「ワルター、どうして一人で行動した」
「奴らが打ち捨てられた地にいた」
「勝手な行動はするな」
「……すまない」
「それと―――…」





メルネスは、一度言葉を止める。





「…貴様は、自分の使命を分かっていないようだな」
「メルネス…」
「もう一度だけ言う」





「…貴様の使命は、破壊の少女を殺す事だ」















「いやああああ!!」
さん!」
「何で分かってくれないんだよ!ジェイの馬鹿!」
「なっ…馬鹿はどっちですか!」





最近、私はモーゼスよりもジェイとの喧嘩が多い気がする。

それはジェイが神経質過ぎるのか、
それとも私がずぼらでどうしようもなく我侭だからなのかは分からない。

どうしてこんな事になっているのか。
それは説明をせずとも話の流れを追えばすぐに分かる。





「マッハで戻ってくるって言ってるじゃん!」
さんのマッハ何て所詮歩いているのと同じでしょう」
「ちょっ、何それ!だったらジェイがとってきてよ!」
「お断りです、大体貴女があそこに置いて来たのが悪いんでしょう!」





怒鳴る度に私とジェイの口からは白い息が漏れる。

何が問題かと言うと、単刀直入に言えば私の服だ。

昨日、私は火のモニュメントで上着を脱ぎ捨ててしまった。
そして今いるのは氷のモニュメントの入り口。

中に入った途端体温が下がり、とてもこのままではいられないと言う程だ。
体がガタガタ震えて舌が回らず手が悴んで開く事も出来ない。

だから私が「火のモニュメントまで上着を取りに行く」と言ったのがジェイの怒りの原因。
「時間の無駄です」と彼は私の腕を無理にでも引っ張り先へと進もうとする。

そんなやり取りが続いてもう何分経ったのか。
気が付けば爪の色は紫に、唇も同色だ。





「…上着一つでここまで言い合えるアンタ等は凄いと思うよ…」
「ノーマもモーゼスも、ってか皆おかしいよ!何でそんな平気な顔でいられるのさ!」
「いや〜…あんま平気じゃないけど…」





「あたし等には上着がないし」と言うと全員が頷く。
ああ、コイツ等に同調してもらうのはもう無理だと諦め、私はその足を出口へと向ける。

でも、結局はジェイにその腕を掴まれ外に出る事さえ許してもらえなかった。





「本当に早く戻って来るからっ……!」





バサ、と目の前から飛んでくるその布は私の顔面に当たる。
僅かな衝撃に言葉が詰まり、代わりに小さな悲鳴が漏れた。

何事かと顔についているものを引き剥がせばジェイの服。
…って、何でジェイの服…?





「それで満足でしょう…行きますよ」





先へ進むジェイの姿はいつもと違う。

タンクトップ一枚で前を歩くジェイの白い肌が、黒い生地に良く映える。
肩から手の先まで露出しているだけでまるで別人だ。

どうしてジェイはそんな格好になっているのだろう。
その答えは“私の手の中”だ。





「か、貸してくれるの…!?」
「…」
「ウワアアア!!ジェイありがとー!!」
「ああ、もう!少しは大人しくして下さいよ!」





私の感謝の気持ちも受け取らずにジェイはずんずんと奥へ進んで行く。
あんなに寒そうな格好をしているのに、ジェイは全然平気だと言わんばかりだった。





「ジェイの生肌ー!」
「何言ってるんですかもう…」





異様なテンションの私を見てジェイは軽蔑の瞳を向ける。
確かに、この昂る気持ちは上着を貸してもらったからではない。
そんなの、自分が一番理解していた。





「あーなんか興奮してきちゃった!」
「もう無視して良いですかねこの人…」
「ささ、クー。『上着があれば良かった』何て思っている他の男子はおいて早く行こ行こ〜」
「皆、ちゃんにはと〜っても優しいのねぇ」
「人でなし」
「ほら、も早く!」
「うん!」





衣服に残るぬくもりと香りに笑みを零し、私は足取りも軽く前へと進む。















ジェイから借りた上着は多少手が隠れてしまうものの、
ブカブカと言う程でもなく着心地が良かった。

私がいた世界と何ら変わりない質感だし、モーゼスみたいな汗臭さもない。

…でも。





「……」





目の前を黙々と歩くジェイの姿は見ているだけで寒くなる。
そうさせているのは自分だと気付くと、罪悪感に胸が痛んだ。





「ジェイ、寒くない?」
さんとは鍛え方が違いますから。これぐらい平気です」
「…本当に?」
「…何なんですか、貴女は」





ハア、とその口から溢れる溜め息は白い。
「やっぱり」、と思う私とは別にジェイはもう呆れてものも言えないようだ。





「寒かったんでしょう?なら何でまた僕に服を返そうとしているんですか」
「ジェイが寒そうだから…」
「…自分の欲には素直に従った方が良いですよ」
「……じゃあ、交互に着る?」





くん、と服を引っ張りジェイの様子を覗き見れば
ジェイはきょとんと少年らしい顔を私に向けている。

「あ、やっぱり寒いんだ」と、自らが着ている服へと手を掛けた。





「…何で……ですか」





ポツリと聞こえた声に視線を上げれば、ジェイの唇はカタカタと震えている。





「いや、寒いでしょ?」
「そ…じゃなくて……」





…―――どうして優しくするんですか。





黙り込むジェイに違和感を覚えながらも
早く暖めなきゃ、と脱いだ服をジェイの肩へそっと掛けた。

直後、バサリと乾いた音が響き、弾かれた着衣は私の手の中に戻っている。





「なっ…何?」
「ッ結構です…」
「大丈夫?お腹でも冷えた…?」
「良いって言ってる…!」





私を睨む瞳に、体が正直にビクリと跳ねた。

何度かジェイに睨まれた事はある。
だけどいつもと違う瞳の色に、どんな反応をすれば良いのか分からない。

怒りとは違う、動揺や不安が入り混じる、言葉には出来ない色だ。





「どしたの〜?」
「…さんが訳の分からない行動をするから」
「え、わ、私のせい…!?」
「無駄な時間を費やしました。早く先に進みましょう」





さっきの瞳が嘘みたいに、ジェイはいつものように私に接する。

手中にある跳ね返された上着が何だか虚しく
私はもう一度、その服を着て彼の背中を追った。















薄々感づいている。
きっと僕は彼女に好意を抱いているのだろう…って。

だけど彼女が誰にでも向ける優しさは辛く、そしてイラつく。

でも、平気だ。
僕は、そんな優しさには慣れていないけど。

この好意を殺すことには慣れているから―――…。










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修正:11/12/12