「シャーリィさんの居場所がほぼ特定出来ました」





モフモフ族の皆から聞いた情報をジェイは早速、と私達に伝えてくれる。

過剰に体を跳ねらせ反応したセネルは立ち上がりジェイを見つめた。
ジェイはゆっくりと一つ頷き、口を開く。





「遺跡船の船尾にある、元創王国時代の王城です」
「それってもしかしなくても、蜃気楼の宮殿じゃん!」
「何か問題でもあるのか?」
「トレジャーハンターの間じゃ難攻不落って言われてんだよね〜」





トレジャーハンターって何処もかしこも危険な地と言っている気がする。
そんなんで信用落ちないのかな、と内心思った私を置いて話は先へと進んでいった。





「高い山と深い森に阻まれていて、陸路の接近は不可能です」
「姿は見えども近付けず…だから蜃気楼の宮殿、ってね」
「…行けたとしても今の僕達じゃ歯が立たないでしょう」





立ち上がり、今にも飛び出して行きそうだったセネルは
その言葉を聞いて残念そうに腰を落とす。





「大丈夫大丈夫!」





そう言って肩を叩き笑ってみせれば、セネルは一瞬きょとんと目を丸くし
そしていつもの、呆れているようで優しい笑顔を見せた。





「根拠もないのに良く言えるな」
「あるよ?『セネルとシャーリィだから』」





「それで充分じゃん?」と歯を見せ笑う私に
セネルはクスリと微笑み「そうだな」と言って私の頭をぽん、と撫でてくれた。





「では先程見た光景について話しましょうか」





話題を変え、皆の注目を集めたのはまたしてもジェイ。





「水の民が故郷を捨てた余程の理由とは、戦争の事だったんだな…」
「人類との戦いに敗れ大陸を追われた…か」





ジェイはそこで一度言葉を切り、ゆっくりと息を吸うと会話を続ける。





「煌髪人にしてみればヴァーツラフの件も等しく、人類全体の罪なのかもしれませんね」





私達が口にしにくい事をサラッと言葉にするジェイは
既に真実と向き合う準備が出来ているようだった。





「そげな考え方されたら何も言えんじゃろが」
「そのくらい、種族戦争は厄介なんですよ」





口を尖らせるモーゼスに甘いと言わんばかりに言葉を突き刺すジェイ。

ジェイは誰よりも早く水の民との戦いを予測し、
頭の中で勝算を導きだそうとしている。

いつもよりも一層真剣な彼の姿を見ていれば、嫌でも分かった。





「まだ戦うわけじゃないのに…」
「常に最悪の事態を考えるのは当然でしょう」
「…それに、暗い」
「この話をどう明るく話せと言うんですか?」





場違いな発言をしているのは私の方だって分かってる。
現にジェイの声色はあからさまに変わり、不機嫌オーラ丸出しだった。





「別にそんな事話さなくたって良いよ!セネルだって肩身狭いし!」
「それ、フォローになってませんよ」





「あ、」と口に手を当てた時には既に遅く。
チラとセネルを見ると、笑いを堪え切れずクッと肩を揺らしてる。

余りにも私がストレートすぎたからか、当の本人は全く気にしていないようだ。





「とにかく!この話はここで終わりー!」
「いや、あまり良くない気が…」
「次知りたい事は『戦争の起きた理由』!それが分かったならオッケーって事で!」
「どうしてそんなに気楽に考えられるんだか…あなたの頭の中が知りたいですよ」
「ジェイとウィルは真剣に考えすぎなんだよ!だから場が暗くなるの!」
さんはもう少し真剣になった方が良いと思います」





ウィルとジェイはほぼ同時に重たい溜め息を吐く。
それが私に向かってだと言うのは、重々分かっていた。

呆れられると分かっていても、
やっぱりこの重苦しい空気には耐えられない。





の言う通りだ」
「クーリッジ…?」
「戦争が起きた理由を知ってお互いが歩み寄ろうとすれば、絶対にシャーリィは戻ってくれる」





私の言葉に何十倍もの説得力をつけてくれたのはセネルだった。

皆きょとんとしながらも、次には「なるほど」と深く頷いてる。
やっぱり私には何かを説明すると言う能力がないみたいだ。





「ん〜確かにそれも一理あるね」
「心配すんなセの字!今はケンカしていようときっと仲直り出来る」





モーゼスは笑う。





「なんてったって、かぞぐはぁ!!





言いかけていた言葉はきっと「家族だからのう」だろう。

しかしモーゼスがそれを言う前に
気が付けば自らの拳がその腹目掛けて飛んでいた。

衝撃に耐えれなかったモーゼスはその場に倒れ、
「んのおお」と何とも言えない悲痛な声を上げている。

他の皆は拳を握り立ち尽くす私をぽかんと口を開け見つめていた。





「…どったの?
「え、いや…何て言うか…」





“家族”って凄く良い言葉だと思うけど。
私はその言葉を聞く度にジェイが苦しそうな表情をするのを知っていたから。





「あ、あはは…」





とは言えず、乾いた笑いを零せばまた大きな溜め息が耳に届く。





「まあ、うるさい人が減りましたし良いでしょう」





話の流れを変えてくれたジェイに心の内で感謝した。

気絶状態のモーゼスに「ごめん」と小さく謝り、私は再び自分の位置へと戻る。
それを見計らってか、ジェイはまた真剣な目つきで話を再開させた。





「それにしても…さんにしては頭の回転が早いですね」
「え、何が?」
「理由を知る事で戦争を止められる、と言う発想がですよ」
「そ、そうかな…?」
「貴女はいつも、ここぞと言う時に何かを確信している」





ジェイは睨むように私を見る。
私はただ口角を引き攣らせる事しか出来なかった。





「種族戦争に興味がない所を見ると、まるで他の事を知りたいと思っているかのようです」
「ま、まさか」





刺すような言葉から逃げるよう目を泳がせる私にジェイは眉を顰めた。

だが、いつまで経ってもそれ以上追及される事はない。

沈黙が続き、恐る恐る視線を戻せば
皆はバラバラの場所を見つめていた。





「…頭に映像が…」
「次の場所のようだな」
「また私達を見ている誰かの導き…と言うわけか…」





セネル、ウィル、クロエの言葉を聞いて
私も何となくの状況を理解する。

多分、滄我が皆に次に行くべき場所を見せたんだ。





「…その誰かの正体、僕には何となく分かった気がします」
「誰だ?」
「……今は言いません」
「なんじゃい」
「我ながら、信じがたい答えなので」





既に私と話していた事等どうでも良くなったのか、
ジェイは遥か遠くまで続く海を見、沈黙を流す。

私もつられるよう、目前に広がる海を見つめた。

太陽の出ていない夜の海は、何だか少し怖い。
青い海は黒に染まり、その先はまるでこの地じゃないとこに繋がってそう。

静かに音を立てる波、月の光に反射しキラリと輝く水面。
小さな光は、まるで夜の空に浮かぶ星のようだった。

海が意志を持っているなど、誰だって信じ難い。
だけどこの静かな海だからこそ、意志を持っていても不思議ではないと感じた。





「今日はここらへんにしとこう」





ハッと我に返り、慌てて振り返れば
皆は各自、その場で明日に備えての準備をしている。





「人類と煌髪人が憎み合う理由、知る覚悟は出来ていますね?…セネルさん」
「…当然だろ」
「結構」





短く返事をしたセネルに、更に短い言葉を返すジェイ。
二人の間に段々と溝が出来ているのは誰が見ても分かっただろう。

だけど、私も限界だった。
気が付いたらまた、今まで感じた事ないくらいの強い睡魔に襲われる。

でも今日は会話に参加出来たし
火のモニュメントの時よりも疲れていなかったのかと思うと安心した。

それだけで明日も頑張ろう、と言う気になれる。

私も、真実を知る覚悟をしなきゃ―――…。










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修正:11/12/12