「またありますね…」





先頭を歩くジェイの足が止まる。
そしてジェイの眼の前には火のモニュメントの時と同様、怪しく輝く光があった。

仲間が光に触れる。
キィン、と頭の中に響く音と共に視界が真っ白になった。





…―――メルネスの力は壮大だ。





「何か、見る度すっげ〜疲れて……」
「んなこと知ってるっつーの!!」





頭の中で響く声に壮絶な突っ込みを入れて、私はズンズンと足音を立てながら前へ進んだ。

分かっている事を言われても意味がない。
私が知りたいのは知らない事であって、こんな事じゃないんだ。





「…、こっちに来てから随分焦ってるような…」
「そうですかあ?わざわざ上着を取りに行こうとするあたり、全然焦ってるようには見えませんが」
「でも、前のとこでも休憩せずに一人で行っちゃうし…」
「別にノーマじゃないのだから」
「いや、いつものなら絶対に休んでる!そうに違いないって!!」





溜め息混じりに返事をするジェイと、苦笑しつつも鋭い突っ込みを入れるクロエ。
そんな二人相手でも、ノーマの根拠のない力説は止まる事を知らなかった。





「…今見た映像は後でまとめよう。を追わなくては」
「分かりました」





早く、早く。
誰だか知らないけど、アンタの考えている事を私も知りたい。

それを今、誰よりも強く望んでる。










「セネル、クロエ!早く早く!」
「分かってるって」





手を大きく振り、背後を歩くセネル達を呼ぶ。
セネルとクロエは小走りで近寄り、二つ目の光に触れた。





…―――その力に抵抗出来るよう、私は作り出された。





「作り…」





呟きながら小脇に抱えていた本を開く。

以前訳した部分の次にあたる場所を指でなぞり確かめれば
聞いたばかりの声を示す単語がそこにはあった。

“力”と“作る”。
学のない私でもそれくらいは分かるし、雰囲気で訳せるところもたくさん見つかった。

次に行かないとっ…!





!?」
「どうしたんだよおい!」





制止の声はしっかりと耳に届いていた。
だけど駆け出した足は止まらない。

私の知らない過去がそこにある。
全てを知っているはずの世界で、あってはならない現実が何だかとても気持ち悪くて。

私は我武者羅に、真実を求め走り続けた。










ゼェ、と大きく吐いた息は白く、視界に靄がかかる。
足りない酸素を補おうと、呼吸を早めれば冷えた空気が喉を刺激した。





、どうしたんだよ…」
「大丈夫…!光、あるから…早く」
「、ああ…」





途切れ途切れの私の言葉にセネルは歯切れの悪い返事をする。
その手は真っ直ぐに目の前の光へと伸び、再び白い世界に包まれた。





…―――作り出された…そして、継ぎ接ぎだらけの体が生まれた。

…―――いらない部分は、別の新しい物に換えられた。

…―――…それが顔でも、体でも、心臓であっても。

…―――全ては、水の民を滅ぼす為。





…―――…それはもう、“人”と呼べる姿ではなかっただろう。





グサリと、心臓を刺されたような痛みと突如体を襲う疲労感。

立っていられなくなりそうなのを必死に堪えて
心に生まれる憎しみや悲しみに、歯を食い縛る。





「……酷い」





その説明は私にどれだけ語り手が醜いかを教えてくれた。

語りかけてくる者が誰なのかは分からない。

だけど私は、そんな淡々と語る相手を醜いと感じるよりも
そこまでして水の民を滅ぼそうとしていた陸の民を醜いと感じた。















「ちょっと休憩しよ〜…う〜凍える…」





ハッと我に返った時には既に中間地点。

自分が歩いている事すら曖昧な記憶になっている。
今頭の中にあるのは光に包まれた時の、あの人の声だけ。

続きを聞く為にも、私は扉を開けなくてはならない。
そう思い、皆の合間をすり抜け走り出す私の腕を掴んだのはモーゼスだった。

バランスの崩れた体は後ろへと倒れ
抱き締めるように私を受け止めた男はスリ、と自らの頬を寄せてくる。





「ちょっと…!」
はぬくっこいのう」
「は、離せ!」
「そがあに慌ててどうしたんじゃ?」





ジタバタ手足を動かすも図体のでかいモーゼスには全くもって効果なし。

私が四肢を全力で動かしてもモーゼスはたった二本の腕で対応出来るんだ。
その体格差、そして己の無力さを呪った。





「ワイも暖めてくれや」
「…っこれでも着ろ!!」





脛と言う急所を蹴り、怯んだ隙に体を剥がして
私は着ていた上着をモーゼスへと投げた。

上着はモーゼスの顔を覆い、「うおっ!?」と大袈裟な声が聞こえる。
怯んだ相手に思いっきり舌を出し、私は奥の扉へと走り出した。





「……作戦失敗じゃのう…」





渡された上着を顔から剥がし、モーゼスは扉の奥を見つめた。

それはいつもの輝いた瞳とは違う
ある種睨んでいると言っても過言ではない、鋭い瞳だ。





「あんなの誰でも怒りますよ」
「…なんちゅうか、こっちの調子が狂うわ…」
「…ま、確かにそうですが。それより手に持っている物、返して下さいよ」





返せ、と言う言葉とは裏腹にジェイはモーゼスが持つ自らの上着を奪い取る。
そして服に着いた皺を伸ばし、扉の奥へと進んだ。





「ちょっと〜!休憩は〜!?」
「十分したでしょう。行きますよ」





「休んでいても構いませんが」、と嫌味ったらしく続けるジェイの後ろには
やや大股で歩くモーゼスの姿。

誰が見ても二人が急いでいるのはハッキリと分かった。





ちゃんが急ぐと皆も急いじゃうのねぇ…お揃いだけど、とっても悲しいわ」
「…きっと、その内落ち着くさ」
「ああ、私達も急ごう」





その声を合図にバラバラだった足音は重なり同じ方向へと進み始める。
…ただ一人を除いて。















コポ…、と泡が浮上する音。
全てのシリンダーが、起動した。





「…寒っ…」





震えが止まらず、自らの体をそっと抱き寄せる。

ああ、モーゼスなんかにジェイの上着を渡さなければ良かった、と後悔しつつも
カタカタ震える歯を抑え込むようきゅっと唇に力を入れた。






「あ、セネル!」
「あのさ、お前―――…」
「早く早く!」





髪を掻きながらゆっくりと近付いてくるセネルの腕を取り
私は火のモニュメント同様、皆を最後の部屋へと連れて行く。

とん、と小さく背中を押して早くと急かす私の瞳に、セネルはぎこちなく笑みを見せた。

その手が光に触れる。

そしてまた、強い光が私達を包み
別の世界へと連れて行った。










Next→

...
修正:11/12/12