気を失い、何時間経っただろう。
目を覚ました私の視界に映ったのは、オレンジ色の空だった。





「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「、うん…」





倒れた場所が違う…恐らく誰かが運んでくれたのだろう。
広場に置かれたベンチからゆっくりと起き上がり、私の顔色を窺う男性に頭を下げた。





「あの、ジェ―――…いや、おさげの男の子を見ませんでした?」





恐る恐る質問をする私に対し、男性は「ああ」と声を漏らす。





「あの子なら、さっきいた人達について行ったよ」
「…は?」





理解出来なかった訳じゃない。
男性の説明は至極簡単で、馬鹿な私にも分かりやすいものだった。
ただ、思考が追いついていかないのだ。
夢だろうかと腿を抓れば痛みが現実だと教えてくれる。





「そ、それって!どのくらい前!?」
「随分前だよ。今はもう夕方だし」





見開いた目で広場の時計を確認する。
確か騒動があったのは昼下がり。
少なくとも四時間は経過していると言う事だ。





「…そんな」





落胆する私の顔色を窺いながらも、用事のある男性は広場から姿を消した。
残された私は噴水の音を聞きながら虚空を見つめる。





「…どうして」





結局、私は一人になってしまった。





「何処にも行かないって、言ったのに…!」





誰もいない広場に私の声が虚しく響く。
欲しい返事の代わりに、チリ、と何処からともなく鈴の音が聞こえた。





「…?」





音の出処は何処でもない、私の手の中だ。
握り締めていた拳をそっと開くと、見た事のある鈴が澄んだ音を立てる。

鈴に付いている紐も、鈴自体の形や色も、全て覚えている。
澄んだ音を聞き、これがジェイの物だと気付くのにそう時間はかからなかった。





「鈴を持っているだろう」

「それは我が国の王子のみに与えられた品」





卑しい男の声が蘇る。
ジェイの持ち物とは言え、この鈴をお守りとして見る事は出来なかった。
だけどこれが唯一の手掛かりであるのならば手放すのは惜しい。
私はもう一度強く鈴を握り締め、噴水広場を飛び出した。

悲しくて、寂しくて、愛しい人が欠けた世界は輝きを失って見える。
私が笑い、泣いた世界は本当にここなのだろうか、と疑う程。

それでも私は歩き慣れた道を走り、内海港へ向かった。
手に入れたヒントを使い、彼の元へ行く為に。










「あの!」





港に着いてすぐ、船の点検を行う男性へと駆け寄り声を掛けた。





「大陸に行く船、いつ来ますか?」
「今日はもう来ないよ」
「ッじゃあ、この国に行く船いつ来ます!?」





目の前に突き出された鈴を見ると男性は目を細める。
物の正体が分かると「ああ」と言って笑った。





「その国なら明日の早朝の便で通るよ」
「明日…」
「今の遺跡船の位置ならそう遠くないし、すぐに着くさ」





一筋の希望を見つけ、情報をくれた男性に感謝の意を口にする。
男性は「これくらい大した事ないよ」と手を振り自らの作業へと戻った。





「…」





大丈夫、明日には船に乗れる。
ここで待っていればすぐに夜も明けるだろう。

ホッと安堵の息を吐き目を閉じると、体が今更になって疲労を訴える。
寒い、と思い自らの肩を抱き、息を吐いて手を擦った。

何度繰り返したのかは覚えていない。
ただそうして寒さに耐え続けていれば、陽はひょっこりと顔を出し
船の入港を知らせる汽笛の音が辺りに響いた。





「もうすぐ、もうすぐ会える…」





船に乗り込み、キャビンの隅で手中の鈴を強く握り締める。

早く会いたい。
ジェイの顔を見て、ジェイの声を聞いて、ジェイのぬくもりを感じたい。

…だけど、ジェイはそう思ってくれているのだろうか。





「…どうして、ついていったの…?」





ジェイがあんな奴等に負ける訳がない。
無理矢理襲われて連行されたとは考えづらかった。

精神的に脅されたのだろうか。
それとも、自らの意思でついて行ったのだろうか。





「もし、そうなら…」

「ジェイが自分の意思で帰ったんだったら、私がやってる事って無意味なの…?」





澄んだ音を立てる鈴は私の欲しい答えをくれない。
「そうだよ」と言っているようにも聞こえたし、「そうじゃないよ」と言っているようにも聞こえた。





「私の迎え、いらないの…?」





言葉にしたら涙が止まらなくなった。
ボタボタと音を立て地面に染みを作る涙を見たら、本当に情けなくなった。

周りの目も気にせず、ただただひたすら泣き続ける。
次にジェイと会う時は、満面の笑顔を見せる事が出来るように。










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06/01/07
修正:06/10/02
再修正:14/02/02