「、起きろ」
「…ん、…」
…私、いつから寝てたんだろう。
「…おはよー」
ぽけっとした声を出しながらゆっくりと体を起こす。
私の体を揺すったクロエは優しく微笑み、手を差し出してくれた。
短くお礼を言って手を取り立ち上がり
膝や腰、体のあちこちに付いた砂や草を払い落とし辺りを見渡す。
そして、大きく深呼吸。
夜の冷えた空気が、ぼやっとする脳に浸透した。
起きた後の嫌な気怠さは取れ、頭もスッキリと冴え渡る。
「そろそろ軍勢が集結する頃だな」
「源聖レクサリア皇国、いよいよお出ましですか〜!」
ウィルの言葉にノーマが返す。
ノーマの元気な声は、まるで戦争を怖がっていないようだった。
そんなノーマを見ていると、とても羨ましく思う。
そして自分もそうならないと、と気合を入れ直し前を向いた。
「水の民との同盟を組んだレクサリア…一体、どれ程の人数がいるのだろう」
「夜襲なんぞ、ワイ等だけでも充分じゃ」
「でも、私達が30小隊なら1から29いるんじゃないの?」
「どうだろうな」
素朴な疑問に答えてくれたのはクロエだった。
「一から順に隊が別れてるとは限らないだろう?」
曖昧な返事に小首を傾げればクロエは私にも分かりやすいよう説明をしてくれる。
なるほど、と強く何回も頷いてみせればクスリと微笑が返ってきた。
「だ〜も〜!そんなの着けばすぐに分かるって!」
「うん、確かに!」
「クーもも、早く行こ!」
ぐい、と私を引っ張るその手は何処か力強い。
もしかして、気を遣ってくれた…?
ノーマに限ってそんな、と思いながらも
いやノーマならば充分に有り得ると思考を巡らせる。
でも結局真相は分からずじまいで、私は黙ってノーマの背中を見つめた。
私達は待機していた場所からほんの少し歩き、拓けた場所で足を止めた。
そこに広がる光景を見て初めに声を上げたのはセネルだ。
「あれは…!」
声を上げたセネルは勿論、他の皆も驚き目を見開く。
それは例外なく、私もだ。
「ここにいる人達は全員源聖レクサリア皇国の軍人だ」
「こ、こんなに…?」
「普段は民間人として振舞いつつ、いざと言う時に備えていたと言うわけだ」
淡々と説明するウィルに、皆は開いた口が塞がらない。
だって、ここにいるほとんどの人がウェルテスの住民だと言っても過言ではない。
むしろ遺跡船全体の人口人数と捉えても問題はないだろう。
予想以上の人数に、つい口から「すごい…」と声が漏れた。
「…!」
ビビビッと、体に電流が走る。
何だかそれは寒気にも似ていて、勢いよく後ろを振り向けば
そこには見覚えのある二人の男女の姿があった。
「フェロボン!」
「フェロボンだー!」
「略すな!」
私とノーマの声が重なり、そして返って来たのは予想通りの言葉。
初めてこっちの世界に来た時にも関わったフェロモン・ボンバーズ。
余り会話はした事ないけども、その懐かしさからつい大きな声を出してしまった。
「、ノーマ。馴れ馴れしくするんじゃない」
「なんで?」
「この人こそ、源聖レクサリア皇国近衛軍、総司令のカーチス殿だ」
「嘘だろ!?」
ウィルの説明に、納得出来ないと言わんばかりに声を上げたのはセネルだ。
隣にいるイザベラさんだけならば分かるけども、と疑いの視線を注がれても
カーチスは大きな体を見せ付けるように胸を張る。
「今回の軍事作戦ではマウリッツさんと共に同盟軍全体の指揮を執る」
「…大丈夫?」
「、失礼だぞ」
「いや…俺も同じ事を今言おうとした」
「ま、待ってくれ…それよりも」
じとっとした視線がカーチスに注がれる中
クロエは慌てて口を開き、言葉を発した。
「近衛軍とは聖皇陛下をお守りするのが仕事だろう」
「ああ、そうだ」
「何故そんな立場の人が、遺跡船にいるんだ…?」
「しかもそれがフェロボンって」
納得いかない、と言わんばかりに言葉を漏らす二人に
今度はイザベラさんが説明を始める。
唯一、モーゼスだけがどうでも良いと言わんばかりの顔をしていて
他の皆は興味津々でイザベラさんの言葉に耳を傾けた。
「陛下はもう何年も前から遺跡船にご滞在あそばれているのです」
「我々は日々陛下をお守りしているのだ!そうだな、イザベラ君!」
「はい」
「フェロモン・ボンバーズとは世を忍ぶ仮の姿!」
テンポ良く進む会話に、ノーマとクロエはぽかんと口を開けて立ち尽くす。
私はどちらかと言うと、カーチスに合わせ相槌を打つ
イザベラさんの凛々しい姿に感心してしまった。
「総司令。マウリッツ殿の元へ行かないと」
「むむ、そうだった!」
今にも歌い出しそうなテンションのカーチスを
静かに、だけども強かにイザベラさんの声が制止する。
何ともバランスの取れた二人の熱の差に
つい、思った事がポロリと口から零れてしまった。
「カーチスって、イザベラさんいないと何も出来なさそうだね」
「むむ!?そんな事はないぞ!」
「だって、今そんな感じだし」
「兄妹!このフェロモン・ボンバーズ、カーチスを舐めてもらっちゃあ―――…」
「総司令。急ぎましょう」
「む、ああ!そうだな!」
「ほら」、と小さく呟いた私の声は、きっとカーチスには聞こえていなかっただろう。
カーチスとイザベラさんの間に見えない紐があるようにすら感じ
私達に背を向け歩き出す二人の姿を目で追う。
二人が完全に立ち去ったのを確認し
戦が始まる前から既にゲッソリとしている仲間達の肩に手を置いた。
「ほら、私達も行こ!」
「負け戦…」
「カーチスだってやる時はやるよ!」
ボソボソと、絶え間なく「負け戦、負け戦」と呟くノーマに気合を入れる。
先程とは立場が逆で、何だか可笑しくて笑ってしまった。
既に奥の方では大勢の人が集まり夜襲の準備をしている気配を感じる。
遅れないようにと、私達も慌てて同盟軍が会する場所へと向かった。
「皆さん、日頃の秘密特訓の成果を実践する日がやってまいりました」
「なんかさー」
「?」
「目標、ヴァーツラフ軍前線基地!」
「皆で集まってこうやって話聞いてると、学校の朝礼思い出さない?」
「勇敢なる水の民の諸君」
「あたしの学校はちょっと違かったかな〜」
「俺は行ってなかったから分からないけど…」
「今こそ我らの手に、メルネスを取り戻さん!」
「あそこに校長先生が立ってて、長ったらしい話をするんだよねー…」
「いざいかん、愛のために!」
「うわ、それは嫌だね〜…」
「しかもこっち立ってるんだよ?せめて座らせろって思うよね…」
「レッツ同盟軍!!」
「ど、どうしよう全然聞いてなかった!」
「あたしも!どうしよう!」
「お前達、いい加減にしろ…」
無駄口を叩いている内にイザベラさん、マウリッツ、カーチスの話は終わり
狼狽える私達にウィルは一つ、大きな溜め息を吐く。
同盟軍の皆が声を出し、それは一つの塊となって空気そのものに覇気が帯びる。
ビリビリと大きな声が辺りに響いて
ついに戦争が始まると分かれば、心臓がまた強く脈打った。
「いよいよ始まったのう」
周りの大きな声に感化されてか、モーゼスは既に気合充分。
腕を回し肩を鳴らして、その唇で弧を描いた。
「目標はここから一番奥…最終防衛線の突破だな」
自らに確認するようクロエは言葉を漏らし、その手を腰にある鞘へと近付ける。
「ぱぱっと終わらせちゃお〜!」
ノーマはいつものように元気いっぱいに声を上げて、その拳を天高く突き上げた。
ノーマの能天気っぷりが引っ掛かるのか
ウィルは今日何度目か分からない溜め息を吐く。
「よし、行くぞ!」
「うん!」
力強く前へと向かうセネルに続き、私も自らの意思で前へと進む。
目指すは、最終防衛線の突破のみ。
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...
修正:11/12/11