「ね〜」
「…」
「ね〜、ね〜ってば〜」
「……」
「早く仲間になってよ〜」
「…五月蠅い」
青筋が一つ、セネルの額に浮かんでる。
苛立ちが顔に出てるし、ギリギリと拳が力んでるし
正直いつそれが爆発してしまうかハラハラしていた。
「全く、何でこんな無愛想なんかな〜」
「それ、私も良く思う」
「何?仲間内にもこんなに態度悪いの?」
「セネルはこれがデフォルトなの」
「へ〜…」
困ったように笑ってみせればノーマは首を何回か縦に振る。
「…ところでさ!」
「?」
セネルの性格の話なんてどうでも良かったのか、
ノーマはぱん、と手を叩きパタパタと私に駆け寄って来た。
「名前、教えてよ!」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ!ここにいる全員誰も教えてくれてないじゃん!」
ぷうっと頬を膨らませ、その大きな瞳で全員をキッと睨むノーマ。
前からはどうでも良いと言わんばかりの溜め息が二つ聞こえた。
「私は。よろしく!」
「クロエ・ヴァレンスだ。よろしくな、ノーマ」
「…まあ、一応名乗っておく。ウィル・レイナードだ」
「……セネル・クーリッジ」
クロエは既にノーマのキャラクターに慣れたのか
私と出会った時のように優しい笑みを浮かべている。
ウィルももう観念したようだけど、まだ諦めきれていない奴も一人いた。
「セネセネにクー…ウィルっち…それと、ね!」
「よろしく!」と笑い、鼻歌を歌いながら先へと進むノーマには
「変なあだ名」と不満たっぷりに呟いたセネルの声は絶対に聞こえていなかっただろう。
何だかそれもノーマらしい、と私は一つ笑みを浮かべ、その小さな背中の後を追った。
「だ〜も〜!何で仲間になってくれないのさ〜!」
道中、ノーマは引っ切りなしに口を動かし続ける。
「仲間になって」「お願い」と繰り返すノーマの声をウィルは「まるで悪夢だ…」と言う。
らしくもなくその顔にはハッキリと疲れが出ている…恐るべしノーマ菌だ。
「酷い!酷いよね〜!皆こんな態度とってさあ!」
「だねー」
「うわ、絶対思ってないよ今の反応!」
「そんな事ないよ、私ノーマと仲間になりたいもん」
「ね?」と言って本気の眼差しを向ければノーマは「ほんと!?」と嬉しそうに跳ねる。
素直な反応にうんうんと頷けば、今度は苦しいくらいに私にぎゅうっと抱きついてきた。
「良い子すぎ!も〜大好き!」
「やーん私も好きー!」
「何でこんな意地悪なやつと一緒にいるわけ?」
「へ?」
「絶対つまんないって!こうなったらもう、あたしと二人旅でもどお?」
「いや、一緒に旅をしてるのには色々理由が―――…」
「お喋りはそこまでだ」
突然聞こえたウィルの低い声にビクリと体が跳ねる。
何事かと視線を向ければ、すぐにウィルが私達を止めた理由が分かった。
「行き止まり…?」
私達の目の前には水晶の壁と地面に落とされたハシゴがあるだけ。
陽の光が射し込む森の出口は何処にも存在しない。
「…誰かがハシゴを落としたようだな」
「じ、じゃあ…出口はこの上か?」
「他に道があれば良いんだが…」
落とされているハシゴの長さから考えるにこのまま登って行くのは難しい。
命綱でもあれば別だが、それでも平気で一日は掛かるだろう。
「なに?ここを通りたいの?」
困り果てた私達を余所に、ノーマはいつものトーンで言葉を紡いだ。
ノーマは行く手を遮る水晶の壁をコンコンと叩くと、うーんと腕を組み唸り出す。
そして大した間もあけずに、「名案だ!」と言わんばかりに手を叩いた。
「よし!じゃああたしが何とかしてあげる!」
「は?」
「その代わり条件!あたしが通れるようにしたら仲間になって!」
「またその話か」、とセネルは呆れているかなと盗み見すれば
今回だけは違った反応を見せていた。
疑い八割、期待二割と言ったとこだろうか。
ノーマの持つ秘策にほんの少し興味を示しているみたい。
「お前にそんな事が出来るのか?」
「何?疑ってんの?あたしの実力知ったら腰抜かすよ!」
「…へえ」
「んなっ…!むき〜!見てなさいよ!」
「ウィルっちも、クーも!」、そう付け加えてノーマは水晶の壁から数歩離れる。
「かる〜くぶっ飛ばしてやるんだから!」
その言葉を合図に、彼女の両手がパアッと音を立て光り出す。
いや、正確には手じゃない。
光っているのは爪だった。
「お前も爪術士だったのか…!?」
ノーマが放つ光が辺りの水晶に反射する。
驚くセネルとクロエの横、ウィルは何かを察したのか頷いた。
「なるほどな…道理で一人で旅を続けられたわけだ」
「しかし、何故今爪術を…?」
クロエの発言にウィルは目を見開き、「まさか」と漏らす。
何かに気付いたのか、ストローをくるりと回すノーマに声を荒げた。
「まさかお前…!」
「今日も冴えてるあったしのブレス〜♪」
「っ…いかん、止めろ!!」
ウィルの制止の声も意味なく、彼女のストローは水晶の壁へと向けられた。
そして弧を描く唇からは決して言ってはいけない言葉が紡がれる。
「グレ〜イブ!」
もう間に合わない、そう思い目を閉じた時
耳が痛くなるくらいの大きな音がビリビリと空気を揺らした。
間もあけず水晶が砕け散る音が聞こえる。
恐る恐る目を開けた時には私達の前に壁はなく、代わりに空洞が出来ていた。
「……」
「ど〜よ!ざっとこんなもんよ!」
えっへん、と胸を張るノーマを褒める者は誰もいない。
重たい沈黙が続く中、「何か反応薄くない?」とノーマは首を傾げる。
そんなノーマにウィルはゆっくりと近付いていき、次の瞬間。
「んごっ!!」
グレイブよりももっともっと鈍く痛々しい音と
言葉にすらなっていない悲鳴が森の中に反響した。
ついに見てしまった。
ウィルの生ゲンコツを…。
「いった〜い!何すんのよ〜!」
「この大馬鹿者!!」
デシベル数にしたら相当なものになりそうなウィルの大声に
私は咄嗟に目を瞑り耳を塞いだ。
「貴重な自然景観を自ら壊す馬鹿がどこにいる!!」
「だって〜しょうがないじゃん!」
「しょうがないで済むか!!」
…ガチギレだ。声が本気でキレている。
今のウィルを邪魔したら自分もどうなるか分からない。
「ノーマ、助けられなくてごめん」、そう思いながらも私は黙って事の行く末を見守った。
しばらくの沈黙。
「いた〜…」と自らの頭を涙目で擦るノーマを睨み続けていたウィルは
はあ、と大きな溜め息を吐きゆっくりと口を開く。
「一緒に来い」
予想外の言葉にノーマだけでなくその場にいる全員が「え?」と声を上げた。
「こいつを野放しにしておくと何をしでかすか分からん」
「…」
「俺の手元に置いて、監視させてもらう」
言葉の選び方が微妙すぎですウィルさん。
何とも怪しい、何かのプレイかと聞きたくなるような言葉の羅列に私は何も言えなかった。
(勿論、本人には全くその気はないだろうけど)
「良いな、セネル」
「…勝手にしろ」
とうとう観念したのか、ウィルに続きセネルまでもノーマの同行を認めた。
私とクロエは元々ノーマの仲間入りに否定的ではなかったし
これでやっと、この場にいる全員の意見が一致した。
「良かったね!ノーマ!」
「…良かった〜?これが?」
「良いじゃん良いじゃん!改めてよろしく!」
未だに涙目で頭を擦るノーマに、私はパッと手を伸ばす。
ノーマはぽかんと口を開け何度か瞬きをした後、ニッと笑って私の手を取った。
「よろしく、!」
暖かくて、力強い。
私と変わらない歳なのに、本当に凄い。
「ノーマの明るさ、見習わなくっちゃ!」
「いや、お前はそのままで充分だろ…」
セネルの小さな突っ込みもこの際気にしない。
私はただただ笑みを零し、新しいムードメーカーを歓迎した。
新しい道を進んで行けば思ったよりも早く外へ出る事が出来た。
水晶に比べて柔らかい土の感触と、お日様の光に緑色の木々。
久しぶりの外だ、とうんと体を伸ばし、めいっぱい空気を吸い込んだ。
「…あれは…」
森を出てすぐ、セネルが何かを見つけ声を上げる。
何事かと視線を向ければ、セネルは道の先でしゃがみこんでいた。
何か拾ったのか、その手中には光る何かがある。
「な〜に?それ」
「…シャーリィのペンダントだ」
ノーマの呑気な表情とは違い、セネルは目を細め道の奥を見つめる。
「シャーリィって誰?」
「セネルの妹だよ」
「へ〜…セネセネ、妹探してるんだ」
意外、と言わんばかりに何度か頷くノーマを無視し、セネルは真っ直ぐに前を見る。
「シャーリィはこの先だ…間違いない!」
シャーリィが近くにいると言う期待と焦りに
セネルは私達を置いて一人先へと進んでいく。
とにかく後を追わなきゃ。
残された私達は互いに顔を見合わせ一つ頷き、急ぐセネルの背中を追った。
森を出て、私達はひたすら前へと進んだ。
魔物は段々と強くなり、その鋭い爪や牙で私達に襲いかかる。
一瞬でも気を抜く事が許さない状況に私は息を吐く事も忘れそうだった。
…と言う訳でもなく。
「暇だなあ…」
前置きとは逆に、実際は欠伸が出てしまう程退屈な戦いが何度も続いた。
ノーマはやっぱり、ブレス系の爪術士としてとても強い。
今まで一人で戦ってきたからか、陣形を組む事は苦手みたいだったけど
それでもその強力なブレスは十分に仲間の手助けとなっていた。
つまり、完全に私は役立たず。
「歌でも歌ってようかなあ…」
「おい、さぼるなよ」
片手で魔物の相手をするセネルに「はーい」と気の抜けた返事をした。
と言っても、私がやれる事は何もない。
人数が増えた今短剣を使うのは逆に危険であり、
回復だって私がやろうとすると「良い」と遠慮されてしまう。
そんな中さぼるな、とは中々酷な要求だ。
とにかく術でも使っているフリをしよう、とズルい考えが浮かんで
出来もしないのにとある術の詠唱を始めた。
思えば、ここで“フリ”をしようなんて思わなければ
“本当”になる事もなかったんだろう。
「いんでぃぐねいしょーん」
テイルズと言えばコレ!、そんな軽いノリで術名を口に出せば
瞬間鼓膜を揺らす程の大きな音が辺りに響いた。
「…え?」
思わず漏れた私の声は、誰の元にも届かず消える。
青空に突如現れた雷雲は、魔物の頭上にいくつもの雷を降らし
魔物は雄叫びを上げる暇もなく、ドサリとその場に倒れた。
辺りに焦げ臭い匂いが広がって、独特な色の血が野草を染める。
血は川のように広がって、私の元にまで届いて、それから異臭が鼻を掠めて…。
焦げ臭い匂い
血の匂い。
山賊のアジトでの記憶が、蘇る。
不自然な光景だった。
突然、曇ってもいなかった青空から雷が降ってきた。
まるで、魔法みたいだった。
「…うそ」
まるで私がやったみたい。
いや、みたいじゃなくて、私も皆も、その「もしかして」に怯えてる。
皆のまるで“人間じゃないものを見る視線”が
体中に突き刺さり、現実がジワリと頭の中に染み込んでくる。
私が、やったんだ。
出るわけないと思っていた魔法を、軽い気持ちで私が。
「なに、これ…」
体が震える、眩暈がする。
手に持っている木の棒が凶器に見える。
私がやったんだ。
私が、敵を、魔物を、生きてたものを―――…
…―――殺した。
「訳分かんないよッ…!!」
プツリ、と何かが切れる音がする。
霞む視界で最後に見たのは、私の気も知らず優雅に流れている雲だった。
意識が遠のいていくのを感じ、視界に暗闇が広がっていく。
体が深い深い闇の底へ、堕ちていく。
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修正:11/12/10