー!」
「お兄ちゃん、さっき使ったアイテム揃え直さないと…」
「あぁ…そう言えばそうだったな」
「じゃあまずは道具屋っ―――…!?」





ドン、と何かにぶつかり、予測していなかった衝撃に体は素直に倒れた。
何事かと顔を上げると、老人が道の真ん中で疑問符を浮かべている。

ぶつかってきた本人は杖でトントンと地面を叩き
カツ、と私の足に杖が当たると驚いたように眉を顰めた。





「なんじゃ…野生の猿か…?」
「なっ…違う!」
「おぉ、これは済まない…目が見えん物でな」
「……あ」





なんか、どっかで見た事あるような。
そう思っていた私の中で、ある一つの答えが浮かぶ。





「こっちも怒鳴ったりしてごめんなさい…」





男性、年齢はそこそこ…いや、かなり上。そして盲目。
この三点だけで男性が何者かを思い出すには充分だった。





「すまないが、墓地の場所を教えてもらいたい」
「あっちだ」
「目が見えないのであれば案内する。ご老人を一人にさせとくのは不安だ」
「ふむ…ではお願いしよう」





クロエが老人の体にそっと手を当て、「こっちです」と一歩一歩ゆっくり歩き出す。

セネルはずっと座りっぱなしの私を見てクスリと笑うと
「早く行くぞ」と背中を向けた。

ハッと我に返った時には皆が歩き始めていて
慌てて立ち上がり服に付いた土を掃いながらも皆の後を追った。






「?」
「周りが騒がしい…俺の傍を離れるな」
「…うん」





ワルターに返事をしながら、辺りをチラリと盗み見る。

私の揺れる髪を見てコソコソと何かを話したかと思えば
両手を後ろに回し、こちらの様子を鋭い瞳で見て来る住民達。

もしかしたらその手には剣が握られていて、
いつでも私を襲えるよう準備しているのかもしれない。

結局は何処にいても、監視されているのと変わらない。
外に出ても、まだまだそこは大きな檻の中だった。










「ザマラン殿も大陸の者だったのか」
「長旅、ご苦労様です」
「ありがとう。…静かになった…もう墓地は目の前じゃな」
「凄い…本当にその通り」
「あまり老人をなめてはいけないぞ」





何段もある階段を杖を頼りに登って行くザマランさんを慌てて追う。

墓地にはほとんど人がいなかった。
この分なら隙を突いて殺そうとしてくる人もいなさそう。

皆にバレないようホッと安堵の息を吐く。
同時、視界の端に何かが動いているのが見えた。

それは黄色くて、ボンボンが着いてて、茶色くて。





「…ノーマだ」
「本当だ…珍しいな、アイツがいるなんて」
「ノーマ…じゃと?」





ザマランさんは眉を顰め、そして静かに杖をつき移動する。

皆は戸惑いながらもザマランさんの後へ続いた。
私は小走りでザマランさんを追い越し、ノーマへと近寄る。





「ししょー、絶対にエバーライト見つけるからね…」





近くに行けば行く程ノーマの声ははっきりと聞こえた。





「あたしが絶対に…だから、ちゃんと見守っててね…」





二ヶ月ぶりに見た親友の姿は前とは少し違い、大人びて見えた。

前へ踏み出すのを何故か躊躇ってしまう。

気が付けば一歩前に出るどころか一歩後退していた。
無意識に邪魔しちゃいけないと脳が理解したのだろう。

足を引いた時蹴った砂の音がノーマの耳に届いたのか、彼女は目を開けゆっくりと顔を上げた。

少し大人っぽい横顔が、こっちを向く。

私の顔をじっと見て、驚き目を見開くノーマに
「久しぶり」、と声を出そうとしたその時だった。





「ジジィ!!」
「っ…?」





物凄い剣幕で立ち上がり、大声を出したノーマに体が強張る。

ジジィ…?

ノーマは私を指差し、罵声を発した。
何がなんなのか分からず混乱していると私の後ろからザマランさんが顔を出す。

つまり私が怒られたのではなく、ノーマが怒鳴った理由はザマランさんにあったようだ。





「なぁんでザマランのジジィがここにいんのよ〜!」
「相変わらず騒がしいのう。お前は猿か」
「はぁ!?何よ急に!!そんな事よりあたしの質問に答えろ!」
「ワシがいつ遺跡船に来ようと勝手じゃろう。猿になんぞ説明する必要もないわい」
「んなっ!?」





相当頭にきてるのか、ノーマは「き〜!」と本当の猿みたいな声を上げ地団駄を踏む。

さっきまでの大人びた表情は何処へやら。
と言うか、これがいつものノーマってだけか。

そんな事を考えていると不意にグイッと手を引っ張られる。





「行こ行こ!あ〜もうめっちゃ気分悪い〜!」
「あ、あぁ…」





驚きと呆れの混ざる声を零し、セネルはザマランさんに背を向ける。

シャーリィが最後に小さくお辞儀をすると
見えていないはずなのにザマランさんはしっかりとお辞儀を返してくれた。










「どうしてあのジジィ連れて来るのよ!!」
「墓地に案内しただけだ。…ノーマはザマランさんと知り合いなのか?」
「っえ!」
「まあ、あれだけ話しといて知り合いじゃないって事はなさそうだけどな」
「う…ま、まぁ良いじゃん!あたしの事は!」





自分で話を振っといて自分で話を終わらせるノーマ。
やっぱり先程のしおらしいノーマは完璧な見間違いだ、そうに違いない。





「そーれーよーりーもー!皆、久しぶり!」
「さっき目の前にいたのに無視された」
「気のせい気のせい!会いたかったよー!」
「気のせいじゃないと思うけど私も会いたかったー!!」





熱い抱擁をノーマと交わし、お互いのぬくもりを確かめ合う。
ふわりと香るお菓子のような甘い香りは間違いなくノーマの香りだった。

ぎゅうっとした時、胸だけがスカスカ空くのもノーマだけ。
これをすると、本当に戻ってこれた気がするのだ。

しばらくくっついた後、どちらからとも言わず体が離れる。
そして満面の笑みを見せ合った。





「ノーマがいつも通りで安心した!」
「あたしものままで良かった〜!」
「さっき雰囲気違うなって思ったんだけど、やっぱ気のせいだったのかな」
「ふっふ〜ん、それがね!バストがちょーっとだけアップしたんだよ!きっとそのせいでしょ!」
「あ、そんな感じではなかったから気にしないで」
「なんだと〜!?」





あぁ、やっぱりいつものテンションだ。

ノーマが怒って私が笑うと
ノーマは自分が何で怒ってたのかも忘れて私と同じように笑ってくれる。
私が大好きな彼女の反応だ。

しかし、そうして笑顔を零した瞬間、ゾクリと全身に寒気が走った。
寒気と言うか電撃と言うか、とりあえず衝撃的な物。

セネルとノーマもさっきまでは笑っていたはずなのに、今は顔を歪ませている。
私達三人は目を合わせ、同時に同じ言葉を呟いた。





「…フェロボン」





何処からか掛かって来た音楽を合図に、屋根の上からカーチスが下りてくる。
いつも以上に突然な彼の登場に、皆は二、三歩後退した。





「兄弟!頼みたい事がある!」
「は…?」
「頼む!兄弟にしか出来ない事なんだ!」
「…?」
「さぁ急ぐぞ!愛の為に!!」
「愛、なのか…?」
「さぁ…」





何の事だかサッパリと首を傾げる仲間達。
カーチスの言動は相変わらず唐突だ。

ただ私にはカーチスの意図がハッキリと分かる。
分かっていたからこそニヤリと笑い、カーチスへと言葉を投げた。





「それ私やりたい!」
「何!?」
「セネルじゃなくても良いよね?私やりたい!」
「そうかそうか!愛の為に、だな!!」
「もちろん!」





カーチスはパアッと瞳を輝かせ陽気に笑う。
今まで相手にされていなかった寂しさが積もり積もっての反応だろう。





「急げ兄弟!宿屋の地下二階だ!」
「おうさー!」


「…、何であんなテンション高いんだ?」
「あたしだってフェロボンのテンションにはついてけないよ…」
「…アイツが何かする前にさっさと追うぞ」






そんな仲間の呆れたような、心配するような言葉は
走り出す私には届いていない。

目指すは宿屋地下二階、“闘技場”。










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修正:14/01/01