「…んで、本当に良い訳?」





エバーライトに見守られながら、私達は互いを見て話し合う。

良くもまあこの状況で雑談なんて、と思われそうだけど
私にとっては久しぶりのノーマとのお喋りだ、誰にも邪魔されたくない。





「…何が?」
「だから、願い事だよ」
「…」





クールに言うノーマのその瞳が私に呆れた視線を向ける。
まるでさっきの事を取り消せと言われているようで、瞳にジンワリと涙が溜まった。





「もしかしてまた親友やめるの…?」
「だ〜!何でそうなるのよ〜!」
「じゃあ念押ししないでよー!!」





軽い気持ちであっても、何回も聞かれれば不安になる。
勿論、何度だって答えてみせるけど。

ギャーギャーと再び騒ぎ出す私達を止める唯一の武器はウィルの拳。
頭から爪先に掛けて痛みが走り、その場に蹲り頭を摩った。





「ったた…」
「っも〜…あたしだってとはもう親友やめたくないよ」
「…」
「だけど、もっと色々叶えられる事はあるんだよ?って」





同じような言葉をさっきも聞いた。

きっとノーマは私の事を心配してくれているのだろう。
私の瞳をジイッと見て、「本当に良い?」と口にする。

そんな目で見られたら「良いって言ってるじゃん」と強く否定する事も出来ない。
私って実は、凄くノーマに甘かったのかも。





「もう願い事はないよ。ノーマと仲直り出来ただけで充分!」
「……」
「それに、ノーマだって叶えたい夢見つかったでしょ?」
…」
「私の夢は、ノーマに自分の夢を叶えてもらう事だよ」





そう言って満面の笑みを向けると
ノーマは瞳をウルウルとさせながら私に勢い良く抱きついた。

強いくらいの力が調度良い。





「も〜!大好き〜!!」
「私もノーマ好きー!」
「愛してるよ本当に!」
「私も負けないくらい愛してる!」





ぬくもりにぬくもりを返せば、更にぬくもりが返ってきて。
経った一日程度しか離れていなかったこのぬくもりを、決して離すもんかと誓った。





「男子羨ましいだろ〜」
「でしょー」
「いや、は言う立場じゃないって」





「やっぱり相変わらず」と呆れたように笑うノーマ。
言葉の意味は分からなかったけど、私も笑った。

何でもっと早く仲直りしなかったんだろう。
私達はきっと、すぐにお互いを許せただろうに。





「んじゃ…のお言葉に甘えて、ちょっくら使わしてもらおうかな」





すっと立ち上がり、パタパタと服に付いた埃を振り落とすと
ノーマは大きく息を吸い、まっすぐにエバーライトを見つめた。





「ししょーがやろうとした事、あたしが叶えてあげるんだ」





きっと今のノーマを見たら、お師匠さんは喜ぶだろうな。

キラキラした強気の笑顔。
私が知る限りじゃ、この笑顔が似合うのはノーマが一番だ。





「皆、後少しだけ付き合ってくれる?」
「オウ、任しとけ!」
「おうー!」





モーゼスと私は高々と拳を突き上げてニカッと笑う。

「あんた等仲良いね」、と溜め息を吐きながら笑うノーマに
私達は声を揃えて「家族だから」と胸を張った。

何処までも同じ私達にノーマはプッと噴き出して大きく頷く。

あたしも一緒だよ、って。
そう言ってもらえている気がした。





「よ〜し!そんじゃ、ちゃっちゃとジジイ呼びに行くか!!」





ノーマはくるりとエバーライトに背を向けて
当たり前のように私の手を取り駆け出した。

そう…これが当たり前。
私達にとって、ずっと、ずっとこれが当たり前なんだ。















「…何処まで連れて行く気じゃ」





水晶の森から街へと戻り、そしてまた水晶の森へ向かう。

予測もしていなかった私達の不可解な行動に
ザマランさんは何とも言い難い表情を浮かべていた。





「黙ってついてくんの。ほら、止まんないで」
「良い事あるかもよー!」
「…お前さんは、もう良い事があったんじゃな」





不意を突かれた言葉にぽかんと口が開いてしまった。

ザマランさんは目を開けていないのに私が阿呆面をしていると気付いたのだろう。
フッと、皺の寄る頬を持ち上げ優しい笑顔を見せる。





「…うん、ノーマに叶えてもらったの!」





ザマランさんの腕に自らの腕をぎゅっと絡めると、
ザマランさんは「そうか」と言ってまた笑ってくれた。

どうでも良さそうな口調だけど、本当は心配で仕方がなかったのだろう。
ノーマの安否も、私達の関係も。





「何よ〜、あんた達二人で何かしてたわけ?」
「内緒ー!」
「そうやってはまた隠す〜!…ま、良いけどさ」





「それがだし」、と溜め息を吐きながらノーマは笑った。

ノーマは喧嘩した原因でもある“私が未来を知っていたのに、敢えて話さなかった理由”を
深く追求したりはしなかった。

言葉の通り、ノーマは私を丸ごと受け止めてくれたんだ。

なら、私はその想いに応えなきゃいけない。
次はちゃんと、この力をノーマの…仲間の為に使うんだ。















「…」





エバーライトがある広間まで辿り着くと、ザマランさんの眉が微かに動く。

大いなる海の温かさをその身に感じているのだろう。
だけど見えない所で得体の知れない力を感じるのは、余り気分が良くないようだ。





「あたしは気に入らないけど、これがししょーの望みだからね」
「…そろそろ説明してくれんか」
「今に分かるわよ」





二人は怒鳴りあう事もせず、ただ静かに会話をする。

ザマランさんを支えていた手をスッと離すと
ノーマはエバーライトの前まで足を進め、ゆっくりと目を閉じた。

両手を前へ突き出し、深く息を吸ったノーマの周りには白い光が溢れ出す。





「お願い、あたしの願いを叶えて…」





その一言に、エバーライトの光は強さを増した。
だけど嫌な眩しさじゃない、私達を包み込む優しい光だ。

エバーライトから零れる光の粒子は、掴む事も出来なければそっと触る程度でも消えてしまう。
体に当たれば、その衝撃だけで粒子はなくなり、その儚さがまた綺麗だと感じた。





「お願い、エバーライト!あたしとししょーの願いを叶えて!!」





ノーマが声を張り上げたと同時、エバーライトの光はザマランさんの元に真っ直ぐと向かっていく。
暖かい光は老体を包むと、彼の瞳へと沁み込んでいった。





「こ、これは…」





驚きに声を上げながら、ザマランさんはゆっくりと目を開いた。

今までどんな事が起きても崩れなかったザマランさんの表情は
今正に驚きの色に満ちている。

ぽかんと口を開け、何度も瞬きをするザマランさんは、何処かとても可愛らしく感じた。

辺りを見渡し、目を擦り、そしてまた瞬きをする。
ザマランさんはそんな行為を数回繰り返した後、ある一点でピタリと首を止めた。

ザマランさんの視線の先には、壁に書かれている例の文字。





…―――エバーライトはここにあり!

…―――ざまーみろ!師匠!!





「どーだ!ざまみろ!」





胸を張り、ブイサインを見せ付けると
ノーマは二カっと眩しいくらいの笑顔を見せた。

その姿は、ザマランさんの中でお師匠さんの姿と重なったのだろう。
驚き見開かれた瞳は、大きくユラユラと揺れている。

エバーライトを背にするノーマを見てザマランさんはフッと微笑む。
呆れている、だけど幸せそうな、飾りのない笑顔だ。





「…馬鹿弟子が…」
「馬鹿すぎて泣けてきちゃうでしょ?けど、これがししょーの夢」





先程とは別の笑顔を見せるノーマの横顔は、とても大人びて見えた。
お師匠さんを思い出す時のノーマは、いつもそんな笑顔を見せる。





「ジジイの目を治したかったんだよ」
「最期まで、馬鹿しおって…」
「しょ〜がないよ、だってししょーだもん」





「ししょーから馬鹿を取ったら、な〜んも残らないじゃん」、と肩を竦めるノーマの言葉に
ザマランさんは「それもそうじゃな」と言って強く頷いた。

本当、あのお師匠さんだからこそ二人にここまで言わせる事が出来るんだろう。
人のイメージが十人十色にならないのって、案外珍しい事だと私は思う。





「で、どうよ?あたしの姿は。立派なもんでしょ?」
「ふん…予想通り、生意気そうじゃ」
「ったく、可愛くないんだから」





ニヤニヤとノーマにからかわれるザマランさんの顔は少し赤い。
嬉しいのを隠しているのが、私達にまでバレバレだ。

可愛いな、って私まで笑ってしまったその時、激しい揺れに体が傾く。
油断しきっていた私の体を支えてくれたのはいつも通りワルターだった。





「あ…」





パキ、と音が鳴ったと同時、パラパラと崩れ始める珊瑚の蔦。
大小様々な欠片が全て落ちると、エバーライトは中央に亀裂を走らせ傾いた。

今は光を失い、形すら変わったエバーライトだけど
願いを叶えてくれた後の光景だと思えば、それも綺麗だと感じる。





「力を失って崩れたのか…」
「い〜んじゃない?探し出す事が目的なんだからさ」





エバーライトを見て微笑むノーマの言葉に一つ頷く。
私に掛けられた言葉ではなかったけども、無意識的に首が動いたのだ。





「また新しい夢を探せって、エバーライトが言ってるのかもね」
「半人前の癖に、口だけは達者じゃな」
「今日のあたしは気分が良いから、何言っても許したげる」
「猿の分際で偉そうに」
「むき〜!なんだと〜!?」





結局いつもと同じ、地団駄を踏みながら両手を振り回すノーマに皆が声を出して笑った。

今までこの地で静かに過ごしていたエバーライトは、永久の眠りに着いた。
私達全員に、幸せをくれて。















「ほ〜ら!早く〜!」
「ま、待ってよ…!って言うか、お墓なら一人でも行けるじゃん!」
「ダメダメ!エバーライトの欠片ししょーに渡さなきゃ!」
「だから、それも私いなくても出来るって!」
「あ〜も〜!じゃ〜にも一個あげる!」
「って何個持ってんの!?」





ハア、と荒い息を零しながら立ち止まるノーマの元まで行けば
「ほい」と雑に手の上に置かれた欠片。

手の中の欠片は日の光を受けてキラキラと輝いている。
見ているだけであの日の出来事が鮮明に蘇った。
(と言ってもまだ大した時間は経っていないが)

力を失っていても、何だかまだ願いが叶いそうだ。





「それに、さ」
「?」
「ししょーに、を紹介したいんだ。あたしの親友だってね!」
「ノーマ…」





頭を掻き、照れ臭そうに笑うノーマの言葉に、またジィンと胸が熱くなる。
嬉しすぎて痛いって、こう言う事だ。





「言ったっしょ?とししょーって凄く似てるって!」
「うん」
「だからって訳じゃないけど、にはししょーの事祈ってやってほしいなって」
「勿論!」





私も時間さえあればノーマのお師匠さんには挨拶しておきたかった。

文字も読めない、正確なお墓の位置も分からないで
結局お墓参りが出来た事は一度もなかったから。





…―――ちゃんと仲良くやれよ!





「っ…?」
?」





不意に耳元で声が聞こえた気がして、振り返る。

草の茂み、青空、真後ろと正面に広がる道。
あらゆる箇所を見渡してみたけど、声の主が見つからない。





…―――俺の代わりに、ちゃんとノーマの面倒見てやってくれよ。





俺の“代わり”。
こんな事言うの、私が知る限りではたった一人しかいない





…―――お前も、これから何があっても絶対に下を向くな。

…―――前だけを見続けろ、夢とロマンを追い掛け続けろ。

…―――立ち止まりたくなったらそれで良い…でも、顔だけは上げ続けろ。

…―――そして誰よりも強くなれ。





…―――じゃなきゃノーマの親友だなんて認めてやんねーよ!だはははは!





この独特な笑い方、もう人物を確定したようなもんだ。

何処から声が聞こえてくるかも分からない、だけど不思議と怖くなかった。
何だかとっても温かくて、この人の言葉は心地が良い。

きっと、出会えていたら色んな事を教えてもらえてただろうな。
もっともっと元気をもらえていただろうなって、そんな事を思いながら目を閉じる。





「…私の紹介、いらないかも」
「へ?」
「何でもない!いこっか!」
「だからあたしがさっきから早くって言ってるでしょ〜が〜!」





そう言ってノーマは私の手を握り走り出す。
頬を掠める風と、風に乗って漂うノーマの香りに、私は笑った。

そんな私達の頭上に広がる青い空は
まるでお師匠さんの笑顔みたいに清々しかった。





…―――俺が墓でじ〜っとしてる訳ないだろ?

…―――お前等の事、これからずっと、ずーっと傍で見ててやるからな。

…―――墓なんかでじっとしてるより、こっちのが面白いし、退屈しないしな!

…―――頑張れ、若者!夢とロマンと友情の為に!





…―――その先に、無限の未来が待っている!!





ああ、ほら。
今も一つ雲が流れて。

お師匠さんが…スヴェンさんが近くで笑ったよ、ノーマ。










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修正:14/01/03