って、あの男とど〜ゆ〜関係?」
「…は?」





地下道を進む最中、突然沈黙を破ったのはノーマだった。





「…あの男って、どちらさま?」
「あの、金色の髪で羽が生えてる男」





「こう、ばさーっと」、と言いながら両手を大きく動かすノーマを見て
私はすぐにワルターの事だと理解した。





「何回か顔合わせたくらいだけど…」
「そ〜なの?昔からの知り合いとかじゃなくて?」
「まさか」
「…本当に本当に?が忘れてるだけじゃなくて?」
「…何が言いたいの?」





「そんな物忘れ激しいとでも?」、と言わんばかりの顔をすれば
ノーマはううん、と顎に手を当て不思議そうに首を傾げた。





「…あたしが見た限り、はそ〜ゆ〜認識でも相手は違うと思うんだ」
「ど、どう言うこと?」
が眠ってる間に、リッちゃんとあの男に会ったけど」





「あの男、セネセネとのことばっか見てた」

「だから、何か関係あんのかな〜ってさ」





ノーマは「で、何かあんの?」と同じ問いを繰り返す。
別にノーマの言葉を信じていない訳ではないけど、多分100%思い違いだ。





「本当に、ほんっとーに残念だけど何もないから」
「そ〜なの?浮いた話一つもなし?」
「カッコイイのは知ってる!でもそれは絶対ない!」





正直、ワルターと私の恋路なんて考えるだけで鳥肌もんだ。
惚れる惚れない云々の前にまず殺すか殺されるかの関係なのに。





「…まず、生きてられるのが奇跡だよ」
「?何?哲学でも始めたの?」





次ワルターに会ったら、今までの無礼を全力で謝ろう。
とにかく殺される前に謝っておけば万が一死んでも悔いはない。

そんな事を考えながら、私は再び前を見てトタトタと重い足を動かした。










「シャーリィ、大丈夫?」
「え?」
「疲れてない?」
「あ、はい!大丈夫です」





前を歩くシャーリィの顔を覗けば思った通り疲労でぐったりしてる。
なのに無理して笑おうとするもんだから、折角の可愛い顔が台無しだ。





「ホント?私はすーっごく疲れた」
「そ、そうなんですか?」
「うん、すっごくすごーく!」





「大丈夫です」と言ったシャーリィの横を背骨を曲げて歩く私に
シャーリィはどう言う顔をして良いのか分からなくなっている様子。

笑うとこだよ、と自分で言うのすら恥ずかしい沈黙につい冷や汗が垂れた。




「…少し、ここら辺で休まないか?」





セネルの提案が助け舟となり、気まずい空気がスッと消えていく。
助かった、と安堵の息を漏らし私は大袈裟にバンザイをした。





「やったー!やっと休める!」
「…お前の為じゃないからな」
「ふふ」





誰よりも先に腰を下ろす私を見てシャーリィは柔らかく笑う。

正直、立っているのもいっぱいいっぱいなくらい足がパンパンだ。
途中から歩いている私がこんな状況なら、入り口からずっと歩き続けている皆はそれ以上だろう。

とにかく少しでも体力を回復して迷惑を掛けないようにしないと、と私は全力で休む事に集中した。





「…セネル、話す事がある」
「?」





ウィルに名前を呼ばれたセネルは小首を傾げ彼に近づく。
私は彼等のやり取りを何の気もなしに見つめていた。





「街に戻ったら、シャーリィは俺の保護下に置く」
「…何だって?」





嫌な空気になりそう、そう思った時には既に遅く
さっきまであんなに優しく笑っていたセネルが獣みたいにウィルを睨んだ。





「メルネス騒ぎが一段落するまで目を離すわけにはいかん」
「何言ってるんだ…お前と一緒にいるのはシャーリィを取り戻すまでだったはずだ」
「状況が変わった。街にいなかったノーマでさえも既にメルネスの噂を耳にしてるんだぞ」
「関係ない!もうお前達といる用はない!」





すぐにでもウィルに噛み付きそうなセネルの形相に体が竦む。
だけどウィルはそんなセネルをいつも以上に冷静…いや、冷酷な面持ちで見つめていた。





「ッ…ここを抜けたらこんな船出て行ってやる」
「…是非そうしてくれ、お前達がいると迷惑だ」
「なんだって…!?」
「ち、ちょっとやめ―――…」





さすがに流れが悪い、そう思い手を伸ばした時
視界に映った異様な光景に言葉が途切れた。

驚き目を丸くするシャーリィと、頬を赤くしとろんとした表情を浮かべるクロエ。
そして彼女達の目の前には丸くてふわふわの小動物。




「キュ?」





ぽかんと口を開けその光景を見つめる私に気付いた小動物は
とても可愛らしい声を上げ、小首を傾げぱちぱちと瞬きをした。

ちっちゃい手がピコピコ動いて、その足でちょこちょこ動いて。
ああもう何だろう、何て言えば良いんだろうこんな時。





「っお嫁にしたい…!!」
それ褒め言葉?」





つぶらな瞳がパチパチ動く。
その仕草だけで心臓が射抜かれたみたいに大きく跳ねた。





「皆さん、初めましてだキュ。モフモフ族のピッポだキュ」
「やだ、ラッコが喋ってる…」
「実は詩人だキュ」





若干引き気味のノーマと誇らしげに胸を張るピッポと名乗った小動物。

あんなちっちゃい指で良くハープなんて弾けるなあ、と思いながら
私以外にもその愛くるしい姿に癒されている女子が二人程。





「か、可愛い…」
「ああ、反則的なまでだ…」





頬を赤くし瞳を輝かせる二人の仕草と違い、なぜ私は恥じることもなく涎を垂らそうとしてるのか。
これはもう生まれと育ちの違いだろう。





「皆さんピッポ達の村へ遊びに来たキュ?」
「村…?いや、そうではないが―――…」
「そう!そうなの!遊びたい!」
「キュー…残念ながら、村はもう移転した後だキュ」
「良い!全然良いよ!跡地で遊ぼう!お姉さんと一緒に!」
、とりあえず落ち着け」





そのモフモフした体に抱きつこうとした寸前、ウィルに手を掴まれ阻止される。
この時ばかりは彼の責任感の強い行動を恨めしく感じた。





「少しは危険だと思わんのか?」
「危険?何が?ピッポは良い子だよ!」
「キュキュ!」
「…何故お前が知っている?」
「見たから!夢で!」





そう言って誇らしげに胸を張ればウィルは大きな溜め息を吐いた。

何がおかしい、そんな瞳で睨んで見せれば
ウィルは堪忍したのか「分かった」と一つだけ言葉を返す。





「んじゃ〜決まりだね!の勝利!」
「よっしゃー!ピッポ、早く案内して!」
「任せるキュ!」
「ほら、セネルも早く!」
「うわっ…お、おい…!」





一人ぼうっと突っ立ってるその腕を無理に引っ張れば、セネルの体はいとも簡単に傾いた。
いつもなら抵抗するのに、今に限っては私に為すがままにされている。

バレないよう顔色を窺えばそこには怒気も覇気もない。
私の目には彼が凹んでいるように見える。

…何が原因なのか、何となくは分かるけど。





「ね、セネル」
「?」





不意にこれから起こるであろう事を思い出し、私はセネルに声を掛ける。
いや、その表情を見たら掛けずにはいられなかった。





「さっき、ウィルと話してた事だけど」
「…」
「これからも、一緒にいようよ」
「……」
「シャーリィと二人で、行かないで」





瞳が大きく揺れて、ほんの少し唇を噛み締める。

きっとセネルは、吐き出したい気持ちをいつもこうして堪えていたんだろう。
人に甘える事を知らないんだ…自分が守る側にいたから。





「私シャーリィ大好きだから、連れて行かれると困るの!」
「何だよそれ…」
「あ、もちろんセネルもだよ?」
「…聞いてない」
「二人で逃避行とかしないでよ!するなら私がシャーリィとする!」
「ふざけるなよ…」





呆れているような声でセネルは溜め息と一緒に声を漏らす。
呆れているような、と言うか八割ぐらいは呆れているだろう。





「…連れて行くわけないだろ」
「さっきは連れて行く気だったのに?」
「考えてみれば海に出る為の船を借りる金がない」
「わあ…ダサい…」
「煩いな…それに、杖がなくて術は使えないけど―――…」
「?」





「普通じゃない奴と一緒にいる方が、安全だろ?」





それって、もしかしなくても私の事?

そう聞くよりも早くセネルの意地悪い顔が目に入り「うわ、酷い」と棒読みで言い返してやった。
セネルは喉でクッと笑いを堪えて優しい顔をする。

シャーリィに見せていた暖かい、あの笑顔と一緒だ。

そしてその手を私の頭に乗せゆっくりと身を屈めると
耳元に吐息が掛かる程の距離で小さく小さく声を漏らした。

頬に掛かる髪がくすぐったい。










「…お前こそ、何処かに行くなよ」










声は弱く、そして震えていた。
それでもちゃんと私には聞こえた。

何かを言い返す前にセネルは私から手を離し、皆が進む方向へと歩いていく。
呼び止めようとするもその背中を見ると深追いは許されない気がして何も言えなくなった。

言葉の真意が分からず、私はゆっくりと自分の髪を触る。
そこにはまだセネルのぬくもりが残っていて、ほんの少し暖かい。


セネルのぬくもりゲット…!


これで水晶の森と合わせて二回目だ!、そんな邪な事を考えながら
うへへ、と気味の悪い声を上げる。

何だか凄い、力をもらった気がする。
足の痺れがセネルの一言で、すうっと取れた気がした。

大丈夫、まだまだ歩ける。
まだ私は頑張れる。

皆が笑い合う、明るい未来だけを目指して。










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修正:11/12/10