洞窟の中はこれと言って以前来た時と変わっている様子はなかった。

ただほんの少し薄暗い気がする。
きっと黒い霧が辺りに漂っているからだろう。

まるで何処にいてもシュヴァルツに見られているようで気分が悪い。





「そ〜いや、ここってさ」





何となく雑談する空気でもなく、黙々と歩く。
そんな中、一番初めに声を発したのはノーマだった。





「リッちゃんがおっかなくなって、大変な目に遭ったとこだよね」





振った話題が酷過ぎる。
雰囲気を良くする為に選んだのであれば、それは選択ミスだ。





「ノーマ、少しは考えろ」
「クロエ、私なら平気だよ」





庇うクロエを宥め、シャーリィは柔らかく笑う。
気を遣っているようにも見えたが、その笑顔に無理はない。





「シャーリィが良いなら、私も良いんだが…」
「だってさ〜腫れ物みたいに扱うだけじゃ、ずっとそのままじゃん」
「ノーマ…」
「あたしら前を見ていかないとさ!未来は目の前に広がってんだから!」





両手を大きく広げ、くるりと回るノーマは輝いて見えた。
未来や夢を語らせるのであれば、ノーマは誰にも負けないだろう。





「シャボン娘もたまにはええこと言うんじゃのう」
「モーゼスさんはいつになったら、良い事言うんでしょうかね?」
「ワイはいつもええ事言っちょる!」
「冗談の間違いじゃないですか?」
「あ〜も〜!二人ともストップストップ!」





話が噛み合わない二人を見てシャーリィは口元を押さえ控えめに笑う。

笑われている事に気付くとジェイはパッと顔を背け
モーゼスは「おもろいのが一番じゃ」と大きく肩を揺らした。

さっきまであんなにピリピリしていた空気がいつの間にか元通りだ。





「な〜んか、あたし等って気が付けば一緒にいるよね?」
「?」
「ず〜っと前からの知り合いみたいにさ」





確かにノーマの言う通りだ。

寝泊りしている場所も生活習慣も違うのに
呼び出されれば皆揃って、そうでない時も何故かばったり会ってしまう。

まるで何かに引き寄せられているかのようだ。





「言われて見ればそうですね。一緒にいる理由がある訳でもないのに」
「クカカ!理由なんぞ必要ないわ。家族は一緒におるもんじゃ!」
「…モーゼスさんに言わせると、全部そこに落ち着きますね…」





家族は一緒に、か。
確かにその通りだ。

俺だって昔は損得で人付き合いをしていた。
だけど今は一緒にて心地良い、ただそれだけの理由で皆といる。

きっとモーゼスが言う家族は、こう言う人間関係なのだろう。





「ま〜今はモーすけぐらい能天気で、ちょ〜どいいっしょ」
「…そうですね。張り詰めているだけでは息苦しいです」





そう言うとシャーリィは深呼吸をして、真っ直ぐに俺達を見た。

覚悟を決めてからも不安を隠せていなかった顔色は血の気を取り戻し
心配かけまいと笑っていた笑顔もとても自然な物になる。

良かった、と安堵の息を漏らしたと同時
シャーリィ以上に強がりで意地っ張りな一人の少女が脳裏に浮かんだ。

…泣いていなければ良いけど、と思うものの
きっとアイツは「余計なお世話!」と言って俺から離れていくのだろう。

背負う責任の重さに押し潰されそうになりながらも必死に笑って。
…そう言う所はシャーリィももそっくりだ。





「…そういえば私、拐われたんでしたね」





何事かと顔を上げれば、モーゼスをじっと見つめるシャーリィの姿があった。

モーゼスはシャーリィ相手にビクリと大きく肩を震わすと
ジトッとした瞳に耐えきれず口角を上げヒクヒクと笑う。





「ま、まぁ…何じゃ!結果良ければ全て良しじゃ!」
「笑って誤魔化してるし〜」





焦るモーゼスは辺りの空気に耐えきれず頭をボリボリ掻きひたすら笑っている。
これがシャーリィを拐った罰ならば軽いものだ。





「ノーマも人の事は言えまい。私達の事を利用するつもりだっただろう?」
「そんな昔の事忘れたね!私は未来に向かって生きてるのよ!」
「笑って誤魔化すな」





ターゲットが移った事にホッとするモーゼスの横
ノーマは特に焦る事もなく胸を張りフン、と鼻を鳴らした。





「…そう言うクロエも、俺を山賊と間違えただろ」
「っ、う…」
「ワルターにも襲われたっけ?」
「なに、今も襲おうと思えば襲える」
「お前…まあ、そんな事しないって信じてるけどさ」
「…」
「ジェイにもはめられたよな?」
「…あぁ、そんな事もありましたね」





出会った当初の事を今更愚痴愚痴言うつもりはないが
淡泊すぎるジェイの返事を聞くとあの時の情景がハッキリと蘇る。





「あの後大変だったんだぞ。フェロボンに絡まれた挙句、ウィルに牢屋へ放り込まれてさ」
「あの時のセネルは手負いの魔物のようだったからな…とても野放しには出来なかった」





手負いの魔物…か。
随分と嫌な表現をされたけど、確かにウィルの言う通りだ。

それに“あの時”と言っていると言う事は少なからず今は違うと言う事。
昔と違い成長していると言われているようなもんだ。





「こうして思い返してみると、私達碌な出会い方をしていないな」





柔らかく笑うクロエに俺も笑う。
それと同時、ウィルが「だが」と強めに声を挟んだ。





「あの時、セネルと一緒にも牢屋に入れたな」
「あ、ああ」
「何があったかは知らぬが、外に出た時セネルの印象が少し変わったように見えた」
「…は?」





情けない声が口から漏れる。





「え〜何?ギャーギャー五月蠅い魔物が一気に好青年、みたいな?」
「いや、相変わらずではあったが…文句を言う数が減ったな」
「ほお…」
の世話を見るようにもなったな、ほんの少しだが」





いや、ちょっと待ってくれ。
俺は牢を出てから、そんなに変わってたのか…?





「へ〜…牢屋ん中で何やってたんだか〜?」
「ばっ…何もしてない!!」
「当たり前じゃ!何かあったらワイが駆け付けちょる!」
「お前まだその時仲間じゃないだろう!」





顔に熱が集まるのが嫌でも分かる。
ここで平然と出来る程、俺はまだ成長出来ていない。

いや、そんな事よりいつこんな流れに…!





「でもさ〜」





赤くなった顔を誰にも見られまい、と俯いている間にも
話題はまた別の方向へと変わっていく。

からかわれなくて良かった、と胸を撫で下ろしながらノーマの話に耳を傾けた。





ってさ〜破壊の少女関係なしに、何か力があるよね」
「何の事じゃ?」
「何て言うんだろ…癒すとは違うけど…人を悪い気分にしない、そんな力」





上手く説明する事が出来ないのか
ノーマはいまいちスッキリしない顔で思いついた言葉を並べる。





「初めて会った時あたしを快く受け入れてくれたのはだけだったもん」
「ワイも変態呼ばわりされたが、そがあに悪い気分はしなかったのう」
「ああ…そうだったな」
「ワイにそげな事言えた度胸に惚れたわ!」





腰に手を当て胸を張るモーゼスに対し
心の中で「マゾか」と突っ込みながら乾いた笑みを零す。





「セネセネだって牢屋を出てから良い方向に変わったんでしょ?」
「え…?」
「それってやっぱ、のお陰なんじゃないかな〜」
「あ…あぁ、そうかもな」





肯定の返事をするものの、自分が変わっていたとしたらそれは無意識に近い。

の影響を受けていないと言えば嘘になるかもしれないが
一体どう言った心境だったのかは今思い出してもサッパリだ。





「ワルちんも色々あったよね〜」
「思い出させるな、忘れろ」
「だけど今はの傍から離れない騎士様って感じ?」
「…」





ワルターの無言は肯定を意味している。
ほんの少し頬が赤いのは、ノーマの言葉に照れているのだろう。





「私もには色々と迷惑を掛けたな…」
は迷惑だなんて思ってないっしょ。ヘラヘラ笑ってばっかだもん」
「…それでも感謝している」





ソッと胸に手を当て微笑むクロエ。

目が合った瞬間、クロエもワルター同様頬を朱に染め
「な、何だ」と半ばキレ気味に俺を睨む。

俺はそんなクロエに「何でもない」と一言返し笑った。





「ウィルっちは?」
「…俺、か?」
「うん。何されてもの事恨めないっしょ?」
「…そうだな」





「迷惑な奴だと思った事は少なからずあるが、悪い気分にさせられた事は一度もない」





俺達のように照れて濁す事もなく、キッパリと断言してみせたウィル。

ウィルにとってもは大切な存在なんだ。
俺達とは違い、を娘として見ていようとも気持ちは同じ。





「まあ、僕は散々嫌な気分を味合わされましたけどね」





皆が同じ気持ちを語る中、ジェイだけはわざとらしく溜め息を吐いた。
だけどその言葉には苛立ちを感じない。





「第一印象は最悪、その後も計画の邪魔をするし、頼んでもいないのに気を遣ってくるし…」

「…一番最悪だと思ったのは」

「そう言うお節介をされても、嫌だと感じないくらい
 さんが僕の感覚を狂わせた事ですけど」





ウザったそうな顔をしながら真逆の事を口にするジェイ。
きっと本人はその事に気付いていないのだろう。

数秒後にはニヤニヤと気味悪い笑みを浮かべるノーマに絡まれ
余計面倒臭い事に巻き込まれていた。





「皆さん、同じ気持ちなんですね」





道の奥から吹く風に金色の髪を靡かせ
シャーリィはフッと目を細めた。





「私も、同じ気持ちです」

「…たまに、羨ましいなって妬んじゃうけど、それでも嫌いになれない」

の笑顔を見て、言葉を聞くと、そんな感情まで何処かにいっちゃうの」

「…これって、滅する力なんかより全然凄い事ですよね」





「尊敬しちゃうな」、そう言って笑ったシャーリィに俺はただ頷いた。





「確かにクーが言うように、あたし等って碌な出会い方してないけど」

のお陰で全部が繋がって、今じゃ一人一人が大切な存在になってるんだよね!」





明るい笑顔を見せるノーマに、肩を揺らし笑うモーゼス。
優しく微笑み互いを見つめるクロエとシャーリィに、溜め息を零しながらも笑うウィルとジェイ。
ワルターは相変わらず何の反応も示さないけど、決して嫌な空気ではなかった。





「色々あったが、今では全部が良い思い出だな」
「ああ…だからこそ、失いたくない」





「俺達は未来を閉ざす訳にはいかないんだ」





握った拳が熱い。
それでも俺はこの手を解かない。

この先何があっても、皆が一緒になれる日が来るまで、絶対にこの足を止めたりしない。





「私も同じだよ、お兄ちゃん」
「シャーリィ…」
「皆と一緒の気持ちだから、ここにいるの」





「絶対に、グリューネさんもも連れ戻さなきゃね!」





熱の帯びた俺の拳を包むシャーリィの小さな手。
昔は引っ張っていたこの手が、今は俺の手を引っ張っている。





「…あぁ!行くぞ、皆!」





祭壇まではもう少し。
今は俺の手を包む少女を信じ、突き進む。










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修正:14/01/16