「結局何処行くの?」
「ひみつ〜!」
「ミュゼットさんの家だよ」
「あ!リッちゃんばらさないでよ〜!」
「別に隠す必要もないだろう」





人目も気にせず大声で話す私達。
他愛もない会話がこれ程までに盛り上がるのは、女性特有のアレだろう。





「って、何でミュゼットさんの家?」
「美味しいお菓子があるんだって」
「へー!それは行かなきゃ損だね!」





ミュゼットさんの家にあるお菓子は大抵何でも高級品だ。

前にお邪魔した時出してもらったお菓子は
私みたいな一般人には手の届かないような値段だった。
勿論、値段に見合う程美味であった事も覚えている。

だらしなく口を開けてニヤつく私を見て、皆は笑ったりどん引いたり。

その後、ミュゼットさんの家に着くまでの話題は
私がいかに下品な顔をしていたかで持ちきりだった。















「うへー…」
、変な声出てる」





そりゃあ、こんなもの見せられたら変な声も出る。

目の前のテーブルに並ぶお菓子は、私の予想通り高級な物ばかり。

宝石のように輝く銀紙に包まれたチョコレート。
食べるのを戸惑う程の芸術的なケーキ。
香ばしいバターの香りを漂わせるクッキーとビスケット。

どれもこれも、『早く食べて』と私に涙目で訴えかけ
私も早くその気持ちに応えたいと体を揺らす。





「も、もう食べて良い?」
「何だか飼い犬がお預けされているようだな」
「あれ、もしかして今馬鹿にした?」
「可愛いって意味で言ったんだ」





そんな事、可愛いクロエに言われても。

何て思いながら手頃な距離にあるクッキーにさり気なく手を伸ばし頬張れば
サク、と気持ち良い音と共に口の中に程良い甘さが広がった。





「うまー!これ凄くうまいよ!」
「マジで!?んじゃ、あたしも〜!」
「いただきます」





私が手を出したのを合図に、皆が一斉にお菓子を頬張る。

一個二個、三個食べても手のスピードが遅くなる事はなかった。
しばらく言葉を交える事も忘れ、私達は並べられたお菓子に夢中になる。

何個食べた頃だろう。
やっと落ち着いた、と小さく息を吐き用意された紅茶で喉を潤す。





「にしても、女だけで揃うのって久しぶりだね」





何の気なしに言った私の言葉に、皆の視線が集まった。





「あったりまえだよ!こんな貴重な時間、男共に邪魔される訳にはいかないじゃん!」
「クーリッジやシャンドルはともかく、ジェイは甘い物が苦手だしな」
「あ、そっか…嫌がらせに後で一枚持って行こ」
「うひゃ〜この悪女め〜!」





クッキーを一枚手に乗せティッシュに包む私を見て
ノーマは訳の分からない事を口にしながら人の体を膝で小突く。





「ノーマそれ意味違うよ」
「え?そうかな〜?」
「?」
が思ってるより、そう言う事たくさんしてると思うけど〜?」





ニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべるノーマに眉間に皺を寄せ首を傾げる。
何処となく馬鹿にされている気がして、何だか良い気はしなかった。

私が思っているより、ってどう言う事だろう。

迷惑を掛ける事は多々あるけど
悪女だと言われるような事をは全くもってしていない。

大体私にはそう言った女の魅力なんてものが一切ない。
胸を張る私に対し冷ややかな目を向ける男共(一部除く)の顔は今でも思い出せる。





「ちょっと、考え事しながらそんなに食べないでよ」
「あ、ごめん無意識…って、皆も結構食べてるじゃん」
「う…バレたか」
「いや…つい、美味しくてだな…」





クロエの言い訳はまるで自分に言い聞かせているようだった。

「少し太った方が良いよ」、と聞かれてもいないのに言う私に対し
クロエはホッと安堵の息を漏らした後恥ずかしそうに頬を染める。





「にしても、ビックリしたよ!」





突然の大声に、私の体は大袈裟な程跳ねた。

片手にお菓子を持ち、ヒラヒラと仰ぐような仕草を見せるノーマは
心臓が痛いと胸を押さえる私に対しニッと笑う。

その笑顔の意味を、私はノーマの次の言葉を聞くまで理解する事が出来なかった。





の中の子とシュヴァルツが、親子だったなんてさ!」
「…は?」





突然何を言い出すのかと、ビックリしたのは私の方だった。

と言うより、言い出したノーマは勿論、クロエもシャーリィも頷くだけで
驚いた素振り等微塵も見せない。

どうして知ってるの、と言いたい唇は息を吐くだけで精一杯だ。





「み、皆知ってたの…?」
「グー姉さんから聞いた!ウィルっちだって知ってたんだよ?」





チョコレートを口の中に放り込みながらノーマは言う。
世間話をするみたいに何の気なしに、だ。





「…ウィルは言ってくれなかったのに」
「気を遣ってくれてたんだよ、きっと」
「そうなんだ…って、シャーリィは気遣ってくれないんだ?」
「友達って気を遣うものじゃないでしょ?」





動揺する私を見てシャーリィはクスクスと笑う。

シャーリィが言う事は最もだ。
だけど、もっと気にする所が他にあるような…。





「でもあたし等、もうビビッてないから!」





トン、と自らの胸を叩くノーマは
勝ち誇った笑みを浮かべながら真っ直ぐに私を見ている。





が目覚めてくれただけで、あたし幸せなんだ!」
「…ノーマ」
がどんな無茶な事言ったって、あたしはについてくって決めたの!」





嘘偽りのない瞳にほんの少しだけ戸惑った。





「今回の戦い、私もの為に剣を振るうと誓った」
「クロエ…」
が何をするのか、決まっているなら私はそれに従おう」





過去を見て、思った事。
これから私がしたい事。

私から言うはずだったのに、何だか不意を突かれた気分だった。





「遠慮しないで、何でも言って?」
「…私、」
「なんて、の考えてる事は大体分かっちゃうんだけどね」





舌を出し肩を竦めたシャーリィは、ソッと私の手を握る。
ぬくもりは言葉以上の物を私にくれた。

私が決めた事。
あの子と交わした約束を守る事。

私はもう、投げ出したりしない。





「シュヴァルツも、世界も、皆も…全部救うよ」

「皆がいれば、無理じゃない」





皆の瞳の中に、私の笑顔が映る。





「もう、それしか道がないんだ!」





行き当たりばったりな私に対し、三人は呆れもせずに頷いてくれた。
「もう分かってるよ」、そう言っている気さえしたんだ。





欲張りだもんね〜!そんな事だろ〜と思ったよ!」
「これでこそ、私達が知っているだな」
「もしまだ悩んでたら、ほっぺ叩いちゃおうかと思ってたよ」





私を想っての優しい言葉に、胸の奥が熱くなる。

今まで何度も、私はこの人達を裏切ってきた。
辛いからと逃げて、巻き込んで、散々な目に遭わせてきたのに。

それでも、私の事を信じてくれている。





「…ありがと、皆」





ふわり、と自分でも驚く程の穏やかな笑顔を浮かべ
私はずっと言いたかった言葉を皆に伝える。

今まで以上に気持ちを込めて。
今までの事、全てに対して。





「明日でも良いから、レイナード達にも自分の気持ちを言うんだぞ?」
「うん!もう隠し事はしないって決めたの!」
「それ遅すぎ!もっと前に隠し事はダメって言ったじゃん!」
「ごめんごめん!」





「気持ちが篭ってないよ〜!」とふざけながらノーマは私の背中を叩く。
バンバンと遠慮のない力に、私は体を揺らしながらも笑った。

だが、いつまで経ってもノーマは私の背中を叩く事を止めない。
始めはいつものように強気に、そして次第に弱々しく、まるで擦るように触れてくる。





「ノーマ?」
「ん?なに?」





不可解だと思い名前を呼べば、ノーマはピタリとその手を止めた。
まるで変な事はしていない、そう言わんばかりに。





「どったの?急に名前なんか呼んじゃって」
「…私の気のせい?」
「え〜何が〜?」
「ううん…何でもない」





普段通りの彼女を見て、私の気にし過ぎだと一人納得する。

…そうだ。
きっと気のせいだ。

あんなに元気の良かったノーマが
一瞬、“苦しい”と震えた感情をぶけてきたのはきっと気のせい。

おかしな事もあるものだ。
シュヴァルツから突き放された今も、黒い霧の気配を感じてしまうなんて。





「にしても、こんな大事な日にウィルっち以外の男共は何してんだかね〜」
「何してるって…好きなように過ごしてるんじゃない?」
が目覚ましたってのに?」
「私が目覚ますのを待つより、他にやる事があるんだよ」





サラッと言葉を返せば、お菓子目掛けて伸びていた皆の手が同時に止まった。

「隙あり!」と声を上げ残るお菓子の中で一番美味しそうなものに手を伸ばす。
見事手中に納める事を出来た私は、へへんと勝ち誇った笑みを見せた。

そんな私に対し怒りもせず、皆は呆然とした後
深い深い大きな溜め息を零す。





「そんな事ないと私は思うぞ」
「何で?ジェイとワルターは一人でのんびりしたいタイプだし」
「私もそれはないと思う」
「セネルだってずーっと寝てるかもしれないし」
「ないない!セネセネにそんな根性ないって!」
「モーゼスは野営地の皆とワイワイしてるかも!」
「ないな」
「ないよ」
「全部ないってば!」





口を揃え“ない”と言う三人に対し、私はグ、と喉を詰まらせる。
何だか責められているのは気のせいだろうか。





「何でそんな否定的なんだよ…」
「否定的にもなるってば」
「少しばかり、クーリッジ達が可哀想だ」
「…良く分かんない」





サク、と気持ちの良い音を立ながら、私はまた口の中を甘くする。

何を言ってもお菓子最優先な私に対して
ノーマは今までで一番大きな溜め息を吐いた。

その溜め息の意味は私には分からない。
分かりたくても、きっと三人は教えてくれないだろう。

そんな何とも言えない空気の中
コンコンと控えめに扉を叩く音が銀紙を開ける音に紛れ聞こえた。





「誰か来た」
「きっとを迎えに来た王子様だ!」
「はあ?」
「それ凄く素敵だよ!だって凄くタイミングが良いもん」
「『噂をすれば影』とはこう言う事かもな」
「…私、仲間の話しかしてないけど」





ほんの少し溶けかけたチョコを口の中で転がす私を見て、皆はまた溜め息を吐いた。

もう何度目の溜め息だろう、と眉を顰めると同時
キィ…と扉が開き外の日差しが部屋の中に入り込む。





「…、あの」





逆光の中佇む人影は、私が良く知る人物だった。





ちゃん、いますか…?」





おずおずと、申し訳なさそうにこちらを覗き込むのは
鮮やかな緑色の髪を一つに結い、短剣を腰に携えた一人の男性。





「チャバ…?」





私がゆっくりと彼の名を呼べば
彼はこちらに瞳を向け、何とも言えない表情を浮かべる。

いつもと同じ、優しいチャバの笑顔。
それを私は、例える事は難しいけれど、とても弱々しく感じたんだ。










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修正:14/01/17