不機嫌極まりない店主の「有難うございました」を聞き、私達は店を後にした。
上機嫌に鼻歌を歌う私を見てウィルは溜め息を吐き笑う。
「そんなに気に入ったのか?」
「うん!ウィルが似合うって言ってくれたから!」
「なら、中身も似合うよう努力してくれ」
「大丈夫!元気な私に服が合わせてくれるよ!」
訳の分からない事を言いながら胸を張れば
ウィルは困ったように眉を下げ、再び笑った。
長い間店にいたような気がしたが、実際はそんなに経っていない。
未だ電気が点いていない家がチラホラある程だ。
「…さて」
ピタリ、と足を止めたウィルに合わせ、私の足も止まる。
「そろそろ俺の時間も終わりだな」
「どう言う事?」と言わんばかりに首を傾げれば
ウィルは笑みを浮かべたまま前方を指差す。
ウィルが指差す方向は私達が歩く道の先。
何もないように見えるそこには、目を凝らすと三人の人影があった。
「お〜い!」
遠くから聞き慣れた声がする。
それと同時に、人影はどんどんと大きくなる。
「…あ」
声を漏らす私の様子を見て、ウィルはフッと笑った。
きっと、それ程までに私の顔がキラキラと輝いていたのだろう。
「ノーマだ!」
パアッと顔を明るくさせる私を見て、ウィルは「そうだな」と言う。
私達の元に近付いてくるのはノーマだけじゃない。
彼女を中心に両側にいるのはクロエとシャーリィだ。
「ー!」
「ノーマ!」
不自由な体を早速呪う時が来た。
今すぐその華奢な体に抱きつきたいのに、足が全く動かない。
「クロエとシャーリィも!おはよ!」
「も〜探したよ〜!ウィルっちの家に行ったら鍵かかってるし!」
「留守にしていたのだから当たり前だ」
「朝早く押しかけようとしてすまないな」
大人の会話を繰り広げる二人の横、
きゃっきゃとはしゃぐ私とノーマをシャーリィがクスクスと笑っている。
何だかこの感じも久しぶり。
「目が覚めて良かった…心配したんだぞ?」
「ごめんね!後、ありがと!」
「こっちも、目覚めてくれてありがとう」
いつもみたいに優しく体を気遣ってくれるクロエと、柔らかい笑みを浮かべるシャーリィ。
「お礼なんて」と手を横に振る私にシャーリィは「良いの」と言って舌を出す。
照れて赤くなる頬がとっても愛らしい。
「じゃ、ウィルっち!もらうから!」
しばらく“感動の再会”と言うものを味わうのかと思いきや
ノーマはバッと素早く動き、いつの間にか私の腕に絡みついている。
何を急いでいるのだろう?、と小首を傾げてみるものの
ノーマはそれに答えてはくれなさそうだ。
我が道を行くノーマにウィルは呆れたように溜め息を吐くと
「分かった」と言い私に向けて小さく手を振る。
「あ、ウィル!ありがとう!」
「?何がだ?」
「服!…と、花言葉」
ニッと笑う私に対し、ウィルは一度目を見開くと
ゴホンと咳払いをし「気にするな」と顔を背けた。
「も〜ラブラブ禁止!これからはあたしに付き合ってもらうんだから!」
「分かってるよ!ノーマも皆も大好きだよ!」
「それなら良し!それじゃ、早速しゅっぱ〜つ!」
朝から元気いっぱいだな、と笑う私の体をグイ、と強くノーマが引っ張る。
瞬間、何だか嫌な予感がした。
「ッ…!」
グニャリ、と膝が曲がる。
目が覚めた時、一番に感じたあの感覚だ。
あ、もしかしたらと思い声を上げようとした時には遅く
私の体は派手に前へと倒れ、辺りに砂埃を巻き上げた。
ズシャア、と土の上を滑る私の手を握るノーマの体が大きく跳ねる。
近くにいたクロエとシャーリィも、これでもかと言う程目を見開いていた。
「い、たた…」
皆に会えた事で、自分自身忘れかけていた。
今の私は、力のある誰かの支えがなきゃ歩く事さえ出来ないんだと。
華奢な体のノーマが私を支えられる訳がない、これは仕方のない事だ。
それに、彼女に私を転ばせようと言う悪意がないのは分かっている。
「転んじゃった」、と適当におどけて笑って見せようとしたその時
街全体に響き渡る程の大きな怒声が耳に届いた。
「ッ、ノーマ!!何をしている!?」
…へ?
驚き見開かれた自分の瞳に映るノーマは、大きく肩をビクつかせる。
すぐ横には口元を押さえ、私と同じように目を見開くシャーリィがいた。
殺気さえも感じる程の激しい怒声を上げたのは
先程までにこやかに会話をしていたクロエだった。
「…、クロエ…?」
何が起きたか分からず困惑しながらも、私は彼女の名前を呼ぶ。
荒い息を吐くクロエは自分がした事に気付いたのか、「あ…」と小さく声を漏らした。
「す、すまない…」
「きゅ、急にどうしたの…?」
「…」
「もしかして心配してくれた?」
「……」
「私、転んだぐらいで死んじゃうようなか弱い女の子じゃないよ?」
アハハ、と笑いながら私は地べたでゴロゴロと転がる。
立ち上がる事は出来ないけど、とにかく元気な事を伝えたかったから。
なのに、クロエもシャーリィもノーマも誰一人笑わない。
私が笑っているのが虚しくなる程の沈黙が続いた。
「服が汚れるから止めろ」
「う、うん」
転がる私をいとも容易く抱き上げると、ウィルは買ったばかりの服に付いた砂埃を掃う。
ウィルの様子は先程と何も変わらない。
変わってしまったのは、私の目の前にいる三人だけ。
「ご、めん…、あたし…」
今にも泣き出しそうな震えた声を絞り出すノーマに
「はあ?」と無意識の内に返事をする。
「ちょっと待ってよ!転んだぐらいで何真剣に謝ってんの?」
「……」
「今の最高の笑い話になるところじゃん!折角会えたのにそんな顔しないでよ!」
冗談を言って笑う私にノーマは瞳を合わせようともしなかった。
場の空気を変えてしまったクロエも、反らした瞳を戻そうとはしない。
流れる沈黙に、気が付けば私までもがグ、と唇を噛み締めている。
誰かどうにかして、と心の内で叫んだ時
私の気持ちに応えるよう、柔らかい声が耳に届いた。
「…そうですよ」
声の正体はシャーリィだった。
「折角と会えたんだから、楽しい話をしなくちゃ」
「だって、それが友達だから」
「今ここに涙は必要ないもんね」
そう言ってニコッと笑ったシャーリィに
私は頭が飛びそうな程首を縦に振る。
「シャーリィの言う通りだよ!ほらほら、笑って!」
「そう、だよね…クーもごめんね?」
「いや、私こそ悪い…少し神経質になっていた」
「うんうん!じゃあこの話は終わり!ノーマ、早く連れてってよ!」
ウィルの腕の中から飛び出して、私はノーマへと抱きつく。
飛び出す、と言うと語弊がある。どちらかと言えば倒れ込む、だ。
「だ〜!重い〜!」
「えーうそー!」
「、私に掴まれ。ノーマのように非力ではないから安心しろ」
「ちょっとクー言い過ぎ!は私が連れてく!」
ふん!と女の子にあるまじき声を出し、ノーマは私の体を支えながら一歩前へと進んだ。
たった一歩歩いただけで息切れする彼女は、とてもじゃないが見ていられない。
私は自らクロエに運んでもらうようお願いし、
クロエはそれを笑顔で引き受けてくれた。
自分から言い出した癖に小さく「助かった」と言ったノーマに突っ込みを入れる事も忘れない。
「気を付けろ」、と言い私達を見送るウィルに手を振り、目的地も分からず足を引き摺る。
…それにしても。
「ッノーマ!!何をしている!?」
「ご、めん…、あたし…」
何だか凄く引っ掛かる。
私が走って転ぶ事なんて、今までしょっちゅうあった。
例え転んで大怪我をしたとしても、あの場にはブレスを使える人間が三人もいる。
クロエやノーマなら、それをちゃんと理解出来ているはずなのに。
なのに、何で。
「、辛くないか?」
「へ?あ、うん…全然大丈夫!」
「なら良かった」
「クロエこそ辛くない?私重いよね?」
「いいや、羽根のように軽いぞ」
「うわ、止めてよ照れる!」
アハハと笑う私のすぐ横で、クロエもクスリと笑う。
先程の出来事なんてなかったと言わんばかりに自然で、嘘偽りのない笑顔だ。
…私の考えすぎだ。
きっと、ごたごたしてた時の癖が抜けず悪い方向に考えちゃうだけ。
折角もらった二十四時間と言う大切な時間。
それをこんな、解決出来るかどうかも分からない悩みに使っちゃいけない。
“私の考えすぎ”で解決出来る悩みならどうでも良い。
私は今、皆と笑っていたい。
この気持ちを優先するべきだ。
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修正:14/01/17