思ったよりも早くモフモフ族の村の跡地に着いた。
岩に立てかけられた大きな貝殻やガラクタの山が点々と続く光景。
正に“跡地”と言う言葉が相応しい。
「さて、はここでどう遊ぶのやら…」
「い、いや…滑り台ぐらいあるかなと思ったんだけど…」
「……」
「…ウィル、怒ってる?」
「さあな」
無理矢理連れて来られた事に腹が立っているのか、ウィルはいつもにまして冷静だ。
いや、冷静と言うか冷たい、冷血、酷すぎる。
「あ、でも遊び道具はないけど」
「?」
「前から何か来たよ?」
「ほら」、と道の奥を指差すノーマ。
じっと目を凝らすと霧の奥にポテポテと歩く何かの姿がある。
更に更に目を凝らせば、二頭身くらいの赤い何かだと言うのが分かった。
「キュキュ!キュッポ兄さん!」
「兄さん!?」
ときめきを隠しきれないクロエの声が辺りに反響した。
自分でも思った以上の大きな声が出てしまったのか
クロエは慌てて口を手で抑え頬を朱に染める。
その仕草を見て何故か私がときめきそうだ。
兄さんと呼ばれた小動物は私達の輪に加わるとビシッと手を上げ丁寧に挨拶する。
背中に背負った柔道着とキリッとした眉が何とも印象的だった。
「初めましてだキュ!モフモフ族のキュッポだキュ!」
「押忍!だキュ!」と付け加えるとキュッポは眉を吊り上げる。
「キュッポ兄さんはモフモフ族一の武道家なんだキュ!」
「武道家〜?」
「押忍!だキュ!皆さん、とても良い瞳をしているキュ!」
「本物の戦士の目だキュ!」と、胸を張るキュッポに
セネルは「そうか」と短く返事をした。
その表情はまんざらでもなさそうだ。
「モフモフ族って、ピッちんだけじゃないんだね〜」
「遺跡船は謎だらけだな…こんな部族がいるとは、初めて知った」
「興味深い」、そう付け加えウィルはメガネを妖しく光らせる。
ああ、また学者魂に火がついてしまう。
そうなる前に話題を変えなきゃと私は慌てて声を上げた。
「それより、今は外に出る事考えないと!」
「キュ?」
「今来た道塞がれちゃって、外に出れないんだ」
「だからもし知ってたら、教えて欲しいな!」と付け加えれば
ウィルもそういえばと言わんばかりに頷いた。
「それならキュッポ達にお任せだキュ!」
「キュキュー!案内するキュ!」
二人とも快く私達のお願いを聞いてくれる。
むしろ頼られて嬉しい、と言わんばかりの笑顔を浮かべていた。
「ああもう大好き!」
二匹とも抱いてしまえ!、と我慢出来なくなった理性を爆発させ
私は二人(二匹?)のもふもふした毛並みに顔をグッと埋めた。
ああもうずっとこのままいたい、と悦に入る私の顔にスッと影が掛かる。
「良いから、早く行くぞ」
ヤバイ、そう思った時には既に遅く、ガツンと頭部に衝撃が走った。
この世界に来て初めてのウィルのゲンコツ。
彼のゲンコツは大袈裟ではなく、十六年間生きてきた中でも指折りの痛さだった。
ぽてぽてと歩くキュッポ達のお尻を見ながら、ひたすら前へと進む。
ふりふり揺れる短い尻尾が可愛いなあ、そんな事を考えていたのが顔に出たのか
ウィルやセネル、ノーマでさえも若干私から距離を置いていた。
荒地を抜ければまた別の地下道への入り口がある。
中からは少し湿気を纏った空気と、外とは違う異臭を感じた。
真っ赤な橋を渡り、使われていない線路に沿って進んで行く。
辺りは崩れた岩だらけ。
“秘密の”と付けられてしまう程の年月が立っているのが良く分かった。
「…あ」
しばらく歩き続けた私達の前には道を塞ぐ岩。
「このままでは通れないな…」
「岩をどかすしかないキュ」
「よし、やろう」
人の力じゃ持てなさそうな岩がゴロゴロあるのに
セネルとウィル、ピッポとキュッポだけで大丈夫なのだろうか。
だけどそんな不安を口にせずともセネル達はせっせと岩をどかしている。
「…さすが、育ちが違う」
「何言ってんの、それより女子は今の内休んどこ〜」
関心する私を前に、
ノーマは「これくらい男なら出来て当たり前」と言わんばかりの事を口にする。
少し離れた所で輪を作り、女の子は皆ゆっくりと足を伸ばした。
歩き続けてむくんだ足をゆっくりと揉み解す最中
肌や服が酷く汚れているのに気付く。
ああ、ゆっくりお風呂でも入りたいなあ、そんな事を思っていれば
隣から「ね〜ね〜」と呑気な声が聞こえた。
「クーってさ、何で遺跡船に来たの?」
「…私か?」
「そ〜そ。正義の味方だけって事もないでしょ?」
不思議そうに尋ねるノーマにクロエはしばしの沈黙を返す。
「…大した事じゃない。ただの人探しだ」
「え〜誰誰?恋人?」
「そんな訳ないだろ!」
ニヤつくノーマに、クロエは大声で反論をした。
きょとんとするシャーリィの視線に気付き「あ、」と声を漏らすと咳払いをし
慌てて話題を変えようと再びノーマの方を見つめる。
「そ、そう言うお前はどうなんだ」
「あたし?あたしはね〜…」
「エバーライト探し、でしょ」
ノーマの言葉を遮り割って入れば
得意げに胸を張った姿のまま、ノーマはぽかんと口を開けた。
「う、嘘!何で分かったの!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってないよ!少なくともここにいる皆にはまだ一言も…!」
「あ、いや、そうじゃなくて」
驚き早口になるノーマを、どーどーと鎮める。
そして大袈裟だな、と笑えば「どうして!?」と言わんばかりに目を見開いた。
「は異世界から来たんだ」
「…い、異世界?」
「しかも予知夢まで見れるらしい」
「よ、よち…?」
丁寧なクロエの説明にノーマは首を傾げ疑問符を飛ばす。
そしてしばらくの沈黙の後、ぽん、と手を叩き再び口を開いた。
「つまり、その予知夢であたしの旅の目的が分かったってわけ?」
「ごめんね、知られたくなかった事かもしれないのに」
「い〜よ全然!あたしも話したくてウズウズしてたんだから!」
ノーマは私の事情に然程深くは突っ込まなかった。
さすがノーマ、柔軟性だけは半端ない、と心の中で関心する。
普通の人ならきっと、まだまだ「何で」「どうして」と思う事はたくさんあるはずなのに
ノーマはどちらかと言うと「ど〜でも良いや」と言わんばかりにニコニコしてる。
「ってホント凄い子だったんだね〜!」
気味悪がらない所か、自分の事のように喜んでいる。
私はそんなノーマの反応に安心した。
隠し事がなくなって肩の荷が下りたみたい。
何だか凄い幸せな気持ち。
ノーマの体をギュッと強く抱き締める。
「やだなに?」と照れくさそうな声が耳元で聞こえた。
「べっつにー!」
「凄い子だけど、変な子だね〜」
「おい、じゃれあってないで行くぞ」
後ろから聞こえた低い声に体がビクリと跳ねた。
声が聞こえた方へと振り向けばウィルとセネル、そしてモフモフ族兄弟の姿。
更に奥を見れば先程まで積み上がっていた岩が全て取り払われていた。
「もうどかし終わったんだ…」
「こんな所で時間をくっている訳にもいかんだろ」
「珍しく黙ってキリキリ働いたセネセネのお陰だね〜」
「五月蠅い」
ノーマの皮肉にセネルは一言返し、一足先へ奥へと進んでしまう。
それを合図に私達も立ち上がり、ゆっくりとその足を動かした。
「エバーライト、見つかると良いね!」
隣にいるノーマへ声を掛ければ、彼女は一瞬きょとんとした表情を浮かべる。
そしていつものようにニヒヒ、と歯を見せ笑った。
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修正:11/12/10