「ド畜生!水臭い真似しおって!!」





怒りを壁にぶつけるモーゼスは、俺と同じような顔をしていた。

…モーゼスだけじゃない。
皆が皆、自らの非力さを痛感し、やり場のない怒りを露にする。





「ノーマ、隣の部屋にいて何も気が付かなかったのか?」
「ッ分かってたらどうにかしてるって!!」
「……」
「そんな責めるような目で見ないでよ!あたしだって、こんなの嫌なんだから!!」
「…ごめん、追い詰めるつもりはなかった」





今にも泣きそうなノーマに向かい
クロエは顔を蒼白させ謝罪の言葉を口にする。

嫌な沈黙が広がる一室。
次に聞こえたのはウィルの虚ろな声だった。





「…俺の言葉は、そんなに軽いものに聞こえたか?」





誰に問いかけたかも分からないウィルの言葉に、俺達はただ耳を傾ける。





「無茶だけはするなとあれ程言った。アイツはちゃんと返事をした」

「俺はそう簡単に裏切られるような軽い気持ちで言った訳ではない…」

「…それなのにアイツは、俺の言葉に頷きながらも簡単に裏切るんだな…」





フッと零れた嘲笑に何を返して良いか分からなかった。

いつも俺達を諌め、まとめてくれるウィルが
濁った瞳である一点を見つめ絶望に嘆いている。

はそんな奴じゃない”、そう言いたくても事実がこうなら言えはしない。
実際俺も、今は“裏切られた”と言う気持ちで頭の中がいっぱいだった。





「皆さん、落ち着いて下さいよ」





怒りを露にする事も、涙を流す事もなく
ジェイは然程今の状況を気にしていないかのように言葉を発した。





「ウィルさん、勘違いしないで下さい」
「…」
さんが一つの物事しか頭に入れられない事ぐらい、貴方になら分かるでしょう?」





責め立てる言葉ではないが、励ましの言葉でもない。
ジェイはさも当然の事のようにを語り、そして俺達はそれに納得する。





「一度はウィルさんの言葉を受け入れているはずです。
 だけど彼女の暴走は一つを考え出すと止まらない…」

「ウィルさんが無茶をするな、と言っても
 さんには何処からが無茶かなんて分からないんですよ」





説得力のある言葉に、あれ程熱を持っていた拳がゆっくりと解けた。

俺は、勝手に勘違いをしていたのかもしれない。

こうやって混乱して、何をして良いのかも分からず物に八つ当たりする俺なんかより
ジェイは、ずっとずっとを見ている。





「…も随分馬鹿にされたもんだな」





フッと笑ったウィルに対し、ジェイも笑う。





「だってあの人、馬鹿じゃないですか」





「もしかしたら無茶って言葉の意味すら知らないかもしれませんよ?」、
そう付け加えたジェイに俺は自然と「そうかもな」と笑いながら言葉を返していた。





「皆さん、苛々する気持ちも分かりますが今は冷静になって下さい」

「グリューネさんとさん、二人が今どうしていて
 僕達が何をすべきなのかをきちんと考えましょう」





先程の会話で少し余裕が出来たのか
「オウ」と返事をするモーゼスは笑みを浮かべている。





「きっと、グリューネさんはシュヴァルツの元へ行ったんだ」





ジェイの言葉通り、俺は二人が今どうしているかを考える。
憶測ではあるけど自信はあった。

昨日の行動や手紙の文面。
俺の答えに矛盾はないはずだ。





「きっと、私達を巻き込みたくなかったんだろうな…」
「…グー姉さん…」





ぎゅっと胸元で両手を包み、ノーマはらしくもなく目を伏せた。
隣にいるクロエも同様に、とても悲しそうな瞳をしている。





「…シュヴァルツは危険な存在だ。グリューネさん一人ではまずい」





ギシ、とソファが軋む。
皆の視線は音がした方へと集まった。





「グリューネさんとがいなくなったのはほぼ同時だ。なら一緒にいる可能性も高い」
「…ウィル」
「例え一緒にいなくとも、グリューネさんが戻れば何かしらの情報が掴めるかも知れん」





「この状況ならば敵地に乗り込んだ確率の高いグリューネさんが最優先だ」

「今はグリューネさんを中心に探すぞ」





立ち上がり、いつものトーンで言葉を紡ぐウィルに先程の面影はない。
調子を取り戻した事を嬉しく思うと同時、ウィルの言葉に強く頷いた。





「でも探すって言ったって…アテがないよ?」





遠慮がちに手を上げ発言をするノーマに対し
何か良い案はないかと腕を組み考える。

ああ、やっと俺達にいつものペースが戻って来た。





「僕もやれるだけの事はやりますけど、居場所を特定出来るかどうか…」
「…俺達以外にシュヴァルツの存在を知っている人間がいるとも思えないしな」
「今回はの予知夢を頼る事も出来ない、か…」





だけど、皆が知恵を絞ったところで「これだ」と言う答えは見つからない。

こんな時だからこそ間違いのない行動を起こしたいのに
良い案が出る事もなく、刻一刻と時が過ぎていく。

そんな沈黙を破ったのは、意外にもシャーリィの声だった。





「一つ…方法があります」





注目される中、シャーリィはゆっくりと言葉を奏で
無音に近い部屋の中に凛とした声を響かせた。





「私が滄我に聞けば居場所が分かるかもしれません」





予想もしていなかった言葉に皆が大きく目を見開く。





「…シャーリィさんが言っているのは、猛りの滄我の事ですよね?」
「…はい」
「危険ではありませんか?」





詰まる言葉を代弁してくれたのはジェイだった。
単刀直入な質問に対し、シャーリィはゆっくりと首を振る。





「私は今の自分が好き…だから大丈夫」
「シャーリィ…」
「皆が傍にいるから、滄我に取り込まれたりはしない」





そう言って、シャーリィは柔らかく笑う。
今のシャーリィにはもう、俺の後ろをついて歩いていた幼き頃の面影はない。





「滄我も分かってくれると思うんです」

「前に進もうとする私達を助けてくれると思うんだ…」

「だからお願い!私にやらせて!」

「…私に、やらせて下さい」





深く深く頭を下げるシャーリィの意志は本物だ。
互いに顔を見合わせる仲間達も、シャーリィの決意を目の前に無理だとは言えなくなる。

口を噤み、きゅっとスカートを握り締め震える体。
決意は固く、沈黙が続く中でも、シャーリィは決して顔を上げようとはしなかった。

長い沈黙を破ったのは、諦めの溜め息と軽い声。





「リッちゃんって意外と頑固だから、言い出したら聞かないんじゃない?」
「ノーマ…」
「既に覚悟を決めたと、顔に書いてあるしな」
「え…そう、かな?」





パッと顔を上げたシャーリィは、実際書いてある訳でもないのに自分の頬をあちこち触る。
そんなシャーリィにクロエは柔らかく微笑み、ゆっくりと一つ頷いた。





「…お兄ちゃん」





ハッと気付いた時には皆が俺を見ていた。
俺がぼうっとしている間にも、皆はシャーリィの言葉に賛同したのだろう。

さっきまで凛々しいくらいに眉を吊り上げていたシャーリィも
眉をハの字に下げ、潤んだ瞳でこちらを見ている。

…正直、その顔は反則だ。





「…分かった」





冷え切った手を暖めるよう包み、蒼い瞳を真っ直ぐに見つめ笑った。





「俺達も全力でフォローする」
「お兄ちゃん…」
「だから…頼むぞ、シャーリィ」





シャーリィは俺の言葉に一度は目を丸くするものの
次の瞬間には底抜けに明るい笑顔を零し「うん!」と元気の良い返事をした。





「…なら、目的地は決まりですね」
「あぁ」





「望海の祭壇に行くぞ!」





フォローはすると言っても、シャーリィに全て託す他ない。
だが何か力になれるなら、全力で事を為すだけだ。

俺達の道は、たった一本しか残されていないのだから。










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修正:14/01/16