アイツの家には今、居候が三人いる。
中でも一際五月蝿い女が、とにかく視界に入るだけで苛々した。
「今日のご飯なにかなー」
「もう腹減ってんのか?」
セネル君はわざわざ構ってあげてるみたいだけど、ワルター君とアイツは黙認。
ハティが愚痴愚痴言われるような事やっても、なら何でも許される。
何なの、一体。
一体何が違うのよ。
「セネル君、について教えて」
はハティよりもねぼすけだった。
だから今日は皆のとこをまわって、の嫌なとこを調べるの。
嫌われてるって言えば、きっと少しは大人しくなる。
ううん、もしかしたら追い出す事だって出来るかも。
「?」
セネル君は窓から差し込む日の暖かさにうとうとしながらそう言った。
一瞬険しい顔をしたかと思えばうーんと唸って腕を組む。
きっと嫌なとこがありすぎて悩んでるのね。
可哀想、と思っているとセネル君はクスリと笑った。
眠気眼がフッと細くなって、怪訝な顔をするハティに口元を押さえながら「悪い」と言う。
「そうだな…」
「?」
「面白くて、変なヤツ」
…そう言って笑うのは、を思い出してなの?
「さんの事?」
紅茶を注ぎながらシャーリィは目をパチパチしてた。
ほんの少し動揺しているみたい。
やっぱりシャーリィもの事嫌いなんだ。
「…凄く、強い人かな」
シャーリィは遠慮がちに言葉を紡いで、ハティに紅茶を差し出してくれる。
「それって、爪術が使えるとか?」
「それもあるけど、違うかな」
「?」
「凄く凄く、心が強いの」
「さんの事、私は本当に尊敬してる」
どうして?って聞き返したかった。
だってシャーリィの方が可愛いし、綺麗だし
大人っぽいし、おしとやかだし、女の子らしい。
そんなシャーリィがを尊敬するなんて、普通逆。
そう言い返したかったのに、シャーリィの笑顔を見てたら何も言えなくなった。
「クロエ、の事どう思う?」
病院の一室、剣の手入れをするクロエに会いに行った。
クロエはビクンって体を跳ねらせて露骨に嫌な顔をしている。
今度こそ、を嫌いな人を見つけたと思った。
「…自分と言うものをしっかりと持っていて、且つ人を思いやる心がある」
「え?」
「簡潔に言えばそんな子かな」
自分の言葉にうんうんと強く頷くクロエは、さっきとは違う表情を浮かべていた。
「騎士に向いているな、は」
それ、どう言う冗談?
あんなヤツが騎士になって皆を守れる訳ないじゃん。
スカートを握り締めてそう言ったら、クロエに「こらこら」と笑われた。
ハティの方がより大人なのに、何で。
「はワイの嫁じゃ」
開口一番、モーゼス君は堂々と嘘を吐く。
だけど案外お似合いだと思った。
「敵うはずない相手じゃろうと真っ直ぐ進む姿にワイは惚れたんじゃ」
「ふーん…」
「度胸がある、ええ女じゃ」
肩を揺らして笑うモーゼス君の声は、ハティにとって騒音でしかなかった。
声のボリュームも、言葉の意味も、全部五月蝿い。
「…嫌いなとこ、ないの?」
「すぐに“セクハラー!”言うてワイを殴るとこかのう」
「へえ…暴力的ね」
「でも、そう言う部分もなんじゃ」
「一個でも欠けとうたら、じゃないからのう!」
恋は盲目、なんて良く言うけど…モーゼス君は重症だ。
「ジェイ君、について教えて」
「語り尽くせない程の馬鹿ですね」
折角街中でジェイ君に会えたのに
ジェイ君は忙しいと言って歩きながらじゃなきゃ話を聞いてくれない。
こう言う運動、あった気がする。
確か競歩って言うんだ。
ジェイ君はの事を「馬鹿」「阿呆」「鈍間」って
たくさんたくさん言っていた。
それはハティが望んでた答えのはずなのに、何だかちっとも嬉しくない。
「それでも一緒にいたいの?」
「はい?」
「だって今、ジェイ君が手に持って走り回ってる依頼って…」
「の情報を知りたい人達のじゃない」
「急いでるのは、情報を教える為じゃないんでしょ?」、
そう言えばピタッ、とジェイ君は足を止める。
ハティもつられて慌てて止まった。
グシャリって、ジェイ君の手の中にある手紙が握られる。
私を見下ろすジェイくんの表情は逆光で良く分からなかった。
「嫌いだから、するんですよ」
「邪魔者にはいなくなってもらわなきゃ」
「嫌いなさんを虐めて良いのは僕だけですから」
ジェイ君、本当にが嫌いなのね。
爪が白くなるくらい強く強く握られた拳が何よりの証拠。
でも、何だか素直に喜べないのはどうしてだろう。
「グリューネお姉ちゃん、について教えて」
「と〜っても良い子よお」
「勿論ハティちゃんも」ってギュッてされた。
グリューネお姉ちゃんに聞くのは論外だ。
「ワルター君、について教えて」
大した情報も得られぬまま、ハティはワルター君の元に行く。
の近くにいるワルター君。
日頃から鬱憤が溜まっているに違いない。
ハティを見て顔を歪ませたのもきっとそのせいだ。
「…世話の焼ける上司だ。それ以上でも以下でもない」
「離れたくなったりしないの?」
「だって嫌なんでしょ?」と聞けば、ワルター君はピクリと指先を動かした。
たまにアイツもそうやってハティの言葉に反応するけど
それが一体、どんな気持ちを表してるのか分からない。
「……そう願っても離れなかったのがだ」
ワルター君の言葉は難しい。
ハティにはちっとも分からない。
ワルター君はその後口を開く事はなかった。
かったい空気がアイツに似てて、嫌になる。
「ち〜っすハッちん!について聞いて回ってるんだって?」
もう諦めようかな、と思ってたら声を掛けられた。
敢えてノーマには聞かないつもりだったのに、と溜め息を吐けば
ノーマはハティの言葉を待ってウズウズしてる。
本当、に似てノーマも子供。
「ノーマはどう思うのよ…聞かなくても大体分かるけど」
「ん〜そうだな〜」
「良くも悪くも突進型。あたし等のフォローがなきゃきっと今頃死んでるかもね〜」
その方が良かった、そう思ったはずなのに
何故か胸の辺りがチクってする。
「でもそれを苦痛に感じさせないのがなんだよね〜」
「…へえ」
「ジェージェーもウィルっちも何だかんだ言って世話してるしね」
「…アイツも?」
予想外の名前につい聞き返しちゃった。
だけど今の動揺には気付かれていないみたい。
と言うか、ハティ動揺なんてしてない。
「ってゆ〜か、の事知りたいならウィルっちに聞きなよ」
「え」
「どうせまた避けてるんでしょ?」
「べ、別に…と言うか、何でアイツなのよ…」
「訳、分からない」と声にするハティを見て
ノーマは「え〜?」と意外と言わんばかりの声を出す。
あたかもその理由を知らないハティがおかしいみたいに。
「だっての事最初から面倒見てたのはウィルっちだもん」
「ま〜今もそうだけどさ」
気が付いたらギュ、ってスカートを握ってた。
「ウィルっちはの事怒ってばっかだけど、怒るタイミングも内容も的を得てるんだよね〜」
ハティ、この話もう嫌だ。
「それって、の事ちゃんと分かってるからでしょ?」
「あたしから見たら、本当の親子に見えるよ」
ああ、分かった。
皆が好きとか嫌いとか、の事どう思ってるかなんて関係ない。
このムカムカ、凄くアイツといる時と似てる。
だから、皆がの事好きだって嫌いだって、どっちだって良い。
ハティは、が嫌いなんだ。
アイツと同じくらい、大嫌い。
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修正:14/01/01