襲いかかる魔物に剣を振り翳し、剣先の嵐でその身を貫く。

まるで舞うように繰り出される剣技の数々に
魅了されている女の子が一人。





「クロエさん、かっこいいです…!」





靡くマント姿の女性を目で追い、エルザは熱の篭った溜め息を零す。
私はそんなエルザが可愛くて、隣で小さく笑った。





「よし、終わったな」
「さすがだな、クーリッジ」
「クロエこそ」





互いの拳をぶつけ笑い合う二人に
「ああ、お似合いの二人だ」と心の中で呟いた。

セネルとクロエは本当に良いパートナーだ。
戦いの素人である私でも、二人の息の合った戦いは純粋に凄いと感じるのだから。





「クロエ幸せそうだねー」
「…私も、セネルさんのようにクロエさんの近くに行きたいです…」
「……」





この子、本気だ…。
そして私はその言葉に何を返せば…。

等と頭の中で考えても答えは出ず、ハハ…と乾いた笑いを零した。











名前を呼ばれ顔を上げれば、汗を拭いながら私に手を伸ばすセネルがいた。





「怪我はないか?」
「うん、エルザもこの通り!」
「気抜くなよ。エルザ、が余計な事しないように見張っといてくれ」
「失礼だな!私だって一生懸命エルザを守ってるんだから!」





私が怒鳴ってもセネルはへらへら笑ってる。
もう私に怒鳴られるのも慣れたと言わんばかりだ。





「お前達、ふざけてないで行くぞ」





ウィルにこうやって注意をされるのは何回目だろう。
「はーい」と慣れた調子で返事をし、私は再びエルザの手を引き奥を目指した。

ふと視界の端に見えたのは、一人俯き立ち尽くす黒い霧を纏った少女。

この感覚、覚えてる…。





…―――クーリッジ…。





クロエが纏う霧は、じんわりと広がっていく。

私は無意識に指先を動かし、霧を掻き集めるような仕草を
皆には見えない程度に行った。





「クロエー!」





ピクリと跳ねた肩。
彼女らしくない、怯えた表情。





「行こ!」





そう言って彼女の手を取った時には、もう霧は消えていた。

気のせいじゃない。
私には間違いなく、クロエの出す負の感情が見えた。

だけどもう気分が悪くなる事もない。
どんなに霧を吸っても、私の体に起きる異常現象はなくなっていた。

クロエは私の手を見て「ああ…」と言いとてもぎこちない笑顔を見せた。
嫉妬、戸惑い…私に向ける、恐怖にも似た感情。

出来るだけそれを多く消してあげたくて、私は彼女の手をぎゅっと強く握った。















充満する血の匂い。
辺りに飛び散った血潮に、何が起きたかを物語る金色の髪が数本床に落ちている。

だけど真新しい血がない事に少しだけ安心する。

ここでまた拷問に似た事が起きていない事、
そして奥にいるであろうオルコットさんが大きな怪我をしていない事。

それが分かっただけで十分だ。





「いつ来ても、心が痛みます…」





思っていた事がつい零れてしまったのか
シャーリィはポツリと雨音程の小さな声を漏らした。

集まる視線にシャーリィは笑顔を見せて「平気です」と一言言う。





「はぁっ…はぁ…っ…」





それでも、平気ではない少女が一人いた。

手で口を押さえ、荒い息を必死に誤魔化し
止めどなく流れる冷や汗を服で拭っている。





「エルザ…?」
「あ、はい!」





辛いだろうに、私が声を掛けると元気いっぱいに返事をし
ニコニコ、無理に口角を上げて笑うのだ。





「無理しない方がいいよ〜。足ガクガクしてんじゃん」
「あ、こ、これは…」
「…エルザが元気な顔をしていないと、オルコット殿が悲しむ。ここで休憩にしよう」





そう言ってエルザの肩を抱きゆっくりとしゃがむクロエに
エルザはすかさず声を上げ両手を大きく振った。





「い、いえ、大丈夫です!ほら、この通り!」
「エルザ」
「は、はい!」
「言う事を聞けないならここからでも追い返すぞ。良いか?休憩だ」





キツイ言葉でクロエが諭せば、エルザはグ、と言葉を詰まらせ
ストンと勢い良くその場に座った。





「わ、分かりました!疲れました!凄く疲れました!!」
「エルザ…」
「是非、休憩したいです!休憩させて下さい!皆さんと一緒に休憩がしたいです!!」





グッと拳を作り「早く休憩しましょう!」と言うエルザ。
いつの間にか立場が逆転している。

素直なエルザの反応にクロエはうん、と一つ頷き少女の横に腰を落とした。





「良い性格しちょるのう」
さんもこんぐらい素直でしたらね」
「悪かったね、素直じゃなくて」
「そう言う所が素直じゃないって言ってるんですよ」
「素直じゃないのが私のチャームポイントなんですー」





「分かってないなあ」と言う私に対しジェイは何も返さない。
言うだけ無駄だと悟ったのか、それとも言い返す言葉が見つからないのか。

ジェイは無言で立ち上がると服についた埃を掃い
明りの少ない奥の道を見つめた。





「さて、僕は先の様子でも調べておきますね」
「ワイも行くわ」
「二人が心配だから、お姉さんも行くわねぇ」
「あ、じゃあ私も」





そう言って立ち上がると「お前もついてくるのか」と言うあからさまな態度を見せるジェイ。
モーゼスとグリューネさんはこんなにニコニコしているのに、何でアンタはそうなのか。





「モーゼスさんだけでも面倒なのに、何でさんまで…」
「ちょっと!モーゼスよりは役立つよ!」
「何じゃそれ!」
「良いから、行くなら早く行って来い」





「相変わらずだな」と溜め息を吐く仲間数人の反応にジェイもグ、と言葉を詰まらせ
「分かりました」とだけ言うと先を歩いて行った。















「…のう、





一本道をしばらく進んだ時、モーゼスがポツリと私の名前を零す。
私は返事をせず、頼りない松明に照らされたモーゼスを見て首を傾げた。





「なんちゅうか、今日はやけにエルザの嬢ちゃんと仲が良いじゃのうて」
「だって良い子じゃん、エルザ」

「ん?」





「…ワレ、おなごが好きなんか?」





ガシッと強い力で私の肩を掴むモーゼスの表情は真剣そのもの。
私もその場で軽く返事をすれば良いものの、余りの気迫に固まってしまう。





「…す、好きって言うのはラブ的な意味で…?」
「オウ」
「…それは、本気で聞いてる?」
「オウ」





え、私そんな誤解を生むような行動とった?

手を繋いだりはしたけど、そんなのしょっちゅうノーマともやってる。
モーゼスだって何度もそう言う女子同士の絡みを見ているはずだ。

でもモーゼスは真剣だ。
額に汗を浮かべ、私が「そうだよ」と言った途端壊れてしまいそうなくらいワナワナしてる。





「勿論、エルザは良い子だしすっごく可愛いけど…」
「けど?」
「友達としてだよ?モーゼスの想像とは違うよ」





どんなやらしい想像してんのかしらないけど、と付け加えると
モーゼスは大きな大きな溜め息を吐いて、何だか彼らしくない知的な顔をした。





「なんじゃ、おなごはああやってベタベタするのが友情なんか…」
「そ、そんなしてないよ!モーゼスとだって手ぐらい繋ぐじゃん!」





「ほら!」と肩を掴む手を無理やり取っても、疑いは晴れない。





「シャボン娘とはようギュッてやっちょるしのう…」
「あ、あれも疑ってるの…!?モーゼスだってやってるじゃん!」
「あがあに熱烈なもんはやらんけどのう…」
「ッ…!」





私も、何でこんなにムキになったのかは分からない。

ただ、ずっと一緒に旅をしてきたのに
モーゼスがまだ私の性格を理解していないのかと思うと
咄嗟に行動に移していたんだ。

私の腕じゃその大きな体を包み込む事は出来ないけど
ドン、と乱暴に腕を回し、油断するモーゼスの体を引き付ける。





「ほら!友達とだったら誰でも出来るよ!」
「オォ!本当じゃ本当じゃ」
「グリューネさんとだって!ほら!」
「あらあらぁ」





固いモーゼスの体の次には、柔らかいグリューネさんの体を抱き締める。
頬に当たる感触はもう全くの別物で、香る匂いも全然違う。





「…貴方達、ついて来たなら来たで先に…」
「ほら、ジェイとも出来る!」





私達がギャーギャーやっている間に先へ進んでいたジェイが戻ってくる。


そのタイミングが非常に悪かった。


熱くなる私をニコニコして見る二人に、何だかからかわれているように感じたんだ。
(グリューネさんは普段からそうだが、モーゼスは明らかにそうだった)

私はムキになり、問答無用でジェイに体当たりをかます。

その首に腕を絡め「どうだ!」と鼻を鳴らせば
モーゼスはやっと納得してくれたのか「分かった分かった」と手を上げた。

誤解が解けた事に対しホッとしたのも束の間、隣にはジトッとした目で私を見るジェイの姿。
あ、もしかしてまた余計な事した?なんて、聞かなくても分かってしまう。





「…何してるんです?」
「え、っと…」
「…」
「モーゼスに、友達とはなんぞと言う定義を…」
「へえ…」
「…」
「…で、終わったんですか?」
「は、はい」





ああ、何でこの子はこうやって人を委縮させる事が上手いんだろう。

もはや才能だろうと思いながらゆっくりと腕を離せば
ジェイは小さく溜め息を吐いて服の皺を伸ばした。





「どうせモーゼスさんに変な事でも吹き込まれたんでしょう?」
「ジェー坊もラッキーじゃのう!ワイのお陰じゃ!」
「別に頼んでませんよ…鬱陶しい」





もしかして、私モーゼスにからかわれた?

二人の会話を聞いてそんな事を思いながらも
反撃の隙をなくした私はその大きな背中にドン、と拳を押し付けた。





「騙したな…!」
「何じゃ?は友達同士でギューッて出来るんじゃろ?」
「そ、そうだけど…!」
「なら問題ないじゃのうて!ほんで、ワイがやっても問題ないっちゅう訳じゃ」





自分が言ってしまった手前、再び抱きつく男を突き放す事が出来ず
為すがままになりながら、数分前の自分の発言を後悔する。

が、どさくさに紛れ尻を撫でるのは勿論友情の定義外。

数秒の間も空けず砦内に乾いた音が響いたのは、勿論言うまでもない。










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修正:14/01/08