「例えば、破壊の少女とシュヴァルツの関係…とか」





ジェイの言葉を聞き、グリューネさんはゆっくりとドアノブに掛けていた手を下ろした。

長い沈黙が辺りを包む。
時計の針だけが定期的に音を立て、心臓が五月蠅く鳴った。





「…なりません」





沈黙を破ったのはまたしてもグリューネさんだった。
だけどその言葉は俺達が望むものとは言い難い。





「あなた方は真実を知り、絶望に震えた」

「あなた方は『死にますか?』と問うた時自らの無力さに気付いた」

「この先の事は、あなた方にとって今までのどの真実よりも残酷でしょう」





グリューネさんは俺達を見つめながら淡々と言葉を紡ぐ。
俺はグリューネさんの言葉を聞き黙る事しか出来なかったけど、ジェイは違った。





「そうじゃない」
「…」
「全てを知る覚悟なら勿論あります…でも、問題はそこじゃない」





さんの仲間である僕達には知る“権利”がある」

「そして仲間である貴女は、僕達に全てを教える“義務”がある」





ジェイはこんな空気の中でも笑っていた。
愉快、とは違うジェイ特有の強気な笑みだ。





「仲間に隠し事、なんて…誰かさんみたいな馬鹿げた事、しないですよね?」





そう言ってジェイは天井を見上げる。
いや、正確には二階の寝室に位置する一点を、だ。

恐らくジェイの言う誰かさんとは寝室で眠るだろう。
ジェイが馬鹿にする相手は大体かモーゼスだ。





「そうだよ!あたし等仲間じゃん!!」
「…」
「私達は知りたいんだ…知らなければ、を助ける事も出来ない」





押し黙るグリューネさんと説得するのはノーマとクロエ。
二人は既に真実を知る覚悟を決めていた。





「覚悟ならあります。さっきのは、ちょっとビックリしちゃっただけです」





おどけて見せたシャーリィはグリューネさんに微笑みを向けている。
泣きそうな程瞳を潤ませていた先程とは、似ても似つかない姿だった。





「ほうじゃ!ワイ等は家族なんじゃ!!」





グッと拳を握り、モーゼスはモーゼスらしい言葉を口にする。
それを聞いてグリューネさんが微々たる反応を見せたのを、俺は見逃さなかった。





「家族が…が酷い目に遭ったんじゃ!!ワイは奴が許せん…!」





彼女の空気が変わった気がした。





「ワイはの仇を討ちたいんじゃ!」





ここにきて、初めてグリューネさんは大きな反応を見せた。

残酷な真実を淡々と述べていた唇をキュッと噛み締め
スラリと伸びていた指先が今は拳を作り震えている。





「じゃから…じゃから姉さん!!ワイに全てを教えてくれ!」





モーゼスの声は部屋を反響し、ゆっくりと消えていく。
流れ出る沈黙の中、皆はグリューネさんの答えを待った。





「……」





グリューネさんはただ静かに首を振る。





「…だから、なりませんと言うのです」





今までのどんな言葉よりも感情的に、俺達には分からない言葉を吐きながら。





「…どう言う事だ…?」





妙な雰囲気に耐えきれず、グリューネさんに声を掛けたのは俺自身だった。

グリューネさんの言葉は今までのものと比べても大した変化はない。
俺が違和感を持ったのは“だから”と言う接続詞。

俺達がを大切だと思う事自体がいけないと言われているような気がした。
気がした、で済めば良いと思いながらも俺は疑問をぶつけたんだ。





「あなた方が彼女を慕い大切にする気持ちは良く分かりました」

「ですが危険を冒してまで彼女を救う必要はないと、わたくしは思います」





「…ましてや、あなた方と彼女の出会いはつい最近の事ではありませんか」





こんな時に、冗談なんか言うなよ。
そう言ってやりたかったのに、喉が絞まって声が出ない。





「な、何言ってんのさグー姉さん!あたし等の大冒険、忘れちゃったの?」
「……」
「そりゃ産まれた時から一緒にいた訳じゃないけど、つい最近会った仲でもないし!」





笑顔を引き攣らせながらノーマは必死に喋った。
聞かれていない事も含め、言い訳を述べるように、息つく暇もなく。





「…再び、貴方に問います」





そんなノーマに返事もせず、グリューネさんはモーゼスへと視線を戻す。

グリューネさんに見つめられた瞬間、モーゼスはビクリと体を震わせたものの
強く頷き言葉の続きを待った。





「貴方は血の繋がりがない者を家族と慕います」
「ッ当たり前じゃ!血の繋がりなんぞなくとも、家族は家族じゃ!!」
「…では、貴方は自分の家族を守る為に、他人の家族を殺せますか?」





空気が、凍った。
比喩的な表現ではあるけど、今の状況を表すには最適だった。





「あなた方は、長い間…数百万もの時を経て巡り会えた母と娘を、再び切り離す事が出来ますか?」

「あなた方に、娘の帰りを待ち続けた母の気持ちが、分かりますか?」

「あなた方に、娘に拒絶された母の気持ちが、分かりますか?」





「そんな哀れな母親を、あなた方は彼女の為に殺す事が出来ますか?」





嫌な予感がする。

俺達は何も考えていなかった。
ただを救いたいと、それだけで頭がいっぱいいっぱいだったんだ。

だから、知らなかったのだ。





「……何が言いたいんじゃ…」





を救う事で生まれる犠牲を。





「…ここまで聞いても、尚知ろうとするのですか…」





震えるモーゼスの声を聞き、グリューネさんは溜め息を吐く。
零れた溜め息は、まるで俺達にこう言っているように思えた。

「逃げても良かったのに」、と。





「ならば私も、もう迷いはしません」

「あなた方に、全てを教えましょう」










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修正:14/01/17