「嘘だろ…!?」
「お姉ちゃん…!」
「ッステラ!!」
その体を揺さぶり、セネルは何度も何度も懸命にステラへと声を掛けた。
シャーリィはポツリと言葉を零して、その場で固まる。
いつもの白い肌がより一層蒼白く変わっていた。
「ッレイズデット!!」
まだ間に合うかもしれない。
そう、ステラの胸に自らの手を当てブレスを使う。
だけども大した反応は見られず、ただ淡い光が溢れ消えるだけ。
たった、それだけ。
「レイズデット!」
それでも、何回でも私はやる。
「レイズ、デット…!」
彼女がその目を開くまで、永遠にやっても良いと思った。
なのにステラは、そんな私の気持ちには応えてくれない。
「っズ…デット…!」
結局、私は無力だ。
何も変える事が出来ず、何も成し遂げる事が出来ない。
絶対に悲しませたくなかった人、逝かせたくなかった人を守れなかった。
仲間の、愛している人を助けられないなんて。
「イズ…デッ…ト…!」
「さん、止めて下さい」
「っ…」
背後からジェイの声が聞こえる。
体は素直に反応し、ビクリと跳ねた。
その震動から、彼女の服へと赤い血が染み込んでいく。
ステラの服は私の手から流れる血と、瞳から溢れる涙で濡れていた。
「、何で血が…!」
「…レイズ、デット…」
そう、口にする度にグチュ、と嫌な音がして
その胸を赤く、赤く染めていった。
嫌だ、と誰に言う訳でもなく首を振る。
悔しくて悔しくて、何度も何度も詠唱を続けた。
「ッ止めて下さいと言っているのが、聞こえないんですか!?」
「っ…!?」
背後から伸びてきた手はステラの胸を押さえる私の手をグッと引っ張る。
衣服から離れた掌に冷たい風が沁みる。
痛みからか、悔しさからか、ポロポロと流れる涙は止まらない。
「いた、い…」
「当たり前です!」
空気に触れて傷口が開くと私はもう激痛に耐える声しか出せなくなっていた。
痛みを訴える私に対し、ジェイの怒りを露にし叫ぶ。
「自分の体の仕組みを理解して下さい!」
「っ離して…」
「これ以上体に負担をかけたら、どうなるかぐらい分かるでしょう!?」
「ッだったら、何だって言うんだよ…!」
「ステラは、私達の事を、国の事を命がけで助けてくれたのに!」
「そんなステラを、助けられないなんて間違ってる!!」
勢い任せに腕を振ればジェイの手は軽々と取れる。
だけどもその勢いが余計傷口を広めた。
手は、もう自分の意思では動かせない程痛くて。
それでも、何かに引き寄せられるように動いて。
「レイズデット…!」
ズキン、と。
傷口が増えていくのが分かった。
もうステラの胸を押さえる力もなく、ほぼ乗っけているだけの状態でも
ブレスは確実に発動し、淡い光を放つ。
だけどもう、痛くて痛くて、涙が溢れて。
それが体の痛みなのか、心の痛みなのか、私にはそれすらも分からなくて。
「っ…ステラぁ…!」
会って、ちゃんと話した事もない。
だけど、絶対に死なせたくなかった。
私はきっと、運命を変えるためにこの世界に来たんだって
この世界に来たらステラを救いたいって、ずっとずっと思ってた。
「ステラ・テルネス…」
「ワルター…さん…?」
「大した力だ…長きに渡って、遺跡線と同調していただけの事はある」
淡々と説明をするワルターの声は決して大きな音ではない。
だけど私の耳にハッキリと届いた。
「ステラが…遺跡線と同調…?」
「そうだ…ステラはただ、意識を失っていたわけではない」
「自らの精神を船と直結し、遺跡船そのものとなって海の上を漂流していたのだ」
驚き目を見開く皆の姿が容易く想像出来た。
顔を上げれば見れるであろうその姿も見ず
私はただ、目を閉じたままのステラを見つめる。
「信じられないのか?貴様は何度もステラの光を見ているし、助けられてもいるだろう」
ワルターの言葉は、セネルの胸に突き刺さる。
そして、他の皆にもより大きな驚きを与えた。
「そう言えば、前線基地で見た光の柱…」
「ならば…雪花の遺跡で見た、あの光も…」
「セネル達が遺跡船に漂着した時、光の柱が立ち上がったのも…」
ポツ、ポツと雨粒のように皆は言葉を零して
その言葉を聞く度にステラの手を握るセネルの手が震えを増した。
「嘘だろ…?」
「嘘ではない…全てステラの意志だ」
「なら…そもそも一番初め、俺達の前に遺跡船が現れたのも…」
「偶然のはずが、あるわけない」
この話の流れは、良く覚えている。
この後は、確か。
ハッと俯く顔を上げ、驚愕し絶句するシャーリィに勢いよく手を伸ばす。
我武者羅に動いている結果なのか、不思議と手の痛みが一瞬消えた。
「ブローチ!」
「、え…?」
「貸して!!」
「はい」も「いいえ」も聞かず
シャーリィの胸を飾るブローチを引っ張り、剥がす。
さすがにこれには手の痛みも増したけど
私は絶対にそのブローチを落としてはいけなかった。
使い方は分からない。
だけどその赤く染まった衣服の上からブローチを押し当てて、必死に祈る。
「ステラ!」
…―――…?
「お願い、目を開けて…!」
…―――その、ブローチは…。
「ステラだって、言いたい事あるでしょ…!?」
…―――、貴女……。
「私の口からじゃ、言えないんだよ…!!」
ステラに生き返って欲しい。
もう一度、目を開けて欲しい。
「………」
そんな願いが通じたのか。
ステラの指先がピクリと動き、蒼く虚ろな瞳が私達を捉える。
「ステラ!」
「お姉ちゃん…!!」
セネルは笑みを浮かべ、シャーリィは慌ててステラへと駆け寄る。
ステラは衰弱しきっていたけど、綺麗だった。
目を開けて微笑む彼女は、私の中で凄く輝いていた。
「…シャー…リィ…」
「お姉ちゃん!お姉ちゃん…!」
「貴女の力は、皆を幸せにする為のものよ…」
「どうかゆっくり、育んで…」、ステラはそう言うとシャーリィに笑みを向ける。
その瞬間、シャーリィの大きな瞳からは涙が溢れ出し、堪えられない嗚咽が辺りに響いた。
「………」
「…なに…?」
「…もっと、たくさん話がしたかった…」
「…これから…だよ…!」
「……ねえ」
「ッ…?」
「は、私の事…そんな傷を負ってまで助けようとしてくれた…」
「…なら…私がした事、間違っていた…?」
そう、力無く、だけども誇らしげに笑うから
私はただ、首を横に振るしか出来なくて。
そうするとステラは「良かった」と微笑むから
私も、ゆっくりと、真似するようにその蒼い瞳へと笑みを向けた。
グシャグシャの笑顔。
だけどステラはそれを見ると、嬉しそうに声を零すから
私達のやった事は何一つ間違いじゃないって、思えたんだ。
「…ステラ」
「な、あに…」
「大好き…!」
「…わたしも」
「きっと…私がいなくなってもが来てくれたなら、大丈夫…」
「貴女が遺跡船に来た事…間違いや、偶然じゃないと思うの…」
「きっと、私を生かすよりも大切な、大事な何かが貴女には、あるわ…」
「だからどうか、大好きなのままで」、
そう言うとステラは私の手に、自らの手を重ねた。
私達の手はボロボロで、共に大して動かす事も出来なくて
それでも、触れ合う部分は温かく、安心出来た。
「ステラ…」
「セネ、ル…」
「ステラ、もう喋るな…!」
そう言って、セネルが彼女の体を揺さぶったのを合図にしたかのように
ステラの声は消えていった。
それでも、柔らかい唇で彼女は伝えたかった言葉を紡ぐ。
音はない、だけども確かにそれは私達に伝わった。
ご め ん ね 。
そう言って、彼女は目蓋を閉じる。
最期に映ったセネルの顔を、忘れないようにと笑顔で。
「“ごめんね”…?“ごめんね”って何だよ…!」
「逝くな、オイ!ステラ…!」
「俺が水舞の儀式を申し込むの、楽しみにしてたんじゃなかったのかよ!!」
「先に逝っちまったら、申し込めないじゃないかッ!!」
私の手に重なるステラの手が、スルリと地面へ落ちていく。
体を支えるセネルにもたれるよう、ステラはかくんと力をなくした。
「ステラ!?オイ…!!」
胸元にあるブローチがパキン、と音を立てて割れ、粉々になり
彼女の赤に染まる衣服の上で、その破片を散りばめた。
息を呑むセネルに、姉を呼ぶシャーリィの声。
ただ黙り見守る、仲間達。
私は溢れそうな嗚咽を必死に堪えて、
クシャクシャな顔で、ステラが喜んでくれた笑顔を作ろうと、必死だった。
でも、無理だった。
出来る訳ないじゃん。
…こんなに、悲しいのに。
「ステラアアアアアッ!!」
白く冷たい頬に
最後の花 かざるとき
遠く君を見ていた
なぜ、みんなが泣き出し
今分かれを告げるこの時
一人ぽつんとしていた
まるで海に咲くとても小さな和火
今はもうここにいない
あ で や か に 咲 き 消 え て し ま う 蛍 火 ―――…。
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挿入歌『蛍火』より歌詞拝借
修正:11/12/11