「……」
早寝早起き。
そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
だかふと時計に目をやれば、午後の十二時をまわっている。
「…全然早くない…」
ぼそっと呟いたその言葉は誰に聞こえる事もなく消えていった。
髪を梳かし、顔を洗って、外に出て思いっきり深呼吸をする。
午後の暖かな日差しは、ぐっすり寝たにも関わらず再び私を眠りに誘った。
ふと、辺りを見渡す。
いつも昼過ぎになるとフェニモールが来てくれるのに
そのフェニモールの姿が見えないのだ。
疑問に思いながら里を一周したものの、やはりフェニモールの姿はない。
「…そう言えば…」
故郷に帰る、とか…確かそんなイベントがあったような気がしなくもない。
そんな事を考えていれば、目の前をワルターが通り過ぎ私は慌ててその姿を止めた。
「ワルター」
「…?」
「フェニモールって、里帰り?」
「正確にはまだだが…そうらしいな」
「そっか…」
いつも一緒にいてくれたフェニモールがいなくなってしまい、何だか急に寂しくなる。
話し相手や友達がいないとこんなにつまらないんだ。
今まで恵まれた環境にいた私は初めてそれを痛感した。
だが、後一人私にとって友達と呼べる人物がいるのを思い出す。
「じゃあ、シャーリィのところ行ってくる!」
「オイ、待て」
くるっと向きを変えて、いざ行かん!と足を動かそうとしたその時
後ろから制止の声が掛かり、そして昨日と同様腕を掴まれた。
「何?」
「無理に決まってるだろう」
「どうして?今までフェニモールと一緒に行ってたよ?」
「…一人で行ったら追い出されるに決まっている」
「……私が友達に会っちゃいけないとでも?」
「少なくとも、門番はそう思うだろうな」
里の一番奥、シャーリィがいる場所はガードが堅く
許可がなければ顔を見る事も、寄り付く事も許されない。
今までだって顔見知りのフェニモールが何とか許可を取り
門番がシャーリィに確認をして、やっと入れていたのだ。
私一人がいったら、帰されるに決まっている。
確かにワルターの言い分は間違っていない。
だからって、たったそれだけの理由でシャーリィに会えないのは嫌だった。
「…無理矢理にでも入ってやる」
「止めろ。だからお前は此処の者に嫌な目見られるんだ」
「でもシャーリィに一人で待たせるのは嫌だよ」
「メルネスは仕事をしているんだ…お前は邪魔になるだけだ」
「あんな仕事、私にだって出来るよ!ただ座ってるだけなら!!」
「ッおい…!」
最近、毎日のようにイライラしている。
ワルターには毎回八つ当たりしちゃうし、フェニモールやシャーリィには心配されてばかり。
それが分かっているのに、この気持ちを誰かに当てないと自分が壊れてしまいそうだった。
偉そうな事言っておいて、私は全然強くない。
そんなマイナス思考は、私に更なるイラつきを与える。
…本当、嫌だ。
シャーリィのいる建物の前へと着けば
入り口に立つ門番二人は思いっきり顔を歪めた。
結果。
ワルターが言った通り、私はシャーリィと会う事だけでなく
たった数メートル、近くへ寄る事さえ許されなかった。
バン!と音を立て、思い切り目の前の扉を開ける。
円卓の奥、マウリッツと話をするワルターの姿を見つけた。
私は迷いもなく、その体目掛けてバッと手を伸ばし思いっきり飛びつく。
「うわああん!ワルター!」
「…」
ぼふ、と音を立て飛びつけば
ワルターのよろけもせず、私一人簡単に受け止めてみせた。
「何で!何でよ!何で私が入っちゃいけないのさ!!」
「だから言っただろう…」
「理由がない!根拠もない!」
「傍若無人なお前の態度が、理由であり根拠だ」
「…ワルター慰めて」
「泣き真似をする奴に、そんな情けは必要ないだろう」
「……分かった」
ばれてた。
いや、泣き真似だとばれない方がおかしいけど。
小さく溜め息を吐き、私はワルターから自らの体を離す。
今日ももう寝てしまおう、と再び建物を後にしようとしたその時
頭にぽん、と優しく、何かが乗った。
「っ…?」
何事かと振り返れば、ワルターは私の頭に乗せている自らの手を優しく動かす。
つまり、私がワルターに撫でられている状態。
先程の流れからどうしてこうなったのかは分からなかった。
ワルターが私の頭を撫でるなんて。
何か裏があるのではと疑ってしまう程珍しい。
「な、何…?」
「…理由等ない」
「へ…そ、そうなの…?」
理由もなしに、こんな事をするのだろうか。
私の知っているワルターって、こんな人じゃなかった気がする。
…いや、違うよ。
私はワルターのほんの一部分、“黒い翼”としての部分しか元々知らないじゃん。
「八つ当たりされたり、泣きつかれたり…変な奴に懐かれたものだ」
「っむ…」
「……来い」
髪を撫でる心地良い感触は離れ、そのぬくもりは私の腕へと移った。
ぐい、と引っ張られ足がもつれそうになるが
それを必死に耐えて、私はワルターの後をついて行く。
「マウリッツ…メルネスの所へ行って来る」
「…余り、邪魔をするなよ」
「分かっている」
まさか。
少しだけ、期待してしまう。
真意が気になり私はワルターにより近付き
その腕をぐいぐいと、強く引っ張った。
「ねえ!シャーリィと話させてくれるの?」
「…少なくとも里で暴れられるよりマシだ」
「…!」
ぱあ、と顔を明るくする私にワルターは何を思ったのか。
その整った唇で柔らかい弧を描き、目を伏せる姿は
間違いなくゲームでは見たくても見れなかった、日常を送るワルターの姿だった。
「ありがとう!本当、ありがとう!」
「…五月蝿い」
「騒がずにはいられないじゃん!本当…!」
「ワルターがいてくれて、良かった!」
いなかったら、私此処でどうなっちゃってたんだろう。
何か、そんな事を考えると
私の腕を乱暴に掴んだその手も、頭を優しく撫でたぬくもりも全てが大事で。
一人じゃなくて良かったって、心の底から思えた。
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...
修正:11/12/11