「少し考えたい事がある」





名残惜しいと思う私とは逆に、ワルターは素っ気なく言葉を発し
私の手の届かない高さまで飛んでいく。





「怪我してるんだから、無理しないでよ?」
「お互いにな」
「じゃ、これも約束!」
「…先に破るのはどうせお前だ」





それ、どう言う意味。
そう突っ込む間もなく、ワルターはいつの間にか点でしか見えない程に離れていた。


遠ざかっていくワルターを私は姿が消えるまで見続けた。


やっと、世界が変わったんだ。
私が望んでいた、ワルターの生きる世界に。

失ったものも多かった。
だけど手に入れる事が出来たものは想像以上の幸せだ。

嬉しくて手に力が入る。
途端、歓喜の声を上げるはずだった口が悲鳴を上げた。
だけどこの痛みが私に夢じゃない事を教えてくれる。

無意識に口元が綻ぶ私に、遠くで見守っていた仲間達が駆け足で近付いてくる。
私を中心に円を描くよう立ち止まると皆は不安そうな瞳をこちらに向けた。





、二重人格…?」
「今は違うかな?」





そう言って笑ってみせる私を見て、ノーはホッと胸を撫で下ろす。
だけど次にはむっと眉を吊り上げ子供のように地団駄を踏んだ。





「も〜!また無茶ばっかりして!」
「あはは、ごめんごめん!」
「『あはは』じゃないよ!ジェージェーも急に傷付けたりするし…」





「あたし、心臓止まるかと思った」と言って深い溜め息を吐くと
横にいたクロエまでも目を閉じ、腕を組みながら強く頷いた。





「…ま、ワルちんの言葉も的にはビックリだよね〜?」
「は?」
「『愛する者の手に殺されるならそれで良い』…だっけ?いや〜愛されてますな〜」
「…そんな事言ってた?」
は聞ける状況じゃなかったかもしれないけど、あたしはちゃんと聞いたよ?」
「何か嘘っぽいけど…今度ワルターに聞いてみる」





「どうせ会うし」、と付け加えると
ノーマは何が不満なのか、また頬を膨らませダン、と一つ足踏みをする。





「だからっ…!」





首を傾げる私にもう一度声を上げたノーマは、言葉を紡ごうとした自らの口を両手で塞ぐ。

ノーマがそうした理由も何となくだが分かった。

きっとすぐ隣で出会った当初を思い出させる程の怒気を見せるセネルが原因だろう。
何故セネルが怒っているのかは、私には理解出来なかったけど。





、腕を治す。見せてみろ」
「だ、駄目だよ!治したらまたおかしくなるかもしれないのに!」
「そう、なのか…」
「うん…あ、でも、折れてない方は治してもらおうかな」





「両手使えなかったら逆に迷惑掛けちゃうし」、と付け加え
自らが短剣を刺した腕をウィルの方に向ける。

ウィルは血で肌にくっつく布を丁寧に剥がしていき
傷口を見ると顔を歪め、症状を確かめるとすぐさま治癒のブレスを唱えてくれた。

柔らかい光に、優しい音。
少しずつ少しずつ、傷口の痛みが引いていくのを感じた。





「別に今両腕治しても、必要ならまた折りますよ?」
「ちょっと…か弱い女の子相手に少し戸惑いはないの?」
「…自分が死ぬかもしれない場所に危険を冒してまで行ってやるのは、貴女が願うからですよ」





溜め息混じりにそう言ったジェイの言葉の意味を理解する事が出来ず首を傾げれば
ジェイは再び溜め息を吐き、私に背を向けた。

諦めるか、ともう一度問い詰めようとしたと同時、
腕を包む光が消え、自然と視線が移る。

腕の傷は綺麗に消え、肌と服に付着した血だけが残っている。
ウィルは水で濡らしたタオルで私の腕を強めに拭くと、「よし」と声を上げた。





「動かしてみろ」
「…」
「痛みはないか?」
「うん、大丈夫!」
「そっちの腕も固定だけはしておくぞ」
「ありがと!」





まるで本当のお医者さんのようだ。

ウィルがこんな事までこなせると言う事も知らなかったし
包帯が道具袋に入ってる事すら長旅で初めて知った。

ジェイの頬についた傷は責任持って私が治療し(ジェイは嫌がってたけど)、
皆の状態を再確認した後、私達は扉の前へと足並みを揃え移動する。





「行くぞ」





先陣をきったのはセネル。
それに頷く暇もなく、彼はゆっくりとその扉へ手を掛けた。















…―――怖い。

…―――怖い、怖い。

…―――怖い、憎い、寂しい…。





…―――何で、わたしをそんな瞳で見るの…?





「……」





奥へと進んでいく最中、頭の中に響く数々の言葉に小さく息を吐く。

さっきまで私に乗り移ってたヤツとは別人のよう。
あんなに暴力的だった破壊の少女が今はカタカタと震えている。

体を乗っ取られる心配はほぼなくなったが
余りにもネガティブな彼女の言葉に、頭がグラリと大きく揺れた。





「…気分悪い」
「何ですか急に」
「ジェイのせいだよ…あんな殺気立った眼で破壊の少女見るから、凄く怯えてる」
「やるなら徹底的にやった方が良いかと思いまして」
「本当かなあ…」





ニッコリと笑い苦無を握る仕草が嘘くさい。

なんて思ってるとジェイは笑顔のまま私に「なんです?」と言ってくる。
殺気はないが普段とは違う表情に私は「ナニモ」と言って口角を引きつらせる事しか出来なかった。





「喋ってないで行くぞ」
「分かってる!」





今第一に考える事は破壊の少女の事じゃない。
早く、シャーリィを救いに行かなきゃ。

そう思えば自然と足が動き、少女の言葉に潰されかけた気持ちも元へと戻った。


ギィ…と重たい音を立て扉が開く。


おどろおどろしい雰囲気に、隙間から漏れる冷気。
ゾクリと、もう震える体は私の物か少女の物かは分からない。

それでも、瞳だけは真っ直ぐと前を向いていた。










Next→

...
修正:11/12/14