「ちょ、ちょっと待ってよ…今テュッちゃん…ってか殺すって何!?」
「あー…あれは…」
「だって、あたしら親和を図ってたんじゃ…!」
「ちょ、ちょっとノーマ落ち着いて!」
あたふたと慌てているあたしを見て、はいつも通りの笑顔を零した。
その笑顔の意味があたしには分からなくて、
“もし死んじゃったら”なんて想像をしてゾッとしてしまう。
「で、でもマウリッツのジジイだって種族の和解には協力的だったじゃん!」
「うーん…」
「なのに…なのにアイツ、ど〜してを殺そうとしてんのよ!?」
リッちゃんは苦しそうな表情でその場に立ち尽くしてるし、
他の皆はあたしと同じような気持ちでを見てる。
は笑いながら、いつもみたいに明るい口調で言葉を発した。
まるで何の心配もしてないみたいに。
「やっぱ、そう簡単には受け入れてもらえないみたい!」
「え…?」
「私の噂が流れて、皆が良い気分してないのはノーマも知ってるじゃん」
「ッでも皆が知ってた歴史も、全然違うじゃん!前世の破壊の少女だって何も悪い事してないし…!」
「馬鹿ですね、ノーマさんは」
溜め息混じりのジェージェーの言葉にカチンと頭の筋が切れる。
馬鹿ってなに?
を心配してるのはあたしだけって事?
「破壊の少女が大陸を滅ぼしたと言うのは、大昔から人類に植え付けられてきた知識ですよ?」
「そんなの事実は違かったじゃん!」
「昔から伝わってきた伝説を、突然否定されたんですよ?」
「っ…」
「否定されたくないと思うのが人間の当然の心理でしょう」
ジェージェーの言う事は良く分かる。
感情任せに怒鳴った自分が恥ずかしいって感じるくらい
頭の中では良く理解出来ている。
でも、「はいそうですか」で納得出来る訳ない。
「和解が進んでいるからこそ、戦争の種となる物は排除しなくてはならないのでしょう」
「そう言う事ー」
「の何処が戦争の原因になるのよ!?」
「手柄の問題でしょうね。どっちが先に殺したかで討論が始まり、そして戦争を招く」
「そんな単純な事で戦争が起きてしまう可能性がある程、さんの存在は大きいんですよ」
「凄い、全部合ってる!」とジェージェーに拍手するに
ジェージェーはジトッとした瞳を向けている。
そんな事で凄いなんて言われたって、ジェージェーも喜べないよ。
なのにいつもみたいにヘラヘラ笑って。
「元気出してよノーマ!」
「はもっと緊張感持ちなよ!命狙われてるんだよ!?」
「だって実感わかないもん!」
「そんな事で威張るな〜!!」
あたしがどんなに叫んでもヘラヘラヘラヘラ笑って。
どこぞのししょーじゃないんだから、もう少し深刻そうな顔してよ。
じゃなきゃあたしも、どうして良いか分からないよ。
「しかしまぁ…見事にどんどんと敵が増えていきますね」
「でも皆がいてくれるから平気だよ?」
「さんが傍にいるとろくな事がないですよ」
「戦いと言うスリルが味わえるかも?」
「いりませんよそんなの」
ニヤニヤとジェージェーをからかうの笑顔は
本当に何も気にしていないように見えた。
本当に、本当にいつも通り。
無理してる感じでもない。
…でも、殺すって言われて普通笑ってられる?
「ノーマ!」
「ふぇ!?」
「ノーマも私の事守ってくれるよね?」
「あ…も、勿論だよ!あたしがいなくなったら嫌だし!」
「じゃあ大丈夫!マウリッツなんかに負ける訳ないじゃん!」
「…そ、そうだよね!」
の言葉は、いつも強い。
心を埋めていた心配って言う埃をその笑顔だけで吹き飛ばしてくれる。
一番不安になるはずのが、何故かあたし達に元気をくれるんだ。
「それにしても、テューラは凄いな…恐るべき執念だな…」
「……執念か〜。あたしもそれくらい根性見せないとダメなのかもしれないな〜…」
心の中だけで呟こうと思っていた言葉がポロッと口から零れる。
視線が集まり、慌てて「こっちの話」と適当にその場を誤魔化した。
「シャーリィちゃん、元気出して」
「大丈夫です…私のしている事が、水の民の総意ではない事は分かってましたから」
ぎこちないリッちゃんの笑顔にグー姉さんはしょんぼりしている。
心配で心配で耐え切れなくなったのか
グー姉さんはリッちゃんの体をぎゅっと自分の体で包むと
もう一度「元気出して」と言って頭を撫でた。
「一人で背負わなくて良いんだ。これは俺達の問題なんだから」
「お兄ちゃん…」
「陸の民と水の民の間の溝は俺達が少しずつ埋めていけば良い」
セネセネの笑顔を見てリッちゃんはポッと頬を朱に染める。
まだ恋してるんだな、と嫌でも分かってしまった。
「感情面を簡単に解決出来ないのは仕方のない事だ」
「ウィルさん…」
「これは大昔から続く、根の深い問題なのだからな」
「あぁ。でも種族関係だっての問題だって、徐々に解決していけるだろ?」
「うん!大丈夫大丈夫!」
の飛びっきりの笑顔にリッちゃんは大きな目を更に大きくして、
そして「はい!」と元気な返事をして満面の笑みを浮かべた。
その後はモーすけが家族を語って、あたしがそれをからかって。
何とか場の空気を取り戻す事が出来たと思う。
解散してすぐに、あたしの足は墓地へと進んでいた。
やリッちゃんの問題に比べれば、あたしの問題なんて軽いものかもしれない。
それでも、まだまだ不安でいっぱいだった。
自信をつけようと世界中を巡っても、勉強しても、不安が減る事はない。
「ししょー、見ててね」
だからあたしはまだ、こうやって死んじゃったししょーに面倒みてもらってる。
「あたしが絶対に見つけてみせるから」
そう言って目を閉じて手を合わせると
墓地から「早く見つけろよな〜!」なんて生意気な声が聞こえてくる気がするんだ。
それにちょっとムカってする時もあるけど、今は凄い癒される。
「頑張る元気、ちょっとだけちょうだいね」
「しょうがね〜な〜」とか言って、ししょーはあたしの頭を乱暴にガシャガシャ撫でてくれる。
子供扱いしないでよ!って思うけど、これが一番力が出るんだよね。
例え「気のせい」であっても、あたしがあたしを保つには充分だった。
「よし!頑張るぞ!」
「何をだ?」
急にししょーじゃない声が聞こえて肩が跳ねた。
最も、ししょーの声は私の頭の中でしか響いてないんだけど。
お墓から目を反らし、声が聞こえた方へと振り返れば
さっきまで一緒にいたセネセネとリッちゃんの姿があった。
「ありゃ、セネセネにリッちゃん!こんな所でデート?」
「別にそんなんじゃない」
「あ、あ〜…ふ、二人の邪魔しちゃ悪いからあたし帰るね!」
慌ててるのバレたなこりゃ、と思いながらもう後には引き返せない。
あたしは逃げるように墓地から離れ、宿屋にダッシュで戻った。
「も〜…タイミング悪すぎ」
部屋の扉に寄りかかりながら溜め息と同時に声を漏らす。
常に貸切状態の宿屋の部屋は、あたしの私物でいっぱいだった。
「…」
ベッドに座り、机に置いてあるボロボロのノートを手に取った。
ギシリとスプリングを揺らして、ゴロンと体を横にノートをパラパラと捲る。
ページを捲る度にギチ、と音が鳴る。
剥がれたページを無理矢理止めたテープは変色していた。
「…きったない字…」
自分の字を指でなぞり、息を吐く。
ちゃんとした文章になってない、走り書きばかり。
メモの上にメモして、字が重なって、もうグチャグチャ。
でも、自分の強い想いだけはしっかりと伝わってきた。
「…初めは人喰い遺跡かな〜…」
ブツブツと呟きながら、ベッドの上をゴロゴロと転がる。
うねうねしていた文字を見ていたら、何だか視界がぼやけてきて
色々と考えていたら、いつの間にか寝ちゃっていた。
そして、かなり早くに目が覚めた。
あたしはすぐにウィルっちの家に押し掛けて、皆を集めるように言った。
用件だけ伝えて、待ち合わせした噴水広場で皆を待つ。
「ノーマおはよー!」
「おはよ〜!!」
とワルちんが二人揃ってこっちに向かってくる。
はまだ起きたばっかみたいで、髪が少しボサボサしていた。
隣にいるワルちんは良くも悪くもいつも通り。
次に来たのはモーすけで、の姿を見るといつもみたいに元気いっぱいにぎゅってする。
はじゃれてるだけだって軽く受け止めてキャッキャッしてたけど
隣でいるワルちんはもうそりゃあ酷く不機嫌な顔をしていた。
気を遣ってモーすけにはセネセネを起こしにいくよう言うと
意外にもモーすけはアッサリと、犬のように尻尾を振って広場から出て行った。
「ところで、今日は何の集まり?」
「んま〜、皆が来たらちゃんと言うよ」
私の隣に座るは小首を傾げてそう問うた。
あたしはそれを適当にはぐらかし、うんと伸びをする。
ふと、噴水広場の入り口に目をやる。
端っこの方に移った人影に何故だか目を奪われた。
「あ、あんた…!」
ゆっくりと近付く人影、もとい老人は、あたし達と同じように噴水の縁へと座った。
「ん?なんじゃ、猿の声が聞こえた気がしたような…」
「ジジイ、まだ街にいたのか!」
「この下品な猿声はノーマか…全く今日は厄日じゃ、最悪じゃ」
ハア、と大きな溜め息を零すジジイはブツブツと文句を言う。
欠伸をしてたはきょとんと目を丸くしてあたしとジジイを交互に見ていた。
折角ヤル気出したのに、こんな始まり方最悪。
「さっさと大陸に帰りなさいよ!」
「元より長居するつもりはないわ。お前の情けない声も存分に堪能した事だしのう」
「誰が情けない声だって!?」
いちいち癇に障る言い方しやがって。
すっごいムカつく。
「…馬鹿な夢を追いかけるのは止めたらどうじゃ?」
「な…何が馬鹿だって言うのよ」
「絶望を知らぬのなら仕方がない…じゃがお前にもすぐに分かる」
「大馬鹿者のスヴェンと同じようにな」
心臓が焼けるようにカアッと熱くなった。
喉が渇く、有りもしない焦げた匂いが鼻を衝く。
心臓だけじゃなくて体中が熱くなって、
内からこみ上げる怒りにギリ、と拳を握った。
「…っジジイ…!!」
爪を光らせようとまでしたその時
ししょーの「おいおいどうしたんだ〜?」って言う能天気な声が聞こえた気がした。
少しだけ、熱が下がった気がする。
「…ししょーを悪く言う奴は誰であろうと許されないんだからね!」
「…」
「ししょーだけは悪く言わせない!それが誰であっても許さない!!」
ししょー、あたし、ちょっとだけ抑えられたよ。
少しは大人になったでしょ?
これでも言い過ぎだって思われるかもしれないけど、
あたし、ししょーの夢だけは貶されたくないよ。
「現実はお前が思う程夢物語を許してはくれん」
「…」
「手遅れになる前に目を覚ますんじゃな。スヴェンのように命を粗末にするな」
「ちょっと」
悔しくて、目頭がジワリと熱くなる。
どうして、こんな事を言われなきゃいけないんだろう。
そんな感情ばかりが心に渦巻いた時、
ジジイの言葉を遮ったのはだった。
「誰がノーマのお師匠さんが命を粗末にしたって決めたわけ」
声色だけで分かる。
が今、凄く怒ってるって事。
「本人が言った?ザマランさんが聞いた?誰がお師匠さんが人生無駄にしたって聞いたんだよ」
「…さん、じゃったかな。部外者が何か文句でもあるのかね?」
「文句あるよ」
ぶすっとした声。
イライラした時、そうやって眉を顰めるのを私は知ってる。
隣に居るワルちんも、がイライラしているのを見て同じように眉を顰めていた。
「私はお師匠さんと話した事ないけど、ノーマが死ぬって断言されて話をされるのは嫌です」
「アイツが見ているのは所詮夢物語だと言ったじゃろう…それを追うのは命を粗末にするだけだ」
「ノーマが死ぬなんて誰が決めたんですか」
あたしの知り合いで、年上って事も考慮してるのか
には珍しく敬語だ。
「ノーマなら絶対、エバーライトを見つけられます」
不慣れな敬語…でも、が言いたい事、あたしには伝わってきてる。
イライラしてまで、ザマランのジジイに言いたい事。
「止めておけ…お主まで命を落としてしまうぞ」
「私はノーマが困ってる時、ピンチな時、死にそうな時いつでも助けてあげられる!」
「…」
「だからノーマが死ぬなんて事、絶対にないんだから!!」
が大声を上げると、広場にいる住民がザワザワと騒ぎ出す。
そりゃ破壊の少女さんが叫んでんだから騒がしくなるのも当たり前か。
ワルちんは住民を睨んでへの危害を抑えているけど
自身はもうそれどころじゃないようだった。
「それではノーマの命が亡くならなくとも、お主の命が亡くなるぞ」
「そんな事ない!!」
「では同じ質問をさせてもらう。何故お主はノーマは死なない、自分も死なないと断定出来るんじゃ?」
「昨日、約束した!」
「…え?」
が言った事、あたしには記憶にない。
疑問の声を漏らせばザマランのジジイが一度あたしの方をチラリと見た。
本当はあたしだっての言葉に「そうだそうだ!」と言ってやりたかったのに
さすがに記憶がない事に同意するのは動揺しちゃう。
約束何かしたっけ…?
「ノーマは、私を殺そうとしてる奴等から守ってくれるって約束してくれました!」
「…あ」
もしかして、昨日のマウリッツのジジイの事…?
「だから私もノーマを守る!ザマランさんの嫌な小言からも!」
「…」
「…心配なら、心配って言えば良い」
「誰が誰を心配じゃと?…勝手にするが良いわ、猿どもが」
そう言うと、ジジイは噴水広場の出口に向かって足を進めた。
目が見えないくせに、杖を大して使わずに噴水広場から出て行く。
人の気配を察知して、器用に障害物を避けながら。
ジジイの背中が消えたのを確認するとはあたしの方をくるりと向いて
片手を上げハイタッチの準備をした。
「イエーイ!」
「イ、イエーイじゃないよ!も〜!本当に勝手なんだから!」
「だってノーマがいじめられてるの見たくないし!」
「だ〜も〜!子供じゃないんだからちょっと控えてよ!」
自分勝手な言い分なのに、あたしを喜ばせるには充分だった。
本当、どこまでししょーに似てるのよ。
「それよりもほら、人喰い遺跡に出発ー!」
「ってまだあたし皆に話してないし!何で知ってんの!?」
「先読み先読み!」
今さっき来たセネセネ達も、何事かとを見て首を傾げる。
勝手に話を進めるを前に
武器の準備も出来ていない皆は慌てて声を上げた。
「おい、俺等何も聞いてないぞ…!」
「ノーマの頼み事だよ?そんなの言わなくても分かるじゃん!」
「先程の流れからしてエバーライト探索ですか?」
「でも、人喰い遺跡はちょっと…」
言葉を詰まらせる仲間達の反応にはムッとした表情を作り
グイッと無理に人の体を引っ張って、あたしの肩を抱いた。
「じゃあ私とノーマで行く!」
「はぁ!?」
「良いの?行っちゃうよ!?」
「…今日のはやけに騒がしいな…」
「ノーマの頼みごとだから!」
「ね!」と笑顔を見せたは、
ぽかんとしているあたしを見て今度は「あれ?」と首を傾げる。
あたしがぽかんとしてた理由は、本当に色々。
何での方がエバーライト探しに熱心なのか、とか。
どうしてあたしにそこまでしてくれるのか、とか。
二人で行くなんて、出来るはずがないのに…とか。
「なんっつうかさぁ、弟子がいるとヤル気出ちまうんだよな」
「ほら、やっぱ後継者には色々伝えたいだろ?あ、これ俺流な!」
何で、ししょーを思い出すような事ばっか言うんだろう、とか。
「…も〜、本当に馬鹿なんだから」
「ん?」
「何でもない!よ〜し、人喰い遺跡へゴー!」
「…俺等、まだ返事してないけどな…」
文句を垂れるセネセネに、あたしとはキッと睨む。
あたしとが暴走したら誰も止められる訳がない。
それに気付いたのか、皆は思いっきり溜め息を零した後、人喰い遺跡に向かう事に同意してくれた。
「…エバーライト?」
「そうさ!すげぇんだぞ!とにかく超すげぇんだ!!」
「何が凄いのよ」
「エバーライトってのはな、願いを叶えてくれる魔法のお宝の事だ!」
「うわ、うさんくさ!ししょー、それ騙されてるよ!」
「騙されてる訳ないだろ!?俺はあると信じてる!だからあるんだ!」
「誰かの言ってる事が全部正しいと思うか?」
「あのザマランのジジイが言ってる事がこの世界の全てだと思うか?」
「誰かの出した答えを確認する為に俺は生きてる訳じゃない」
「自分の足で歩いて、自分の目で良く見て、自分の肌で感じていたいんだ」
「それってすげぇ最高だと思わねぇか!?」
「…うん、すっごく最高だよ…」
ししょー、あたし絶対に見つけるから。
エバーライトは絶対にあるから。
こんなに心強い仲間もいる。
ししょーの生まれ変わりなんじゃないかって思う程馬鹿な親友もいる。
今あたしきっと、ししょーよりも夢とロマンに溢れてる女だよ。
Next→
...
修正:14/01/02