「なあ、ステラ」





約束をしたんだ。





「俺は今、アイツに何が出来るかな…?」





ろくでなし、根性なしと散々罵られてきた俺は
結局最後も彼女に頼った。





「遺跡船に来て、大切なものがたくさん出来た」

「失ったものもあるけど、それでも遺跡船に来て良かったと思う」

「ここで誰かに頼る事を知った…誰かの助けになれる事を知った。
 誰かを信じる事を覚えた…ちゃんと笑えるようにもなった」

「そんな今を守りたい…この先に続く未来を守りたい。みんなと守って生きたいんだ」





語る事に、気恥ずかしさはなかった。
誇らしい事だと自分自身が思っているから。





「…それでも、一つだけ分からない事があるんだ……」





フッと視線を落とし、胸に手を当てる。
もやもやとした感情は口にし難いが、何となく「話して」と言われている気がした。





「何をしたら一番喜ぶだろう…何をしたら、悲しませずに済むだろう…」





腫れた目を押さえながら、墓に刻まれる文字を見る。





「…





そして、文字とは違う女性の名前を口にする。

俺の声に反応するよう、遺跡船の木々が、花が、草が揺れた。

風に乗り、俺の元に小さな光が舞い降りる。
光は掌の上に乗り、頼りなく明滅した。

幻覚なのかは分からない。
それはとても綺麗で暖かい、オレンジ色の光だった。





「何もしなくて、良いのよ…」





声が聞こえた事に対し、違和感は覚えなかった。
とても不自然な事なのに、自然に受け入れている自分がいた。





「無理にいつも通り接しなくて良い、見栄を張らなくても良い…」

「自分に素直に生きるのよ…それが貴方の、一番素敵な姿…」





声も光も、全て弱い俺が見た幻かもしれない。
それでも、絶望に塗れていた自分の心に一つの希望が生まれた瞬間だった。





「セネル、素直になって…?」

「まだ後悔するには早いわ…私の時みたいになっては駄目なの…」

「次こそ、今度こそ…自分の為に、幸せになりなさい…」





そう、ステラと約束をしたんだ。

そうしたら自然と足が動いていて、気が付いたらが目の前にいた。

だから素直に行動した。
素直に言葉を交えて、素直に体に触れて、素直に飯の感想を述べて、笑って。

でも、まだ大事な事を伝えていない。
ずっとずっと、伝える事の出来ていなかった素直な気持ちを。





「ッ…言わせてくれよ…!!」





嗚咽にも似た言葉は、カップの水面を大きく揺らす。

本当は喜ぶはずなのだ。
彼女が“まだ”生きている、と。

だけど…やっぱり心は素直だ。

苦しい、悲しい、寂しい、嫌だと
そんな感情ばかりが溢れて涙に変わる。

そんな想いに戸惑いながらも、痛みに耐え続け夜を過ごせば
いつの間にか窓から陽の光が差し込んでいた。















凄く、幸せだった。

ウィルは私に素敵な洋服と言葉をくれた。

ノーマとクロエ、シャーリィとは
何も気にせず、他愛もない話で盛り上がった。

少し大変だったけど、モーゼスとチャバの笑顔も見れた。

ワルターは私に安らげる時間をくれた。
テューラと会えた事も嬉しかった。

ジェイが取り乱した事にはビックリしたけど
最後の最後まで私の事を気にかけてくれた。

グリューネさんはいつものように、温かい言葉と微笑みで私を包んでくれた。


そしてセネルは、私に“自由な時間”をくれた。


頼まれた事でもない、私からやると言いだした事を最後までやらせてくれた。

足が動かなくなってから、ずっと誰かにしがみ付いていた自分。
視界が悪くなってから、誰かの瞳を必要とした自分。

誰かがいなきゃ生きられない自分。

そんな自分が嫌で嫌で堪らなくて、暴挙にも似た私の行動をセネルはただ見守ってくれた。
その瞬間、私の中にあった嫌だと言う感情がすうっと軽くなった気がしたんだ。





…凄く、幸せな夢を見た。





森の中、シートを広げお弁当を食べる私達は皆笑顔だった。

そこにはグリューネさんもシュヴァルツもいて
その間には、何故か見慣れた少女がちょこんと座っている。

グリューネさんとシュヴァルツと同じ、綺麗な水色の髪にキラキラと輝く金色の瞳。

そんな姿に魅了され、ぼう、とする私の視線に気付いた女の子は
はにかんだ笑顔を浮かべ、私に言葉を投げかけた。

きっと、その子はこう言った。

「ありがとう」

って。

だけど少女が再び口を動かそうとしたその時、辺りは全て黒に染まる。
まるで、誰かがこう言っているみたいだった。

夢 は 終 わ っ た ん だ よ 、って。















「……」





フッと、何かに導かれるよう目を開く。
それと同時、頬を伝う生暖かい感触に気が付いた。

何で、私は涙を流しているんだろう。
疑問を抱きながら濡れた頬をソッとなぞる。





「どうした…?」





ぼう、とする私に誰かが声を掛ける。

声に導かれるようゆっくりと首を動かせば
そこには昨日最後に会った青年の姿があった。





「…おはよう、セネル」
「あぁ…おはよう」
「……」
「…怖い夢でも、見たのか?」





セネルは私の目尻をそっと撫で、溢れる涙を掬った。

怖い夢?そんな訳がない。
ああ、私は幸せすぎて泣いたんだ。

「悲しい夢じゃなかったよ」、そう真実を告げ笑みを見せれば
セネルはまるで自分の事かのようにホッと安堵の息を漏らす。





「昨日はビックリしたぞ…急に寝始めてさ」
「そうだっけ…?」
「あぁ。…なんだ、忘れてたのか?」
「うん…あ、でも!何したかは覚えてるよ!」





そう言って私は、“何かを包丁で刻む”ジェスチャーをして笑う。

セネルは一瞬きょとんと目を丸くしたものの
すぐに何の事か理解したのか、プッと噴き出し笑った。





「…なぁ、





セネルの顔から、スッと笑顔が消える。
小首を傾げると、セネルは私の手を握り締めながらゆっくりと言葉を紡いだ。





「昨日、言い忘れた事があったんだ…」





私の手を掴むセネルの手。
それは少し汗ばんでいて、しっとりしている。





「なに?」
「もし、もしで良い…」
「うん」
「もしこの戦いが終わって、今みたいに二人になれたら…」





「そしたら、昨日言い忘れた事を言わせてくれ…」





どうして、今じゃいけないの?
何で、“もし”なんて言うの?

そんな事、とても聞ける空気ではなかった。

聞いたらきっと、セネルが崩れてしまう。

足も動く、目も見える、何不自由ないセネルの体を
不自由だらけの私が支えている…烏滸がましいけどそんな気がした。





「…うん、分かった」





きゅっと手を握り返すと、セネルは心底安心したと言わんばかりに溜め息を吐いた。

母親の機嫌を窺う子供のような反応が可愛くて、クスリと笑う。
何故笑われたのかは分かっていないみたいだけど、セネルも優しく笑い返してくれた。





「…よし、じゃあ行くか」
「うん…って、今何時?」
「五時だな。ま、これぐらい早い方が良いだろう」
「やった!私また早起き出来た!」
「じゃ、一番乗り目指すか」
「おう!待ち伏せ待ち伏せ!」





「何かそれ、使い方違うぞ」と突っ込むセネルに私は「気にしない!」と言って笑う。

何だかとても気分が良い。
…なのに、体はちっとも動いてくれない。

困る私をセネルが笑い、優しく体を起こしてくれた。
目を背けながら折れたスカートを直す彼の行動が紳士的で、何となくこっちまで恥ずかしくなる。





「よし、行くぞ」





グッと踏み出した一歩が、ここは現実だと教えてくれる。

今日が来た。
今日で終わり。

そして、今日から始まる。

失敗は許されない。
失敗なんてする訳がない。

濁った視界に映る未来には、無限大の可能性がある。
もう迷う必要なんて何処にもない。

私は、破壊の少女との約束を果たすんだ。










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修正:14/01/19