「聞きたい事はたくさんあるんだ」
空気がガラリと変わった気がする。
皆も滄我を目の前にし自らの意思を示した時
こんな空気を感じ取っていたのだろうか。
でも、不思議と恐怖はない。
「この世界に呼んだのは、誰?」
…―――破壊の少女だ。
「この世界に来た時、私の頭に語りかけてきたのは?」
…―――我ではない。恐らく、破壊の少女だ。
滄我は私の言葉をしっかりと受け止め、私が欲しかった回答をくれる。
「…ここに呼び出された理由、初めは分からなかったけど
何となく今は“破壊の少女の人に対する恨み”が原因なのかなって、そんな気がするんだ」
…―――……。
「きっと私は、破壊の少女と直接の関係はない。
たまたま破壊の少女が私を見つけて、たまたま呼び出されたんだろうなって、そう思うんだ」
…―――…。
「…これって、きっと合ってるよね?」
…―――…汝の言葉に、間違いはない。
モニュメントで見た映像から推測した全てを滄我に話す。
推測が真実だと分かり、一つ頷いた。
先程まで「何で自分ばっかり」と考えていたのに、今は驚くくらい落ち着いている。
これもきっと、滄我が奏でる波の音のお陰なのだろう。
「…でも、一個だけ分からない」
…―――…。
「ステラを助けに、艦橋に行った時の事だよ。
水の民を憎む破壊の少女が、滄我砲のエネルギーになった」
「滄我砲は人類を滅ぼす為の兵器なのに、
元は人類だった破壊の少女がどうしてエネルギーになったの?」
「破壊の少女が滅ぼしたいのは、水の民であるはずなのに」
…―――否。
…―――破壊の少女が恨んでいるのは、人類全体だ。
…―――滅ぼす順番に後先もない。彼女の恨みは世界なのだから。
滄我の説明を聞いて「ああ、そうか」と、納得した。
味方がいなかった少女がこの世界で避けるべき対象はいない。
目の前にいる者は全て敵で、全てが滅ぼすべき物なのだ。
そんな子が自分の中にいて、滄我砲を無理矢理発動させる程に恨みが募っているのだと
考えるだけで恐ろしい事だとゾッとした。
「じゃあ、私が装置に入らなければ、ステラがいなくなる事もなかったのかな…」
…―――…。
「私が、自分から機械に繋がれなければ…」
…―――それも否、だ。
きゅうっと、自らの服を掴む手は滄我の声を聞きビク、とぶれる。
…―――人類を滅ぼせなければ、破壊の少女は水の民を滅ぼす。
…―――即ち、あの場で装置に繋がれていなければ今度は水の民を滅ぼそうとしていただろう。
…―――…メルネスだけでも救えたのは、お前が抵抗したからだ。
「…フォロー、ありがとう」
波の音が、優しく響く。
頭に響く声もまるで本当の人のようだ。
「私、この後どうすれば良い…?」
こんな事、滄我に聞いて良い事なのか分からない。
でも滄我は私の知らない事を全て教えてくれる。
何を聞いても怒らず、私に語りかけてくれるような気がして、つい甘えてしまうのだ。
目の前の、大きな存在に。
…―――今この場では、破壊の少女よりも我の力の方が強い。
…―――ただし、モニュメントの中で我の力は破壊の少女に負けた…それ程奴の邪念が強いと言う事だ。
…―――地上に出てしまえば、もう我の声はお前に届く事はない。
たった一言で私の不安は大きくなる。
今まで何とか抑え込んできた力と、これから先も戦わなきゃいけない。
滄我も、もしかしたら仲間達もいなくなるかもしれないのに。
「じゃあ、意思を乗っ取られないようにすれば良いんだ…」
…―――ああ。
…―――そして、我の力となり、糧となれ。
潮風が、頬をすり抜ける。
そよ風とは違う、いつもよりも強い風。
何処か冷たく、そして暖かい。
「滄我の目的は、大沈下を止める事だよね…?」
…―――全てはお前の言う通り。
…―――我に従え、さもなくば抗え―――…
Obey me , or defy me .
不思議だ。
言われている事は破壊の少女と同じなのに
滄我に力を貸す事には何の迷いもない。
良い奴、悪い奴、そう言った違いじゃなくて
素直に、全てを委ねても良いと思えるのだ。
「…言っとくけど、私は水の民を殺さないよ」
…―――承知している。
「アンタが守る陸の民でも、悪い奴だったらぶっ倒す」
…―――好きにするが良い。
…―――少なくとも、我等が望む世界は、お前が望む世界と同じなのだから。
フワリと、髪が、スカートが宙へ浮く。
自然な風ではない、不思議な力の流れ。
目を閉じ、意識を研ぎ澄ませれば
自分の体の中に何かが流れ込んでくるのを感じた。
海の中にいるような心地良さと、何かに包まれている温かさ。
「…変えるよ、世界を」
“はい”でも“いいえ”でもない、返事は一つの波の音。
だけど滄我と話し合った私には分かる。
滄我は私と同じ目的を持ち、同じ方向を向いている事を。
…―――最後に、お前に治癒術の能力を授ける。
その言葉と共に、自らの掌からポウ…と光が溢れる。
自分の意思とは別に溢れ出る緑色の光に、私は目を細めると首を横へと振った。
「…いらないよ、滄我」
手から溢れていた光は粒子を残し消えていく。
…―――何故。
自分でも、不思議だ。
傷付ける事を怖がり、治癒術に頼ってばかりいた自分が
やっと無償で人を癒す事が出来るのに、それを断るなんて。
「初めは嫌だったけど、今の自分が好きなの」
きっとこれは、本心。
物語を変えれなかった自分も。
真実を知って自暴自棄になっていた自分も。
仲間達と共にこれからも歩んで行きたいと思う自分も。
そして再び、真実を知って歩み出そうとしている自分も。
「治癒術がなくても、一発くらい殴れるしね!」
…―――呼び出す相手を間違えたな、破壊の少女も。
「本当!絶対後悔させてやる!」
…―――ならば仲間と共に行くが良い。大沈下を止める為に。
そうして、海はまた大きく揺れた。
まるで私の背中を押すように。
「…滄我、もう一つだけ教えて」
…―――何事だ。
のんびりしている暇はないと分かっていながらも
私には知らなきゃいけない事がある。
それはこの世界の真実だとか、未来だとかではなく私だけに関係のある事。
「私、いつになったら帰れるの?」
誰に聞いたって分からなかった。
だけど滄我なら、と私は希望に胸をふくらませ言葉を紡ぐ。
…―――呼び出したのは我ではない…破壊の少女だ。
「…」
…―――破壊の少女の欲を満たせば、きっと少女の力で元の世界に戻る事が出来るだろう。
「…それって、人類を滅ぼさなきゃ駄目って事…?そんなの一生帰れないよ…」
…―――ならば別の形で恨みが晴れるのを待つか、根源を叩ききるか、どちらかになるだろう。
「根源って、破壊の少女生きてないのに…」
「そんなの無理」、と思いながらも負けは認めたくない。
きっとこの戦いが終われば世界が変わり、一つの可能性が待っているはず。
ならば私が帰る方法だって見つかるはずだ。
「この戦いが終わるまでは、帰るつもりないんだけどね」
アハ、と笑って見せたけど滄我はただ沈黙を流すだけ。
気難しい性格の人って、本当に笑うの苦手なんだ。
「色々教えてくれてありがとう、滄我」
もう一度笑顔を向ければ、海はまた一つ波を立てる。
それ以降、私が滄我に語りかける事も
滄我が私に語りかけてくる事もなくなり
いつもの私が知っている“海”へと戻った。
大きく息を吸い、吐く。
そして流れる沈黙を破る為、私は海に背を向けた。
「もう一つ、頑張らないと」
七人の仲間が、私と距離を置きこちらを見ている。
だけど声は届くし、顔も見れる範囲であった。
私が望む世界の為に必要な皆。
皆に受け入れてもらえなきゃ、意味がない。
私はゆっくりと息を吸い、そして口を開いた。
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...
修正:11/12/13