「ッ止めて!!」





自分でもビックリした。
さっきまではどんなに声を出そうとしても息が漏れるだけだったのに
まだこんな大きな声が出せるんだって。

だけどたった一言叫ぶだけで精一杯。

頭がガン、とハンマーに殴られたみたいにグラリと揺れて
プツプツ意識が切れそうになる。





「……」





返事はない。
だけど皆の視線が私に集まっている事は理解出来た。





…」





聞き慣れているはずのセネルの声にノイズが掛かる。
きっともう、足や目、手と一緒で耳にも異常が出始めたんだ。

でも、それがどうした。
私は歯を食い縛り喉を締め、再び胸の内に溜めていた想いを叫ぶ。





「皆、何の為にここに来たの…?どうしてここに来たんだよ…!!」

「目の前にいる奴を…シュヴァルツを止める為に来たんじゃないの…!?」





何だ、まだこんな大きい声出るじゃん。

ヒリヒリと焼けるような喉の痛みも
自分の想いを伝える事の代償だと思えば痛くも痒くもなかった。





「…諦めなさい、





声が聞こえた方へ首を動かす。
錆びついた機械みたいに、ギチギチと音を立て。





「そなたの想いがシュヴァルツに届く事はないのです」
「ッ、どうして…」
「…シュヴァルツは既に、霧に呑み込まれているのですよ」
「じゃあ、聖爪術で消せば良いじゃん…!」

「ううん、聖爪術じゃなくたって、私が吸えば良い!」
「……」
「私がシュヴァルツの負の感情、全部吸えば良いだけの事じゃん!!」





私、ちゃんと自分が思った事を喋れているんだろうか。
もうそれすらも曖昧だ。





「何で…どうして、こんな所で諦める、の!?」
「…」
「私、言ったよ…グリューネさん、約束したよね…!?」





「“話し合い”で解決出来なかった時は、シュヴァルツを倒すって…!!」





体がグラグラ揺れて落ち着かない。
それでも揺れていなくちゃ、バランスを崩し今にも倒れそうだった。





「…それは…」





弱々しいグリューネさんの声が聞こえる。
先程私を諭していたグリューネさんとは全然違う。





「まだ、話し合いだってしてないじゃん…!」





私はまだシュヴァルツの顔すらちゃんと見ていない。
向き合ってすらいない。

ただ彼女がいる場所に辿り着いたってだけで、やるべき事一つも果たせていないんだ。





「なのに、何でもう倒す事になってるの…!?」

「私達、何話した!?何やったって言うんだよ!!」

「まだ何の努力もしてない!何の苦労もしてない!」

「まだ何もしてない癖に、諦めるなんておかしいだろ!?」





グ、と唇を噛み締め目の前を睨む。
そこに睨むべき相手がいるのかも朧げなのに。





「ッ…私はまだ、シュヴァルツと何も話してないよ!!」





少し、張り切り過ぎたかもしれない。
保っていたバランスが大きく崩れた。





!!」





いくら呼吸をしても酸素が足りなくて
いくら瞬きしても世界が明るくなる事はない。

自らの荒い呼吸に紛れ、私の名前を呼ぶ誰かの声が聞こえる。
切れかけた意識を保つ事が出来るのは、きっと仲間達のお陰だ。

何となく、自分自身分かっていた。
私、きっともう、限界なんだって。





「っ…お願い…」





なら、その限界が来る前に早くしなきゃ。
どんなに醜くたって、後悔が残らないように。





「アイツだけ…」

「シュヴァルツの負だけ…」

「私のニセモノだけ、殺して―――…」





もう、どうなっても良い。
これ以上ボロボロになったって、喋る事さえ出来れば構わない。

どうしても話したいんだ。
シュヴァルツがあの子の本当の気持ちに気付いてくれればそれで良い。

もう一度。
お母さんと、もう一度…。





「無理ですよ」





次に聞こえた仲間の声は、私が求めていたものとは違った。

溜め息混じりの呆れた声は、きっとジェイのものだ。
「何で」、そう聞く前にジェイは再び言葉を紡ぐ。





「シュヴァルツの我が子への執着心は、異常な物です」





ザッと枯れた葉を蹴る音が聞こえた。
視界の端、ジェイであろう人物がゆっくりと動く。





「故に、そこにいるさんの形をした黒い霧を攻撃すれば…」





シュッと勢いよく風を切る音。
きっと私の偽者に苦無を投げつけたのだろう。

だけど次に聞こえたのは相手に突き刺さる鈍い音でも、外し地面に刺さる音でもない。
ギィン、と何か質量のある物にぶつかり弾かれた音だった。





「偽者のさんが危うい状況になれば、シュヴァルツが前へと出てくる」





目の見えない私にも分かるよう、ジェイは丁寧に説明をしてくれる。

それで全てを理解した。

偽者の私目掛けて飛んだ苦無を、シュヴァルツが鎌で弾いたんだ。
…自分の子供を守るのと同じように。





「こんな状況でシュヴァルツを倒さずにアイツだけ倒すなんて…
 自ら不利な状況にしているようなもんですよ」





ジェイはその手に新しい苦無を握る。
シュヴァルツはそんなジェイを仮面の奥から鋭く睨む。
緊迫した空気に体が押し潰されそうだ。





「…確かに、ジェージェーの言う通りだよ…」
「、ノーマ…」
「あたし等、敵一人にだって満足に戦えてないのに…」





決して弱音を吐いている訳じゃない。
ノーマは冷静に現状を把握し、最もな正論を述べているだけだ。

分かってる。
難しい事なんて分かってるよ。





「っでも…!」
「…が」





子供みたいに駄々をこねる私の言葉を遮り
ポツリと呟いたのはセネルだった。





が無茶を言うのは今に始まった事じゃない…よな」





何でこんなに分かってくれるんだろう、って不思議に思う事はたくさんあるけど
セネルが私の心を読むのに、もう驚きはなくなった。

きっとセネルが私の無茶に一番慣れてるんだ。
…今度ちゃんと、謝らなきゃ。





の言う通り、俺達はまだ何もしてない」
「しかし…!」
「折角滄我にもらった力も、全然発揮出来てないじゃないか」
「…」
「…それにさ」





「何だかんだ言って俺達、の言う事全部叶えてきてるじゃないか…」





セネルの声、凄く柔らかい。
セネルが笑っている姿が容易に想像出来る。





「出来るさ、今回だって」

の言った事、現実に出来る」





セネルの手から、綺麗な光が溢れてる。
蒼い、海と同じ透き通った色。





「…随分と単純な考えだな」
「ワルター…」
「だが、悪くはない」





気のせいかな。
仲の悪かった二人が肩を並べて、同じ方向を向いている姿が目に映る。





「クカカ!確かにそうじゃのう!」
「クーリッジもたまには頭が回るな」
「たまにって…随分と酷い言いようだな」





クロエとモーゼスが冗談を交えながら武器を構える。
二人だけじゃない…ウィルも、ノーマも、シャーリィも。
あんなに冷め切っていた空気が、ゆっくりと解れていく。




「…全く、これだから頭の弱い人は」
「と言いつつ、ジェージェーも付き合ってくれるんでしょ?」
「皆には甘いね」





溜め息混じりのジェイの声も随分と柔らかい。

状況を正確に把握出来ない私の勝手な解釈かもしれないけど
皆が笑っているように感じたのは、きっと間違いじゃない。





「ま、喋れる状況ならどんな風にしても問題ない訳ですしね」
「あ〜、また足動かなくするとか?」
「ソロンの時と同じかい、ジェージェーは芸がないのう!」
「うるさいですよ、馬鹿二人」
「…がと」





「あり、がとう」





やっぱり私、皆がいなきゃ駄目だ。
皆とここまで来れて、本当に良かった。





「って事で良いな?グリューネさん」
「……」





意見がまとまり始め、セネルはグリューネさんに返事を求めた。

グリューネさんが依然黙ったまま。
「止めろ」とも言わないし「分かった」とも言わない。

それがきっと、グリューネさんの答えなんだ。
私達を見守る神として、そして仲間としての答え。





「愚かな…」





終始会話を聞いていたシュヴァルツは、微かに首を横へと振った。





「何度やっても、結末は同じ事…」

「子等にはもう、無への道しか残っていないのだ…」





スッと音もなくシュヴァルツの手が動く。
瞬間、ゾワリと体が震えた。





「それ程までに死を望むのならすぐに終わらせてやろう…」

「我等の幸せな時を邪魔されぬ為にも」





血が逆巻く。
彼女の手中に集まる霧に、体がゾワゾワと反応する。





「感じよ、我の力を…我を満たす人の力を」










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修正:14/01/19