「あー…良い空気ー…」
「…無理をさせてすまない」
「どうして?ワルターのお陰でここまで来れたんだよ」
セネルに降ろしてもらい、「ありがとー」と言いながら
トタトタとワルターに近付き笑みを向ける。
ワルターはフイっと顔を逸らし、頬をほんのりと赤く染めた。
小さく舌打ちする姿も照れ隠しなんだなと分かると嬉しくなる。
さあどうからかってやろうかと不適な笑みを浮かべた瞬間
フッと辺りが暗くなった。
ブツ、とコードが切れたかのように
突然真っ暗闇になってしまった私達のいる部屋。
暗闇に慣れていない瞳では歩く事もままならず
私はとにかく安全をと、近くにいたワルターの袖を掴み恐怖を緩和した。
「な、なに…!?」
「電源でも落ちたのでしょうか…」
「な、なんで急に…!!」
「いちいち騒がないで下さいよ…」
呆れた声の聞こえた方をキッと強く睨む。
しかし暗闇の中では私の睨みも意味は成さず、きっとジェイには気付かれていないだろう。
実際ジェイが私の方を向いているかすら分からない。
暗くなり、数十秒経ったくらいだろうか。
突然、私達の目の前に映像が浮かび上がる。
何もない空間から飛び出た映像は皆の驚いた顔を良く照らしていた。
「…何だ、これ」
浮かび上がった画面はまるで私達に何かを訴えるよう
数枚の画像を仕切りに繰り返し映し出していた。
「まるで何かを説明しているかのように見える映像だな…」
「光跡翼の仕組みを解説しているのでしょうか」
「う〜ん…それだとおかしくない?」
「何がじゃ」
首を傾げ唸るノーマに視線が注がれる。
ノーマは人差し指を顎につけ、整理仕切れていないながらに疑問をぶつけた。
「だって光跡翼って大沈下を起こす装置でしょ?」
「それがどうかしたか?」
「でも、ここに浮かび上がってる絵ってどっちかと言うと…」
「陸地を作ろうとしているみたいに見えるわねぇ」
のほほんとしたグリューネさんの言葉に
ノーマは指を鳴らして「それ!」と声を上げた。
皆もノーマの声に導かれるよう、もう一度映像を見つめる。
確かにノーマの言う通り。
だけどそれに関しての答えはいくら考えても出てこないだろう。
自分達が真実を見たと思っている内は。
「ま、いいや。考えるのは後々」
「じゃな」
「さっさと先へ進みますか〜!」
「ち、ちょっと待って!」
気が付けば声を上げている自分がいた。
考えるよりも先に声が出たのだ。
振り返った皆の視線は私に注がれる。
ぎゅうっとワルターの袖を掴み、私は恐る恐る口を開いた。
「ここで言った方が、後で混乱しなくてすむよね…?」
「何故俺に聞く」
「だってワルターは知ってるじゃん…」
「…勝手にしろ」
突っ張ねた態度を取る彼だけど、決して私の腕を振り払おうとはしなかった。
嫌な汗が流れるのが分かる。
真実を伝えると言う重役は私には重すぎる。
長い沈黙に潰されそうだ。
「とりあえず私説明下手だから…」
「?」
「ジェイ、今思ってる疑問ズラズラ並べてみて…?」
「…別に良いですけど」
疑問に答えていく、と言う形なら私でも何となく説明出来る気がした。
ジェイは小さく息を吐くとキッと真剣な表情へと変わる。
まるで蛇に睨まれた蛙…何だか息をするのすら申し訳なくなる。
「滄我砲やこの光跡翼は元創王国時代の遺跡物のはずです」
「…」
「しかしそれに必要なエネルギーは水の民の命、そしてメルネス…この時点で既におかしいんですよ」
「それって…?」
「…仲間の命を犠牲にするような装置をわざわざ作ったりするのでしょうか?」
ジェイの疑問にコクンと、一つだけ頷いた。
他の皆も「まさか」と目を見開き映像を見る。
繰り返し、大地を作る映像を。
「この映像は、大地を作る事も消す事も自由かのように見えます」
「…」
「…水の民は水生民族なのに、何故こんなにも大地にこだわっているのでしょうか…」
ジェイはそこまで言うと、再び私を見つめた。
私は、ゆっくりと首を縦に振る。
的を得すぎているジェイの疑問にもはや遠回しの答え等意味がない。
すう、と大きく息を吸いジェイの綺麗な瞳を見つめ、私はゆっくりと口を開いた。
「白くて四角い船に乗って来た異界人は水の民じゃなくて、陸の民だよ」
私はハッキリと、皆に聞こえるよう言葉を紡いだ。
驚き目を見開く者もいれば、冷静な振りをしている者もいる。
だけど、皆の心情はきっと同じだ。
「だからこの装置も陸地にこだわってる」
「…」
「猛りの滄我は、陸の民が陸地を作って好き勝手やってきた事に怒ってるんだと思う…」
「あくまで私の推測なんだけど」と付け加えた時、初めて唇が震えているのが分かった。
こんな真実をすんなりと受け入れられる程人間は出来ていない。
「嘘だ」の一言すら言えない程のショックを私は皆に与えてしまったのだ。
だけど、それでも大丈夫だと確信はしていた。
だって皆が立ち直れるって知ってるから。
「でも、それが何だ!って感じじゃん!」
「んな訳ないじゃん…何言って…」
「だって、異世界から来た私を皆は受け入れてくれたよね?」
そう言って私は皆に笑みを向ける。
見開かれていた目が更に大きくなった。
「皆は得体の知れない私を、受け入れる事が出来た」
「…」
「勿論、侵略した方も悪いけど…昔の人って、そんな事も出来なかったのかな?」
陸の民の侵略の仕方にもよるだろう。
話し合いすらなく戦争が起きてしまったのなら仕方がないかもしれない。
だけど、今はそうじゃない。
「シャーリィだって水の民だって私達を受け入れてくれるよ」
「…」
「逆に私達もシャーリィ達を受け入れられる…ワルターだって私達に心開いてくれてるし!」
「おい、そこまでは言って―――…」
「心開いてくれてるし!!」
ワルターの袖を持つ手にギリギリと力を入れ、笑う。
ワルターにとっては私の締め付けなんて、ほとんど意味のないものだろうけど
その言葉を制止するには充分だった。
物凄く不機嫌そうな顔をしているワルターに再びニッコリと笑ってみせれば
ワルターはそっぽを向き小さく舌打ちをして口を閉じた。
「結局陸だろうが水だろうが人は人だよ」
「…」
「水の民の居場所をとったのは確かに陸の民だけど、今はその逆が起ころうとしてるんだよ」
私はこの人達が真実を受け入れられるのを知っている。
「…皆が責任を感じてるなら、私一人で行く」
私はこの人達がどれだけ優しいか知っている。
「私は陸の民でも水の民でもない、何の責任もない」
私はこの人達がどれだけ強いか知っている。
「ただ自分の生きる権利を主張する為に、止めに行く」
そう言って奥の扉へと歩を進めた私の腕を、誰かが掴んだ。
とても強く、しっかりとしたブレのない力で。
「…一人で行かせる訳、ないだろ」
「…」
「だけに行かせるのは不安過ぎる」
「…それ、どう言う事?」
「そのまんまの意味だよ」
そう言って、私の腕を掴む青年は笑っていた。
私が望んでいた表情だ。
「シャーリィはシャーリィだ…陸の民も水の民も関係ない」
「ほおじゃの…ご先祖がやった事なんぞ今更関係あるか!」
「その調子その調子!!」
ニィっと笑うモーゼスにはもう迷いがない。
「人権主張って感じ?世界を救うヒーローよりはあたしに似合ってるかも!」
「水の民と共に歩んで行く為にも、まずはシャーリィを止めなくてはな」
「道のりは長いですね…戦いが終わっても問題は山積みじゃないですか」
「あらぁ、でも私達が勝ったら一歩前進よぉ」
気が付けば皆が皆、しっかりと前を向いていた。
震える拳を握り締めていた先程までの表情とは全然違う。
「は甘いな」
「?」
「俺ならもっと責め立てていた」
「甘い性格だから。ごめんね?」
「謝る気等ない癖に」
「あ、ばれた」
アハハ、と笑う私にワルターも笑みを浮かべる。
フワリと髪を撫でる華奢な手からはとても温かいぬくもりを感じた。
「んじゃ、あたし等の力見せに行っちゃいますか!」
「シャーリィを止める為に、な」
「分かってるって!ほら、も早く!」
「っうん!」
やっぱり、皆は凄く強い。
ジワジワと溢れる喜びに、自然と顔が綻んだ。
脳にこびり付いていた血の匂いも取れて、気分もとても優れている。
先へと伸びる、一本の道。
もうすぐ最後の戦い。
この戦いで、全てが決まる。
私達の未来が。
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...
修正:11/12/19