ステラと話して、少し心が落ち着いた。

それでも恐怖は完全に抜けない。
足枷、手錠のみで支えられていた体は小刻みに震えていた。

機械の起動音が耳に届く。

それと同時に機械内部の空間が圧縮する。
それでも息は出来る、ただちょっと苦しいくらい。


大丈夫。
何もない。


何かあったとしても、私以外の人に影響はない。

そう言い聞かせ、ぎゅうっと目を瞑った。
心臓は張り裂けそうなぐらいバクバク鳴っていて、それが苦しくて顔を歪める。

そんな私の反応をヴァーツラフは楽しむように見ていた。
きっとエネルギーが摂取出来ていると信じているに違いない。

後は目を閉じ気絶したふりをするだけ。
そう思っていた時だった。





…―――破壊の少女よ。

……ステラ…?

…―――聞こえるか、破壊の少女よ。

違う、アイツだ…。

…―――破壊の少女よ、その力を捧げろ。

何、言って…。

…―――捧げろ。





…―――捧げろ!





「ッツゥ!?」





ガクン、と体が大きく跳ね、辺りに鎖の音が響いた。
それと同時に襲いかかる激しい頭痛。

心臓はまるで握り潰されているかのように痛み
喉は絞められている訳でもないのに、ぎゅうっと縮んだ。

頭痛に加え、吐き気や痺れまでもが体を襲い、目を見開く。

なに、コレ…!





「ック…ゥ…!!」





苦しい。
怖い。
痛い。





…―――もっと…もっとだ。

「ッ…」

…―――…一刻も早く、全人類の滅亡へ…!

「うっ…アァ!」

…―――その身を我へと捧げよ!

「あた…ま、が…!」





割れそう。
こんな感覚、初めてで体が言う事を聞かない。





…―――抵抗するな。

偉そうに…!

…―――まだ意識があるとは、さすが…





―――…破壊の少女だ…―――





ドクン、と。
その名前を聞いた瞬間、大きく体が跳ねた。

…何、それ。
破壊の少女って、誰の事。





「凄まじいエネルギーだ…!もっともがけ、苦しめ!」

…―――その身よ、我の意志に従え…。


「もっとだ!さあ、早く!!」

…―――…人類を、破滅の道へ。





皆して、何なんだよ。
私をどうしようって言うんだ。

人を、街を、世界を壊して、そこから何が変わるって言うわけ。





「ふざけないでよッ…!」





撃たせない。
そこから生まれる世界なんて、私は絶対に許さない。





「絶対に、撃たせない…!」





皆を、ステラを。





「絶対に、殺させないッ!!」





叫んだって状況は何一つ変わらない。
だけど私は声を荒げ、めいっぱいヴァーツラフを睨んだ。

全身から汗が噴出し、服は少し湿っている。
頭が痛い、力みすぎて体の感覚が失われそう。

それでも、やらなきゃいけない事がある。





さんっ…!?」





目を覚まし、私を見て驚くシャーリィの為にも。
私の横で、目を閉じたまま何も語らないステラの為にも。





「ッ負けたくない…!」





…―――惑わされるな、破壊の少女。

…―――人は人を利用し、騙し、切り捨てる、忌わしい存在だ。

…―――お前の力は、人を守る為に使う物ではない。

…―――人を、人類を、世界を破壊する為の力。





…―――我は、お前を必要としている。





「ッだから、何だって言うんだよ!」





体中に、電気が走った。
想いは現実となり、バリバリと音を立て装置を壊す。





「訳の分からない理由並べて、人が嫌いだからって!」

「そんなんで人を殺すなんて、間違ってる!!」





派手な音が響いた時には、私を囲っていたガラスの壁も
私の動きを封じていた手錠も足枷も、全てが粉々に砕けていた。

パキ、と辺りに散らばったガラスを踏み、地へと足を着ける。
その光景を目の当たりにしていたヴァーツラフとシャーリィは、絶句する。





「私は、この世界が守りたくて来たんだよ!」

…―――…。

「自分を必要とする奴だろうと、自分を殺してまで従うつもりはない!」

…―――…少女よ。

「私が、セネル達を必要としていて!その人達の為に動きたいの!!」





「私が、セネル達を必要とするのは勝手だ!!」





爆発した感情は、止まらない。

世界を破壊する為の力なんて、いらない。
アンタも、いらない。

私が必要としてたのは。





「ッ!」
「私は、セネルが大好きだよ!」





誰に向かって言う訳でもない。
皆が入ってきた事にも気付かず、溢れた感情が口から零れ落ちていく。





「ウィルも、クロエも、ノーマも!」

「モーゼスもジェイも、グリューネさんも!」

「皆、皆大好きだッ…!」





「ッでも、アンタは嫌いだよ…!」

…―――……。

「だからアンタが私を必要だって言っても、言いなりになんかならない…!」





「この世界に呼んだのが例えアンタでも!私は、私の道は自分で決める!!」





端から見ればその光景は、極めて異質なものに見えただろう。

ヴァーツラフは私が痛みから錯乱したのだと思っているのか、その笑みを絶やさない。
仲間達は叫ぶ私の姿を見て、呆然と立ち尽くしているだけだった。

誰一人作戦通りに動けていないその空間で
私はキッと、目の前にいる男を強く睨んだ。





「ヴァーツラフ、アンタも…!」
「…」
「アンタも、大嫌い…!」





もう、恐怖はなかった。

その余裕の笑みが、ついさっきまでは恐ろしくて体が震えていたのに
今はそんな事、これっぽっちも思っていない。





「ククク…貴様一人で何が出来る」
「一人だと思うなよ」





背後から聞こえた声に、体がピクリと小さく跳ねた。
聞き覚えのある声に心臓が優しく音を立てて、振り向けばそこには皆の姿がある。

私が、いたいと願った場所。





「滄我砲を撃つ準備は整った…そこの女のエネルギーのお陰でな」
「撃たせるかよ!」





そう言って走り出したセネルは、風よりも早くヴァーツラフに近付く。
爪から放たれる蒼い、綺麗な光の残像が、私のすぐ横を通り過ぎた。





、あたしも好きだよ!」





ハッと、声を辿り視線を移せば歯を見せ笑うノーマの姿があって。





「ワイも好きじゃぞ、!」





「むしろ愛しとる!」、と聞くのもうんざりだと思ってたモーゼスの言葉が胸に沁みた。





「私もだ、
「ックロエ…」
「共に戦おう!」





そう言って、クロエは剣を抜きヴァーツラフの元へと駆け寄る。





「ぼさっとするな!皆生きて返るぞ!」





立ち尽くす私に活を入れるウィルの言葉に、小さくだけど頷いた。
本当はもっと、大きく頷いて走り出したいのに、何だか上手く体が動かない。





「一人で先に行くなんて、相変わらず無茶をする人ですね」
「…ジェイ…」
「…死なれたら困るんですよ。まだまだ聞きたい事がたくさんあるので」





いつもの冷静な声に、棘のある言葉。
それが今は、私に体を動かす勇気をくれる。





!」





一際、私の名前を大きく呼ぶその声は
ずっと、この世界に来てからずっと、聞いていた声。





「皆で勝って、戻るぞ!」





そして彼は、私の目の前で笑った。





「…うん!」





気が付けば頭に響く嫌な声は聞こえなくなっていた。
煩わしいものが消えた今、私の行動を阻止するものは何一つない。

残すは、目の前の強敵のみ。

私の居場所を。
シャーリィの居場所を。
そして、ステラの居場所を取り戻す為に。

ボロボロになったって、私は戦う。










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修正:11/12/11