重苦しい音と共に扉が開き、部屋の奥からは光が射し込む。
炎の灯りしか頼りに出来ない廊下とは違い
部屋には大きな窓があり、床にはキラキラ光る財宝が積まれていた。
「すご…」
まるで何処か豪邸の倉庫みたい。
つい言葉が零れたと同時にガチャリと鍵の閉まる音が耳に届く。
さすがに開けっ放しと言う分けにはいかないらしく
きっと私の後をついて来た山賊の一味が閉めたのだろう。
もう一度扉に手を掛け押したり引いたりしてみたがビクともしない。
これで完全に私も人質になってしまったと言う訳だ。
「貴女は…」
声が聞こえた方へと振り返れば、そこには金色の髪を持つ少女がいた。
大きな瞳、弱々しく下がる眉。
今にも壊れてしまいそうな女の子に私はそっと近付いた。
「シャーリィ、だよね?」
「…」
「私、!よろしく!」
「…貴女も、山賊の仲間ですか」
「そんな風に見える?野蛮に見えてもあんな半裸とは一緒じゃないよ」
「…そう、ですか」
冗談を言ってみせたものの、シャーリィは笑わない。
私のギャグがつまらないから、と言うよりかは
恐怖や緊張から筋肉が固まっているのだろう。
何とかしてあげたい、と言う一心で私は冷えた彼女の手を包み込む。
「私は、シャーリィの味方だよ」
「…」
「本当はセネル達と一緒にシャーリィを助けに来たんだ」
「…お兄ちゃんと…?」
「でもはぐれちゃったんだよね」
「…」
「そしたら、ここの人が助けてくれたんだ」
シャーリィはセネルの名前を聞くと少しだけ表情が変わった。
でも私が「ここの人」と話を進めた瞬間また嫌そうな顔をする。
「あ、安心して!本当はここの人達も悪い人じゃないんだよ!」
「…信用出来ません」
「そんな…だって、悪い事なんてされてな…」
「っ人を攫うのが良い行為だとでも言うんですか!?」
驚いた。驚いて声は出なかった。
こんなに大きな声で反論された事にも、 反論する要点にも。
気が付いたら売り言葉に買い言葉。
ついカアッと頭に血がのぼり、私も声を荒げていた。
「じゃあ、そうならないように努力したわけ?」
「…!」
「お兄ちゃんお兄ちゃんって、いつもセネルに守られてばっかなくせに」
「…あ、貴女に何が分かるんですか…!」
「分かるよ」
「自分の身も自分で守れないで、攫った方が悪いって?
自分がメルネスだって言われてるからこんな事になるんだって?」
「そんなのただの言い訳…自分を守れなくて一番辛いのはシャーリィなのに」
それは私も同じだ。
誰かの力を借りなければきっと私は死んでいた。
ここに来て、ウィルに会わなければ。
はぐれた後、チャバに会わなければ。
もしもの事を考えれば体は勝手に震えるし、シャーリィの気持ちだって痛い程分かる。
だからこそ、卑屈になって悪い方へと考えを巡らすシャーリィに腹が立って仕方なかった。
「なのに強くなろうって努力もしない。怯えてばっかじゃん」
「そんな、こと…」
「自分にはセネルしかいないと思って、殻に閉じこもって」
「……」
「…そうして否定される側の人間の気持ちは、考えない」
どうしてモーゼスがこんな綺麗な部屋にアンタを通したんだと思う。
地下の薄暗い部屋じゃなくて、窓から遺跡船を見渡せるこの部屋を。
それは攫ってどうこうしようなんて、考えていないからだ。
ただ少し聖爪術の話をしたかっただけ。
なのにたったこれだけで悪者扱い。
そんな酷い事って、ない…そう思った。
「…シャーリィは知らないんだよ」
「っ…え?」
「シャーリィ!」
扉を強く叩く音と彼女の名前を呼ぶ声。
シャーリィは聞き覚えのある兄の声にピクンと肩を震わせた。
「クーリッジ!私も手伝う!」
扉を叩く音は二重になる。
シャーリィは聞いた事もない人物の声に目を見開き怯えていた。
「どいていろ!ブレスで壊した方が楽だ!」
そしてまた知らない声。
驚き見開かれた目は、動揺を隠しきれていない。
「…知らなかったでしょ?」
「…」
「シャーリィを助けに来る人は、セネルだけじゃないって事」
「…どうして」
「大勢の人に心配かけてるって、気付いた?」
「そう言う人まで、否定しないで。
まるで世界でセネルだけが頼りなんて、弱い考え方は止めなよ」
そして私は、武器を取り出し前を見る。
「勿論、私もシャーリィの味方だから」
「二回目だけど」、そう付け加えて私は笑った。
シャーリィの目は先程と違う。
何となく、その身に纏わりついていた恐怖も消えているようだった。
「…強いんですね、さんは…」
「…シャーリィも強いよ」
「え?」
「さっきみたいに本音をぶつけたら、きっと強くなる」
「…でも…」
「否定される事、怖がらないでね!」
「少なくとも、私はシャーリィと本音で話せて凄く嬉しかった!」
そう言って私はもう一度笑った。
シャーリィは頬を少し赤くし、照れているのかそわそわと体を動かす。
そして私にしか聞こえないくらいの小さな声で「はい」と言った。
「皆、ストップ!」
「何…もいるのか!無事か!?」
「私もシャーリィも大丈夫!」
「ッ!内側から開けれないのか!?」
「開けれたらとっくに逃げてるよ!」
ドン、ドンと規則正しく扉を叩く音は一向に止まない。
私はその音に掻き消されないよう、大きな声で扉の向こうにいる仲間に語りかけた。
「モーゼスがここの鍵を持ってる!」
「なに…!?」
「きっとすぐ近くにいるから、ちゃっちゃと奪ってきてよ!」
「っ私からもお願い!」
扉が叩く音が止み、少女の声が響く。
私も、きっと扉の向こうにいるセネル達も驚いていると思う。
「お兄ちゃん、無理しないで…!」
「…シャーリィ…」
「私ならさんがいるから大丈夫だよ」
「ね、さん」と笑うその姿には、先程までのシャーリィの面影はない。
「…分かった。すぐに取って来るから、そこで待っててくれ」
「うん」
「…シャーリィ、無事で良かった」
「…うん」
「私はー?」
「ウィル、クロエ!行くぞ!」
「ちょっと!」
人の話なんて全然聞かないで、セネルはそそくさとその場を離れていく。
それに続き、足音が二人分聞こえた。
きっともう、扉の前には誰もいない。
つまり私に「無事で良かった」と言ってくれる奴は一人もいないと言う事だ。
「…何、この仕打ちは」
「ふふ」
「笑うなー」
「すみません…でも、さんって面白いですね」
「…それ、褒め言葉?」
「はい、勿論」
そう言ってシャーリィはまた笑う。
ああ、この笑顔が見れるならもう何だって良いや。
そう心の中で呟いて、私も笑う。
これからもずっと、こうやって笑い合っていたいなって
そんな事を夢見ながら―――…。
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修正:11/12/10