地響きに耐える中、聞こえたのはマウリッツの高々な笑い声だった。





「ついに光跡翼が復活する時がきた!」





確かにアイツはそう言って、笑っていた。















「何が起こったんだ…?」
「凄い震動だったな…」
「何だか、外が明るいわねぇ」





屈めていた体を徐々に戻し皆は体勢を整えた。
私もそれに習い、折れた腕を痛めないようゆっくりと起き上がる。





「外の様子を見てみましょう」





服の埃を掃いながらジェイは外へと向かう。
皆もそれに続き、恐る恐るとだが外の景色が見える場所へと進んだ。















「っあれは…!」





広がる景色は私達の想像を遥かに超えたものだった。
きっと、誰も予想は出来なかったと思う。

目の前には大きな塔のような物が私達を見下すようにそびえ立っていた。





「あれが、光跡翼…?」
「復活、してしまったのか…」
「シャーリィさん達も光跡翼に向かったようですね」





先程から姿の見えないシャーリィ達の行方を予測しジェイは小さく舌打ちをする。

突きつけられた現実にモーゼスも声を荒げ地面を蹴った。

皆モーゼスのように表に感情を出す事はなかったけど、悔しいという気持ちでいっぱいだったと思う。
私もその内の一人なのは間違いない。

…また、分かってたのに止められなかった。





「…すまない」





そんな空気を感じ取ってかセネルは謝罪の言葉を口にする。
私はそんな彼をただ黙って見つめた。





「シャーリィを止めるって言ったのに…」





きっと、誰よりも悔しいのはセネルだろう。

触れる場所まで行ったのに、と
弱々しく紡ぐ唇は私の位置からでも分かる程震えていた。





「私もごめん」
「…?」
「止められなかった」





「むしろ煽っただけかも」、と苦笑する私をセネルは瞳を丸くし見つめていた。





「でも私は自分が言った事訂正する気ないよ」
…」
「だって全部本当の事だし、思ってる事全部言った」
「…俺もだ」
「じゃあ、後悔なんてしなくて良いよね?」





そう言って、俯く彼に手を差し伸べる。





「まだ次がある」





本音をぶつけてダメだったのなら、もう一度ぶつければ良いだけの事だ。
たったそれだけの事を見失う彼に私は強気に笑みを見せた。





「その通りだ」
「ウィル…」
「馬鹿者共が」
「いってぇっ!」
「え、待って私はちがっ…いたぁ!!」





セネルに大きなゲンコツが降るのを頷き見てれば
まさかのまさか、私にもその拳が降ってくる。

その衝撃は頭から指の先まで広がった。





「お前は力を託された責任を全う出来なかった」
「…」
「これはその制裁だ」





ウィルは拳を作りながらそう言った。

って、その理由で私を殴るのはどうなのと思いつつ
ここで口を開けばもう一発ゲンコツをお見舞いさせられそうだし
私は敢えて口を閉ざし事の成り行きを見守った。





「だがお前が無力だったとは誰も思うまい」
「メルネスは殺しても、リッちゃんを殺すとは言ってないもんね!」
「ああ…私達が会ったのはシャーリィだ」





「そんなの顔を見ただけで分かったぞ」、とクロエが付け加えれば
セネルはゆっくりと頷いた。

私もずっと見ていた。

シャーリィの瞳が涙を零して、
シャーリィの体がセネルに助けを求めたとこを。





「嬢ちゃん、本当は大沈下なんぞやりとうないんじゃ」
「ずうっと一人で我慢してたのねぇ」
「それなのにシャーリィさんに向かってのさんの発言はどうかと思いますがね」
「私!?」





セネルへのフォローは多いのに、私へのフォローは明らかに少ない。

ジェイの言葉にうんうんと強く頷く皆には
私を労わろうと言う気持ちが全くないように見えた。

それでも悪い気はしない。
だって誰もが「もう止めろ」とか「次は喋るな」とは言わずに、笑みを零してるから。

何となく、「次もその調子で」と言われているような気がした。





「シャーリィは猛りの滄我と同調しながらも光跡翼の復活を抑えていたのかもしれんな」
「セネルさん、落ち込んでる暇があったら光跡翼へ入る手段を考えて下さいよ」
「あそこには、志を共にする大切な仲間がいるからな」
「皆…」





皆の光跡翼を見る目は先程とは違い
恐怖でも唖然でもなく、とても堂々としている。





「頑張ろ、セネル!」





そう言って笑った私をセネルはどんな気持ちで見ていたのだろうか。

初めは呆然としていた顔もゆっくりとだが覇気を取り戻し
握られた拳は更に力を増して、瞬きした刹那に瞳の色は変わっていた。





「そうだな…このまま終わらせてたまるか!」





まるで目の前に広がる海に見せ付けるよう
セネルは高々と拳を上げ大きな声で言葉を放つ。

私達もそれに習い、海に向かって笑顔を零した。





「…待て。光跡翼の真ん中から光が出ている」





改めて光跡翼を見、明らかに不自然な点をウィルが口にする。

何だかステラのテルクェスの色に似ている一筋の光。

ここの地理にとことん弱い私は
森に遮られ、光が東西南北どちらに向いているかは分からない。

だけど、何処に向かって伸びているかは既に知っていた。





「灯台の方からも光が出てますね…いや、待てよ…」





ジェイは私が答えを言わなくてもすぐに光跡翼へと繋がる道を解明していく。
後少し、とジェイが目を細めた瞬間、私達の耳には元気いっぱいの声が届いた。





「ジェーイー!!」





背後から聞こえた声に皆が一斉に振り返る。
それは考え込んでいたジェイも同じ。





「キュッちんにピッちんにポッちん…三人揃ってどうかしたの?」
「ジェイ、あれは“天かける軌跡”だキュ!」
「うん…僕も今そう思った」





興奮気味に声を上げるキュッポ達を宥めるよう
ジェイの白く細い指が彼等の頭を掠める。

撫でられると気持ち良さそうに声を上げながら
キュッポは慌ただしく言葉の続きを紡いだ。





「もしかしたら皆さんを光跡翼まで連れて行けるかもしれないキュ!」
「仮説が正しければそうなるからね…皆さん、希望の光が見えましたよ」





そう言って勝利を確信したかのような笑みを見せるジェイに、皆は小首を傾げた。















一度灯台の街に戻る事になった私達。
ジェイは帰りの機関車の中、私達に色々な事を教えてくれた。

モフモフ族の伝説にある“空に浮かぶ道なき道”。
それが先程キュッポ達が口にした“天かける軌跡”。

“天かける軌跡”は名前の通り空の上を伸びている。
そしてそれは街の灯台から光跡翼まで続いているのだ。





「機関車に乗ったまま空を走っていけるって事ですよ」





淡々と説明するジェイに仲間達は疑問符ばかり。

現実主義者のジェイからそんなファンタジーな言葉が出るなんてと顔を顰める者もいたけど
灯台に戻り数分、次の瞬間仲間達はジェイの言葉を信じざるを得なくなった。










「えーと…ここを押せば良いのかな」





ジェイが何となくで言葉を零すなんて珍しい。
そう思っていれば広い空間にピ、と言う電子音が反響した。

ガコン、と大きな物音に私達は辺りを見渡す。

何事かと口を開こうとしたその時
目の前の光景に出そうとしていた言葉が飲み込まれた。





「…わー…」





目の前に広がるのは大きな海。

空と海の境界線がクッキリと見え、その中心に向かって
キラキラと透き通った線路が伸び、輝いている。





「す、すご〜…」
「本当にこれで光跡翼まで行けるんか…?」
「とにかく、検証してみます」





ジェイはそう言うと早速と言わんばかりに目の前の機械をいじりだし
それに合わせポッポが機関車の中から調整を始めた。





「いつまでかかんの〜?」
「一晩頂ければ」
「任せたぞ、ジェイ」
「期待には応えてみせますよ」





セネルがポン、とジェイの肩に手を置く。

滄我に認められてからと言うものの
仲間達の間に出来ていた亀裂は綺麗に埋まっていた。

ジェイがその手を振り払わなかったのが間違いない証拠だ。





「その間あたしらどうすりゃいいのかな?」
「どうか、皆さん体を休めていて欲しいキュ!」
「色々やる事だってあるでしょう?遺書を書くとか、形見分けとか」
「縁起の悪い事言うな!!」





ノーマは既に天かける軌跡の事等すっかり忘れているのか
いつものペースではしゃいでいる。

私はまだ目の前に広がる景色が現実なのかと疑っているのに。





「明朝この場所に集合だ」
「遅れないで下さいよ?しっかりと準備をしてから寝て下さいね」
「分かった分かった!そいじゃ、頑張ってねジェージェー!」





「さっさと行ってくれないと作業が出来ないんです」、と溜め息を吐くジェイに
ノーマは誰よりも早く昇降口へと向かって行った。





「ジェイ、頑張ってね」
「…ええ」
「あれ?珍しく素直」
「煩いですね…ほら、置いてかれますよ」





機械をいじりながらだから顔を合わせてくれる事はなかったけど
ジェイは私の言葉にとても素直な反応を見せた。

最も、それを指摘してみればまたいつもの調子に戻ってしまったが。

それでも最後、手を振り昇降口へと向かう私にジェイは笑顔を見せてくれていた気がして
その笑顔がとても安心出来るものだったのも確かだった。















静の大地から外へ出て、久しぶりの閉じていない空に向かってうんと伸びをする。
人が住んでいる温かみを感じ、街灯の光すら今は見ていて綺麗だと感じた。





「明日はいよいよ最終決戦!気分が嫌がうえにも上がりますなぁ!!」
「そうか?」
「こう言う場合は違うような…」
「イエーイ!超ハイテンショーン!」
「さっすが!んでね、こういう時は宴会を開くのが普通なの!」





灯台を出てすぐにこれか、と呆れるセネル達を置いて
私とモーゼス、そして言い出しっぺのノーマだけがわやわやと騒ぎ、夜の街が一気に煩くなる。





「って事で、各自用事を済ませたら噴水広場に集合!」
「いい提案じゃ!」
「楽しそうねぇ」
「自由参加の建前にしとくけど絶対に来る事!わかった?」
「……」
「わかったぁ!?」
「あ、あぁ…」





凄むノーマに仲間達は一歩引く。
私もその噛み付きそうな顔にはさすがに後退した。

無理矢理話をまとめたノーマはニッコリ笑うと、くるりと向きを変え大きく手を振る。





「じゃあまた後でねー!遅れんなよ!」





ノーマはパタパタと宿屋へと続く道を走ってく。
残された私達は互いに顔を見合わせ笑ったり呆れたり。





「強引な奴だな」
「余程大騒ぎしたいんじゃろ」
「あいつなりに緊張を解そうとしているのかもしれんな」





ウィルの解釈にセネルは首を縦に振り納得する。
私も釣られるように二度首を振った。





「んじゃ、ワイも野営地に顔出してくるわ」
「俺も行く場所がある。少し遅れるかもしれんが必ず行こう」
「私も少し気分転換でもしてくる」





散り散りになる仲間達を私はゆっくり手を振って見送った。
取り残されたセネルと私を包むのは少し肌寒い夜の空気。





「セネル行くとこないの?」
「…考え中だ」
「そっか」
「そう言うは?」
「私も考え中」





他愛もない会話が夜の街に響いて
私達は互いを「寂しいやつ」と言って笑った。

そして「またね」と手を振り私達はゆっくりと歩き出す。

セネルは何となくの流れで私と反対に歩き出し
私も何となくの流れでセネルと反対の道を歩き出した。

心地良い夜風に目を細め、ゆっくりと顔を上げた。

ただそこにあるだけの月は丸くて大きくて、とても綺麗で
まるで私に微笑むように佇んでいる。

その日はとても、月が綺麗だった。










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修正:11/12/14