「…や、やだな〜…何言ってるの…?」





声が、上擦ってる。
そんなノーマの声、初めて聞いた。





「思い込みが激しいですよ」





何かを誤魔化そうと必死に笑顔を取り繕うノーマと違い
ジェイはその瞳を反らす事なく、私に言葉を投げつけた。





「アレはあくまで一つのモノを改造し出来上がったものです」
「ジェー坊…話して、ええんか?」
「もう教えた後ですよ」





「それでも知られたくなければ、僕を殺せば良い」、
ジェイはいつも以上に冷たく鋭い声でそう紡ぐ。

モーゼスはそれ以上何かを言う事もなかったし
他の仲間たちも口を挟もうとはしなかった。

…何、これ。
私だけが、仲間外れみたいな…嫌な空気。





「メルネスのように受け継がれるものではないのです」
「…」
「血の繋がりも性別も関係ない、破壊の少女はこの世…この歴史で一人しか存在していないんですよ」
「……」
「…さんが数千年も生きていたと言うなら話は別ですが」





そんな事、ある訳がない。
私を含め、ここにいる皆がそう思っただろう。

「あ、じゃあ勘違いっか」、それで終わればどれだけ良かっただろう。

…違う、違うよ。
勘違いなんかじゃ終わらない。





「…じゃあ、何で…」
…?」





セネルは「良く聞こえない」と言うように私の名を呼ぶ。
でも、声を大きくしようとしても、これ以上は大きくならなかった。





「何で、私を“破壊の少女”って呼ぶの…?」





胸が、苦しい。





「何で普通の爪術が使えないの…?何で治癒術を使うと手が痛むの…?」





声を出す度、心臓が絞まって、震えて。





「どうして、私だけ見てる物が違うの…?どうして、声が聞こえるの?」





苦しくて、何とかしなきゃって思って空気を吸い込むのに
体は私に生きる価値がないと言うように、酸素をこれ以上受け入れない。





「何で、この世界に私の世界の文字があったの…?」

「あの本も、ここの石碑も…知ってる文字だよ」





驚き目を見開く仲間の姿は、もう霞んで良く見えなかった。
最も、もう顔を上げて目を合わす事なんて出来ない。





「“デストロイヤー”って“破壊する者”だって…私、ジェイに言ったよね?」

「その言葉の前についてたもの…覚えてる…?」

「次の、だよ…次の破壊する者、だよ…」





「何で…ねえ、どうしてよ…」





苦しくて、苦しくて、涙が出た。

それは真実を知った私の意思なのか
内にいる破壊の少女の気持ちなのか、分からなった。

ただ、悲しいとか寂しいじゃなくて
どう足掻いても理解されないこの気持ちを
どう伝えて良いか分からない、惨めな自分への涙なのかもしれない。





「大沈下を起こしたのは、メルネスだよ」





私の発言に、皆はまた驚き目を見開く。
ただ、それでも黙ってるだけ。

私に掛ける言葉なんて、もうないと言わんばかりに。





「それを止める為に、陸の民が新しい兵器を作ったんだよ…」
「…貴女、どうしてそこまで…」
「必死に痛いのを我慢して、どんな事でも受け入れて…」





「全て消えるはずだった世界を、半分も残してくれたのに…」





突然の話に、皆はちゃんと追いついてきてくれているだろうか。
ちゃんと、分かってくれるだろうか。





「ッなのに…!」





伝わって欲しい。





「世界を壊したのは、破壊の少女のせいになってる…!!」





私が言わなきゃ、この子の辛い気持ちを誰も分かってくれない。





「メルネスは死んだ…けど、その子は生きてる…!」

「だから、世界が半分になったのはお前の力不足だって…!!」





言葉はもう止まらず、選んでいる余裕もなかった。





「ッ悪いのは、少なくともアンタ等が思ってる破壊の少女じゃない…!!」





勢いで、下がっていた顔が無意識に上がった。
だけど、顔を上げたら分かってしまった。

皆が私を、どんな目で見ていたかが。





「…行きましょう」





ジェイの言葉は、私の言葉に対する返事ではない。





さんがアレに加担するのは良く分かりました」
「ッ…」
「でも僕達が知りたいのは、今メルネスが何をやろうとしているかです」





ジェイの声はいつも以上に鋭く私の胸に突き刺さる。

その言葉にいつもならノーマやモーゼスが反論してくれるのに
今に限っては、ただ拳を作り私とジェイを交互に見るだけ。





さんの言っている事が正しければ、次の光で大沈下が起きると言う事が分かるんでしょう?」
「…うん」
「なら最後まで進まなくてはいけない」





ジェイはそう言うと私の背中を押す。
それは優しく、と言うよりはむしろ逆だった。

ヨロヨロと前に進む私の背中に皆の視線が突き刺さってくるのがすぐに分かった。





「貴女、最後にその“女の子”が何をしているのか見ていないじゃないですか」
「…」
「僕達が真実を知るのがまだのように、貴女だって真実を知っていない」





もう一度ジェイは私の背中に触れる。

触れるだけのその手は
私を想っての優しさか、それとも腫れ物を気にしているだけなのか。





「扉、開けてください」
「…うん…」
「貴女が開けなくちゃ意味がない」





背中に触れていたぬくもりはアッサリと離れた。

瞬間不安と安堵が入り混じり、心臓は余計五月蝿く鳴って
叫び泣き出したい気持ちを喉を締めて堪える。

涙を拭い私は目の前の扉へと向かった。

ガシャン、と重たい音と同時に扉は開き
一歩進めばその扉は皆を置いて、いや、私を皆から置いて閉まった。

まるで心を隔てている、厚く高い壁のように。















「励ますならもうちょい優しくやればいいのに」





少女がその場からいなくなり、黙る事数秒。
先に声を上げたのはノーマだった。





「…ノーマさんはさんがアレだとしたら、優しく出来るんですか?」
「それは…分かんない、けど…」
「現にさんの言ってる事は全部当たってるんです」





歯切れの悪い返事をするノーマは、慌ててジェイから視線を反らす。





「この世界に彼女の世界の言葉がある事も不思議ですし」
「で、でも証拠はないんだからさ…」





証拠が出ていないと、現実から目を背けノーマはその言葉に頼った。
だがジェイはその言葉が次に何処で崩壊し、何処で判明するかを知っている。





「なら、次見えるものが大沈下の瞬間だったら…どうします?」





ジェイの冷たい、刃のような言葉は全員の胸へと突き刺さった。





「彼女の言った事が全て当たっていたらどうします?」
「止めろよ」
「…」
「良い加減にしろよ…ジェイ」





セネルは唇を噛み締め、怒気の篭った瞳でジェイを見る。





「お前、今までの何を見てきたんだよ…!」





これが敵同士であればすぐにでも殴りかかっているだろうセネルに
ジェイはただ冷ややかな視線を返す。

そして、セネルを嘲笑うかのように唇で弧を描いた。





「どうしてそれを、さっき言ってあげなかったんです?」
「、なっ…」
「本人に聞かせてあげれば、どれだけ安心した事か」
「ッ…それは…」
「…恋だの愛だの、いらない感情に支配されてるからそうなるんです」





「中途半端な優しさを振り撒けば、つけこまれて殺されるかもしれないのに」





ジェイはセネルを卑下するように言葉を続けた。
危機感が余りにもないセネルを、下等だと言わんばかりに。





「あれ、もう言わないんですか?“一体の何を見てきた”って」
「、…」
「…それが正解ですよ。相手はあの“破壊の少女”なんですから」





自らの感情すら否定されたセネルの顔には
怒気とは別に、悔しさが浮き上がる。

握り続けた拳を振り解く事も出来ず
ただ地面を見つめ小さく「くそ、」と呟くだけ。

そんなセネルの姿に小さく溜め息を吐くと
ジェイは周りで固唾を呑み見つめる仲間達にも目を向けた。





「別に僕は彼女を殺そうとは思っていませんよ」

「…」

「大沈下を起こしたのがメルネスだとしたら、
 “対抗する為に作られた”と言う部分だって本当でしょうし」

「俺等の知っている仮定は作り話になる…という訳だな」

「なら、何でそんな言い方するんだ…!」






ジェイの矛盾にセネルは吐き出すよう言葉をぶつける。

ジェイはセネルの方を見るとゆっくりと目を伏せ、上げた。
唇を噛み締め、感情の波に逆らいながら。





「…さっきも言いました。破壊の少女はメルネスのように時世がある訳ではないと」
「なら、それで良いだろ!破壊の少女じゃないなら、を責める理由はない!」
「ッ頭の回らない人ですね…!」





冷静なジェイの姿は、既にない。
先程とは違う瞳をセネルに向ける。

怒気とかでは済まされない、殺気にも似た瞳は
セネルに向けられたものと言うには少し違く
自らの不甲斐なさを恨む色に似ていた。





「じゃあ何でさんは自分の事をアレと一緒だって言うんですか!?」
「ッ…!」
「次に僕達が見るものが大沈下だとしたら、彼女が言う事は全て本当になる…!」















シリンダーを全て起動し、皆がいる部屋の前に戻る。
扉の奥から聞こえてきたのは、ジェイの怒鳴り声だった。

厚いと思っていた壁が案外薄かったのか。
それともジェイの声が大きすぎるのか。

話している内容は篭っていて聞こえないけど、尋常じゃない状態と言うのは良く分かる。





「数千年も前の話だって、さっきも言いましたよね?人間は数千年も生きてはいけない…」
「っそれは…」
「ハッキリ言って、次見える物が大沈下の瞬間だろうと、そうでなかろうと…」





「…―――自らをそう名乗る人間自体、気味が悪い事には変わりないんですよ…!!」





ビク、と体が跳ねる。
奥へ進むにあたって持っていた護身用の短剣が、音を立てて地に落ちた。

私の意思とは関係なく、大きな音を立てながら扉は開き、
セネル達との間に出来た壁を取り払う。

向けられた驚きの瞳に、皆との距離が良く分かった気がする。





「あ…」





聞こえた。
聞こえてしまった。

一番聞きたくなかった言葉を、また、ジェイから。





「…全部、装置…起動し終わったから…」
「…行きましょう」





いつものように笑わなきゃって、口の端を持ち上げた。

だけど鞘に掛けられたクロエの手が、ストローを持つノーマの白くなった爪が
視界の端でチラついて、目頭がジワリと熱を帯びて、自分を保てなくなりそうだった。

「助かります」、「遅いですよ」と言った言葉はない。
ジェイは俯き私と目を合わせる事を避け横を通り抜ける。

そのポケットの中で何を握ってるの?なんて
分かっているからこそ聞けなかった。





「……ありがとう」





通り過ぎる仲間達の中で、唯一私に声を掛けたのはセネルだった。

私がいつも聞いていた声とは程遠い。

初めて会った時、私の事を邪魔だと言った声色に良く似ているって、本人は気付いてるのかな。
…それが無意識であっても、私はなんて返せば良いか、分からない。





ちゃん」
「…うん」
ちゃん…」
「なに…?」





正面で私の名前を呼ぶグリューネさんの声は
悲しみの色に満ちていて、でも温かくて。





「大丈夫」





強張る体を柔らかい体温で解すよう、
グリューネさんは私の背中を摩ってくれる。





「元気出して、ちゃん」





体全体を包むグリューネさんの香りにジワリと涙が溢れた。

服に涙と言う小さな染みが出来ると
グリューネさんはもう一度、優しく「大丈夫」と奏でる。

私はこの体に、優しさに甘えて良いかも分からなくて
手を回す事が出来なかった。

本当は、回して全てを吐き出したかったのに。





「ありがとう…グリューネさん」
「ええ」
「…グリューネさんは、怖くないんだね」
「…ええ」





「貴女は昔から優しい子だもの…」





深く深く、私を抱き締めてくれるグリューネさんのぬくもりは
何処か別の世界にいるような心地良さがある。

いっそ、このまま離れられればどれだけ良いだろうと
あれだけ来たかったゲームの世界を呪うのは初めてだった。















「クソッ…!」





捨てる場所すら見つからない怒りを口から吐き出し、舌打ちをする。

あからさまに不安定な姿を見せるジェイに皆は動揺した。

誰よりも冷静に事を見抜き、行動してきたジェイが
今は震える拳を壁に叩きつけ、ギリ、と強く唇を噛み締めている。





「何なんだよ…!」
「ジェイ、どうした…?」
「…ッ…」
「…ジェージェー?」
「…何でもないです、立ち止まってすみません」





荒い息を一つ零すと、拳を下ろしジェイは奥へと進む。

背中から滲み出る空気も、胸の内に隠した本当の想いも
誰もがいつもと違う、と気付いたが
敢えてそれを口にし聞き出そうとする者はいなかった。





…訳が、分からない。

彼女の事を“気味悪い”と、そう口にしたのは僕自身なのに。
何故、そこまで分かっているのに。

この刃を向けられないのか、分からない。










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修正:11/12/13