シリンダーの中を昇る泡を見る。
今日はいつもより仕掛けを解く手が遅く、重かった。

まるで、真実を知るのを嫌がっているみたい。


目の前には四つ目の光。


今まで通り、皆は黙って頷く。

それを合図にセネルとクロエがその光に触れれば
私はまた、あの暗闇へと導かれた。















「その後メルネスは消えた…でも、私は醜い姿のまま…」





いつもより弱々しく、だけども強いペンの音。
音に導かれ、私はゆっくりと目を開く。





「…大沈下が終わった後の話…?」

「大陸の全てを残せなかった時点で私の結末は決まっていた…」





また、一点に灯りがついている。

この前よりも見える範囲は広がっていて、顔以外はほとんど見えた。
でもその人が女性なのか男性なのかは分からない。
何となく、雰囲気や一人称で女性なのかなと予想する。





「っ…」





どうしてこんな事が出来るんだろう、と過去の陸の民に吐き気がした。

肩、肘、胸の下。
全ての間接は抉られたように細く、その先にあるはずの肌は傷だらけ。

皮が剥がれ肉が裂け、傷とは言い難いその空洞には荒く縫われた跡がある。

皮膚は所々機械のような物に擦りかえられていて、
その奥から茶色い、オイルのような液体が溢れていて。





「…何で…」





ここまで、彼女は耐えられたのか。
何でここまで、人は人を傷付けられるのか。





「もう…使い道のない人形だ」

「抗う事も、出来ない」

「辛い…苦しい…」

「どうしてこんな、事になって…」





「一体今まで、何して、たの…」





ポツリと、紙の上に涙らしき液体が落ちてジワリと黒のインクを滲ませた。





「…醜くないよ…」





何を言っても返事がないのは分かっている。
所詮これは幻なのだから。





「大陸半分、残してくれてありがとう」

「…まだ、生きれるよ…ここまで耐えれたんだから…」





その金属部分さえ隠してしまえば、きっと人間同様。
常時厚着なのは辛い事だと思うけど、それさえ我慢出来れば人間と同じ生活が送れる。

ここまで耐えられたんだから、暑さなんか軽く我慢出来るはずだ。





「…」





そうは思った。
でも私は、心の中で思ってはいけない事を考えてしまった。

本当にこの人は、元は人間だったのだろうかと―――…。















!」
「っ!?」





名前を呼ばれハッと我に返ると、目の前にはゲートがいる。

いつもと同じパターンで目が覚めた。
だけどまだ頭がくらくらして、カリカリとペンを動かす音が聞こえる。

…何だか、凄く近くまで向こうが来ているみたい。





、平気か!?」
「、え」
「ボサッとするな!気をつけろ!」
「う、うん」





私達を襲うのは、この場所特有のゲートだ。

体全体に電流が走っていて、鱗はキツイ黄色。
炎が火傷、氷が凍傷なら、ここにいるゲートに触れれば感電してしまうだろう。

それは、分かってる。





…―――一体今まで、何して、たの…。





でも、頭の声が消えない。





…―――遅い。

「な、に…」





こんな声、聞いた事ない。
ペンを動かす音も聞こえない。





…―――遅い。

…―――遅いよ















…――― 破壊の少女 ―――…















!!」





突如体を走る痛みに、跳ねる。




「ッ痛…!」





ゲートの尾に薙ぎ払われた衝撃より、聞こえた声に頭が割れそうだった。

撃ち付けられた体は瞬間呼吸を忘れ
やっとの事で出て来た声は体の痛みを訴える小さなもの。

呼吸をする度、痛みが走る。
そして今、確信した。





…―――遅いよ。

…――― 破壊の少女 ―――…





あの声、間違いない。
私をこの世界に呼び出して、私の事を散々“破壊の少女”と呼んでいたアイツ。

…アイツが、破壊の少女。

アイツが、酷く痛く、苦しい想いをした。
…私を邪魔していたアイツが、世界を半分も、守ってくれた…?





「何をしている!」
「あ…ご、ごめ…」
「ボサッとするなと言っただろう!!」
「ごめん…なさい」
「謝る前に見せてみろ!」





何処が痛いかも分からない私の体を見て
ウィルは即座に傷の場所を見つけた。

右の腰から焦げ臭い匂いがする。
焼けた衣服の下にある私の肌は焼け爛れ、小さな電流が走っていた。





「…ウィル、ゲートは?」
「お前がボサッとしている間にセネルが倒した」
「そうじゃないよ…」





私の肌を触るウィルの手にも電流が伝わっている。
でもウィルは私から絶対に手を離さないし、ブレスを止めようともしなかった。





「?何が言いたい」
「だって、いつもならゲートの観察してる」
「…」
「消える前に、たくさん見ておかないと…って痛!」
「お前は俺を馬鹿にしてるのか」





頭に落ちたゲンコツは、腰の火傷よりも痛くて涙が出た。

潤む瞳でウィルを見れば、ウィルは私の事をキッと強く睨んでる。
私に向けているその瞳は怒気を帯びていて、怖いと感じた。





「ゲートよりも、今はお前だろう」





「惜しいが」、と付け加えるとウィルは目を閉じてより一層強い治癒術を唱える。





「女の子がこんな所に跡をつけたら大変だろう」
「…」
「火傷の跡を見て凹むお前が目に見えたよ」
「い、言わないよ…自分のせいだし」





思った以上に心配をされている事に、何だか目頭が熱くなる。





「ほら、良くなったぞ」





そう言って自らの手をどかしたウィルの瞳にはもう怒気はなく、
私以上に安堵した表情を見せていた。





「あ、ありがと…!」
「これに懲りたならもう無理はするな」
「分かっ―――…」





「た」、と繋げようとした瞬間
再び強い光が私達を包み込み、ウィルの姿は視界から消えた。















…―――あれは何だ?

…―――流れ星が落ちてきたぞ…!

…―――…いいえ、あれは船……

…―――白くて大きな船よ…!!















「……」





光が消えると同時に、視界に入ってきたのは雷のモニュメントの入り口。





「海と流れ星と水柱…最後になって情報が繋がりましたね」
「俄かに信じがたいな…・」





ウィルの意見に皆は一つ頷く。

私はと言えば、ただただ動揺していた。
いつもならこの瞬間も、私の知らない言葉が出てくるはずなのに。

初めて皆と同じ言葉を聞けたのに、何だか心の靄が晴れてくれない。





「また碑版が…」
「流れ星…白くて大きな船が落ちてくる瞬間ですね」





セネルが持ち上げた碑版をジェイは覗き込み
光の中で聞こえた会話を整理するよう言葉を口にした。





「話はベースキャンプに戻ってからだ」
「そうしよそうしよ〜…もう疲れちゃったよ…」





「お先〜」とヒラヒラ手を動かし、だるそうに先を行くノーマを見
ウィルは一つ溜め息を吐いて後を追う。





「…さん」





私も行こう、そう思い足を動かそうとした時
控えめなジェイの声が私の背中に投げかけられる。

まるで誰にも聞こえないようにと、細心の注意を払っているみたい。





「後で、お話があります」
「…奇遇、私も」





私の返事が意外な物だったのか、ジェイは目を見開いて驚いていた。

でもすぐに目を細め、真剣な表情を私に向ける。
余りにも真剣すぎて、まるで睨まれているように感じた。





「…では、今日の事をまとめ終わったらお互いの話をしましょう」
「分かった」





「ありがと」、と付け加えるとジェイは「別に」と短く区切り、
私の横を通り過ぎていく。

分からないもやもやが溜まりに溜まって
上手く笑う事が出来ず、どうやって仲間に接していたかも朧げだ。





「…いつも通りにしなきゃ」





そこにどんな真実があっても、絶対に。

ベースキャンプに着くと、いつものように海が私を眠りへ誘う。
緊張の糸がプツンと切れたと同時、思考回路も停止した。










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修正:11/12/13