雪花の遺跡の中、重たい足を動かして必死に奥を目指す。

白い壁を走る光のラインに目がチカチカした。
進むにつれ大きくなる機械音に、怯える少女の姿が脳裏を過る。





「…怖いの?」





陸の民が作ったこの遺跡は、きっと彼女が改造されていた場所に良く似ているのだろう。
私の問いかけに少女は一つ強く頷くと、震える声でこう呟いた。





…―――助けて……様…。





とてもとても小さな、か細い声。
私はそんな声を出す少女を助けたいと思った。

だけど、破壊の少女が助けを求めているのは私じゃない。
ただただ、忌々しい名前を口にし続ける。





「張り切ってロンロンをやっつけよ〜!」
「おぉーっ!」





嫌な沈黙の中、元気の良いノーマの声が響く。
とある者は驚き、またとある者は「ロンロン…」と複雑な表情を浮かべていた。





「一応聞いておくが、ロンロンとはソロンの事か?」
「当然!他に良い案ある?」
「…好きにしろ。認識出来ればそれで良い」





ハア、と大きな溜め息を吐くセネルに怒りもせず
ノーマはアハハと笑いながら陽気に歌う。

きっとそれは、ノーマなりの気遣いなのだろう。





「…」
「…」





誰だって、こんな空気を流されたら空元気にもなる。
特に私のジェイの間に流れる、何とも言えない空気には。

どちらからも話そうとはしないし、かといって無理に距離を近付けようともしない。

正確には、どちらをするのも怖いのだ。
きっとジェイは、私がどんな行動をとったって癪に障るのだから。











声が聞こえ、ゆっくりと顔を上げる。





「へ…?」





先を行ったはずのセネルが目の前にいて、つい変な声を漏らしてしまう。
セネルはそんな私にゆっくりと笑みを見せると、手を握り前へ歩き出した。

歩くのが遅い私に苛立ちを感じたと言うよりも
遅いから心配して戻って来てくれた、そんな気がする。

…その優しさが、辛いのに。





「ジェイも早く行くぞ」
「…はい」





セネルの言葉に返事をすると、ジェイは私の横を通り過ぎ遺跡の奥へと消えていく。
さっきまでの歩みの遅さが嘘のようだった。

何とも言えない気まずい空気にセネルは困ったように笑う。





「まだ痛むか?」





そしてすぐに表情を変え、赤みを帯びている私の頬を擦る。
フワリと優しく動くぬくもりに、私の体は大きく跳ねた。





「…大丈夫」
「なら良いけど」





妹を慕う兄のような声で言葉を紡ぐ。

何となく、私とシャーリィを重ねているのかなと考えていれば
セネルは小さな溜め息を零して前髪を掻き上げた。





「女に向かって手出すなんてな…何考えてるんだか」
「セネルだって初めは同じようなもんだったじゃん」
「っ…まだ根に持ってんのかよ…」





何とも言い難い表情を浮かべるセネルに、私は一つ笑みを返した。
ああ、何だか久しぶりに笑えた気がする。

それと同時に思ったんだ。
…やっぱり私、皆の事守りたいって。

例え戦争の道具として使われる事になっても
皆が無残に殺されるところは見たくない、って。

お人好しの仲間想いも大概にしろ、と自らに毒を吐きながらも
今更未来を変える事も出来ない。

…後は行動するだけなんだから。




「…ねえ」
「ん?」





服を引っ張り、甘えた声を出す私に対し
セネルは間髪入れずに返事をしてくれる。

セネルは目を丸くする。
声とは裏腹、真剣な眼差しを向ける私が不思議で仕方がなかったのだろう。





「ジェイは悪くないんだ」
「…をぶった事か?」
「…それも、そうだけど…」





これも、ジェイの言う余計な事に入るのだろうか。
ジェイの気持ちを踏みにじる事になるのだろうか。

…だけど、もしそうだとしてもこれだけは知っていてほしくて。





「ジェイは、悪くない」





私はただ、何度も何度も同じ言葉を繰り返した。

ぎゅっと強く服を掴めば、セネルは観念したかのように溜め息を吐いて
私の髪をそっと撫でる。





「分かった」

「信じるよ、お前の言葉」





納得はしていないようだったけど、セネルの瞳に嘘はない。
こんな口数少ない私を、責める事もせず信じてくれている。

私はそれを嬉しく思うと同時、自らの不甲斐なさに腹が立った。





「…こんなにもに庇ってもらえて、正直ジェイが羨ましいよ」





そう言うと返事を聞こうともせず、セネルはギュッと私の手を握り締め
再び遺跡の最奥に導いてくれる。

目の前に映る背中は少し寂しそうに見えたけど、迷いはなかった。





「…あと」
「?」





声を掛ければ振り向いてくれる。
ああ、誰かさんとは大違いだ。

だからだろう。
セネルのそんな優しさに甘えて、私はもう一つ疑問をぶつけた。





「私が何も言わない事、殺したいくらい嫌になる時ある…?」





こんな質問をする馬鹿、きっと私しかいないだろう。
だけどセネルはそんな私を見ても馬鹿にする事はなかった。





「…嫌いになれたら、楽になるかもしれないけどな」

「絶対に思うかよ…そんな事」

を嫌いになんて、俺にはなれない」





銀色の髪がフワリと揺れる。
その口が温かな言葉をくれる。

それだけで私は、こんなにも苦しく胸を締め付けられる。





だってそうだろ?」
「…?」
「ジェイが何も言わなくても、嫌いになんかならないだろ?」





「きっとジェイも同じだよ」、とセネルは笑った。
まるで私の質問に元々ジェイが関係していると知っていたかのように。





「何をしようとしてるのか、何を考えているか、何も言わないお前と
 一緒になんかされてたまるかよッ…!!」

「アンタだって、自分の事皆に何も言わないくせに…!」

「何が違うんだよ…!私とアンタの何が違うんだよ!!」





…本当、そんな些細な事を忘れるくらい
私は道を外れてしまったのだろうか。

嫌いになれる訳がない。
今までどんなに酷い事されても、それだけは見失わなかったのに。

何でこんな、簡単に道から反れてしまったのだろう。





「…でも、さすがに心配だ」
「っ…」
「早く元気になってくれ」





そう言って歯を見せて笑うセネルに向けて
私は「うん」と頷き笑顔を見せた。

心の中で、何度も何度も「ごめんなさい」と言いながら。










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修正:14/01/14