ヴァーツラフ兵に囲まれ身動きの取れないキュッポとポッポ。

そこへ今正に剣が振り下ろされそうだと言うのに
こんな状況で何を迷う事があるのだろうか。





!!」





駆け出した足は、自分の物ではないくらい早く動く。
乾いた風が目を乾かし、視界が歪んだ。





「キュッ!?」





二人に飛びつくよう体を滑りこませ、その丸い体をぎゅうっときつく抱き締める。
突如現れる私を見ても、兵は一切戸惑いを見せなかった。

でも、それで良い。
私がここから引き剥がされない限り、キュッポとポッポは安全だ。





「あかん…ッもう間に合わん!」





モーゼスの声が聞こえる。
遠いような、近いような、そんな距離から。

二人を助けたいって果敢に飛び出したくせに
恐怖から声は出なくて、目も開けられない。

痛いのは嫌だけど死ぬ事は怖くなかった。
そんなもの、この世界で初めて“戦い”を体験してから、ずっとだ。

誰かの役に立てて、誰かを生かせられるなら
やっぱりこの世界にいない私が死ぬのは道理。

…ジェイ、私が言ってた事何一つ間違ってない。










…―――何一つ。










「ッ!」





もうそろそろ死ぬかも、そう思った瞬間
それを合図にしたかのように、爆音が響く。

鼓膜が破けそうな音に体がビクリと大きく跳ねた。

次に聞こえたのはカラン、と剣の落ちる音。
そして更に、何かがドサリと倒れた音。

焦げ臭い匂い。
恐怖から目を開けられない。


一体何が起きたのか分からず、キュッポとポッポを抱き締める手に力が入る。


でも私の想いも虚しく、危険だと言うのに二人は私の脇からひょっこり顔を出し
明るく元気な声で彼の名前を呼んだ。

私が死ぬかもって時に心の中で呼んだ彼の名前を。





「ジェイ!」





ぴょん、と飛び出し私から離れて行くキュッポとポッポ。
恐る恐ると目を開ければ駆け寄る仲間達の姿が一番に目に入った。





、大丈夫か!」
「う、ん…平気」
「怪我は!?何処も痛くないか!?」
「うん…本当…どこも痛くないよ」





まだ心臓がバクバクしてる。

ううん、心臓がバクバクしてるのは助かったって分かってから。
まるで生きてるよ、って私自身に訴えてるみたいだった。





「…二人とも、怪我はない?」
「ジェイ!!」





私達を助けてくれた張本人が姿を現すと
キュッポとポッポはより一層声のトーンを高くする。

だけど心無しか、ジェイの瞳はまるで二人を睨むように鋭く光っていた。





「どうしてモフモフ族の皆がこんな所にいるの」
「キュ…」
「避難しろって、あれほど言ったじゃないか」





ジェイの口調はいつもと同じだが、声色が違う。
瞳もいつも以上に真剣だった。





「ジェイやセネルさん達が戦っているのに、キュッポ達だけ隠れているなんて嫌だキュ!」
「ポッポ達も一緒に行くキュ!」





二人もジェイに負けじと真剣で、その熱い想いから声がどんどんと大きくなる。





「命だって惜しくないキュ!ジェイと一緒に頑張るキュ!!」





そう言って、キュッポとポッポは胸を張った。
誇らしげな笑みを見せ、嬉しそうに体を横に振っている。

きっとジェイなら賛成してくれるって、二人は思ったんだろう。
だけどジェイの中で何かが弾ける音が、私には聞こえた。





「ふざけるなッ!!」





初めて聞いた、ジェイじゃないようなジェイの声。





「命が惜しくないなんて、冗談でも口にするな!!」





その瞳は怒りそのものを宿し、人一倍大きな声が私達に物をも言わせなくする。





「僕がそういうの大嫌いだって、キュッポ達は知っているはずだろう!?」
「…ご、ごめんなさいだキュ…」





キュッポとポッポから笑顔が消え、しゅんと眉を下げ二人は俯いた。

ジェイの言っている事は勿論分かる。
けどキュッポ達の事もちゃんと分かって欲しい。

じっくり話してる暇はなくても、互いに納得出来るように。





「ジェイ、そこまで言わなくても…」
「ッ貴女もですよ!」





思ってもいないジェイの怒鳴り声に言葉が詰まる。

怖かったからとか、そんなんじゃない。
まさか自分に怒りの矛先が向くなんて、思ってなかったのだ。





「どうして飛び出したりしたんですか!?」
「そ、れは…」
「行く前に忠告だってしたのに、貴女聞いてなかったんですか!?」





私の声を遮り、ジェイは言葉を続けた。





「僕はさんにもキュッポ達にも、命を捨てろ何て一言も頼んでいない!!」

「ッ何でそれが分からないんだよ…!」





悔しそうに拳を握るジェイの姿を見て、そこにいる誰もが言葉を失う。
熱を帯びた溜め息はいつもと違い、大きな瞳は微かにだけど潤んでいた。





「違う…」





大きく見開かれた目が私を捉える。
紫色の瞳にくっきりと自分が映っているのがこの距離でも充分に分かった。





「大事な人が危ないのに、ブレーキ効くわけないじゃん」
「…」
「ジェイだって、皆と私を助けてくれた」
「、…それは」
「なのにキュッポ達が自分達の大好きな遺跡船を守るのは、ダメなわけ?」





「命懸けて守りたいものがあるのは、そんなにダメな事?」

「私はもしジェイが危なかったとしても、死ぬ気で助けるし、誰にも止めさせない」





見開き驚いた瞳に私はどう映っているんだろう。

憎たらしいと思われても、ウザいと思われても良い。

死にそうになったって、自分の言っていた事に間違いがないって思えたなら
これは曲げちゃいけない、真実だ。





「ごめん…」
「キュ?」





ジェイは一度息を吐くと、二人の小さな体をきゅっと抱き締める。

小首を傾げジェイの名前を呼ぶ姿は愛くるしく
ジェイはただただ目を閉じて、二人を抱き締める腕に力を入れた。

そんな時間がどれだけ続いたかは分からない。
だけどもそんなに長くはなかっただろう。

スッと二人から離れた時のジェイの瞳にはもう怒気も戸惑いもなく
真っ直ぐと私達を捉えていた。





「モフモフ族の皆の代わりに、僕が皆さんと一緒に行きます」
「…本当か?」
「ええ。モフモフ族の皆には後方支援を担当してもらいます」





「その方が戦力的にも有利でしょうし」、と淡々と紡ぐジェイの声は
いつも通りの落ち着きあるものだった。

そんなジェイを見て皆はホッと安堵の息を漏らす。
心強い仲間の参戦に、誰もが笑みを零し歓迎した。

モフモフ族の皆も嬉しそうだ。





「ジェージェーが負けるとこって初めて見た」
「確かに、貴重な現場じゃったのう!」
「うるさいですね…そんな事でわざわざ騒がないで下さいよ」





ふい、と顔を反らす仕草は、何だか照れ隠しのよう。

行動を共にする事になったのに、ジェイはスタスタと先へ行ってしまう。
私は慌ててその姿を追いその細くも頼もしい背中をぽん、と押した。





「ジェイ!」
「はい?」





ジェイは顔だけをこちらに向けて返事をする。

その表情はいつもと同じ。
それが嬉しくてつい顔がにやけた。





「これからよろしくね!」
「…貴女にだけは関わりたくなかったんですけどね…」
「でも、信用してくれるでしょ?」
「…仕方なく、お付き合いしてあげますよ」





そう言ってジェイは私の手を取る。

きゅ、と弱くもなく強くもなく繋がれたその手は
冷たくもなく、また温かくもなく。

…いや、温度や力なんて関係なかった。
ただそこには、ちゃんと“人”のぬくもりがあったのだから。










Next→

...
修正:11/12/11