「し、白くて四角い物体が土に埋もれてました…」
「はい」
「水の民が新天地を求めた理由を今から探しに行きます…」
「はい、結構です」





何で朝っぱらからこんな…!、とギリギリ歯を合わせる私は
青筋を浮かべるジェイの前で、足が痺れるくらいの時間正座をしていた。





「昨日途中で寝たさんが悪いんですよ」
「分かってるけど疲れてたんだもん…」
何かわいこぶってるんですか気持ち悪い
素だよ!良いじゃん私だって『だもん』くらい使ったって!!」
「時と場合によりますよ。少なくとも言い訳に使う語尾じゃないです」





ツンとした態度を取るジェイに言い返す事も出来ずグッと拳を握る。

「私だって起きてられるもんなら起きてたかった」、と言うのもただ怒りを煽るだけ。
私はこの賢い少年相手に何かを言い返す事を諦めた。





「ジェイー!」
「ん、何?」





トタトタと足音を立て、ピッポが近付いてくると
私に向けていた不機嫌なオーラを消して、ジェイは笑顔で返事をした。

普段からこんだけ素直なら可愛いのになーという言葉を口の中で転がしながら
仲睦まじい二人の姿をじっと見つめる。





「ここはカポエラッコの伝説で言われている所と似ているキュ!」
「ああ…静の大地か…」
「キュキュ!」
「よく気付いたね」





そう言ってジェイはピッポの頭を撫でる。
心底気持ち良さそうな声を出し、ピッポは腰を振った。

そんな光景を見つつ、多少(いや、かなり)羨ましいとぼーっとしていると
ジェイの後ろから他の皆が集まってくるのが見える。





「何の話をしてるんだ?」

「モフモフ族に伝わる話ですよ」

「モフモフ族の英雄、カポエラッコが辿り着いた地だと言われている場所に、
 ここがそっくりなんだキュ!」

「静の大地と呼ばれている所です」

「…ならば、私達もそう呼ぶ事にしないか?」





半ば興奮気味に話すピッポの姿にやられたのか、クロエは頬を染めながらそう言った。

勿論、反対する者は誰もいない。
皆クロエの発案に深く頷いた。





「確かにただの地下空間じゃ味気ないしね〜」
「私も賛成ー!」
「…ここが静の大地なら“天かける軌跡”も何処かにあるかもしれない」





ぼそっと呟いたジェイに、皆は聞き慣れない言葉だと首を傾げる。





「空に浮かぶ道なき道と言われいるキュ」
「カポエラッコがかつてそう言ってた場所だキュ」
「ジェイ達が出かけてる間に、ポッポ達が色々調べておくキュ!」





静の大地の真相が相当気になるのか、好奇心の色を混ぜた瞳でジェイを見つめるキュッポ達。

一瞬皆の安否を考え答えを渋ったジェイだけど
ニッコリ優しく笑うと「頼むよ」と一言返す。

「任せるキュ!」と胸を張り堂々とする仕種に、私もつい顔がにやけた。





「それでは皆さん、行きましょうか」
「ああ」





キッとした口調でジェイが出発の合図をすれば
皆は強く頷き、武器を持ちモニュメントへ向かう。

私は例の分厚い本を武器と一緒に袋から取り出し、皆の後へと続いた。















「…この場所だな」





先頭を歩いていたセネルが言葉を発する。
私はその声に導かれるよう、目の前の人工的な建物を見上げた。

氷のモニュメント。

昨日行った火のモニュメントとは正反対の
青と白を基調にした、見ているだけで涼しくなるような建物だった。

入り口から漏れる白い靄に身震いを一つ。
今回もきっと、気候の変化に戸惑いつつの探索になるだろうと覚悟したその時。

バサリ、と翼がはためく音がした。





「何…?」





一回だけかと思ったそれは回数を増やし、そして段々と近付いてくる。

全員が空を見上げ太陽に透けるその者を確認しようとした時には
私はゲームの記憶を頼りに、彼が何者なのかを理解していた。





「ワルちん!?」





トン、と軽やかに着地し、名を呼ばれた男…ワルターは黒い翼を仕舞う。
そして動揺を隠しきれていない仲間達を、強く強く睨んだ。





「まさか、打ち捨てられた地に逃げ込むとはな」
「ワルター、お前…!」
「今日こそ、覚悟するがいい…!」





どう言う事かと説明を求めている暇もない。
目の前で戦闘体勢に入るワルターを見て、つられるように皆も武器を構えた。

でも、私がやる事はそんな事じゃない。
カツ、カツ、と靴音を鳴らし無言でその男に近寄る。

私の行動に皆はぽかんと口を開き呆けていたけど
しばらくすれば制止の声を上げ、私に危険を知らせた。


目の前の男は私がどんなに近寄ろうともその拳を解く事はない。
ただ間合いを取るように片足をぐっと後方へ退いた。

でも、知っていた。
ワルターの瞳に迷いがある事を私は知っていた。

こうして私がその目を真っ直ぐに見つめれば
居た堪れなくなって目を反らすと安易に予想が出来たのだ。

実際私の予想通りワルターはフッと目を反らす。
私はその一瞬を狙い、白い頬目掛けて右手を振った。





「ッ…!?」





乾いた音が鳴り響き、唇からは小さく息が漏れる。
静まり返る輪の中で一瞬の動揺を見せたワルターは、キッと強く私を睨んだ。





「気まずくなって目反らすなら、初めから裏切らなければ良かったのに」
「…」
「ちゃんと見てないから、私の攻撃だって避けれないんじゃん」
「ッ…貴様…!」
「ちゃんと見ようとしないから―――…」





「…―――何が大切か分からないんだよ、ワルターは」





グ、と強く胸倉を掴まれるのは、これで何度目だろう。

ぶつかって、何となく仲直りして、またぶつかって。
ワルターとはいつもそうだ。

だけど、ぶつかってきた分だけワルターとはたくさんの事を分かり合えていると信じてる。





「これで、チャラだから」
「…」
「この前は手加減してくれてありがとう!」
「…何を…」
「お陰ですぐに歩けるようになったし、ジャンプも出来るんだよ」
「……」
「でも」





「裏切るなら、約束破るなら、本気でやってよ」

「初めて会った時みたいに、本気で殺しにきてみなよ」





「じゃなきゃ私も、どうしたら良いか分からない」





胸倉を掴むその手にそっと自分の手を重ねれば
まるで私に怯えているかのようにビクリと大きく跳ねた。

眉を下げ、歯を食い縛っているのに
その瞳だけは私に殺気を向けようと必死に揺らいでいて。

そんなワルターを早く助けたいって、私は心の底から思ってる。





「約束、守ってもらうからね」
「何…!」
「あんなんで納得するちゃんだと思うなよ!」





さんざん振り回された仕返し、と言わんばかりにその頭を軽く杖で叩けば
ワルターは手の力を緩め私の体を解放した。





「ワルターが本気でも、私はアンタの事絶対殺さないから」

「絶対、仲間になってもらうから!」





セネルと二人の時に口にした言葉を、今度は皆と本人の前で公にする。

後ろからはノーマやモーゼスの狼狽える声が聞こえ
背筋にジェイの嫌な視線をもろに感じた。

長い長い沈黙の末、それを破ったのはワルターだった。





「ック…」
「?」
「…お前らしいな」
「あ、もしかして馬鹿にしてる?笑ってるのも今の内だよ?」





そう言う私も、自然と笑みが零れてる。

変なの。
さっきまで殺す殺さないとか、覚悟だ云々話してたはずなのに。





「次会った時はもっと笑わせてやるんだから!」
「遠慮しておく…今日は見逃してやるだけだ」





「次は…」と言葉を繋げ、私の後ろにいるであろうセネルを睨むワルターに
セネルはどんな表情を返したんだろう。

私には分からなかったけど、ワルターの口から「殺す」と言う単語は出てこなかった。

スッと手を上げたと同時、その背中には黒い翼が現れてワルターは私達の頭上へと飛んでいく。
「ばいばーい」と手を振る私を見てワルターは笑う事も、怒る事も、返事をする事もなかった。

だけど何となく思ったんだ。
前髪に見え隠れする彼の瞳は優しく、そして温かだったと。

ふう、と一息吐き振り向けば、ぽかんと口を開けている仲間達がいた。

唯一状況を理解しているセネルが私へと近付いてくる。
彼の足は私の手前で止まり、その手は子をあやすように髪を撫でた。





「よく言えたな」
「ワルター怖くないから」
「…そうか」





優しく笑うセネルに私も笑みを見せる。
セネルのような理解者がいてくれた事に、私はホッと安堵の息を漏らした。





「ま、そういう訳だから協力してやれよ」
「そういう訳って、どういう事ですかセネルさん、さん…!」
「…訳なんか必要ないだろ。なんだから」





何とも意味深な言葉を吐くセネルに、私は首を傾げる。
皆は「なるほど」と言わんばかりに大きく首を動かしていた。

…今の説明で分かるって、どう言う事?





「ま、だししょうがないか〜」
「オウ、仕方ないのう」
「変な納得の仕方やめてよ」
「だが、ワルターが私達に危害を加えてきたらはどうするんだ?」
「もっかい殴る!」





心配そうなクロエの言葉に、ぐっと拳を見せ笑う。

驚きながらもぎこちなく笑うクロエの姿は
すべてを受け止めてくれようと努力はしてくれているみたいだった。

まだウィルとジェイは動揺しているみたいだけど、この際気にしない。





「とりあえず中に入りましょうか」
「ああ」
さん、後できっちり聞かせてもらいますからね」
「…またお説教か…」





ボソッと呟いた言葉は恐らくジェイに聞こえていただろう。
その背中から滲み出るオーラに私は敢えて気付かない事にした。

ガン、と言う鈍い音が耳に届き、火のモニュメント同様私達を導く橋が出来上がる。

私はここに来た目的を頭の中で確認し、一歩一歩踏みしめるよう進んだ。





…―――次に私が見る世界は、一体どんな色をしているんだろう。










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修正:11/12/12