…―――さすがは…凄まじい威力…。
何で、私がブレスなんて…。
…―――やはり、この世界に呼んだだけの事はある。
…よん、だ…?
…―――少女よ、お前は強くなる。もっともっと強くなる。
もういいよ、いらない。
こんな強さなんかいらない…!
…―――一刻も早く、滅亡へ…!
「―――…」
誰かが、私を呼んでいる。
先程まで私に語りかけていた声とは違う、澄んだ綺麗な音。
「…さん」
「…」
「…さん、さん!」
その声に導かれるよう、ゆっくりと目を開ければ
私の頭上に広がる暗い空が目に見えた。
空…と言うよりは、天井。
それから、私を覗く女の子…。
「シャー…リィ…?」
「はい、さん。私です」
「何で、シャーリィが…」
「皆さんに助けてもらったんです、この遺跡の途中で」
安堵の息を漏らし、目を細め微笑むシャーリィ。
私はそんな彼女の笑顔を、何度か瞬きし見つめた。
「ここ、何処…?」
「“秘密の地下道”と言う所…らしいです」
「秘密の…ああ、あそこ…」
「はい?」
「い、いや、何でもない!」
ゲームの流れを思い出し、つい漏れてしまった言葉を慌てて隠す。
きょとんとするその蒼い瞳には私の慌てふためく滑稽な姿が映っていた。
気が付いたら秘密の地下道にいて、シャーリィがいる。
つまり私はゲーム内で起きていたイベントを何個か抜かしここに来ていると言う事だ。
「ワル…いや、あの金髪の男は?」
「それが、私が気付いた時ももういなくなっていて…」
「そう、なんだ」
折角のワルターとの絡みを寝過ごすなんて、何てもったいない事をしたんだろう。
後悔の念が渦巻く私を見てシャーリィは再び首を傾げる。
私は自らの邪念を誤魔化すよう笑った。
「…」
ワルターの事は置いておくとして。
思えば、シャーリィ以外の皆が誰も話しかけてこない。
皆同じ場所にいるのに一定の距離をあけて私とシャーリィを見つめている。
その原因はすぐに分かった。
…さっき、私がやったあのブレスだ。
「…おはよ」
四人がいる方向に手を上げ、軽い挨拶をする。
反応はそれぞれであったけど、どれも良いものとは言えなかった。
「お、おはよ〜!いや〜目が覚めて良かったよ〜!」
あははとぎこちなく笑うノーマ。
元々嘘が得意な方ではないのだろう、無理をしているのがバレバレだ。
「……」
ノーマ以外の三人は地面をじっと見つめ、唇を噤んだまま何も言おうとしない。
そんな反応が悔しくて、ムカついて、フラつく体をゆっくりと起こす。
「駄目ですさん!まだ安静にしていないと…!」
制止の声も無視し、私はフラフラと壁に立てかけてある杖を手に取った。
そんな私の不可解な行動を皆は目を見開き見つめている。
杖を持つ理由なんて、年を取っていなければブレスを打つ事以外有り得ない。
勘違いをした仲間達がそっと自分の武器に手を伸ばすのが空気で分かった。
きっと私がブレスを撃つと警戒しているんだ。
私を信頼していない、私の力を怖がっている。
だから、もう。
「こんなもの…!!」
グッと、杖を持つ手に力が入れ、私はそれを投げるよう目の前の壁へ振り下ろした。
バキッ、と木が木目に沿って裂けていく。
折れた拍子に木片が飛び散り、自らの皮膚に血が滲んだ。
それでも杖は完全に壊れていない。
壊さなきゃ意味がない、と手の痛みを我慢しもう一度強く叩き付ければ
今度こそ、杖は原型をなくし粉々になった。
「…で、何か文句ある?」
くるりと体の向きを変え、私は手に付いた木片を払い落としながら
ぽかんと口を開ける仲間達に満面の笑みを見せつけた。
沈黙が数秒、何分続き妙な空気が辺りを包む。
ピクピクと頬の筋肉が痙攣する程の時間が経った時
「プ」、と空気が漏れたような音が壁に反射して響いた。
「ふふっ…あはは!」
突然笑い出したのはシャーリィだった。
片手で口を押さえ、もう片方でお腹を抱えて笑ってる。
大きな瞳には涙が溜まり、こっちまで苦しくなるくらいヒーヒー言っていた。
「…何で笑ってるの?」
彼女の言動に理解出来ず控えめに突っ込めば、シャーリィはそれすらも面白いのかまだ笑う。
初めて会った時の控えめな彼女からは想像出来ないくらいに大胆にだ。
「だってさんが、予想を遥かに上回ってるから…!」
シャーリィは息苦しそうに言葉を紡ぐとはあ、と満足げに息を吐く。
…驚いた、まさか笑われている原因が自分にあるなんて。
「私、さんに起きた事を皆さんから聞いたんです」
「?」
「さん、ブレスが使えたんですね」
「あ、うん。何かそうみたい」
「でも普通の人は急に上級のブレスは使えないって、ウィルさんが言ってました」
「…その通りだ」
「無茶にでも使おうとすればその疲労から一日は目を覚まさない」
「それなのにお前は事もあろうか、たった数時間で目を覚ましてしまった」
そんな事言われても私は違うし、と首を傾げて見せたが
きっと今私が思った事が皆の恐怖の原因なのだろう。
「そんな力が自分の中にある…私、普通の子ならそこでもう修復不可能になっちゃうと思うんです」
「へえ…つまり私は普通の子じゃないと」
「ふふっ」
否定も肯定もせずシャーリィは笑う。
でも決して嫌な感じではない。
「俺はその力で脅されるかと思ったよ」
苦笑か嘲笑かは分からないけど、笑みを零しながらセネルはそう言った。
シャーリィがいるからだろうか、何となくいつもより柔らかい。
「…セネルって、私を何だと思ってるの?」
「変なやつ」
「アンタそればっか…!」
何となく腹が立ち、近寄りその足をぎゅっと踏んづける。
セネルは「いて」と言いながらもおかしそうにクスクス笑っていた。
目に見えて分かる彼の幸せオーラに、ついこっちまで笑ってしまう。
「ふ〜ん、って変ですっごい子だったんだ〜」
「わーやめてよその認識!変じゃないから!」
「いいや、間違ってないさ」
「ち、ちょっと…ウィルまで…!」
「その上無茶もする。…手、見せてみろ」
優しく、大きな手が私の手を取った。
さっきまで私を警戒していたその目でウィルは私の手を念入りに見る。
そして手、腕に刺さる木片を丁寧に取り払い、僅かな擦り傷をブレスで治療してくれた。
「これで大怪我をしていたらが泣くまで説教だったんだがな」
「うわ…そうならなくて本当に良かった…」
「はたくましいからな」
「クロエなんか意味違うって」
私の何気ないツッコミにクロエは「そうか?」と言って笑った。
セネルもシャーリィも、ノーマも笑ってる。
ウィルも私の近くで静かにと。
「…皆、ありがと」
皆の“人じゃないものを見る目”が嫌で嫌で仕方なかった。
でももう、そんな目をしている人は誰もいなかった。
“異世界から来た人間”だとか、“強力なブレスが撃てる危険人物”だとかじゃない。
私自身を見てくれた気がして、それが本当に嬉しかったのだ。
「それで、今どう言う状況?」
一段落したところで新たに話題を振った瞬間、辺りの空気が変化する。
「…シャーリィを助ける事は出来たのだが、帰り道が塞がれてな」
「そうなんだ…」
「そ〜そ。だからあたし等、もう奥に進むしかないってわけ」
思った通りの回答に私はゆっくりと頷いた。
シャーリィを助けられたものの、状況はあまり良くない。
皆の顔にもうっすらと疲労の色が表れている。
「…よし、そろそろ行くか」
「え、あ、その…休んだ方が良いんじゃ…」
「お前が寝てる間、充分休んださ」
「そ、そうかな…皆疲れてるよ」
「だいじょ〜ぶ!ここ抜けてまた休めば問題ないっしょ!」
そう言ったノーマはぴょんぴょんとその場で跳ねて歯を見せ笑った。
水晶の森から走りっぱなしで、元気なわけがないのに。
「…シャーリィも大丈夫?」
「あ、はい!平気です」
慌てて笑ってるけど体は正直だ。
フラフラと歩く姿はとてもじゃないが平気には見えない。
「シャーリィ、もう少しの辛抱だ」
「うん」
「頑張ろう、な」
そんなシャーリィの体をそっと支え、セネルはふわりと優しく笑う。
「あ、また見たことない笑顔」と私は心の中で声を漏らした。
…そうだよ。
皆頑張ってるのに、私だけが弱音を吐いてちゃいけない。
「よし!私も頑張っちゃおうかな!」
「はずっと寝てたんだから頑張ってもらわなきゃ困るっての!」
「頑張るよーでも杖は無いから応援だけね!」
「うわ、さてはそれが狙いだな!」
ガッツポーズを作ってみせたがノーマは一蹴し「頼りないって!」と激しく私に突っ込みを入れる。
そんな他愛もない会話が嬉しくて私は声を上げ笑った。
初めは三人、そこにクロエ、ノーマ、そしてシャーリィとたくさんの仲間が集まって
今こうして同じ方向を向いて歩いている。
これ以上の幸せって、きっとそう多くないんだろうな。
そんな事を考えながら、私は目の前に伸びる道へ、一歩力強く踏み出した。
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修正:11/12/10