目が覚めたら夜。
そしていつものように焚火を囲み皆が座る。





「ではいつものように先程見た光景を振り返りましょう」





重苦しい空気の中、初めに言葉を口にしたのはジェイだった。
敢えて話す事を避けていた人もいただろうけど、重たい首をゆっくりと縦に動かす。





「煌髪人は別の世界からやってきた異種族というわけか…?」





次に言葉を発したのはウィルだった。

正確にはそれも真実ではない。
でも、今の時点で私がそれを言うのもおかしい。

私はただ黙って話の流れを追っていた。





「しかし、信じろと言われても突拍子がなさすぎて…」
「…でもさ」





遠慮がちに紡がれた言葉の続きを待つように、皆はノーマをじっと見る。





「良く良く考えると、煌髪人とあたし等って大分違うんだよね」





「髪光るし、水中では息出来るし…しまいにはテルクェス出して空も飛べちゃうしさ」、
そう言葉を続けたノーマ本人も、何だか申し訳なさそうだった。

反論出来る者は一人もいない。
だがハッキリと肯定をする者もいなかった。





「煌髪人は僕達と違う種族…その事をじっくりと考えるべきです」
「…やけに違うを強調するんだな」
「それが誰かの考えでもあると、僕は言いたいんですよ」





不機嫌な声を上げたセネルはジェイの返しに驚き目を見開いた。





「思い返して下さい。僕達が知りたいと願ったのは、人間と煌髪人の憎しみ合う理由です」
「んで、あの光景ね〜…」
「誰かが言いたいのは人類と煌髪人が余りに違うと言う事ではないでしょうか」





ジェイの言葉には説得力がありすぎる。
だからこそ、信じたくないと頑なにセネルは唇を噛み締めた。





「和解すんのは無理って言いたいんか」
「…冗談じゃない」





勿論、ジェイの言葉に不快感を持っているのはセネルだけじゃない。
モーゼスは頭ごなしに何でもマイナス方向に決め付けるジェイが気に食わないらしい。

だけど二人の根拠のない反論に、ジェイは呆れた視線を向けていた。





「煌髪人が僕達の敵と言う事は彼等自身も明言している」
「…」
「事態は切迫しているんですよ」





鋭く冷たい言葉に二人は凍りつく。
二人だけじゃなく、他の皆も緊張からか顔を強張らせていた。





「煌髪人が異世界から来たと知って僕は正直怖いと思いました」





ピクリ、と無意識の内に指先が震えた。

…異世界…。





「得体が知れないと言っても良い」





得体の、知れない…。
異世界から来た、人間。





「ちょっと、ジェージェー!」
「何です…か…」





声を荒げるノーマに、ジェイは冷静に返事をしていた。

だけど言葉は後になるにつれ歯切れが悪く、小さくなり
その瞳は私を見て驚き見開かれる。

俯く私の予想ではあるが、何となく場の空気で理解出来た。
空気を読めるようになったなんて、私も成長したものだ。





…さん」
「ん?」
「…、今の…」
「あ、ごめん。聞いてなかったー」





あは、と声を出して笑う。
ジェイは更に目を見開いて、私から顔を反らすと小さく舌打ちをした。

その行動の真意は分からないけど、何度も謝られるよりはこれで良い。

私だって、もし自分の世界に『異世界から来ました』と喋る人がいたら
まず疑うだろうし、得体が知れないと思っても不思議ではないんだから。





「…水の民が何処から来ようか関係ない」
「…セネルさんにとってはそうでしょうね」





場を和ませようとした笑みも無意味に終わり
再びセネルとジェイの言い争いが始まる。





「皆さんはどうなんです?セネルさんが言う程度で済まされる問題ですか?」
「ッそれは…!」
「案外心の中では僕と同じように思っているのでは?」
「ジェー坊、ヤメェ!!」





セネルを庇うように立ち上がったクロエは言葉を詰まらせ
反論の言葉が見つからないモーゼスは、我武者羅に声を張り上げる。

パチパチと木が燃える音と、静かな波の音だけが聞こえ
一度大きく息を吸えば、海の香りに意識がしっかりとした。




「…滄我」





ポツリ、と呟いた私の声は沈黙の中で良く響いた。
そしてそれに応えるよう、波は一際大きな音を立てる。





「…やっぱり、貴女は分かっていたんですね」
「今気付いたの。でも説明はきっとジェイの方が上手いよ」





「そろそろ言おうと思ってたでしょ?」、と付け加えればジェイは私に沈黙を返す。

「彼も、言って良いって言ってる」、と波の音に耳を傾ければ
疑わしい、とジェイは目を細めた。

話の流れを理解していない皆は
私達が何を語っているのか不思議そうに首を傾けている。

そんな空気に先に耐え切れなくなったのはジェイだ。

大きな溜め息を吐くと仕切り直すように皆を見て、海を見る。
そして閉ざしていた口をゆっくりと開き、言葉を紡いだ。





「“誰か”の正体ですが…初めて来た時、何をしようとしたか覚えてます?」
「…滄我とは何かを突き止めようとした、だな」
「その通りです」





顎に手を当て言葉を零すウィルに皆は強く頷き、ジェイも頷く。
そして私も、一度だけゆっくりと頷いた。





「ではその滄我に関して現状分かっている事は?」
「メルネスは滄我の代行者…って事くらいしか…」
「シャーリィさんはご自分の事を『滄我の声を聞く者』と言いました」
「煌髪人は滄我の意志に従い人類を粛清しようとしている…というのもだな」





シャーリィの言葉、今まで見た映像、体験した過去を辿り
皆それぞれ、分かっている事を改めて口に出す。





「それって…あたし等の言ってる誰かと似てる」
「僕達を導いている誰かと煌髪人にとっての滄我。この二つは似ているんです」
「っちゅうことは何じゃ。誰かっちゅうんは…滄我なんか?」
「この静の大地の…打ち捨てられた地の、ですね」





ジワリジワリと真実を紐解き、分からない事を一つずつ消化していく。
だけどもどうしても、皆には分からない所があった。





「誰かの正体が滄我なのは分かったけど…結局、滄我って誰なわけ?」





しばらく唸り考えていたノーマもお手上げと言わんばかりに声を上げる。
ジェイはフッと視線を反らし、言葉の代わりにある一点を指差した。

指差した先には、広大な海。

私達を包むように優しく波音を立て、また戒めるように強く揺れる。





「滄我とは、海の意志…海そのものです」





その声に応えるよう、波はまた大きく揺れた。





「普遍的とも言える存在感。圧倒的とも言える影響力。
 更に水の民である煌髪人が拠り所にする何か…」


「逆に、海以外で彼等が絶対的信頼をおくものがないんですよ」





俄かに信じ難いと言う皆の表情は変わらない。
だけどジェイの言葉に嘘と思える部分はなく、またそれは全てが本当だった。





「…リッちゃん、代行者って事は海の意志が聞こえるって事…?」
「ええ…そして、シャーリィさんはその滄我を使って何かをやろうとしている」
「私達人類の粛清…か」
「静かの大地の滄我はそれに危機感を感じ、ここに僕達を導いた」





すう、と大きく息を吸い込むと
ジェイは海の向こうまで届く程の大声を上げた。





「この声を聞いているはずの誰かよ!もし僕の答えが合っているなら教えて欲しい!」





その声、言葉に迷いはない。





「煌髪人が一体、何をしようとしているのかを!!」





辺りに響いた波音は強く、そしてとても優しかった。
流れる沈黙を寂しいとは感じさせない強い包容力。

でも、私には一つ分からない事があった。

何で私は、滄我が皆に見せているはずのモニュメントの映像が見えていないのか、とか。
もしかして私だけ歓迎されていないんじゃないか、とか。

私の心の中にポツポツと浮かぶそんな疑問に
滄我は敢えてなのか、答えてはくれなかった。





「…どうやら、次が大詰めになりそうですね」





長い沈黙を破ったのはジェイだった。

多分、皆の頭の中ではハッキリと次に行くモニュメントの場所が見えたのだろう。
仲間外れだ、と小さく頬を膨らませる私の姿に皆は疑問を抱く余裕はない。





「逃げないで下さいよ、セネルさん」
「…」
「…―――真実を見極めるんでしょう?」





人を刺すような冷たい声、瞳でジェイはセネルに言葉を投げる。

「誰が逃げるか」、と言いジェイを睨み返すセネルとの間には
何とも言えない、見ているだけで苦しくなりそうな空気が漂っていた。





「…さん」
「うん」





ジェイは誰にも分からないくらいの小さな溜め息を吐く。

「大丈夫」とセネルを励ます一部の仲間から目を背けて
小さく舌打ちしたのも、私は見ていた。

だけどジェイはそんな不安や本音を誰にも言わず
スッと表情を変え、私に声を掛ける。





「行こ」





スカートについた砂を落とし、私はジェイの手を引き皆の輪から離れる。

見開かれた紫色の瞳には私の落ち着いた笑顔が映っていて
何だか自分じゃない人が自分の中にいるようで、それが凄く、怖かった。










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修正:11/12/13