「ひゃっふー!!」
ベースキャンプに戻った私がまずした事と言えば
変な奇声を上げ、目に入った人物に飛びつく事だった。
私の目に入ってしまった残念な人は、ジェイ。
「っ何ですかもう…!」
「ジェイー!今まで酷い事ばっか言ってごめんねー!!」
「別に良いですよ!ああ鬱陶しい!」
ぎゅーっと抱きつく私をジェイは避けたりしなかった。
破壊の少女だと知っているのに、私に怯えたりしない。
私を、私として見てくれている。
「やっと信じてくれてたんだね!」
「別に良いでしょうそんな事」
「そんな事って…!」
「では改めて、作戦会議といきましょうか」
ベリ、と引っ付く私を無理矢理剥がすとジェイは私から逃げるように離れていく。
置いてかれた私は尻餅をつきながらもジェイの言葉を頭の中で復唱した。
「さくせんかいぎ…?」
「ああ、今後についてのだ」
ハテナを浮かべる私に答えをくれたのはウィルだ。
なるほど、と数回頷くとバラバラしていた皆がまた中央へと集まってくる。
いつもと同じ、気持ちも離れていない。
皆が皆、同じ目的を持った、良い空気。
「ッよし!どんとこーい!!」
「…一応、さんにも任務があるんですから、ちゃんと聞いて下さいよ」
「え!うそ!」
「静かにする、と言う大事な任務が」
「ああ…そう言う事」
聞いて損した、と肩を落とす私に「それで良いんです」と一言添えてジェイは私の肩を触った。
ちょっと前までは触れる事さえ容易に出来ない状態だったのに、今は彼から触れてくれる。
それが皮肉混じりの行為であっても、嬉しい事に変わりはなかった。
「皆さん、秘密の地下道を覚えているでしょうか?」
ジェイは私を無視し話を進める。
のんびりとした空気がジェイの一言で真剣なものへと変わった。
「あれとよく似た地下道が発見されました。その地下道は船尾近くまで続いているようです」
「んじゃそこをずっと進めばいいって事?」
「でも、もし途中で道が塞がれていたらどうするんだ?」
「ふふ…」
突然笑い出したジェイに皆が驚き目を丸くする。
普段声に出して笑う機会が少ないジェイだからこそ、
その心底面白そうに笑う姿に恐怖すら感じた。
(私だけじゃなくて、皆もそう思ったに違いない)
「皆さん、僕と一緒に昇降機の前まで行きませんか?」
「何かあるんか?」
「あるんですよ。行けば分かります」
ジェイはそう言うと誰よりも先に立ち上がりベースキャンプを出て行く。
残された仲間達は首を傾げた後、黙ってジェイの後をついて行った。
「しょうもない話じゃないじゃろうな」
「物の価値が分かる人は喜ぶはずですよ。ここに立っていて下さい」
ジェイは仲間達に指示を出すと、一人輪から外れる。
とある場所に近付いたジェイは、迷いもなくスイッチを押した。
「何してるの?」と言う間もなく、仕切りに電子音が鳴る。
慣れた手つきでタイピングをするジェイの後ろ姿を
私達は黙って見る事しか出来なかった。
「では、いきますよ」
ニコニコと、普段ならば絶対に見せない笑みを私達に向けて
ジェイはもう一度スイッチを押した。
買ったばかりのおもちゃを動かす子供のような、キラキラと輝く瞳に
何も知らない仲間達はこれから起こる事に身構える。
ジェイがスイッチを押して数秒後、ガコンと大きく地面が揺れた。
ゆっくりと奥にある扉が開き、中から線路が伸びてくる。
壁だと思っていたそこが開いた事にも驚いたが
そこに現れた一本の線路に、開いた口が塞がらない。
「この線路を見せる為に?」
「まだまだこんな物じゃないですよ…さあ、ご覧下さい!」
わー、本当に楽しそうだ。
そう思いながら線路に目をやると、奥の扉から機関車が飛び出してくる。
顔にかかった風が生温く、驚きながらもその機関車を見つめた。
機関車と言っても、私が知っている機関車とは全く違う。
白で塗られたそれは所々蒼白いネオンの光を放っていて
どちらかと言えば機関車と言うよりは新幹線に近いだろう。
知っていた事とは言え実物を目の前にすると言葉が出てこないものだ。
私も仲間達も誇らしげなジェイと機関車を交互に見、ぽかんと口を開けていた。
「凄いでしょう、キュッポ達が見つけたんですよ」
「でかー…」
「皆さん、中に入ってみて下さい」
ジェイは機関車の扉を開け、先に奥へと入っていく。
未知なるものとの遭遇に私達は互いに目を合わせ、恐る恐る歩を進めた。
中に入れば、必要最低限の機械しか置かれていない空間が広がっていた。
安らげるような座席もなく、ただ本当に移動する為だけの機関車。
だけど私達八人が乗ってもまだまだ広く、家具さえ置けば快適に暮らしていけそうだ。
「もしかして、これで線路を通って蜃気楼の宮殿に行けるって事…?」
「途中道が塞がっていても大丈夫だキュ!」
「穴を掘るドリルだってついてるんだキュ!」
モフモフ族皆の説明に、私達の顔もぱあっと明るくなる。
「そうと分かれば早速出発!」
「ええ、皆さん準備は良いですか?」
「もちろんだ」
ソワソワするノーマに笑みを浮かべるジェイ。
そんなジェイの言葉に強く頷くセネル。
私も習うよう一つ頷き、そして機関車はゆっくりと動き出した。
どのくらい、移動したのだろう。
数分、数時間、どのくらい経ったかは分からないけど
機関車が徐々にスピードを下げ、自動的に止まった事が中にいても分かった。
一息吐き、機関車の扉を開けるジェイに続き私達も外へと向かう。
久しぶりに見る静の大地以外の風景に
地上に戻ってきたんだ、と改めて実感する私達。
しかし目の前には行方を阻む大きな扉。
「この封印は元創王国時代の物ですね…」
「今のワイらにゃ楽勝じゃの」
そう言ってモーゼスが手を掲げれば、皆も順々に扉へと手を当てる。
ゴゴ…と地響きが鳴ると同時、その壁に描かれていた模様を伝い光が溢れる。
光が全体を覆ったと同時、一際眩い光が放たれ扉の封印は解かれた。
「これで先に進めますね。後は一直線です」
「人類の為とか世界の為とか…な〜んかあたし等のガラじゃないね〜」
「動機は何でも良いだろう。大事なのは目的が同じと言う事だ」
「大沈下を食い止める為…全ての決着をつける為に」
言葉を止めたセネルが、順々に皆の顔を見る。
照れたように笑うノーマ、力強く頷くウィルとクロエ。
グリューネさんとモーゼスはワクワクと体を揺らし
ジェイも前を見据え強気な笑みで頷いた。
「蜃気楼の宮殿に乗り込むぞ!」
「オウ!」
「オォ〜!」
「ああ!」
「はい!」
「おぉ〜」
「オーッ!」
「オォー!」
全員の声が合わさり、これまでにない団結力を感じる。
それはきっと私だけじゃなくて、皆同じだろう。
各々何を思っているかなんて、今更表情を窺う必要もない。
私達が考えている事、感じている事は、全てが同じなのだから。
「しかし二つの滄我…同じ滄我だと混乱してしまうな…」
「言い方を変えてみるのはどうでしょう?」
「あたし達の味方をしてくれるのは滄我ちん!」
「もう片方は?」
「滄我ぽん!」
「…では、猛りの滄我と静の滄我にしよう。」
「ではって何!繋がってないじゃん!」
…―――破壊の少女よ。
「…早速か…早いなあ」
「どったの?」
楽しい会話をしている中、私だけがハア、と大きな溜め息を吐き肩を落とす。
声を掛けてくれたノーマだけでなく、皆が不思議に思ったであろう。
会話は止まり、皆が私の方を見つめ、私は頭を抱え彼女の声を聞く。
…―――メルネスが近い…我に力を。
地上が近付く度、この声が大きくなるのを感じた。
カタカタと手が震え、ガンガンと頭が痛くなる。
「…お断りだよ」
…―――なんだと…。
「もう、跡継ぎとか時世とか、復讐も関係ない」
もう逃げ出さない。
この痛みに従う事もない。
「今は皆がいる…不安な自分はもう消えたの」
…―――……。
「だから、ハッキリ言わせてもらう」
「アンタの願い、途中までは叶えてあげるよ。
メルネスは殺すけど、シャーリィは絶対に殺させない」
「陸の民も、水の民も、守ってみせる…滅ぼすなんて、絶対にさせない」
絶対に負けない。
アンタにも、メルネスにも、それを操る裏の存在にも。
「これが新世代の、破壊の少女のやり方だ!」
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...
修正:11/12/14