爽やかな風が頬を掠める。
眩しい朝日に目を細めた私の手を、セネルが引いた。
もう、迷いなんかない。
私はこの手に引かれるまま、自分の意志のまま
ただただ前を向き進んでいくだけ。
「……」
街の門まで辿り着いた時、私はぽかんと口を開け引き摺る足を止めた。
「二人ともおっそ〜い!何してんのさ!」
「ほうじゃほうじゃ!気合が足りんと違うか?」
誰かが「明日はここで待ち合わせ」と言った訳でもなければ
いつもここに集まっていた訳でもない。
「、体の調子はどう?辛かったら言ってね」
「別に無理してついて来なくて良いんですよ?そっちの方が楽ですし」
「こら、ジェイ。言いすぎだ」
「いや、こいつにはこれぐらいが丁度良い」
「俺もワルターに同感だ」
常にウィルの家を溜まり場としていた皆が
何故今日に限ってここに集まったんだろう。
そして私自身も、何故ウィルの家ではなくここを目指したんだろう。
「家族の絆って凄いね…」
「何言っちゃってんのさ急に〜」
「ううん…皆来てくれたのが嬉しくて!」
「あったりまえでしょ〜が!自分の世界を失くしたくないもん!」
ビシッと私を指差し、腰に手を当たるノーマ。
おちゃらけているけど、その決意は本物だ。
「…あなた方…」
背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
導かれるよう振り向けば、予想通りの女性が予想通りの表情を浮かべている。
「…全員、来てしまったのですね」
昨晩、私に微笑んでくれたグリューネさんの面影はない。
気難しい顔をし、私達一人一人を睨むよう見つめていた。
「この戦いの意味、しかと伝えたはずです」
「生半可な覚悟では惨めな死を迎える事になりますよ」
金色の瞳が鋭く光る。
それでも仲間達は笑っていた。
「生半可な覚悟なんて、誰が言った?」
笑うだけでは事足りず、ノーマはくるくると器用にバトンを回す。
「俺達もシュヴァルツとの力の差は実感している…今更誤魔化しなんてきかない」
「…」
「だけど、だからこそ、それ相応の覚悟は決めている」
「……」
「この世界は俺達の世界だ。だから俺達が納得出来る世界を俺達で作り出す」
「それをグリューネさんが否定する事なんて出来ない…そうじゃないか?」
うんうん、と頷く仲間達。
皆が皆、グリューネさんに真剣な眼差しを向けていた。
「今の私達が戦力にならないのは分かっています…だからまず、勝つ為の方法を考えさせて下さい」
「今のグー姉さんの力じゃ、ちび〜っと不安だしね!」
「誰かに任せきりにするのは、僕の性にも合いませんしね」
小さく頭を下げるシャーリィ、歯を見せ笑うノーマ。
普段と何ら変わりない仕草を見せるジェイ。
一人一人決意を表明する形は違えど、気持ちは一緒だ。
「…分かって、いるのですか?」
辺りを取り巻く空気が、少しだけ変わった。
風が急激に冷え、ザアァ、と木々が大きく揺れる。
「例え世界を守れたとしても、あなた方を待ち受ける未来は同じだと言う事を…」
グリューネさんの言葉は難解で、私には理解が出来なかった。
世界を救わなければ、未来と言うものさえ失ってしまうんだ。
世界を守りさえすれば、未来は無限大に広がる。
なのに、どうしてグリューネさんは、未来を一つだと言うのだろう。
「…あぁ」
話の要点を掴めず首を傾げる私の横、セネルは強く頷いた。
「グリューネさんの言いたい事は、分かってる」
「…」
「だけど、このまま何もせず指を銜えて見ているなんて出来ない」
「少しでも賭けてみたいんだ」
「俺たちが行動する事によって、変わる未来に…」
朝日の光を吸い込むセネルの瞳は、とても綺麗だった。
きっとその目が見つめる未来も、キラキラと輝いているんだろう。
「あたし等もセネセネと一緒だよ!」
「家族を守る為じゃったら、どがあな相手じゃろうと戦っちゃるわ!」
「私は前に進む、そう決めたの…きっと皆もそうだと思うよ」
「ああ。俺達は自分の意志で今ここにいるのだ」
「私の剣は戦う為にある…ここで力を振るわずに何処で振るう」
「神と言う非現実的なものがあるならば、奇跡と言うものを信じても良いだろう」
「貴女はそんなに物分かりが悪い方ではないでしょう。ねぇ…グリューネさん?」
皆が皆、各々の意志を言葉にする。
「一人で背負えないものは皆で背負えば良い。俺達はそうやって戦ってきたはずだ」
「それはこれからも、ずっと変わらない」
スッと、真横で動いた右手は凛とした姿勢で立つ女性へと伸ばされる。
「グリューネさん、一緒にシュヴァルツを“止めよう”…」
殺そうでもなく、倒そうでもない。
とても優しい音色が耳を通り、心に染み入る。
それ、私が言おうとしたんだよ?
なんて茶化す事も忘れて、私はただただセネルを見つめた。
「これで合ってるよな?」
「…うん!」
溢れ出る感情を抑える事も出来ず、めいっぱい首を動かす。
皆はそんな私を見て一頻り笑った後、同じように頷いてくれた。
「…もう、諦めていました」
吐息と共に言葉を発した彼女に、私達の視線が一点へと集まる。
「昨晩、の想いを聞いた時からこうなる事は分かっていました…」
「わたくしはを許してしまった。の想いを認めてしまった」
「ならばこうなる運命も、神であるわたくしが導いたと同然なのでしょう」
「…そこまで言うのでしたら、証明してみせなさい」
それは昨晩、グリューネさんが私に言った言葉だ。
私の我儘がこんな形になる事を、グリューネさんはきっと気付いていたのだろう。
「…わたくしも、少しだけ賭けてみます」
「あなた方の描く、未来に」
グリューネさんの手が、セネルの手に触れる。
ゆっくりと、体温を確かめるように触れ合った手は
どちらからとも言わず固く握られた。
「ありがとう、グリューネさん」
「礼を言うのはこちらです、ありがとう…」
「じゃ、お互い様だね!」
二人の会話に飛び込む私を見て、一度はきょとんとするものの
グリューネさんはすぐに柔らかい笑みを浮かべた。
私が好きな、あの笑顔だ。
「なら、まずは戦う為の力を身につけなきゃな」
「今の状態で行ったって、勝ち目なんかないもんね〜」
「聖爪術を手にした時のような、根本からの革命が必要です」
「俺達が努力で強くなるには、限界があるからな」
少しでも時間は無駄に出来ない、そんな仲間達の想いがひしひしと伝わってくる。
私も力にならなきゃ、と口を開きかけた時
ポン、と手を叩いた一人の少女が皆の注目を集めた。
「“大いなる滄我”に力を借りるのはどうでしょうか?」
言葉を紡いだ少女、シャーリィを見つめる仲間達の目が大きく見開かれる。
言葉の意図をすぐに理解し、皆は真剣な面持ちで顎に手を当てた。
「そうか…僕達の爪術は、“静の滄我”によるもの」
「“大いなる滄我”の力は、私が失効させてしまいましたから…」
「と言う事は……なんじゃ?」
答えに近付く仲間達が出始める中、
いつまでも分からない、とガリガリ頭を掻くモーゼスにジェイは溜め息を吐く。
そんなモーゼスを余所に、うんうんと考えていたノーマが「あ!」と大きな声を上げて、
閃いた言葉をそのままのボリュームで叫んだ。
「滄我は、もう一つある!!」
ビシッと指差し言葉を発したノーマに、シャーリィはゆっくりと頷く。
ノーマの言葉をきっかけに事の流れを理解したのか、モーゼスも歓喜の声を漏らした。
「また力を貸してくれるかもしれん訳か!」
「二つの滄我の力か…いけるかもしれない」
力強く頷くクロエは海を見つめる。
私もつられるかのように、港の方角へと目を向けた。
「滄我が望む“人々が幸せに暮らせる世界”…それは終焉とは違う」
「俺達人間は、生きる事を望んでる…それを分かってもらうんだ」
「俺達の想いを聞いてもらおう、そして力を借りるんだ」
勝利に一歩近付いた事への喜びを隠す事なく、セネルは笑みを浮かべた。
「可能性は残ってる。希望はまだ、ここにあるんだ」
「やれる事が残ってる以上、立ち止まる訳には行かない」
「姉さんの足りん力は、ワイ等がばっちり補っちゃる!」
「えぇ…心から、礼を申し上げます」
深々と頭を下げるグリューネさんに「顔を上げて」と言い、皆が笑った。
「行こう!守りたいものを守る為に!」
セネルは強く握り締めた拳を天高く掲げる。
それに続きノーマ、モーゼス、シャーリィも空へと拳を突き上げた。
私も習うよう拳を突き上げ、「おおー!」と声を張り上げる。
今、私達は同じ方向を向いている。
同じ未来を目指している。
シュヴァルツを止めに行く。
ただそれだけを目指し、私達は思い描く未来へと歩き出した。
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修正:14/01/19