異物が広がる空間に、一人の女が立っていた。

女は両手を大きく使い、空間に漂う霧を自らの近くへ掻き集める。
しなやかに動く手は、何処か舞っているようにも見えた。

その手は、徐々に徐々にと一つの形を作り上げる。

ある程度の大きさになった時、何の合図もなしに霧はブワリと音を立て解けた。
霧があった場所にはヒトらしき影が現れる。





「……」





黒い髪に赤い瞳を持つ少女らしき人影は、黙って女を見つめていた。

肩まで伸びた髪、平均的な顔立ち…何処にでもいる少女だった。

腰に掛けた筒からは数本のナイフが見え
また、片方の手には平凡的な杖が握られている。
その身に纏う服だけが、何処か別世界のものに見えた。

何処からか吹いた微かな風が少女の髪とスカートを靡かせる。
前髪に見え隠れする少女の瞳は、ガラス玉のように鈍い輝きを見せていた。





「…あぁ……」





女はそんな少女を見て幸せそうに溜め息を零す。
彼女の存在に、女は涙を流し喜んだ。





「…おかえり、    …」





フワリ、ととても柔らかい笑みを浮かべ
女は目の前の少女を抱き締めた。

少女はそんな女に言葉を返す事も、抱き締め返す事もせず
冷ややかな沈黙を流し、ただ為すがままにされる。

だが、大した反応がなくても女は幸せだと笑った。





「さぁ…共にこの浅ましい世界を滅ぼそうぞ」





抱き締めながら指と指を絡める。

自分自身で作った人形だと言う事も忘れ
女は少女を我が子のように愛で、愛を注ぐ。

少女は虚ろな瞳を女に向けて
女は少女の手を「暖かい」と言い再び笑った。

体温なんて、作り物の少女にはないはずなのに。















暗闇から抜け出し光に包まれた私は、とても不思議な夢を見た。

私は転がりながら、目の前に広がる大きな空に流れる雲を目で追い笑う。
だけど私の顔を覗く皆は、悲しそうに泣いていた。

必死に私の名前を呼ぶんだ。
顔に影が掛かる程近くにいるのに。

私の体を抱き締めるんだ。
いつだって触れる事が出来る距離なのに。





空はこんなにも青くて、

雲はこんなにも綺麗に流れて、

風はこんなにも爽やかに吹いている。





なのに、どうして皆は泣いてるの?





そう問うと、今度は皆して笑い出す。
綺麗な涙を流しながら、嬉しそうに笑ったんだ。


…うん、この笑顔だ。


私はこの笑顔をまた忘れかけていた。

だけど、思い出せた。
思い出したから、戻るんだ。





…―――ただいま、私が大好きな世界。










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修正:14/01/17