楽しい雑談、とは言えなかったけど
これからの事や霧の正体について話し合う。

私も今話せる事は全て話した。

支離滅裂ではあったものの、上手く伝わったのは
ジェイやウィルの質問が上手だったからかもしれない。





「…と、随分時間が経ってしまいましたね」





ポツリと呟いたジェイの言葉に、皆は閉じた空を見上げる。





「うわ〜…もう夜か〜」
「朝からずっとここにいたんだな」
「何だか時間が経つのも早かったね〜。それだけ集中してたって事かな?」





ううんと体を伸ばすと、ノーマは大きく息を吐いて
服についた砂を掃いながらゆっくりと立ち上がる。





「何か急に疲れが出てきちゃった…」
「そうねぇ。お姉さんも眠たいわぁ」





大きな欠伸をし、眠たそうに目を擦る。

そんな仕草が大人の女性とは思えなくて
私は小さくグリューネさんに笑みを零した。





「霧を操り、を利用している奴がいて、ソイツは世界を滅ぼそうとしている」

「そして破壊の少女と何かで繋がっている、と…」





眠い眠いと騒ぐノーマとグリューネさんを余所に
ウィルは顎に手を当て今日話した事を整理した。





「分からない事が少しでも分かったんだ。一歩前進、だろ?」
「そうだな…、話してくれてありがとう」
「う、ううん…!黙っててごめん…」





優しく微笑むウィルに、私は感謝される事なんて一つもしてないと口にする。
それに深く、ふかーく頷いていたジェイの姿は見なかった事にした。

立ち上がる皆を追うよう、私もその場を後にする。
大地は私達が去った事により、いつもの静寂を取り戻した。















地上へと出る。
空には大きな月が浮かんでいた。

あんなに怖かった夜が怖くない。
先の見えない暗い夜道さえ、良い未来に向いている気がした。





「そいじゃ、今日はお開きで〜!」
「オウ!また明日、じゃな!」
「バイバイ!」
「おやすみなさい」





灯台の前で別れるのは野営地で寝泊りをしているモーゼスと
ミュゼットさんの家にお世話になっているシャーリィだけ。

その二人と軽く挨拶を交わした後、私達は反対方向へと足を進めた。










「おやすみ、また明日な」
「うん、おやすみ!」
「また明日から騒がしくなると思うと、ゆっくり寝れそうもありませんね」
「またまた〜!本当は嬉しいくせに!」
「いつ誰がそんな事言ったんですか」





じゃれ合う二人に、私はクスリと笑みを零す。
ノーマは満面の笑みを作り、ジェイは恥ずかしそうに顔を反らした。





「…寝てる間に、無防備になりすぎて霧を吸い込まないようにして下さいよ?」
「無理無理!だって勝手に吸い込んじゃうもん!」
「開き直るとすぐこれだ…少しは努力するとか、そう言う―――…」





「見つけたっ!!」





ジェイの声を遮り、夜の街に大きな声が響く。
私達は自然と、声が聞こえた方へ顔を向けた。

今までずっと走り回っていたのか、息は絶え絶えでとても荒い。
金色のツインテールは乱れに乱れ、結び目の位置が下がっていた。
白い肌も少しだけ赤くなっていて、うっすらと汗も浮かんでいる。





「…テューラ?」





夜の街と言っても、街灯があるお陰で少女の姿はハッキリと見えた。
私が名前を呼ぶと、彼女は乱れた息を直しもせずにこっちへ走って来る。





「っはぁ…はっ…!」
「どうしたの?何かあった―――…」
「っ今まで何処にいたんですか!?」





近距離で怒鳴られ、体がビクリと跳ねた。
興奮するテューラに、私はおずおずと答えを返す。





「し、静の大地に行ってて…」
「っ打ち捨てられた地ですって…!?何でそんな所にいたんですか!?」
「皆に話が」
「そんな場合じゃないでしょうッ!?」





悉く自分の発言を遮られ、一体どうしたのかと首を傾げると
テューラは目を見開いて私の肩を掴んだ。

怒ってる?と聞かなくても分かる。
こんなに必死なテューラは今まで見た事がない。





「貴女のせいで、ワルターさんが…
 ワルターさんが、死んじゃうかもしれないんですよ!?」

「…え?」





無意識に漏れた声と同時、心臓がドクンと大きく跳ねた。





「ワル、ター…が…?」





直球過ぎるテューラの言葉に動揺が隠せない。

どうして、何で、と言いたい事はたくさんあったけど
悪寒が走り、言葉が出てこなかった。

そんな中、私はある事に気付き自分のスカートのポケットに手を入れる。

ガサ、と音を立てたそれを乱暴に引っ張り出して
そのままの勢いでノーマに突き出した。





「ノーマ!これ、早く読んで!!」
「あ…う、うん…!」





ノーマは急いでメモを広げると
素早く瞳を動かし、その全てを私に教えてくれる。





「破壊を、招く…少女に…。
 破壊のない、未来が…あらん…事を…」





嫌な予感と言うのは、こうも当たるものなのか。

ワルターの残した言葉と、テューラが教えてくれた真実。
そこから導き出された答えは一つ。

ワルターは私の為に何かをしていて
それはテューラの言う通り、命を落とす程危険だと言う事。





「っテューラ、ワルターは何処にいるの!?」
「え…た、多分、里に…!」
「分かった!ありがと!」





杖を握り締め筒の中の短剣を確認し、私は街の外へと駆け出した。





「おい、!!」





制止の言葉に足を止める。
噛み締めていた唇をゆっくりと解いて、私は皆に笑顔を向けた。





「ちょっと行って来るね!」
「行くって…お前一人でか…!?」
「うん!」





夜の街には似合わない、底抜けに明るい声。





「一人が良いの!」





ワルターが一人で頑張っているなら、私も一人で頑張らなきゃ。

でも、決して孤独じゃない。
私は今、皆に見守られて走っている。

だから一人じゃないんだ。















「……」





少女が走り去った後、残された仲間達は呆然と道の先を見つめていた。





「…良いんですか?一人で行かせて」
「あれは追いかけたら怒るタイプだろ…」
「…まぁ、僕もそう思いましたけどね」





たった一人の女に翻弄される男二人の会話を、ノーマは腹を抱え笑った。
彼女の横、ウィルは溜め息を零し頭を抱える。





「ノーマ。笑ってる暇があるならシャーリィとモーゼスを呼んで来い」
「へいへ〜い。二人とも見栄張っちゃってさ〜本当は心配な癖に」
「ノーマさん、急いで下さいよ…緊急事態なんですから」





へらへらと笑いながら、ノーマは来た道をゆっくりと戻る。
残された仲間達は、呼吸を整えているテューラに視線を移した。





「テューラ」
「な、何ですか…?」
「皆が揃ったら、一体何が起きてるのか話してくれないか?」
「…」
「分かる範囲で良い」





「どうしてワルターが里の中で殺されかけているのか。
 同族である水の民とワルターが争う理由は何か。
 それにが関係してるかどうかも、全部教えてくれ」





真実を求めるセネルの姿を見て、テューラは小さな溜め息を零すと
ふいっと顔を反らした。





「…分かりました。話せばいいんでしょう?」





テューラのぶっきら棒な返事にセネルは一言「ありがとう」と言い
慌てて駆けてくるシャーリィとモーゼスの姿を確認した後、ウィルの家へと向かった。















充満した霧。
それに混ざる血の匂い。

いつもの清らかな里じゃない。
寄り付きたくない、誰もがそう思うであろう空気に私は顔を顰めた。

でも、もう退かない。
今度は、私が助ける番だから。





「待っていたよ、破壊の少女」





まるで私がここに来るのを分かっていたかのように
里の中にいる全ての水の民がこちらを見ていた。





「…歓迎、ありがと」





目の前の人達から溢れる黒い霧。
その中でも一層濃い霧を放つのは、輪の中心にいる老人だった。





「この前訪れた時に忘れ物でもしたのかな?一人で来るなんて珍しいじゃないか」
「うん、大事な部下を忘れちゃって…それと、もう一つあるんだよね」





何が面白いのか、ニコニコ笑っている老人に私もあははと笑みを返す。

そして杖を握り直し、相手に向けたと同時
これでもかと言う程の怒りを込め、ある人物の名前を呼んだ。





「シュヴァルツッ…!!」





私の声に反応したかのように、
マウリッツから溢れた霧が里を別の空間へと変えた。

黒い空は赤く、月は色をなくし、赤い建物は青く変化する。

目に見える全ての物の色が変わり
武器を持つ水の民は石像のように固まってしまった。


時が止まった。
直感的にそう感じた。


空間を切り裂き、仮面の女が姿を現す。
私が呼んだ張本人だ。





「ゆっくりと話す時間をくれるなんて、随分優しいね?」
「…」





どうやらこの時を動けるのは私と目の前の女だけのようだ。

私にとって好都合な状況を作ってくれると言う事は
この女はどんな場面でも私に負けないと甘く見ているんだろう。

そう言う、相手を無意識に見下す性格、本当に腹が立つ。





「人の子が神に勝つ瞬間…じっくり堪能してね?」





意地悪く言葉を放ち、挑発的な笑みを浮かべつつ
私は筒から短剣を一つ取り出し、肩にかかっていた髪を後ろに払って―――…





…―――その鋭い刃を、ゆっくりと自分の首筋に当てた。










Next→

...
修正:14/01/07