空が好き。
嬉しい時、悲しい時、ムカムカした時
空はどんな時でも私を包んでくれる。
だけどふと顔を上げればそこにあるのはニセモノの空。
まるで機械のように無機質に見えて、何だかそれがとても寂しく感じた。
「ブラッティハウリング〜」
何とも穏やかな声で恐ろしい呪文を唱えるグリューネさん。
黒く禍々しい力は魔物を飲み込み、一瞬にしてその体を切り刻む。
「ごめんなさいねえ、魔物ちゃん」
しゅん、と眉を下げ頬に手を当て
グリューネさんは申し訳なさそうに目を伏せる。
皆は目の前で見せられた強靭な力に、呆気を取られ戦う事さえ忘れていた。
一番初めに皆の脳裏に過った映像は、確か火のモニュメントだったはず。
私は薄れかけているゲームの記憶を辿り次の行き先を予想した。
皆の見た映像を私は見ていない…と言うより、見せてもらってないの方が正しいだろう。
だからあくまで予想、と言う訳だ。
「…こんな事言うと、変だと思われるだろうけど…」
赤い、見ているだけで暑くなる建物の前でノーマは歯切れ悪く言葉を紡いだ。
「あたし、この場所見覚えがあるんだよね…」
「ノーマもか?」
「“も”って…セネセネも?」
「急に脳裏を過ぎったような感じだった…」
「あたしもあたしも!」
「まさか」とか「そんな馬鹿な」とか否定的な意見は出てこない。
それもそうだ。
皆が皆同じ映像を見てここまでやってきたのだから。
ともかく先へ進もう、と一歩先に進んだのはジェイ。
その後をウィルが、そして皆が順々に歩を進める。
入り口はすぐ近くにあるけど私達が立っている所と建物を結ぶ橋がない。
橋の代わりにあるのは何の変哲もない石碑だけ。
「…文字が書かれていますが、読めませんね」
「この文字、古刻語でもないよ…擦れてて読めないし」
頭を捻る仲間達の間から見える石碑には
確かに文字らしきものが刻まれている。
私には何かハッキリ分かった。
一部掠れて読めなくても、それが“アルファベット”だと言う事が。
最も、それが分かっただけで一体何が書かれているのかはサッパリ。
「ノーマ、蹴っちゃえ!」
「オッケ〜!」
私の言葉を聞くとノーマは何の迷いもなくその足を思いっきり振り上げた。
ガン、と鈍い音がしたかと思えば
私達の目の前にはハッキリとモニュメント内へと続く道が浮き上がる。
「ほら〜!早く行こうよ〜!」
「今行く!」
出来上がった道をノーマはひょいっと渡り、私もその後を駆け足で追った。
ジェイとウィル、セネルとクロエはノーマの行動に呆れたと言わんばかりに溜め息を吐き
モーゼスはクカカと笑い、グリューネさんはいつも通りほわっとした空気を漂わせている。
「…これから先、命がいくつあっても足らん気がするな」
「…僕も同じ事を思っていました」
モニュメント到着後、二回目となるジェイとウィルの大きな溜め息が辺りへ響き渡った。
「あつ…」
扉を開けた瞬間、中から溢れ出た熱風に
私達は五秒と待たずに互いに顔を見合わせ眉を顰めた。
そこから一分、歩き出してみたものの汗はダラダラ。
髪はぺったりするし服は湿って気持ち悪いし、
既にこの環境に耐える事が出来なくなっている。
「暑い、暑い暑い暑い…」
「そう思うから暑いんですよ」
「それは嘘!絶対!そう言って騙される訳ないじゃん!」
「じゃあ、騒ぐから暑くなるんじゃないですか?」
「それも違う!何が暑いってこの分厚い服が…!」
自分の格好を見れば戦争が終わってからずっと水の民の服のまま。
まるで恥らう乙女のよう、露出している部分は掌くらい。
後はガッチリ、分厚く重い布で覆われていた。
そりゃ暑くて当たり前だ、と納得すると共にガクリと項垂れれば
ふと胸元にファスナーが付いている事に気付く。
普段は上からすっぽり被っていたからその存在に気付かなかったけど
ジィ、と引っ張ってみれば胸元がやや開いた薄着が登場。
「お、ラッキー!」
「?」
そのままファスナーを下ろし、ストンと分厚い布を脱ぐ。
足首まであった長い長いスカートも取り払えば、
私がいつも愛用しているスカート程の丈の物が露になる。
決して涼しいとは言えないけど篭っていた熱がすうっと散ったような気がし
少しだけ、本当に少しだけテンションが戻った気がした。
「んーマシになった!」
重ねて着ていた上着は、こんな所では用済みだ。
ポイっと、まるでボロ雑巾を扱うようにそこら辺へと投げ捨てれば
思った以上に気持ちがスッキリとする。
きっと暑さだけじゃなくて、水の民の里にいた時の嫌な思い出も一緒に取り払われたのだろう。
「…」
「何?」
それでもまだ暑いと顔を手で仰ぐ私を、セネルは気まずそうに声を上げて呼び止める。
私と同じでセネルも暑いのだろう。
顔は真っ赤で、汗も凄い。
「いや…その格好は止めた方が良いんじゃないか…」
「つまり私に暑いままでいろとセネルは仰りたいのですか?」
「何か、見てるこっちが恥ずかしい…」
「最初の頃ウィルに着せられた服のがよっぽど恥ずかしいよ」
もうあの全身タイツだけは着たくない。
思い出しただけで、あの体にへばり付くような感触を思い出しゾクリとした。
「そうだったのか…」と悲し気に呟くウィルの声も
左から入り、右に抜け、仰ぐ事に必死になる。
「とりあえず進むぞ」
「はーい」
ウィルはすぐにいつも通りの表情へと戻り先頭を歩く。
皆は頷き、そして奥を目指した。
しばらく、と言っても僅か数分。
歩く私達の目の前にはこの場にそぐわない物が出現する。
ぼわあっと光るそれを見て、何だか嫌な気分になり頭がズキズキした。
「…何か怪しい光が…」
何と言うか。
殺気や怨念のようなものが心に直接何かを伝えようとしているみたい。
「クーリッジ、不用意に近づいては…!」
私と違い、恐怖等微塵も感じていないセネルの手がそれに近付く。
「っ…!」
セネルの手が光に触れた瞬間、キィンと、耳鳴りにも似た音が頭に響き
ライトを直接目に当てられたような強い光に包まれ、目眩がした。
…―――破壊の少女に告げる。
「っ…は?」
何か今、声が聞こえた気がした。
いや、気なんかじゃない。
ハッキリと今、鮮明に声が聞こえた。
男か女かも分からない、年齢さえも想像のつかない
無機質でありながらも何処か悲しい音色。
「今の映像は何だ?」
「白くて四角い物体が、海に浮かんでたよ」
「僕も同じ光景を見ました…」
「ワイもじゃ」
皆が言う物を私は見ていない。
だけどゲームの記憶を辿れば、皆の見た物が正解なのは分かる。
…じゃあ、私が聞いたのはなに?
「?」
「…ん?」
知らない答えを探そうと、ぐるぐる頭を回転させながら
私はいつものように笑って見せた。
隠せているかは不安だった。
だけど隠さなきゃいけない気がした。
皆の足を止めたくなかったし、何より人に話した所で解決する事じゃ、きっとない。
「先に行こう」
「うん」
深く追求しないセネルを見ると何も悟られていないようだ。
「暑くてボーッとしてたんだろ」
「あは、ばれた?」
からかうように、呆れたように笑うセネルに私も笑みを見せる。
瞬間、忘れていた汗がばあっと体中から噴き出して
ここを早く出る為にも私達は更に奥へと足を運んだ。
思ったよりもすぐに二つ目の光は見つかった。
セネルが手を出すと同時、隣にいるクロエも光に手を伸ばす。
そして皆に確認を取るかのようにこちらへと振り向いた。
私達は同時に頷き、そして辺りを包む光にぎゅうっと目を瞑る。
…―――メルネスが誕生するその時、新たな破壊の少女も共に誕生する。
「白くて四角い物体のあちこちに土がもられていた」
「また同じか…」
「…たった一文かよ…」
「何か言いましたか?」
「ううん、何でも」
私だけ皆と違う事を喋っているのは分かっていた。
けどその不満を口の中で転がし呑みこむ事が出来ない。
早くと急かす心は、もっともっとこの先の言葉を聞きたがる。
誰が喋っていて、何を喋っているかも分からないのに
そこには知りたい何かがあると思ったのだ。
目の前には三つ目の光。
セネルとクロエが手を伸ばし、水晶へ触れる。
…―――そして、メルネスがこの地へ再び訪れた時、破壊の少女もこの地を訪れる。
…―――いや、きっと…必ず“導かれる”。
「今見たのって…」
「さっき見た四角い物体と一緒…?」
「すっかり土に覆われてていたのう」
「…当たってる…」
考えれば考える程謎は深まっていくばかり。
確かに私は誰かに呼ばれてここに来た。
そしてそれはシャーリィが遺跡船に来たタイミングと全く一緒。
時間や位置、何もかもがピッタリだった。
“共に誕生する”って言葉も強ち間違いではない。
日は違くても、私とシャーリィは同い年だ。
…じゃあ、それを知ってるアンタは何者…?
「う〜暑すぎて死にそ〜…ちょっと休憩しよ〜よ〜」
前から聞こえたノーマの声にハッと思考が途切れた。
気が付けば既にモニュメントの中を半分以上調べ終わっていて、
おもむろに動かしていた自らの足が止まる。
「あの怪しい光に触れると、ある光景がすりこまれてくる…」
「一体何なんだ?」
「どうして同じ光景が皆の頭の中に…」
休憩の為に止まったはずの皆は一部を除き座る事もせず今までの事を話し合う。
その光景も私が知っているゲーム内容と一緒。
でも現実は違う。
「…ね、奥調べない?」
「え〜!もうちょっと休憩させてよ〜!」
「ほうじゃほうじゃ、もちいとは休め」
「ちょっ…!何もう!」
本当に休ませる気があるのか、と思うくらいの大声を上げたモーゼスは
腕がもげそうになる程の強い力で私を引っ張る
「じゃって暑いんじゃろう?」
「や、暑いけど…!」
「ヒョオオ!」
「うわっ…何?突然…」
ぐいぐい腕を引っ張っていたかと思えば突然悲鳴を上げるモーゼスに顔を歪める。
「五月蝿い」と言わんばかりの目をする私と比べ、モーゼスの瞳はキラキラと輝いていた。
「いやあ、なんじゃ!胸元ガッツリあいとる服は初めてじゃのうて」
「はあ…?」
「汗が谷間に沿ってすすーっとグハァ!!」
気が付けば勝手に右手が飛び出していて
私の前から吹き飛び消えたモーゼスをきつく睨み
汗でよれ始めている服を空いている手でぐっとあげた。
「何でもかんでもエロに直結すんな…!」
「そうだよモーすけ!第一谷間なんてありゃしないんだから」
「ちょ、失礼だよ!私だって寄せれば―――…じゃなくて!!」
ぶんぶんと大きく首を振り、
地べたに転がるモーゼスをまたぎ、奥の部屋の扉を開ける。
中に溜まっていた熱気がぶわっと辺りに漏れだした。
それでも私の足が止まる事はない。
「先行って次の扉開けとくから!」
ここよりも数十倍暑いだろう部屋に飛び込むのに、躊躇いはなかった。
制止の声すら聞こえず、真っ先にシリンダーの装置へと向かう。
早く。
早くあの続きが見たい。
私の頭の中は、もうそれしかなかった。
「……次の扉?」
「ジェイ、どうかしたか」
「開けとく…開け方を知っているのでしょうか…」
「何?全然聞こえないよ〜」
「体がちっこいと声もちっこいのかのう」
「…独り言ですよ。ノーマさんもういいですか?」
スッとその場で立ち上がり扉の先に足を向けるジェイは
「もう少し…」と呟くノーマに冷ややかな目線を送る。
その視線に耐え切れず渋々立ち上がるノーマを見て
仲間達は先に行った少女の背中を追い歩き出した。
「…これでよし、と…」
コポ…、と音を立てシリンダーの中の泡が天井へと上って行く。
全てのシリンダーが動いたと同時、奥の扉が音を立てて開いた。
「案外うろ覚えでも何とかなるもんだ…」
何て、心に留めておくべき言葉が漏れた口を慌てて塞ぎ
振り返り仲間の姿を確認する。
幸い近くにはいなかったものの
先程私が通った扉から近付いて来る仲間達の姿が見えた。
「」
「遅いよー!開いてるから早く行こ!」
息を切らすセネルを労わる事も忘れ、強く引っ張る。
「ちょっ、待てって…!」
らしくもなく体をよろめかせるセネルの制止の声も聞かず
階段を登り大きな扉の前へと連れていく。
一段一段、警戒し階段を登る他の仲間達にも声を掛け、扉の奥を指差した。
「扉が開いてるのは良いけど…」
「行き止まりのようですね」
「でも、光があるよ!」
奥の部屋には先へ続く道はない。
代わりにあるのはユラユラと揺れる大きな光。
今まで道端に合った光とは少し違う。
一際眩いその光を見て胸がぎゅうっと苦しくなった。
「クーリッジ」
怖気付く事なく、クロエはセネルの名を呼び光へと近付いた。
「ああ」
続き、セネルがその足で光へと歩み寄る。
皆はその背中をじっと見守り、私も高鳴る鼓動を抑え光の先を見つめた。
次はどんな言葉が待っているんだろう。
一体誰が私に語りかけているんだろう。
誰が私に真実を知らせようとしているんだろう。
考えれば考える程分からなくなり、
ただ二人が触れようとする大きな光をじっと見つめた。
瞬間、これまでよりも強く大きな光が私達を世界ごと包み込む―――…。
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修正:11/12/12