「どっこいしょ…」
うわ、おやじくさ。
心の中で自らに突っ込みながらも
私は街から少し外れたとこにある大きな木の根に座った。
ふう、と一息吐き自分の折れている腕をゆったりと擦る。
何だかこの世界に来てから自分が凄く丈夫になった気がする。
精神的にか、それとも肉体面かは分からない。
だけど紙で指を切ったり画鋲を軽く踏んだだけでギャーギャー言ってた私が
殴られ蹴られ、良くそんな痛みに耐えれてるなあと我が身ながら思った。
「あー…そっか」
アイツが機械だらけ、だったんだっけ。
メルネスとの戦いに敗れぬよう、その体にあらゆる改造を施された破壊の少女。
映像を見せられた時の彼女の体はほとんど鉄で、
丈夫を通り越し頑丈と言うレベルだった。
「もしかしてそのお陰だったりして」
…―――…。
決して独り言を零している訳じゃない。
私は私なりに、自分の中にいる彼女に語りかけているんだ。
「ねー、聞こえてるんじゃないの?」
…―――…。
返事はない。
だけど私は、ただただ少女に語りかけた。
「…アンタ、名前なんて言うの?」
…―――…。
長い沈黙。
だが数秒後、もう一度話かけようとした私の意思に割り込み
彼女の声が頭の中に響いた。
…―――覚えてもいない。
反応があった。
そんな些細な事に何故か嬉しく感じる。
しかし返ってきた言葉はとても悲しい物だった。
…―――数字、アルファベット、ハイフン。
「あー…機械番号みたいな?」
…―――…。
私の言葉に、彼女は一つ頷いた。
(正確には頷いたように感じた)
「あ、もしかしてとか?」
…―――…。
「…な訳ないよね」
何だか馬鹿にされているような沈黙に私は重たい溜め息を吐く。
まさかコイツにまでこんな冷たくあしらわれるとは思ってなかった。
…―――…私はどうすればいい。
「?」
…―――メルネスを助けてしまったら、私の居場所はなくなる…。
少女は途切れ途切れにそう言った。
この声色は多分、蜃気楼の宮殿で聞いた物と同じだろう。
目的がなくなり、未来が見えなくなっているんだ。
最も、彼女の未来は遥か遠くに途絶えたはずだったけども。
…―――…誰も私の言う事を聞かなくなる。
…―――…誰も私に答え等くれない。
…―――…誰も私と声を交えてはくれない。
…―――人類が共存する世界に、私はいない。
やっぱりこの子は人間なんだ、と素直に思った。
今まで散々な事をされてきたけど、
こんな弱い一面を見せられてしまうと正直その考えも変わる。
むしろ私の方が暴言を吐きまくったりと
この子に悪い事をしていたんじゃないかと思うくらいだった。
「…私、アンタと話してるんだけどなあ…」
…―――……。
「これって声を交えてるって事なんじゃないの?」
空に浮く月を見ながら私は言う。
今日の月は邪念とかいらない気持ちを全部取っ払ってくれる気がした。
「…アンタさ、“破壊の少女”になる前何してたか思い出してみなよ」
…―――…覚えていない。
「…名前も覚えてないんだもんね…」
…―――…記憶は、ない。無へと還った私に記憶はいらない。
少女は頑なに「ない」「いらない」と繰り返す。
まるで自らの存在自体を否定するように。
それだけでも頭がズキズキする。
彼女が何かを拒めば、私の体も何かを拒んだ。
「…じゃあ、何がしたかった?」
私の問いに、ピタリと頭痛が治まる。
「今から、何したい?」
シンと静まり返る、夜の街。
大きな月に見下ろされながら私は彼女の答えを待った。
「人類を殺したいってのがやっぱり一番だろうけどさ」
…―――…。
「それ以外なら好きな事させてあげる。乗っ取られるのは御免だけど」
アハハと笑うと、思った以上に声が響いた。
まるで誰かがそれに応えるよう、風がザワザワと吹く。
「…言ってみなよ」
「食事がしたいなら食べたい物を口に運んであげる」
「着たい物があるなら着てあげる。ちょっとの露出なら大丈夫だよ」
「あ、この戦いが終わったらワルター一発ぶん殴ってやろっか!私もそれは賛成だし」
「やっぱ同年代の子とも話したいよね。アンタにはノーマよりクロエの方が合ってるかな?」
「…って聞いてる?何でもしてあげるって言ってるんだから何か言ってよ」
思い付いた事をペラペラと息吐く暇もなく喋る私に少女は無言を続けた。
「ちょっと」、と不機嫌な声を漏らし私は彼女に答えを催促する。
頭の中からは嗚咽を堪え、震える声が聞こえた気がした。
「ねぇ、お母さん」
「わたしね、たくさんの人を救いたいの」
「この前煌髪人の子を湖まで連れて行ってあげたの!凄い喜んでたよ?」
「何で…?わたし、何処かに行かなきゃいけないの…?」
「今日は十六歳の誕生日だよ…?どうして祝ってくれないの…?」
「どうして…そんな目で見るの…?」
「何でわたしは、メルネスを殺さなきゃいけないの…?」
「たくさんの人を助けられるって聞いたから、大丈夫だって言われたからついてきたのに…」
「何でわたしは、世界の半分の人も守れてないの…?」
「…―――ねえ、おか…ア…さん」
震える声は言葉を紡ぐ。
カタカタと、まるで泣いているかのように。
私は彼女の言葉に少し驚きながらも、
言葉の意味をゆっくりと噛み締めながら月に向かって優しく微笑みかけた。
「宴会も始まっちゃうし、そうしよっか」
そう言って私は立ち上がる。
服についた木屑を掃って、凸凹した地面に足を取られぬように。
ただ焦りもせずに、見慣れた街をいつもよりゆっくりと。
…―――コードに繋がれていない世界を見たい。
彼女の願いを叶えるように。
彼女が言った言葉は、憎しみと言う檻から出たいと。
私にはそう聞こえた。
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...
修正:11/12/14