「むやみに抵抗するから、こうなるのだ!」
「…何故、こんな事を…」
「貴様のせいで、我が国は存亡の危機に見舞われた!」
「…」
「あの時の恐怖、あの時の恨み、決して忘れられるものではない!!」
ギリ、と強く拳を握る。
だけど、それ以上は何も出来ない。
「…はな、して」
「…」
「どいて、ワルターッ…!」
「……」
「…ッアンタだって、一発殴りたいくせ、に…!」
今目の前で、シャーリィに向かい酷い言葉を並べる騎士。
それは一発どころか数発殴っても良いような最低の男だ。
「…あくまで私を、加害者扱いするつもりなんですね」
ドクン、と強く心臓が脈打つ。
感じた事ない、感覚。
それが恐怖なのか、喜びなのか、分からない。
…誰の感情なのかすらも。
「…フェニモールは、貴方達のせいで死んだのにッ…!!」
周りの空気が、変わった気がした。
風も、空も、海も、シャーリィも、私も、世界がまるごと変わっていく。
「待って、シャーリィ…!」
「…、さん…?」
「ッ呑み込まれちゃダメなんだよ…!」
出ない声を、必死に絞り出して。
喋る度に込み上げる血や吐き気を飲み込んで。
「おかしい、おかしいよ…!」
激痛に慣れたのか、先程よりも声が出る。
体は動かないけど、気持ちを伝えるには口さえ動けば十分だ。
「水の民は、治癒術も使えないわけ!?」
「黙れ、陸の民が…!」
「何で、黙って見てたんだよ…何で、誰も近寄ってあげなかったんだよ…!?」
私を“陸の民”と呼んだ水の民をきつく睨めば
男は驚き目を見開いて一歩後退する。
「ッ私なら、近寄れた!!」
「シャーリィも、フェニモールも、助ける事が出来た!」
「アンタ達は、出来るのにしなかった!!同族を殺したんだよ!」
シン、と静まり返るその場に私の声が木霊する。
ヒューと自分が息を吸う音がやけに五月蠅く聞こえる。
だが次の瞬間、私は息を吸う事すら出来なくなった。
「…さんは、あの人達を庇おうとしているんですか」
そう言ってシャーリィが指差した方向には
武器を握るガドリアの騎士団長が立っていた。
それは間違いなくフェニモールを殺した張本人で
シャーリィに罵声を吐いた、汚い人間だ。
私が庇おうなんて思うはずのない、最低の男だ。
「庇おうなんて…!ただ、同じだって言いたいだけで…!」
「何で…そんなの、同じなはずないじゃないですか!!」
「じゃあシャーリィは、誰も来てくれなかった時、何とも思わなかったの!?」
「それは…!」
「言ってよ、シャーリィ!アンタから、皆に言ってよ!」
「…っ…」
返ってくるのは沈黙。
唇を噛み締め俯くシャーリィの手はカタカタと小刻みに震えている。
「フェニモールを殺した奴にも見殺しにした奴にも、シャーリィは文句言って良いんだよ!」
「ッ言ってよ…!“両方が悪い”って言ってよ…!」
「こんな時だからこそ、種族なんて気にしないで人を責めてよ…!!」
何も難しい事なんて言ってない。
シャーリィはただ、フェニモールを失った辛さを、怒りを皆にぶつければ良いだけ。
ただ、ベクトルを間違えなければ、大丈夫。
そう、思ってたのに。
「気付いてよ!シャーリィは、利用されているだけなんだって!」
「…り、よう…」
「フェニモールは、犠牲になったんだよ!シャーリィの、メルネスになる為の…!」
「…嘘…そんな……」
「嘘じゃない!」
「何とか言ったら!?そこで黙ってる奴!!」
私は、シャーリィをじっと見つめながらも
背後にいるマウリッツへと言葉を投げた。
名前を呼んだ訳ではなかったけど、誰を指しているのかはシャーリィにも伝わっただろう。
驚き見開かれたその瞳に真実が映っていれば
未来はきっと、変わるって思った。
「…ワルター、黙らせろ」
「…」
「ワルター」
「ッ…ああ…」
伸ばした手が、何かに弾かれる。
砦から祭壇まで来た時の同じ、薄い膜。
膜は私を宙に浮かせる訳でも、何かから守る訳でもない。
ただの弊害として私の眼前に現れる。
「…リィ、シャーリィ…!」
…何を言っても、聞こえない。
「シャーリィ…フェニモールを殺したのは陸の民だ…」
「……」
「憎いだろう?だが、滄我に身を委ねればその憎しみは消える…」
「…滄我に…」
「ああ、そうだ」
向こうの会話は聞こえている。
シャーリィのフェニモールを抱く手が微かに震えているのも
その背中に向かい、甘い逃げ道を囁くマウリッツも、全部見えているのに何も出来ない。
「だ、め…!シャーリィ…!」
膜を叩いても、何度名前を呼んでも
シャーリィはその虚ろな瞳を私に向ける事はない。
パチン、とワルターが指を鳴らす。
解放の合図かと小さく息を吐くも、実際はその逆だった。
「、ッ…!」
ぐにゃり、と球体の中が歪んだ気がした。
いや、正確には球体の中の酸素がなくなり私の体が傾いたんだ。
酸素を求めようと何度も息を吸う、だけどその度に苦しくなる。
空気が足りなくて、頭がぼうっとした。
手、足、体に信号を送る事が出来ない。
「…陸の民が…フェニモールの…」
ポツリ、ポツリと唇から言葉を漏らし
シャーリィはフェニモールの頬をそっと撫でる。
「…ィ…、あ…」
息が、出来ない。
シャーリィの名前を紡ぐ事も出来ず顔を歪める。
朦朧とした意識の中で、苦しみに項垂れる私の姿を見下すワルターの姿が見えた。
もう、その瞳が何を考えて私を見ているのかも分からない。
「…私は、フェニモールを殺した人が許せない…」
「シャーリィ、君は何をしたい?」
「……」
「全て、君の思い通りだよ…シャーリィ」
「私は…」
「私は、フェニモールの仇を討ちたい…」
「…―――例えお兄ちゃんを殺す事になっても…」
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修正:11/12/12