目を閉じていても分かるくらいの眩しい光に私は目を覚ました。
何回か瞬きをした後、ゆっくりと体を起こして辺りを見渡す。
上には電気…誰かの家だ。
確か、噴水広場で騒いでいたはずなのに…。
「やっと目が覚めたか」
「あーおはよー…」
「おはよう」
「…ウィルが運んでくれたの?」
「だけだぞ、宴会前に寝ていたのは」
「私、寝ちゃったんだ…他の皆は?」
「自分の寝床に戻った」
予想出来ていた答えに「ふーん」と興味のなさそうな返事をする。
まだ目が覚めていないからか、ハキハキと喋るウィルとは違い
私が発する言葉はトロトロに溶けてるみたいだった。
「ありがとーウィル」
「ああ」
「本当、重たいのにわざわざ…ああ…」
「頼むから喋りながら寝るな…急いで支度をしてくれ」
「ジェイが待ってる」、その一言でハッと目が覚めた気がした。
「ジェイが私を…?」
「正確には皆を、だ」
「…少しは夢見させてよ」
「もう充分見た後だろう」
相手をするのも疲れると言わんばかりの投げ槍な返事をした後
ウィルは目の通し終わった新聞紙をラックへ入れた。
「全く、お前だけはいつも通りだな」
「当たり前!私はいつも私なんだからー…って…あれ?」
何か、ブンブンと回した腕に違和感が。
違和感と言うか、何も感じないのが変と言うか。
…何でだろう。
折れていたはずの腕が普通に曲がってる。
「…ウィル、ブレス使った?」
「?いや…の言う通り使ってないが…」
「…そう、だよね」
「どうかしたか?」
手をぐーぱー握ったり、必要以上に関節を曲げたりする私に
ウィルは怪訝な顔をしていた。
痛くも痒くもない。
だけど、ウィルはブレスを使っていないと言う。
…じゃあ、やっぱアンタ?
…―――…。
沈黙はきっと、彼女の肯定。
ありがとう。
胸に手を当て、声は出さずに彼女へと気持ちを伝える。
きっと体が丈夫だった破壊の少女のお陰で、私の体も丈夫になっているんだ。
折れた腕が一日で治ってしまうなんて尋常ではない。
誰もが彼女のお陰だと有り得ないながらに考えるだろう。
それとも、もしかして寝てる間に自分で治癒術でも使ってたのかな。
何てまた尋常ではない事を考えて、クスリと笑みを零した。
「ほら、早く行くぞ」
「今行く!」
扉を開け待機しているウィルをこれ以上待たせるのは悪い。
私は軽く身だしなみを整え、武器を手に持ち、慌しく家の外へと飛び出した。
「…おはよう、」
そして、私達を出迎えてくれたのは
新鮮な朝の空気と、清清しい程の青い空と
銀色の髪を揺らし、微笑を浮かべるセネルの姿だった。
…―――近くにいる。
灯台へと向かう途中、不意に頭の中で声が聞こえた。
耳障りだとしか感じていなかった声が何処からかを境に
まるで友達と喋っているかのような感覚に変わった。
それはきっと、昨晩彼女と向き合い話し合ってからだろう。
「誰が?」
突然言葉を零す私に目の前を歩いていたセネルとウィルは振り返る。
どうかしたと言わんばかりにこちらに視線を向ける二人を無視し、私は彼女の答えを待った。
…―――煌髪人。
「水の、民…?」
彼女が言うならきっと間違いないだろう。
何かを我慢するよう、カタカタと震える体がその証拠だ。
木の上、根元、屋根、道、空。
キョロキョロと辺りを見渡しても何も見えない。
人の気配と言うものを感じ取れない私にとっては視力だけが頼り。
だがその視力ですら見つけられないならもう諦めるしかない。
でも、勘で答える事は可能だった。
「もしかして、ワルター?」
…―――名前等知らない。
メルネスの元を離れ単独で行動している水の民はワルターしかいないだろう。
例え数名の候補が上がったとしても、わざわざウェルテスに来る変わり者は間違いなくアイツだけだ。
でも何でこんな所に?、と頭を捻る私。
答えはちっとも出てくる気配がない。
「、どうかしたか?」
「あ、ううん」
「早く行くぞ」
「うん!」
待ってくれていた仲間に一言謝罪をし、小走りで空いた距離を縮める。
額に浮かぶ嫌な汗、小刻みに震える体。
自分の体調とは関係なしに起こる数々の症状は
きっと破壊の少女の恨みや憎しみの表れだ。
それでも彼女は、水の民が近くにいると分かっていても
以前のように殺意を剥き出す事はなかった。
きっと探ろうと思えば気配だけでなく
相手が何処にいるか詳細な事も分かったはずなのに。
それってつまり、破壊の少女が私の為に
自我を殺してくれてるって事なのかもしれない。
そう思うと、自然と顔が綻び笑みが零れた。
「…遅い」
「ごめんなさい」
「ノーマさんやモーゼスさんだって、こんな時には危機感と言う物を感じられるんですよ」
「感じ取っていたつもりでした」
「感じ取っていて尚寝坊と…」
「本当にごめんなさい」
灯台に着き、私を待っていたのは青筋を浮かべ腕を組むジェイの姿だった。
トントンと規則正しく片足で地面を踏むジェイに
私はこれでもかってくらい頭を下げる。
言い訳が通じなければ、素直に謝った方が話が早いからだ。
「全ての調整と検証を終えました。いつでも飛んでいく事が出来ます」
私を怒るだけ無駄だと分かったのか、ジェイは本題へと入る。
ジェイの放った言葉に誰もが顔を明るくし喜びの声を漏らした。
言った本人も素直に笑顔を浮かべている。
「皆さん大丈夫ですか?準備はちゃんと整っています?」
「もちろんだ」
「が寝坊してくれたお陰でゆ〜っくり準備出来たしね!」
「ウィルさんは大丈夫ですか?さんに構っていた分準備が出来ていないのでは?」
「いや、大丈夫だ」
「…さんは勿論、大丈夫ですよね?」
「おうさー!」
「結構」
準備をしたと言っても、私の場合武器を手に持っただけ。
筒の中いっぱいに入った短剣と、いつもの杖。
それさえあれば万端だと胸を張って言えた。
「…あ」
ある事に気付き、声を漏らす。
「どったの?」
「いや、それが…うわジェイがすっごい睨んでる」
「まだ何も言ってないのに!」、と声を上げる私にジェイは笑みを浮かべていた。
それは優しさでも何でもない。
真っ黒、とにかく恐ろしいくらいに真っ黒だった。
言わなきゃ殺すぞ、だけど言った内容によっても殺すがな、と
そんなジェイの心の内が見え隠れしている。
嫌な沈黙が流れる中、皆の視線も自然と私に集まった。
そして私は、その沈黙と数々の視線に耐え切れず
乾いた笑みを零しながら、自らの準備不足を自首したのだ。
「あ、朝ごはん…食べたいなあ…」
「うわ〜!本当に空走っちゃってるよ!」
「こんな体験が生きてる間に出来るとはな…」
「ちょっとウィルっちオヤジくさいよ〜」
「私もレイナードと同じ気持ちだ…何だか信じられない光景だな」
機関車の中、仲間達が窓際に密集し
外の景色を見てワイワイガヤガヤと騒いでいる。
そんな中、何故か私は機関車の中央、ジェイと机を挟み向かい合って座っていた。
皆の反応がより一層私の興味を掻き立てる。
一体どんな素敵な世界が見えているんだろう?
空の上を走るってどんな気持ち?
とにかく何もかもが気になって、私の瞳は常に窓へと向いていた。
仲間達の頭の隙間から何とか外を覗こうと体をよじらせていた時
向かいからバン!と大きな音が聞こえ、ビクリと体が跳る。
「着くまでに食べて下さい」
「ち、ちょっとくらい見ても…」
「さん、貴女自分が食べるのが遅い方だと自覚してますよね?」
目の前の机に並ぶのは、パンだった。
長く辛い道のりになりそうだからと
クロエがわざわざ焼いて持ってきてくれた物らしい。
本当は疲れを取る為の食物であるのに
その内の数個が灯台を出て数分後、私の胃袋に入ってしまうのだ。
ジェイが怒るのも無理はないけど、私だって気になるものは気になる。
ご飯を食べれると言う事は幸せだ。
だけど空を飛んでる最中に、と言うのなら話は別。
「見ながら食べるとかダメ…?」
「だから、それだともっと時間が掛かるでしょう」
「…」
「目的地に着いてもらうまでには食べ終えてもらわないと困るんです」
「…分かった」
そう正論を並べられてしまったら、もう反論する事も出来ない。
私はしゅんとした声を出し、手に持っていたパンを大人しく口へと運んだ。
ぽふ、と空気が抜けたような音と柔らかいパンの食感。
フワリと香るバターの匂いに自然と顔が綻んだ。
クロエは焼くのが上手だなあ、良いお嫁さんになりそうだ。
「…別に、今じゃなくても良いでしょう」
「ふぇ?」
パンを頬張りながら返事をする私に、ジェイは汚い物を見るような顔をする。
そしてフッと、視線を逸らした。
「この戦いが終わった後で良いじゃないですか」
「…?」
「光跡翼に行く機会なんてもうないと思いますが、見たいならいつでも操縦してあげますよ」
「ふぉんふぉう!?」
「ってボロボロ零して返事しなくて良いですから…!さっさと食べちゃって下さいよ」
「オッケーオッケー!ガツガツ食べちゃう!」
そう言って目の前のパンに齧り付く私に
ジェイはクスリと控えめに笑う。
その時はパンに夢中でじっくりと見る事は出来なかったけど
ジェイはとても優しい表情で私を見ていた気がした。
バスケットに入ったパンの数は、十個から七個へと減った。
相当お腹が減っていたのか、いつもよりも一つ多くパンを平らげ、満腹満腹とお腹を擦る。
そして「ごちそうさま」と言葉にしバスケットを閉じたと同時
ガタン、と機関車が大きく揺れた。
「とうちゃ〜く!」
「…みたいですね」
「行くぞ」
ノーマの元気な声に、ジェイの凛とした声。
そしてセネルの少し緊張しているような、力強い声。
私も椅子から立ち上がり、機関車を降りる仲間の後を続いた。
外に出れば、見覚えのある場所へと出た。
勿論、見覚えがあるのはゲーム画面での話だ。
私はここを覚えている。
シャーリィが待つ、最後の場所…光跡翼だ。
「これが正真正銘、最後の戦いだな」
「皆、覚悟は良いな」
クロエの言葉とウィルの問いかけに、皆は強く頷く。
「必ずや目的を果たしここへ帰って来よう!」
「もちろん!ここで死んだら意味ないしね!」
「一気に駆け抜けるぞ!」
そして高らかに声を上げ、拳を掲げる。
全員が同じタイミングで、大きな大きな一歩を踏み出した。
今度こそ、負けられない。
絶対に勝ってみせる。
そう思いながら。
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修正:11/12/17